Via Vino No.11 “Germany”<ドイツワイン>

<日時・場所>
2007年9月8日(土)12:00〜15:00 銀座「ローマイヤ」 
参加者:22名
<今日のワイン>
白・甘口「マイレン・ヴァイスケラライ・クリュセラーター・ブルーターシャフト・リースリング・アウスレーゼ2004年」
白・辛口「ヴィラ・アンホイザー・リースリング・トロッケン2006年」
白・辛口「ヴィラ・アンホイザー・ゾマーラッハー・ローゼンベルク・ミュラー・トゥルガウ2005年」
赤・辛口「オニキス・リンゲンフェルダー・ドルンフェルダー2003年」
<今日のランチ>
【前菜1】夏野菜のマリネ
【前菜2】ハムの盛り合わせ
【前菜3】チーズの盛り合わせ
【メイン】ビーフステーキ
【デザート】紅茶風味のプリン
      


1.はじめに〜ドイツワインについて
● 年間生産量世界第8位、白ブドウ栽培比率約66%。
● 生産地は南部のライン川とその支流が中心。ブドウ栽培の北限。
● 品種〜品種改良により多数の交配品種が存在する。

 ドイツは、フランスやイタリア、スペインに次ぐ銘醸ワインの産地として知られていますが、冷涼な気候のため、ブドウの栽培地域は南部のライン川とその支流が中心となり、品種も白ブドウが中心となります。この点が、国の至る所でブドウが栽培され、かつ赤ワインの比率が高いフランス、イタリア、スペインと大きく異なりますが、それだけではなく、ドイツのゲルマン系民族のワインに対するアプローチは、ラテン系の豊かな農業国とは根本的に大きく異なるように思われます。
「フランスの酒は自然にできた酒であるが、ドイツの酒は人が造った酒だ」(坂口謹一郎「世界の酒」岩波新書) 気温が低く日照量 の足りない悪条件を乗り越えるために、ドイツでのワイン造りには様々な工夫が必要とされました。低温でも発酵できるよう純粋培養の酵母を使用し、自然な甘味を再現するためにズースレゼルヴ(保存果 汁)の技術を開発し、世界に先駆けてクローン選抜を行い、冷涼な気候に耐えられる品種を交配によって新たに作出しました。
 これらは自然を重視し、地域ごとに品種まで規定するフランスとは逆を行くものですが、1960年代のワインの国際化・大衆化に大きく貢献したのも事実です。当時の「リープフラウミルヒ(聖母の乳)」や「シュヴァルツカッツ(黒猫)」の流行は、遠心分離器・冷凍機・熱交換器・低温発酵タンク・濾過器など、ドイツでのビールの工業化を支えた機器の転用によってもたらされました。
 冷涼な気候ならではの豊かな酸味と、確かな技術に裏打ちされた高品質な「フレッシュ&フルーティー」なドイツワインは、世界中で愛されました。しかし世界のワイン市場を震撼させた1985年の不凍液(ジエチレングリコール)混入事件をきっかけに、ドイツの甘口ワインは凋落の道を歩むことになります。消費者の辛口嗜好や赤ワインブームにより、ドイツワインはさらに敬遠されるようになってしまいましたが、オーク樽を使わず、マロラクティック発酵も行わず、低温発酵が主体となるドイツの秀逸な白ワインは、フランスワイン以上にテロワールに忠実で、コストパフォーマンスも高いという点で、もっと再評価されるべきでしょう。

2.白ワインのテイスティング
● 白ブドウ生産量は1位リースリング、2位ミュラー・トゥルガウ、3位 シルヴァーナー。
● ドイツワインはDTW,DLW,QbA,QmPに分類される。
● QmPはさらにシュペートレーゼ(遅摘み)、アウスレーゼ(房選り)、ベーレンアウスレーゼ(粒選り)などに分けられる。

