Via Vino No. 38 "South France"<南フランス>

<日時・場所>
2011年6月18日(土)12:00〜15:00 虎ノ門「"S"」 
参加者:11名
<今日のワイン>
発泡性・辛口「ドメーヌ・デスコス・ガイヤック・メトード・ガイヤコワーズ・ドゥミセック」
白・辛口「ミシェル・ゲラール・テュルサン・バロン・ド・バッシャン 2004年」
白・辛口「コトー・デュ・ラングドック・ドメーヌ・アザン 2009年」
赤・辛口「カシー・クロ・サン・マグドレーヌ・ロゼ 2008年」
赤・辛口「シャトー・モントリオル・フロントン・プレスティージュ・ルージュ」
赤・辛口「ドメーヌ・ベルトゥミユ・マディラン・シャルル・ド・バッツ 2007年」
白・甘口「ドメーヌ・ベルトゥミユ・パシュラン・デュ・ヴィック・ビル 2008年」
<今日のランチ>
アミューズ
シピロン・エン・ス・ティンタ
ブイヤベース
鴨肉のシヴェ
カジャス・ド・サルラ
プティ・フール/コーヒー

   


1.はじめに〜「南フランスのワイン」

● ゴッホやセザンヌ、ピカソが過ごしたプロヴァンス。
● 独自の文化圏を持ったラングドック・ルーション。
● イタリアとスペインに挟まれた、地中海を臨む紺碧の海岸線。

 明るい青空、輝く太陽、糸杉と松、ミストラルに頭を垂れるオリーブの木、岩だらけの土地……イタリアとスペインの国境の間に伸びる地中海沿岸は、多くの芸術家が集い、傑作を仕上げたことで知られていますが、豊かであるが故に古くから侵入者達の攻撃にさらされてきました。北が南を滅ぼし搾取するという構図は、イタリアやスペインだけでなく、フランスの歴史にも見られたわけで、それはまたワイン文化にも大きな足跡を残しています。
 ローマ帝国の属州(プロウィンキア)にその名が由来するプロヴァンスは、フランスに併合されるまでは神聖ローマ帝国治下の独立国プロヴァンス伯爵領でした。南ローヌのアヴィニヨン、東のマルセイユ、ローマの街造りか残るアルルなどが含まれます。エクス・アン・プロヴァンスに生まれたセザンヌ、アルルに移り住んだゴッホなどは、この地の明るい陽光に魅せられて、明るく輝かしい、それでいて強烈で個性的な風景を描きました。ピカソの記念碑的な作品「アヴィニヨンの娘たち」も忘れるわけにはいきません。印象派とか表現主義とかいった分類はともかく、眩しい原色に彩られた芸術は、まさにこの地に生まれるべくして生まれたと言えます。
 そしてフランスのワイン生産の3分の1を占めるラングドック・ルーション。ひとくくりに扱われがちですが、独自の言語「オック語」を持ち、アルビジョワ十字軍によって蹂躙されたラングドックと、17世紀までスペインの属領でカタロニアの風俗が今も残るルーションは実際には異なる文化圏に属しています。アルビジョワ十字軍の名の元となった、「赤い街(ヴィル・ルージュ)」と呼ばれる古都アルビは、ロートレックの生家や美術館のあることでも知られていて、フランスの中でもやや変わった趣を残す異彩の町とされているのです。


2.南フランスのワイン産地について 

【南西地方】  
 ボルドーの南にあり、森林で大西洋から守られ、地方色豊かな食文化が残る南西地方では、昔から良質の葡萄畑が点在していましたが、嫉妬深いボルドーの商人達は、自分達のワインが売れてしまうまで、この高地のワインを港には入れませんでした。ジロンド県周辺では、ボルドーの品種が支配的ですが、それ以外の南西部では小さなアペラシオンごとに特有な土着の葡萄があります。その代表格はオーセロワ(マルベック/コット)で造られる「黒ワイン」ことカオールと、タナから造られるマディランです。カオールのワインは、この地の暑い夏のおかげで、ボルドーの典型的な赤よりは豊かで活気のあるものとなりますが、フィロキセラが多くの畑を滅ぼし、ラングドックからの鉄道がこの地のワインの需要を激減させ、それまで残っていた畑は殆ど破壊されてしまいました。マディランは、粘土と石灰質土壌の丘陵地で造られるガスコーニュの赤ワインで、ワインは早めに飲むこともできますが、7〜8年の熟成を経た精緻なマディランは、アロマが豊かで活き活きとしていて、ボルドーの格付け物に匹敵する仕上がりとなります。カオールの東南、アルビの西に広がる丘陵地帯のガイヤックでは、地元特有のモーザックという白品種から、伝統的な手法で造られるアルコール度数が低い甘口の発泡性ワインが造られています。その西のコート・ド・フロントネでは、土着のネグレット種を使って、透明感がありフルーティな赤ワインを造っています。 

