Via Vino No. 27 "Loire"<ロワール>

  

<日時・場所>
2009年8月22日(土)12:00〜15:00 恵比寿「イレール」 
参加者:12名
<今日のワイン>
白・発泡・辛口「ドメーヌ・ド・ヴェイユー・クレマン・ド・ロワール NV」
白・辛口「ドメーヌ・クロード・リフォー・サンセール・ブコー 2007年」
白・辛口「マルク・ブレディフ・ヴーヴレ・セック2007年」
赤・辛口「エリーズ・ブリニョ・カベルネ・フラン2007年」
ロゼ・発泡・辛口「マルク・ブレディフ・エリタージュ・ブリュット・ロゼ NV」
<今日のランチ>
キュウリの冷製カッペリーニと パプリカとチーズのミルフィーユ盛り合わせ
フォアグラのフラン
赤カブの冷製スープ
三元豚のロースト
フォワイヨ風 ハイビスカスのジュレ・フルーツとバニラのアイスクリーム添え
    


1.はじめに〜「華麗な城館の並ぶ、フランスの庭」
●フランス第一の大河流域に広がる白ワイン地帯。
●東西に長く伸びる、多様な地質と気候。
●修道院時代から続く歴史あるワイン生産地。
 全長1,000km、フランス最長となるロワール河は、中央山塊に源を発し、かつての王朝の栄華を偲ぶ古城地帯を抜け、最後はナントの先で大西洋へと流れています。
 この河の流域には多くのワイン産地が連なっているのですが、冷涼な気候のため、その多くはフルーティですっきりとした、早飲みタイプの白ワインで、甘口ワインやロゼワインが多いことで知られています。総栽培面積は約7万ha、年間生産量は約400万hlと、ブルゴーニュに近い値となっています。  
 東西に幅広く横たわるワイン生産地は、全体を大きく四つの地区に分けることができます。海に近い地区と内陸の地区では、気候も地質もそれぞれ異なっており、その品種や仕上がったワインにも大きな違いが見られるのです。ロワール河の渓谷は、多くの華麗な城館が立ち並ぶ歴史地区として知られています。シノン城でのシャルル七世とジャンヌ・ダルクとの出会いや、晩年のダ・ヴィンチをイタリアから呼び寄せたフランソワ1世の城など、百年戦争以後のフランス宮廷文化は、このロワール地区を中心に発展しました。そのため、ロワール周辺の言葉が標準フランス語として定着したと言われています。  
 従ってロワールのワインも、フランス文化の中心地であるこの地で、古代ローマ、そして修道院の時代から、計り知れない大きな役割を果たしてきたと言えるのです。  
【ナント(ペイ・ナンテ)地区】
 大西洋河口近くの、海洋性気候に属する地域です。日照には恵まれるものの秋に雨が多く、比較的軽いタイプの辛口白ワインが生産されます。15世紀までケルト文化圏にあるブルターニュ公の支配下にあったため、歴史的にも他のロワール地方とは異なる風土となっています。  
 この地を代表する白品種がミュスカデです。ムロン・ド・ブルゴーニュという別名が示す通り、元はブルゴーニュ地区で栽培されていたものを移植したものです。樽で発酵させたワインを澱と一緒にそのまま寝かせて、翌年上澄みを瓶詰めするという、いわゆる「シュール・リー(澱の上)」製法を使うことで知られ、これによりフレッシュでなめらかな、魚介類との組み合わせにも最適な白ワインが造られています。
【アンジュー・ソミュール地区】
 中流に位置する、準海洋性気候に属する地域です。日照が良好で、かつナント地区より雨が少なく、薄甘口のロゼワインや、遅摘み・貴腐ワインで知られています。  
 ローヌのタヴェル地方と並ぶ代表格のロゼ・ダンジューは、主として地元品種のグロローから作られますが、カベルネ種から作られるロゼはカベルネ・ダンジューと呼ばれより格上となっています。  
 またこの地を代表する白品種はシュナン・ブランです。高い酸を持ち、冷涼な気候のもとで収穫を制限して栽培すると、非常に高品質なワインを造ることで知られています。辛口のサヴァニエール、そして甘口の三大貴腐ワイン、コトー・デュ・レイヨン、カール・ド・ショーム、ボンヌゾーは、それぞれモンラッシェやソーテルヌに匹敵すると言われています。
【トゥーレーヌ地区】
 ロワールの中心部にあり、ルイ11世の時代には首都でもあったトゥールを中心に、広大なワイン産地が広がります。ある意味非常にバランスの取れた気候と穏やかな景観にに恵まれています。  
 ロワールを代表する赤ワイン、シノンとブルグイユが、黒品種であるカベルネ・フランから造られています。カベルネ・フランはハーブのようなやや青っぽい香りが特徴的で、比較的早飲みに適した赤ワインとなりますが、優良な生産者による銘柄の中には、数年から数十年の熟成に耐える物もあります。  
 さらに東側に位置するヴーヴレとモンルイは、シュナン・ブランから造られる白ワインが中心となります。特にヴーヴレは、優良なヴァン・ムスー(発泡性ワイン)の産地としても有名です。
【サントル・ニヴェルネ地区】
 大陸性気候に属し、より雨が少なく、気温較差の大きい地域で、ブルゴーニュに近い気候となっています。実際のところ、古城の連なるロワール渓谷とは離れた所にあり、以前はブルゴーニュ地区に組み込まれていたようです。  白品種ソーヴィニヨン・ブランから造られる、辛口のサンセールとプイィ・フュメが有名です。共にソーヴィニヨン・ブランの持つ独特のハーブ香がはっきりと現れており、この品種の特徴を掴むのに最適のワインとなっています。プイィ・フュメは白ワインのみが造られますが、サンセールにはピノ・ノワールを使った赤・ロゼがあり、この地がブルゴーニュと縁のあったことを示しています。

