Via Vino No. 36 "Italy vs Spain"<イタリアvsスペイン>

<日時・場所>
2011年2月19日(土)18:30〜21:00 目黒「サント・スピリト」 
参加者:10名
<今日のワイン>
白・辛口「アッティリオ・コンティーニ ヴェルナッチャ・ディ・オリスターノ・リゼルヴァ 1997年」
白・辛口「ヌスバウマー ケラーライ・トラミン 2009年」
白・辛口「コレット・ゲヴルツトラミネール・オリヘン 1/5」
赤・辛口「テヌータ・デットーリ トゥデーリ 2004年」
赤・辛口「ゴサルベス・オルティ・クベル・エクセプショネル 2004年」
<今日のディナー>
ボラのカラスミ サラダ仕立て
北海道産生ウニと寒ちぢみ・フレッシュトマトのフェデリーニ
自家製子羊のソーセージのソテー ミルトソース 旬のお野菜を添えて
クレマ カタラーナ ローズマリー風味

   


1.はじめに〜「イタリアvsスペイン!」

● ワイン生産世界一の国と、葡萄栽培面積世界一の国。
● 文字通り世界を制覇した、古代ローマ帝国とスペイン・ハプスブルク帝国。
● グローバルな文化とローカルな国民性の両面を持つ2つの国。

● イタリアは常にフランスとワイン生産世界一を争っています。2006年はフランスが、2007年はイタリアが、それぞれ世界第1位となりました。スペインは2003年に一度イタリアを抜いたものの、その後は常に第3位に甘んじています。しかし葡萄栽培面積では常に第1位を維持しています。スペインの中央部には、世界に類を見ない、広大な葡萄畑が広がっているのです。
● 古代ローマ帝国の時代、まさにイタリア半島の都市がヨーロッパ全域を束ねていた頃、スペインは属州ヒスパニアとして、帝国にオリーブとワインを提供していました。時代が下って16世紀、神聖ローマ帝国のハプスブルク家のもと、スペインは遠くアメリカ大陸をも制する世界帝国にまで発展したのです。
● ワインとオリーブ、チーズと生ハム……世界を制する帝国として君臨した時代は既に過去の物となったものの、グローバルなヨーロッパの農業国として、両国は今も至る所でしのぎを削っています。フランスの葡萄品種や格付けワインが世界の主流となりつつある今も、両国はフランスと距離を置きながら、地場品種を守りつつ独自のスタイルを貫いているのです。


2.イタリアワインとスペインワインの概要 

(1)イタリアワインについて

【概況】  
 国土はイタリア半島およびその付け根に当たる部分と、地中海に浮かぶ2つの大きな島(サルデーニャ島、シチリア島)からなります。国土北部のアルプス山脈において、フランス、スイス、オーストリア、スロベニアと国境を接しています。アルプスは北西部で分岐し、イタリア半島を縦断するアペニン山脈を形成しています。全国20州全てでワイン生産を行っています。
【品種とワイン】  
 よく知られている赤ワインとしては、北部ピエモンテのネビオロから造られる長期熟成型のバローロとバルバレスコ。北部ヴェネトのコルヴィーナを主体に造られる凝縮感のあるアマローネ。中部トスカーナのサンジョベーゼから造られるキャンティとブルネーロ・ディ・モンタルチーノ。そして南部カンパーニャのアリアニコから造られる濃厚なタウラジなどが挙げられます。またトスカーナで国際品種から造られるサシカイア、ソライアなどは「スーパー・トスカーナ」と呼ばれ、親しまれています。白ワインでは、北部ピエモンテのコルテーゼから造られるガヴィ、北部ヴェネトのガルガーネガから造られるソアヴェなどが有名です。北部アルト・アディジェや北部フリウリでは、国際品種から親しみやすく品質の高い白ワインが造られています。
【特徴】  
 フランスと並ぶ世界を代表するワイン生産国ですが、伝統と格付けを重視するフランスワインに対し、比較的自由にワインが造られ、DOCGの原産地統制呼称の有無にかかわらず、良心的な造り手は非常に品質の高いワインを次々と造り出しています。