【ラングドック・ルーション】  
 ラングドックは、フランスで最も重要なヴァン・ド・ペイ(VDP/地酒)の生産地で、全体の8割を占めるとされています。殆どはこの地域の指定名ヴァン・ド・ペイ・ドックが表示されています。VDPはAOC寄り規制が緩く、非伝統的な品種を使って品種名表示のワインを造ることができます。ただし、2008年にEUレベルで新たなワイン法が導入され、ワインは地理的表示なしのテーブルワインと、地理的表示ありのAOP・IGPに大別されることになりました。ヴァン・ド・ペイはIGPに該当し、ラベルには「IGP」「ヴァン・ド・ペイ」のいずれも表記できます。最大の生産量を誇るヴァン・ド・ペイ・ドックは、2009年ヴィンテージより「ペイ・ドック」と名称を変更しています。赤ワインが主力で、殆どが5つの古典的南部品種、すなわちシラー、グルナッシュ、ムールヴェードル、カリニャン、サンソーから造られています。一方ルーションは天然甘口ワイン、ヴァン・ドゥー・ナチュレル(VDN)で知られています。発酵途中のワインにブランデーを加えて造る酒精強化ワインで、バニュルスやリヴザルトのような赤のVDNがグルナッシュから造られています。

【プロヴァンス】
 ロゼの生産地として知られており、コート・ド・プロヴァンスの生産量の8割がロゼとなっています。温暖で乾燥したこの地方にロゼは非常に合うとされています。葡萄の生育期には殆ど雨が降らず、あまりに容易に葡萄が育つので、敢えて付加価値が求められなかったとも言えます。地形や気候が様々に異なるため、一部の小さな区画は品質の高さと独自性を評価され、1936年のカシーに始まり、古くからAOCを取得してきました。カシーはマルセイユに近く、その多くが地元で消費されます。マルセイユ名物のブイヤベースと言えば、何はなくともカシーの白ワインが定番となっています。実際に近年ではシラー、グルナッシュ、ムールヴェードルなどから注目すべき赤ワインも造られるようになりました。プロヴァンスは、東西南北から押し寄せてきた侵入者によって支配されてきました。そのため、ティブラン、カリトールなどのように、他では知られていない品種が沢山残っています。

3.スパークリングワイン

 

 「ドメーヌ・デスコス・ガイヤック・メトード・ガイヤコワーズ・ドゥミセック」(タイプ:辛口の発泡性白ワイン 品種:モーザック100%  産地:フランス/ガイヤック <サンティール・オリジナル>)  
 アルコール発酵の途中で、糖分が残っているうちに瓶へ移し、残りの発酵を瓶内で行うメトード・アンセストラル方式のスパークリングワイン。補糖は一切行わず、葡萄の持つ糖分のみで発酵が行われます。製造はガイヤックのサン・ミッシェル修道院協同組合のディディエ・ギボー氏に一任されています。 外観はグリーンがかった淡い色調で、香りはフレッシュな印象。グレープフルーツや青リンゴのコンポート、白い花の香りが主体で、味わいに柔らかな甘味と爽やかな酸味があります。