2.スパークリングワイン(白)

   

ドメーヌ・ド・ヴェイユー・クレマン・ド・ロワール(品種:シャルドネ50%、ムニュ・ピノ25%、シュナン・ブラン25%)で乾杯しました。ドメー・ト・ヴェイユーは、なだらかな勾配が続くシュヴェルニー地区に25haの畑を所有し、ソーヴィニヨン・ブラン、ムニュ・ピノなど8種類の品種を栽培しています。1995年からビオ農法を始め、1998年にエコセールの認証を受けています。また、認証は受けていないものの、同時期にビオディナミへの取り組みも開始しています。白桃、洋梨など果肉の白い果実の甘い香りがあり、クリーミーでほどよい泡立ち。口に含むと蜂蜜のような甘さと爽やかなシトラス系の香りと酸味が感じられます。昨年までは3年間の瓶内熟成を行っていたそうですが、今回のリリース分から瓶内熟成期間を1年に短縮、よりフレッシュで泡立ちのよい仕上がりになっていました。

3.白ワイン
●白ワイン品種 
<ソーヴィニヨン・ブラン>
 フランスでは特にロワールとボルドーで生産されています。ボルドーでは樽を使い、セミヨンなどとブレンドされるためやや甘い味わいとなりますが、ロワールでは樽を使わずに品種そのもののアサツキやネギのような青っぽい香りを残したワインが作られます。この独特な青い香りは、ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランでも典型的に見られるものです。
<シュナン・ブラン>
 やはりフランスのロワールで、アロマティックな味わいを残したワインが作られています。辛口から甘口、カジュアルなワインから高級な貴腐ワインまで様々な味わいのバリエーションがあります。味わいに甘みがありながら、同時に酸味も伴う点が特徴で、色は黄金食の輝きがあり果実味の凝縮感があります。

  
「メーヌ・クロード・リフォー・サンセール・ブコー2007年」(品種:ソーヴィニヨン・ブラン)
 風光明媚な田園地帯であるサンセールの若手で、小規模ながら注目すべき生産者クロード・リフォー。当主ステファンの兄は、ブルゴーニュ地方ピュリニーの偉大な生産家エティエンヌ・ソゼに婿養子として入ったことから、栽培・醸造に対する哲学がここにも取り入れられたことで、画期的に品質が向上しました。
 繊細でとてもクリーン、フレッシュできめ細やかな口当たり。キリッと引き締まり、溌剌とした上品な味わいが心地よく感じられます。 この地の名物、シェーヴル・チーズなどと一緒に楽しめます。