(2)スペインワインについて

【概況】
 スペインはヨーロッパ南西部のイベリア半島に位置し、同半島の大部分を占める立憲君主制国家です。南部と東部は地中海に、北と西は大西洋に面しています。西にポルトガル、南にイギリス領ジブラルタル、北東にフランス、アンドラと国境を接しています。スペイン本土は高原や山地(ピレネー山脈やシエラ・ネバダ山脈)に覆われ、高地からはいくつかの主要な河川(タホ川、エブロ川、ドゥエロ川)が流れており、河川に沿って葡萄畑が点在しています。
【品種とワイン】
 発泡性のカヴァ、熟成型赤ワインのリオハ、酒精強化ワインのシェリーがスペインの三大ワインと言われています。カヴァは北部カタルーニャのペネデス周辺で造られる、シャンパーニュ同様瓶内2次発酵で造られる本格的なスパークリングワインで、マカベオ、チャレッロ、パレリャーダを主要品種としています。テンプラニーリョ主体に造られる赤ワインでは、リオハが特に有名ですが、リベラ・デル・ドゥエロやプリオラートでも高品質なワインが造られています。酒精強化ワインのシェリーは、辛口のフィノやマンサニージャ、甘口のクリーム、辛口や中甘口の熟成型のオロロソやアモンティリャードなど様々なスタイルがあります。主要品種はパロミノですが、一部ペドロ・ヒメネスやモスカテルで甘味が付けられます。
【特徴】
 イタリア以上に、スペインワインには造り手の個性がはっきりとワインに反映されます。リオハもシェリーも、非常に伝統を重視したスタイルのワインですが、それに対抗するようにして、カタルーニャ・プリオラートの四人組や、リベラ・デル・ドゥエロのアレハンドロ・フェルナンデス、スペイン各地を回って上質なワインを作り続けるテルモ・ロドリゲスなど、個性的な人々が今も改革運動を続けています。あえて国際品種に頼らず、地場品種を丁寧に育て上げていくところは非常に好感が持てます。

3.食前のワイン

  

 まずは食前酒で乾杯です。「アッティリオ・コンティーニ ヴェルナッチャ・ディ・オリスターノ・リゼルヴァ 1997年」(タイプ:辛口の白ワイン 品種:ヴェルナッチャ  産地:イタリア/サルディーニャ)  
 サルバトーレ・コンティニによって1898年に設立されたワイナリーです。彼らは、ヴェルナッチャ・ディ・オリスターノこそがサルディーニャ島のエネルギーを表現出来る最高の品種であると考えており、1912年頃にはすでに国際的なコンクールで金賞を得るなど高い評価を得ました。発酵の段階でシェリーと同じように“フロール”と呼ばれる酸膜酵母が発生し、シェリー特有の香りがもたらされています。100年ものの古い栗とオークのカスクで5年以上熟成され、そのためワインは琥珀色がかった黄金色になります。実際に味わってみると、まさに熟成させたアモンティリャードのような、アーモンドの花を思わせる特徴的で強い香りがあり、酸味とほろ苦さが心地よい、食前酒に最適なワインでした。

4.白ワインのテイスティング

  

 そして白ワイン2品種の飲み比べ。それぞれ「P」と「Q」の印の付いたグラスが配られました。品種は同じくゲヴルツトラミネール、ほぼ同じ価格帯のワインです。ウニのパスタと一緒に楽しんで頂いた後で、アンケートに記入して頂きました。「P」と「Q」、どちらが好きですか? そして、どちらがイタリアで、どちらがスペインだと思いますか?
 9名の参加者の中で、「P」が好きと答えた方は7名、「Q」と答えた方は2名。7名の方が「P」をイタリアと答えました。
 「P」に関しては、「強い香り」「甘味」「ライチの香り」「バランスが良い」といった意見が。「Q」に関しては「すっきり」「クセのない感じ」「飽きずに飲める」「料理に合う」など。
 正解は…「P」が「ヌスバウマー ケラーライ・トラミン 2009年」(品種:ゲヴルツトラミネール(トラミン)、産地:イタリア/アルト・アディジェ)、「Q」が「コレット・ゲヴルツトラミネール・オリヘン 1/5」(品種:ゲヴルツトラミネール、産地:スペイン/カタルーニャ・ペネデス)でした。    
 「ヌスバウマー」の生産者ケラーライ・トラミンは、オーストラリアの下院議員だったクリスチャン・スロット代議士によって1898年に設立された協同組合で、現在280もの加盟員があり、230haの畑を管理しています。州都ボルザーノの西北テルターノにカンティーナがあり、畑はその周辺の標高250m〜550mの間で品種の個性を表現する様々な土壌を有しています。その中でもヌスバウマーはフラッグシップ的なワインで、標高350m〜550mの日当たりのよい南東の急斜面に位置し、土壌は石灰粘土質です。冷涼地においてゆっくりと時間をかけて熟したアロマがあり、マスカット、ライチ、ベルガモットの上品な香りと、強いが滑らかな酸が特徴です。イタリア最高峰のゲヴェルツトラミネールの一つです。非常に香り高い白でした。 
 一方の「コレット」は、カタルーニャ、ペネデスの珍しいゲヴルツトラミネール。以前はビンテージが表記されていたのですが、最新の物にはなぜか表記がありませんでした。「良いワインは畑を徹底的に管理する」がコレット社の方針で、エコロジー栽培登録畑になっています。桜桃、アンズ、ライチなどの果実香や華やかな花の香りと、円やかでふくよかな果実味が特徴です。特に「バラの香り」がアピールポイントで、ラベルにはしっかりとバラの花がデザインされています。もっとも、以前飲んだものと比べると、香りは大人しめに感じられました。