4.白ワイン
   

「ミシェル・ゲラール・テュルサン・バロン・ド・バッシャン 2004年」(タイプ:辛口の白ワイン 品種:バロック32%+ソーヴィニヨン・ブラン30%+プティ・マンサン23%+グロ・マンサン15%  産地:フランス/南西地方テュルサン地区)  
 ミシュラン3ツ星レストラン「レ・プレ・ドゥ・ジェニー」のオーナーであるミッシェル・ゲラール氏が、18世紀に建てられたシャトーを買い取り、「シュヴァル・ブラン」のピエール・リュルトン氏や、「ペトリュス」のジャン・クロード・ベルエ氏の協力を得て、この地域のみで栽培される伝統品種バロックを使って造り出したワインです。淡い黄金色の輝きがあり、ボルドーの新樽で醗酵・熟成しているので、豊かなビスケットやトーストの香りや、白桃や洋梨のコンポート、キンモクセイの香り、そして柑橘系のニュアンスも感じられます。マイルドでボリューム感のある白ワインです。
「コトー・デュ・ラングドック・ドメーヌ・アザン 2009年」(タイプ:辛口の白ワイン 品種:ピクプール  産地:フランス/ラングドック)
 南仏の中心都市モンペリエから南西15qにあるピクプール・ド・ピネ。海からわずか6キロしか離れておらず、地中海からの潮の香りをたっぷり含んだ海風が心地よく吹きつける土地のオーガニック生産者アザンが造る、チャーミングな白ワインです。この地の名そのものでもあるピクプール種と、砂を含んだ石灰質土壌との非常に相性が良く、海に近い南の太陽を浴びて育った健康な葡萄品種ならではの、みずみずしく爽やかな味わいが楽しめます。アプリコットのわずかな甘味とリンゴの酸味が感じられ、塩気を残すミネラル感もあり、様々な食材との組み合わせが楽しめます。

5.ロゼワイン

  

「カシー・クロ・サン・マグドレーヌ・ロゼ 2008年」(タイプ:辛口のロゼワイン 品種:サンソー40%+グルナッシュ40%+ムールヴェードル20% 産地:フランス/プロヴァンス)。
 マルセイユの東、10キロメートルほどのところに位置する小さな港町カシー。その葡萄畑は海抜10メートルほどから150メートル付近まで見られ、地質は粘土石灰質の土壌が基本となっています。クロ・サン・マグドレーヌは町を見下ろす丘陵の上部に区画を所有し、レスタンク(ローマ時代に築かれた石垣)で土留めをした斜面でぶどうが栽培されています。グルナッシュとサンソー主体の、淡い色調でバラ色を帯びる辛口のロゼは、豊かな果実味とジューシーなのど越しが特徴です。

6.赤ワイン

   
「シャトー・モントリオル・フロントン・プレスティージュ・ルージュ 2007年」(タイプ:辛口の赤ワイン 品種:ネグレット55%+カベルネ・フラン20%+シラー25%  産地:フランス/フロントン <サンティール・オリジナル> )
 畑はなだらかな砂利質土壌の丘に位置し、樹齢は30〜40年で、収量は40hl/ha未満に抑えています。マロラクティック発酵後、フレンチオーク樽で3〜4年の熟成、さらにアッサンブラージュしてから大型の木樽で6ヶ月熟成の後瓶詰めされます。色調は紫がかった濃いガーネット。ブラックチェリーやブラックベリーのコンポート、スミレの花の香りに黒コショウを含むスパイス香、ほのかにメントール系の香りやロースト香、土の香りなどが感じられます。まろやかな果実味が広がり、バランスがよく滑らかで、アフターにスパイシーさが残ります。。
「ドメーヌ・ベルトゥミユ・マディラン・シャルル・ド・バッツ 2007年」(タイプ:辛口の赤ワイン  品種:タナ90%+カベルネ・ソーヴィニヨン10%  産地:フランス/マディラン <サンティール・オリジナル>)
 畑はアルマニャックから程近い南部ピレネー地区にあり、砂利混じりの泥粘土質土壌で、樹齢は50年以上、収量は40hl/haに押さえられています。樽熟成は18ヶ月以上、そのうち12ヶ月は新樽が使用されます。「シャルル・ド・バッツ」は、デュマ作「三銃士」の主人公としても知られる、アルマニャックで生まれた実在のダルタニアン伯爵の本名から採られています。温暖な海洋性気候のもと、化学的なものを極力使わず環境に配慮する農法「リュット・レゾネ」を指向し、除葉やグリーン・ハーヴェストなど畑での作業を厭わず品質の高いワインを造っています。色調は紫がかった濃いガーネット。香りはテロワールの特徴が感じられ、ブラックチェリーやブラックベリーのコンポートに野バラの花の香りや黒コショウを含むスパイス香、樹脂の香りに鉄様のミネラル香、ロースト香などが調和。味わいは豊かな印象の果実味から、しっかりとした酸味やタンニンの渋み、苦味などが広がります。