 まずは白ワインのテイスティングです。
    
 2種類の異なる味わいのリースリングを用意しています。甘口の「クリュセラーター・ブルーダーシャフト・リースリング・アウスレーゼ2004年」(上図左)と、辛口の「ヴィラ・アンホイザー・リースリング・トロッケン」(上図中央)です。また、同じ辛口で品種の違いを味わって頂く為に、「ゾマーラッハー・ローゼンベルク・ミュラー・トゥルガウ」(上図右)も用意しました。
 リースリングは、シャルドネと並ぶ白の高貴品種として、ドイツを中心にオーストリア、アルザス、オーストラリアなど世界各地で栽培されていますが、生き生きとした酸味を維持するためには、冷涼地での粘板岩土壌での栽培が最適とされており、その意味でドイツを代表する品種となっています。モノテルペンに由来する、白い花、蜂蜜のような香りが特徴的で、熟成すると灯油香が感じられます。香りが重視されるので、シャルドネで行われているようなマロラクティック発酵や木樽発酵・熟成は好ましくないとされています。最近の辛口志向に合わせて、新世界では辛口タイプが多く作られていますが、酸度の高さが特徴で、残糖とうまくバランスが取れるため、甘口に仕上げられることによって本領を発揮します。
 ミュラー・トゥルガウは1882年にスイス出身のミュラー・トゥルガウ教授によって、ドイツにおいてリースリングとシルヴァーナの交配により育成された品種です。成熟が比較的早いのが特徴で、酒質は花のようなブーケがあり、まろやかな酸味を感じることができます。もっとも、同じ交配で同じ交配品種をトレースできなかったため、ソムリエ教本ではリースリングとグートエーデルによる交配と記されています。さらに近年のDNA鑑定では、さらにリースリングとマドレーヌ・ロワイエの交配である可能性が高いとされています。
 一時期はドイツの最大栽培品種にまでのぼりつめたこのミュラー・トゥルガウを始めとして、寒冷地での安定的な収穫を求めて交配品種が積極的に開発されてきましたが、結果 としてリースリングを超える品種を生みだすことができず、1990年代以降は交配品種の栽培面 積は減少、リースリングへ回帰していきました。近年ではさらに市場での辛口志向、赤ワイン志向の動きを受け、また地球温暖化の影響もあって、そのラインナップは大きく様変わりしつつあります。
 いすれにしても、ブレンドを嫌い、上級品(QbA・QmP)だけで全体の約97%を占める高級志向と、土地ではなく糖度に基づく格付けは、フランスやイタリアの分類法とは全く異なるユニークなものです。フランスではグラン・ヴァンを生み出す畑は規定により最初から決められていますが、ドイツでは良いブドウは土地に関係なく評価するというスタイルを取っており、ある種平等主義的で理念的な分類法だと言えます。

3.赤ワインのテイスティング
● 黒ブドウ生産量は1位シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)、2位 ポルトギーザー、3位ドルンフェルダー。
 白ワインが主体とされるドイツワインですが、近年では赤ワインブームや地球温暖化の影響で、従来にないしっかりした味わいの赤ワインが作られるようになりました。
 
 フランス・ブルゴーニュのピノ・ノワールと同品種とされるシュペートブルグンダーが有名ですが、それ以外にも、しっかりしたタンニンを持つドルンフェルダーや、濃厚な色合いを持つ交配品種のレゲントなど、見逃せない品種が多くあります。今回は、ドルンフェルダーを使用したファルツ産の「オニキス・リンゲンフェルダー・ドルンフェルダー」(上図)を用意しました。
 最近注目を浴びているミッテルハート地域のリンゲンフェルダー醸造所は、30年前にカール・リンゲンフェルダー氏が白ワインの品質向上に成功し、現在は息子であるレイナー・リンゲンフェルダー氏がワイン造りに参加、その品質にさらに磨きがかかり素晴らしいワインを造り出しています。「オニキス・リンゲンフェルダー・ドルンフェルダー」は、ファルツ産のバリックで1年間の熟成を経て、ほとんど黒に近いほどの濃厚な色合いとなっており、しっかりしたタンニン、口の中で爆発しそうな果 実味、噛み応えのあるボリューム、どれをとってもドルンフェルフダーのもつポテンシャルを見事に引き出しています。
 なお、オニキスとは宝石の瑪瑙(めのう)のことで、ギリシャの神話でキューピッドが眠っているビーナスの爪を矢で切って遊んでいたところ、それがインダス川に落ちてオニキスになったそうです。