【ゲヴルツトラミネール(トラミネル・アルマティコ)】
 ゲヴルツトラミナーとしてアルザスでよく知られているこの品種の起源は、アルト・アディジェのトラミンとされていますが、ハプスブルク帝国時代にライン川から持ち込まれたという説もあります。アルザスではリースリングやピノ・グリと合わせて高貴品種と見なされ、素晴らしいヴァンダンジュ・タルディヴ(遅摘み)やセレクション・ド・グラン・ノーブル(貴腐ワイン)が造られていますが、1990年代初期までは、アルザス以外でこの品種に労力を費やす生産国はあまりありませんでした。  葡萄の果房は小さく、ずんぐりとした円筒形をしており、果粒は中程度で、果皮はやや赤褐色を帯びた灰色で斑点があり、皮は厚めで丈夫です。ワインは黄色がかった濃い麦わら色をしており、アロマティック系ワインの代表格で、ライチやバラの香りがはっきりと感じられます。この強い香りだけで識別できる、おそらくは唯一の葡萄品種と言われています。高いアルコール度と低い酸が特徴的で、味わいは柔らかくなめらかで、心地良い苦みもあります。

5.赤ワインのテイスティング

   

 続いて赤ワイン2品種の飲み比べ。それぞれ「R」と「S」の印の付いたグラスが配られました。品種は同じくグルナッシュ、同じビンテージでほぼ同じ価格帯のワインです。白と同様に「R」と「S」についてアンケートを取りました。
 合わせる料理はラムのソーセージ・ミルトソース。ラムの独特の風味が、熟成型のグルナッシュの赤と非常にマッチング。ミルトはイタリア・サルディーニャの伝統的なリキュール。ミルトは地中海地域では典型的な低木でサルデーニャ島では至る所に生えているそうです。果実は小さく濃い紫色をしていて、これをアルコールに40日間程浸けておき、その後にシロップと合わせるのだとか。
 9名の参加者の中で、「R」が好きと答えた方は2名、「S」と答えた方は7名。7名の方が「S」がイタリアだと思うと答えました。
 「R」に関しては、「リキュールっぽい甘い香り」「タンニン強い」「スパイシー」「ハーブ香」。「S」については、「しっかり」「熟成感」「バニラ香」「樽をうまく使っている」といった意見が出されました。
 正解は…「R」が「テヌータ・デットーリ トゥデーリ 2004年」(品種:カンノウナウ(グルナッシュ)、産地:イタリア/サルディーニャ)、「S」が「ゴサルベス・オルティ・クベル・エクセプショネル 2004年 」(品種:ガルナッチャ(グルナッシュ)、産地:スペイン/カスティーリャ)でした。
 「トゥデーリ」はサルディーニャ島北西の町サッサリの北、アシナーラ湾に面した丘陵地帯ロマンジア地方のワイン。テヌーテ・デットーリは、この地の2000年収穫のワインでデビューしたばかりの若いワイナリーです。量産型のワイナリーを、品質重視の少数生産型ワイナリーに立て直したのは、祖父から畑を受継いだ若きオーナー、アレッサンドロ・デットーリ。葡萄は全て手摘みで20kg容量のプラスチックケースに入れ、冷凍トラックにてセラーまで運ばれ、除梗後10日間浸漬させます。その後、セメント製の小さな樽に移し替え、翌年の5月まで熟成させます。清澄、濾過、安定処理は一切行いません。輝きのあるルビー色で、フルーツ香にフローラル、コショウ等のスパイスが混じります。タンニンはソフトで、滑らかな口当たりと、口内に広がるフルーツ香が心地よく、 エレガントさを感じられる仕上がりです。「トゥデーリ」とは、ぶどう畑や土地をとり囲む、海を見下ろす「岩」を意味します。
 一方、「クベル」の造り手ゴサルベス・オルティは、なんと初リリースから僅か6年にして、ホテル・リッツ・マドリードと名誉あるコラボレーションを果たしました。フランス・アリエ産オーク樽を70%、アメリカンオーク樽を30%用い7ヶ月半熟成、瓶熟は6ヶ月以上かけており、生産量は僅か3,500本のみです。ラズベリー、チェリーの小さな赤果実の香りに混じるドライフルーツ、甘いスパイス、トーストなどの個性的なアロマ。5年の熟成を経た、落ち着きのある果実味、ビロードのようになめらかなタンニン、充実した酸と旨味が楽しめるワインです。
 正直なところ、準備段階では、スペインの「クベル」はやや熟成香がきつい気がしました。そこで、両者を2時間ほど前に抜栓してデカンテーションして頂きました。どちらも2004年物ということで、デカンテーションによって香りも馴染み美味しくなるはず。結果としてややしんどいと思われた「クベル」は見事に安定した香り高いワインになり、非常に満足する仕上がりとなりました。