マルク・ブレディフ・ヴーヴレ・セック 2007年」(品種:シュナン・ブラン)
 マルク・ブレディフは1893年に創設された伝統あるワイナリーです。1980年にはロワール・ワインの第一人者ラドゥセット男爵の所有となり、新たな風が吹き込まれました。凝灰岩を掘り起こして造られたカーヴは、ロワール地区では最も美しく、そして広大な広さを誇ります。年間を通してワインの保存に最適な湿度と温度を保つこのカーヴには、ヴィンテージワインが数多く所蔵されており、最も古いもので1874年にまで遡ることが出来るほどです。
 輝くような黄色、リンゴ、カリン、柑橘系のアロマ。十分なミネラルときれいな酸により、かっちりと骨格がまとまっています。

 最初のお料理は、キュウリの冷製カッペリーニとパプリカとチーズのミルフィーユ盛り合わせ。グラスに盛りつけられたカッペリーニは、キュウリの独特な青い香りと、ソーヴィニヨン・ブランの持つハーブ香が重なり、サンセールとぴったりの相性。チーズのミルフィーユは、さわやかな酸味とほのかな甘みが、まさにシュナン・ブランと最適の組み合わせとなっていました。続いて「フォアグラのフラン」と「赤カブの冷製スープ」。柔らかいフォアグラのフランは上質な茶碗蒸しのような食感で、赤カブのスープは鮮やかなピンク色が印象的でした。

4.赤ワイン
●赤ワイン品種
<カベルネ・フラン>
 白品種のソーヴィニヨン・ブランと同様、フランスではボルドーとロワールで栽培される品種です。ボルドーではカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローの補助品種として扱われますが、ロワールのシノンやブルグイユでは、主要品種としてかなり100%に近い割合でワインが作られます。ピーマンやグリーンアスパラガスなど、青いニュアンスの野菜に近い風味を持っているのが特徴です。

    
エリーズ・ブリニョ・カベルネ・フラン 2007年」(品種:サンジョヴェーゼ、 産地:チリ/エルキ・ヴァレー)
 凄腕女性醸造家が造る自然派ワインです。ロワールの現在名高きピエール・ブルトンで修行していたエリーズは、既に修行時代から大きな注目を浴びていました。葡萄の収量を異常なまでに落とした結果、全体的に味わいが濃厚でパワフルに仕上がっています。
 ややビオ香があるとのことで、デカンテーションしてからテイスティング。ブラックチェリーや甘草の香り。 ワインにボリュームがあり、完熟したブドウのジューシーな味わいとタンニンを感じます。ロワールのカベルネ・フランに見られる青い野菜の香りは、このワインに関しては控えめで、むしろどこか甘い果実を連想される柔らかな風味が印象的でした。
 赤ワインには肉料理を、ということで、「三元豚のロースト・フォワイヨ風」を頂きました。フォワイヨ風とはパン粉にバター、チーズを混ぜた生地をいったん冷凍してからスライスし、肉にのせてオーブンで焼く料理です。あっさりとしてジューシーな豚フィレ肉とコクのあるチーズ生地が溶け合って、香ばしい余韻が後に残ります。豚肉はピノ・ノワールからカベルネまで、様々なタイプの赤ワインと比較的合わせやすいように思われます。ワインの柔らかさとソースのまろやかさが非常にマッチしていました。

5.スパークリングワイン(ロゼ)

  

マルク・ブレディフ・エリタージュ・ブリュット・ロゼ(品種:シャルドネ50%、ムニュ・ピノ25%、シュナン・ブラン25%)で乾杯しました。
 シャンパーニュと同様に二度に分けて圧搾し、一番絞りの果汁のみを醸造に回します。品種ごとにステンレスタンクで醸造されたキュヴェを2月にブレンドし、4月に瓶詰め。その後、瓶内二次発酵させるためにカーヴで12〜24ヶ月間寝かせます。
 とても上品なサーモンピンク色で、泡は非常に細かく、イチゴやスグリ、フランボワーズなどの赤い小粒の果実の、フレッシュで清涼感溢れる香りと、フルーティーでクリアな口当たりが印象的でした。
 ちなみにピノー・ドニス(Pineau d’Aunis)は、ロワール固有の黒葡萄品種で、数は少なくなっているものの、ロゼに活き活きとした果実味をもたらすため部分的に使われています。