4.ドイツワインの歴史
100〜200年頃 ローマ人がモーゼル川流域を開発、ブドウを持ち込む
800年頃 フランク王国カール大帝、ラインガウの開発始まる
1130年 ヨハニスベルクにベネディクト派修道院開設
1135年 シトー派のクロスター・エーベルバッハ修道院設
1450年頃 ブドウ畑面積最大規模に(約30万ha)〜現在(約10万ha)の約3倍
1516年 バイエルン候ヴィルヘルム4世によるビール純粋令
1618〜1648年 三十年戦争 北部・中部ドイツのブドウ栽培なくなる
1775年 ヨハニスベルクにてブドウの遅摘み法(シュペートレーゼ)発見
1783年 ヨハニスベルクにてアウスレーゼ開発
1811年 クロスター・エーベルバッハ修道院にてキャビネット誕生
1830年 ドイツ人エクスレによる果汁比重計の発明
1872年 ガイゼンハイム研究所設立
1882年 ガイゼンハイム研究所にてミュラー・トゥルガウの交配
1892年 ドイツ最初のワイン法
1896年 最初のクローン選抜がシルヴァーナー種に対して実施される
1950年 第2次世界大戦の荒廃により、ブドウ畑面積最少規模に(約5万ha)
1895年 フィロキセラ禍〜ブドウ畑は1/3に減少
1985年 不凍液(ジエチレングリコール)混入事件
2000年 辛口志向に伴うクラシック・セレクションの制定

 現在ドイツのブドウ栽培は南部に偏っていますが、15世紀頃は、年間平均気温が現在に比べ2℃程高かったため、ベルリンなど北の地域も含めて全土でワインが造られ、その生産量 は現在の3倍近くあったと言われています。
 しかし、ペストの大流行と三十年戦争による国土の荒廃、平均気温の低下により、ドイツにおけるワインの生産は激減します。北国の不安定なワイン造りは淘汰され、代わりに冷涼な地で実を結ぶ麦を使ったビールが主流となります。
 19世紀、ブドウ栽培とワイン醸造の舞台が修道院から研究所へと変わり、厳しい条件の元でワインを造るために、交配品種の開発やクローン選抜など、様々な技術が導入されました。その結果 、19世紀には20〜30hl/haに過ぎなかったブドウ収穫量は、現在では100hl/haにも達しており、畑の面 積は大幅に減ってしまったにも関わらず、その品質はむしろ向上しています。
南フランスで発生したフィロキセラ禍は、遅れてドイツをも直撃します。フィロキセラ対策としての接ぎ木栽培の導入は、土壌や気候の特性に合わせた台木の選択を可能にしました。ラインガウのシュロス・ヨハニスベルクを訪ねると、その地下セラーには鏡彫りされた樽があり、「接ぎ木栽培のおかげで収穫は素晴らしく向上した。これもすべてフィロキセラ様のお陰である」と、金の王冠を頭上に抱いたフィロキセラの絵が彫り込まれているそうです。技術革新に誇りを持つドイツらしいエピソードだと思います。

 さて、次回は、新世界のニュージーランド・ワインを取り上げたいと思います。ドイツでの技術革新がそのまま応用されたのが、南半球でもっとも冷涼なワイン生産地とされるニュージーランドでした。まさに1960〜70年代、ドイツの交配品種ミュラー・トゥルガウの導入から、地道なニュージーランドワインの発展が始まったとすら言えるのです。

<今回の1冊>

古賀守「優雅なるドイツのワイン」創芸社
 10年前に出版された本なので、データ的にはやや古いのは仕方ありませんが、交配品種リストや品種ごとの糖度規格一覧表など、他の本では得られない貴重な資料が 掲載されているのは有り難いことです。最近あまりメディアで取り上げられることの少ないドイツワインですが、低アルコールで飲みやすく、日本ではもっと飲まれて良いワインだと思います。


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