【グルナッシュ(カンノウナウ/ガルナッチャ)】

 カンノウナウとグルナッシュは、イベリア半島を起源とする同一品種であることが1933年に報告されており、一般的にはスペインのアラゴンが起源とされています。サルディーニャは1297年から1713年までスペイン領であり、この品種は1400年代にスペインからイタリアに持ち込まれたとされていますが、逆にサルディーニャからスペインにもたらされたという説もあります。フィロキセラ禍以後に広範囲で栽培されるようになり、現在では世界で第2位の栽培面積を占める品種と言われています。  樹勢が強く垂直に成長するので、株仕立てによる栽培が適しており、早期に発芽するため、比較的長い生長サイクルが受け入れられる地域では高い糖度を得ることが可能となります。干ばつや暑さに強く、新世界でも人気がありました。  葡萄の果房は肩のついた円筒形又は円錐形で、やや密集粒。果粒は中程度よりやや小さめで円形。果皮は黒紫色で、果皮はやや薄いものの丈夫です。  ワインは深紅もしくは暗ルビー色で、適度な強さのアーモンド香、スパイス香があり、エッジにオレンジが入るタイプには、蒸した土の戻り香が感じられます。

 

  ←最後は「サント・スピリト」自家製のイチジクを漬け込んだグラッパで乾杯!

6.イタリアワインとスペインワインの歴史

BC8世紀 南イタリアに葡萄栽培が伝播
BC500〜300年 フェニキア人の植民活動
BC202年 第2次ポエニ戦争後、スペインはローマの属州ヒスパニアとなる
BC27年 オクタウィアヌス、アウグストゥスの称号を得て、ローマ帝国誕生
313年 ミラノ勅令、ローマ帝国でのキリスト教公認
395年 東西ローマの分裂 
409年 ローマのヒスパニア支配終わり、西ゴート王国へ
476年 西ローマ帝国の滅亡
711年 西ゴート、イスラムに滅ぼされる
1137年 カタルーニャ・アラゴン連合王国成立
1385年 フィレンツェのアンティノリ家、ワインギルドに加盟
1469年 カスティーリャ・アラゴン王国統一
1492年 グラナダ陥落、イスラム支配の終わりとアメリカ大陸発見
1494〜1559年 イタリア戦争、スペインとフランスの対立
1516年 カルロス1世即位、スペイン・ハプスブルク朝の始まり
1588年 アルマダの海戦、無敵艦隊イギリスに敗れる
1701〜13年 スペイン継承戦争、スペイン・ブルボン朝の始まり
1716年 トスカーナ大公国コシモ3世、キャンティの境界を設定
1770年 スペインの僧侶セラ神父、カリフォルニアに葡萄園開く
1773年 英国人ジョン・ウッドハウス、シチリアでマルサラを造る
1808〜14年 スペイン独立戦争
1872年 カヴァの生産開始
1847年 トスカーナのリカソリ男爵、キャンティのブレンド比率の設定
1861年 サルディーニャ王エマヌエーレ2世、イタリア王国の樹立
1883年 フィロキセラ、イタリアへ
1898年 米西戦争、スペインはアメリカに敗れる
1939〜75年 フランコ独裁
1946年 イタリア共和国成立
1968年 スーパー・トスカーナ、サシカイア発売
1975年 スペイン王政復古 アンジェロ・ガイヤ、ヴィノ・ノヴェッロ(新酒)発売