7.デザートワイン

 
「ドメーヌ・ベルトゥミユ・パシュラン・デュ・ヴィック・ビル 2008年」(タイプ:甘口の白ワイン  品種:グロ・マンサン80%+プチ・マンサン20%  産地:フランス/南部ピレネー <サンティール・オリジナル> )
 赤のマディラン同様、ドメーヌ・ベルトゥミユの作るデザートワイン。樹齢は50年以上で、砂利混じりの泥粘土質土壌。収穫は手摘みで行い、ぶどうの成熟度合に合わせ11月初めから12月半ばまで3回に分けて収穫します。新樽で醗酵・1ヶ月間熟成。色調は黄金色を帯びた濃いめのイエロー。香りは花やで強く、黄色い柑橘類やパッションフルーツ、黄桃などのコンフィのような果実香に、黄色い花や蜂蜜の香り、ほのかに白いスパイスやナッツの香りなどが調和。味わいはまろやかな甘味が広がり、しっかりとした酸味とのバランスがよく、余韻にも長く果実のフレーバーが残ります。果実感の強いフルーティーな甘口ワインでした。
 

8.南フランスの葡萄品種

【モーザック Mauzac Blanc 】
 フランス南西部に限られていますが、特にガイヤックとリムーにおいてはいまだ伝統的な主要白品種です。比較的香りが高く、軽く乾燥したリンゴの皮の風味を持つワインを作り、シュナン・ブランやシャルドネともブレンドされます。発芽、成熟共に遅く、葡萄は伝統的に秋が深まってから収穫されるため、果汁はリムーの涼しい冬の間ゆっくり穏やかに発酵し、春には瓶の中で再発酵します。近年モーザックは早く収穫される傾向にありますが、そうなると通常のシャンパーニュ製法に委ねられる前に、乾いたリンゴの風味の大半が失われてしまうおそれがあります。

【バロック Baroque 】
 フランス南西部テュルサン原産の品種で、かつてはかなり多く栽培されていました。この葡萄から造られるワインは高いアルコールと熟した洋梨に似た香りという変わった組み合わせを持っています。フランスにおける葡萄分類学の権威、ピエール・ガレ氏によれば、この品種はサンチャゴ・デ・コンポステラに向かう巡礼者によってスペインから持ち込まれた物とされています。

【ピクプール Picpoul】
 ラングドック古来の品種で、ブラン、ノワール、グリのそれぞれのタイプが知られています。南フランスでは長い間畑で混植されてきました。ピクプールは「舌を刺す」という意味で、果汁の持つ高い酸で知られ、17世紀の初めには実用的な葡萄としてクレーレットとブレンドされていました。あまり収穫量が多くないため、人気は衰えたものの、砂地に対する耐性があるため、海岸沿いの葡萄畑で復活しつつあります。アルコール分、香り共に高く、シャトーヌフ・デュ・パプの原料として認められていますが、ノワールは200ha、ブランは500ha程度しか残っていません。ピクプール・ブランはラングドックで実用的な酸の効いたブレンド用ワインを作りますが、最も一般的な物は、レモンの香りのするフルボディのピクプール・ドゥ・ピネとされています。

【ネグレット Negrette】
 トゥールーズ北部の独特な黒葡萄品種。コート・デュ・フロンテネでボルドー品種とブレンドされます。ネグレットから造られるワインは、タナから造られる物よりも柔軟で、香りが高く果実味にあふれています。ウドンコ病と腐敗菌に冒されやすいため、湿った地域よりもトゥールーズ北部の気候により適しています。ピノ・セント・ジョージ種としてカリフォルニアで1960〜70年代に売られていました。比較的若いうちに飲んだ方が良いとされています。

【タナ Tannat】  
 マディランの原料として有名な頑丈な品種で、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、フェルなどとブレンドされ、20ヶ月近い熟成によって風味は和らげられています。非常に深い色と濃いタンニンのため、造られるワインは非常にスパイシーなものとなります。このタナというフランス語名称に由来するタンニンの強さは、ある意味当然ではありますが、葡萄樹の原産地はバスク地方とされています。フランスにおける栽培は減少しつつありますが、マンサンと同様に19世紀にバスクからの移民によってウルグアイに持ち込まれ、今ではアルゼンチンへと広まっています。