 デザートには「ハイビスカスのジュレ・フルーツとバニラのアイスクリーム添え」が出されました。ブルーベリーのような濃い色をしたジュレに、イチジクなどのフルーツが隠れていました。

  

 おまけの一杯は、珍しい「ルバーブ」のワイン。ルバーブはやや赤い色をしたタデ科の野菜で、甘みを付けてジャムにもなると言われますが、ワインまであるとは。青い野菜の香りと若干の苦味を持つややクセのある白ワインといったイメージでした。

6.ロワールワインの歴史

6世紀 アンジュ産のワインの記録
8世紀 ヴーヴレの葡萄栽培の記録
360年  聖マルタン、ポワティエ近郊に最初の修道院建設
1241年 聖王ルイの兄弟の晩餐会にソーミュールワインの記録あり
1429年 ジャンヌ・ダルク、シノン城にてシャルル7世と会見
1431年 ジャンヌ・ダルク、焚殺される
1453年 百年戦争終結、イギリスの撤退
1519年 フランソワ1世、シャンボール城建設に着手
      クロ・リュセ館にてレオナルド・ダ・ヴィンチの死
1532年 ラブレー「ガルガンチュアとパンタグリュエル」 〜ブルトン(カベルネ・フラン)の記載あり
1547年 アンリ2世、シュノンソー城を愛妾のディアーヌ・ド・ ポワチエに贈る
1598年 アンリ4世によるナント勅令、宗教の自由
1685年 ルイ14世によるナント勅令廃止、シャンボール城の完成
1709年 ナント地方の晩霜、ムロン種の栽培へ
1796年 ナントの虐殺
19世紀  ソーミュール中心に発泡性ワイン作りが流行する

 ロワールのワインの歴史は、修道院、中世、ルネッサンス以降と、大きく三つの時代に区分できると言われています。
 第一に修道院の時代が訪れ、キリスト教の普及に伴って、修道院か次々と葡萄畑を開墾し整備していきました。4世紀末、トゥール郊外に修道院を設立した聖マルタンに始まり、多くの司教達が修道院の建立と合わせて、葡萄畑を広げたのです。6世紀になると葡萄栽培地の発展の様子がいくつかの歴史書の中で言及されるようになり、アンジューやヴーヴレのワインに関する記録が早くも見られるようになります。
 第二に中世に入ります。12世紀頃から、畑の選別が行われるようになり、アンジュー伯とイギリス王を兼ねていたプランタジネット家の治世になると、そのお膝元ロワールのワインは、ボルドーワインに先立って大量にイギリスに輸出されるようになりました。その後ロワールはオランダによって取り仕切られるようになり、優良なワインは河川を利用して外国に運ばれ、並のワインは馬車でパリに運ばれたのです。
 百年戦争により多くの城塞が築かれた後、15-6世紀にイタリア・ルネッサンスにならって、華麗な城が建造されるようになると、城の王達はワインを求め、結果としてロワールワインの名声は高まります。
 宗教改革の後に全ヨーロッパを襲った長い宗教戦争により、フランス宮廷文化は一時衰退しますが、王位についたアンリ4世は、「ナント勅令」によって宗教対立の融和を図ります。この画期的な条例は1685年にルイ14世によって廃止されますが、その直後、ナントは激しい晩霜に襲われ畑は壊滅状態に陥ります。それ以来より耐寒性の強いムロン種がブルゴーニュから導入され、ミュスカデとしてこの地に定着しました。
 このナントのミュスカデや、ソミュールの発泡性ワインなどが評判となり、フレッシュで飲みやすいロワールワインの名声が、現代まで繋がっていくことになりました。

<今回の1冊>
 
宇田川悟/山本博「図説・フランスワイン紀行」河出書房新社
 ボルドー、ブルゴーニュ、ロワール、ローヌ、アルザス…フランスワインの生産地は、それぞれ風光明媚な観光地でもあり、世界遺産などに登録された歴史地区でもあります。全ページにわたって豊富な写真が掲載されているこの本は、ワイン生産地そのものの奥深さを分かりやすく教えてくれます。今回のロワール特集でも、渓谷に連なる王城の写真や、歴代の王達の肖像画など、様々な資料を参考にすることができました。


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