●現在のイタリア半島は、ヨーロッパを制覇した古代ローマ帝国の中心地でした。ワインはメソポタミアからエジプト、ギリシャへと伝播しましたが、このイタリア半島において、流通網の整備、食生活の向上と共に名実共に発展を遂げ、品種の選定、テロワールの重視、ビンテージへのこだわり、キリスト教徒の結びつきなど、ワインを語る上での様々な要素はまさにこの古代ローマ帝国の時代に形作られたと言えるのです。しかしローマ帝国の崩壊とともに、イタリアは分裂し、ローマ教会と神聖ローマ帝国との対立の中、イタリア半島はしばしば戦場となりました。ルネッサンスの黄金期はまさにイタリア戦争の時期と重なっており、フランス、ドイツ、スペインの侵略を受けた時代でもあります。結果的にスペインがナポリを、ハプスブルク家がミラノを領有し、国土の殆どが外国の支配下に置かれてしまいました。

●その後ナポレオンによる支配と分割を経て、イタリアが再び王国として統一されたのは1861年のこと。フランスがカペー朝、ヴァロア朝、ブルボン朝、ナポレオン帝政と長きにわたって統一国家としてヨーロッパに君臨したのに対し、イタリアはローマ帝国の崩壊以降、約150年前の統一に至るまで、長い間都市国家に分かれていました。しかし、その事情はスペインでも同様で、イスラムの侵略をまともに受けたイベリア半島は、様々な国家が宗教・民族で対立し、今に至るまで完全に統一されているとは言い難い状況にあります。このことが、権威を重視し、殆ど変更されない格付けや規制の厳しいAOCに縛られがちなフランスワインと、自由を尊び、格付けにこだわらない生産者が続出するイタリアワインやスペインワインとの違いに反映されているように思われます。

●さて、そのスペインはフランスとイギリスの対立の結果、イギリスと密接な関係を持つようになりました。英仏百年戦争により、フランスワインの入手が困難となったイングランドは、へレスに注目します。イングランドの薔薇戦争が一段落すると、ヘンリー7世は、航海条例によって輸入品の運搬をイングランド籍船に限定します。それによってボルドーはクラレット、へレスはシェリーというように、全て英国風のワインの名称が定着するようになったのです。そもそも、シェリーの酒精強化は輸出の際に保存性を高めるのが目的でしたし、ソレラシステムという独特の樽の使い方も、スペイン継承戦争で需要が冷え込んだ時、大量の樽が倉庫に残されたために生まれたものとされています。

●一方、リオハワインはさまざまな点でフランスワインの影響を受けています。オーク樽作りの技術は中世にフランスから移住してきた修道士達がもたらしたものです。19世紀にフィロキセラ禍がフランスを席捲すると、商人達は栽培家と樽を携えて、開通したばかりの鉄道に乗ってリオハへやって来ました。イタリアワインが中世以後殆ど他国の影響を受けず、今も殆ど他国からワインを輸入していないのに対し、スペインワインは周囲の影響を大きく受けつつ、逆に他国の事情に振り回されるようにして発展してきたと言えるのです。

<今回の1冊>
   
ヒュー・ジョンソン&ジャンシス・ロビンソン「世界のワイン」産調出版
 世界的なワイン評論家であるヒュー・ジョンソンとジャンシス・ロビンソンによる「The World Atlas of Wine」第五版の翻訳本。全ページがフルカラーの地図と写真でぴっしりと詰まったワインの地図帳です。フランスやイタリアに関するページが多いのは当然として、日本やアジア、東ヨーロッパに至るまで様々な国が紹介されています。ワイン選びが楽しくなる本です。やや大きくてかさばりますが。


◆「Via Vino」トップページへ