9.南仏ワインの歴史

B.C.600年 ギリシャ人によるマッサリア(マルセイユ)建設
B.C.50年 カエサル、マッサリアを包囲、降伏させる
92年   ドミティアヌス帝による南仏ブドウの伐採
280年  プロブス帝によりラングドック・ルーションのブドウ栽培復活
1208年 教皇インノケンティウス3世、アルビジョワ十字軍を提唱
1208年〜1213年 アルビジョワ十字軍によるラングドックの破壊
1303年 アナーニの屈辱 教皇ボニファティウス8世の死
13〜14世紀 ボルドー特権「ポリス・デ・ヴァン(ワイン証書)」成立
1307年 テンプル騎士団の逮捕
1309年〜1378年 教皇のアヴィニヨン捕囚
1314年 テンプル騎士団の処刑、教皇クレメンス5世と仏王フィリップ4世の急死
1417年 教皇のローマ復帰
1482年 ルイ11世、プロヴァンス伯領をフランスに併合
1618〜1648年 三十年戦争
1635〜1659年 西仏戦争
1659年 ピレネー条約により、ルーション地方はカタロニア領からフランス領へ。
1680年 地中海と大西洋を結ぶミディ運河開通
1776年 ラングドックワインのミディ運河航行を巡る紛争、財務総督テュルゴー、ボルドーの特権廃止
1850年代 鉄道の開通
1867年 ラングドックの栽培家が、パリで開かれた中央農業協会にて、フィロキセラによる病害を発表
1876年 フィロキセラにより、ラングドック作付面積1/2以下に
1936年 カシー、AOC認定
1985年 コルビエールとミネルヴォアのAC昇格、品質向上
2008年 EU新ワイン法導入、「VDP」は「ペイ・ドック」へ。

● 南仏のプロヴァンスや、ラングドックのコルビエール、南西地方のガイヤックなどは、古代ギリシャや古代ローマ帝国の繁栄のもとで、紀元前からワインを作っていました。マルセイユは、当時マッサリアと呼ばれていたギリシャ植民地で、ケルト人の侵攻に耐えかねてローマ軍に応援を頼んだところ、逆にローマはマッサリア内陸に入植、属領(プロウィンキア)としてしまいます。これが今日のプロヴァンスという名の由来となりました。カエサルとポンペイウスが対立した時、ポンペイウス側についたマッサリアは、カエサルに攻められその植民地を没収され、特権は全てマッサリアの交易地だった都市アルルへと受け渡されるのです。

●ラングドックはかつてオック語(Langue d'Oc)が話されていた地域であったことに由来します。もともと南仏は豊富な資源を背景に、独自の文化・言語を保っていました。それを破壊したのが、1208年に始まるアルビジョワ十字軍です。トゥールーズ、ラングドックに広まっていたカタリ派を異端とみなし、これを討伐するのが目的でしたが、実際に攻撃された都市アルビには、殺された1万の住民のうち、アルビ派はたった500人しかいなかったと言われています。結果としてラングドック、プロヴァンスは征服され、南仏は二度と繁栄を取り戻すことはできませんでした。

● 一方、ルーション地方は隣のラングドックと一括りにされがちですが、実際には異なる歴史的背景を持っています。ピレネー条約により1659年にフランスに併合されたものの、この地の人々は自らをカタロニア人と考えています。三十年戦争中に始まった西仏戦争において、フランスはスペインのカタロニアにおける反乱を支援し、その結果としてルーションはフランス領カタルーニャとされます。条約はカタルーニャの社会制度の維持に関して何点かの条項を含んでいましたが、ルイ14世はこれを無視、1700年にはカタルーニャ語を公的に禁止してしまいます。

● 百年戦争の始まる頃、ボルドーの銘醸地メドックには殆どブドウはなく、イングランドへの輸出を支えていたのは南西地方のガスコーニュでした。ガスコーニュのワインは、ボルドーの地酒よりも良質だったので、ボルドーの商人達は地元の酒に有利な「ワイン証書」を作り上げ、イングランドは税収確保のためにそれを認めていました。その証書には「ラングドックのワインは12月1日までボルドーで売ることはできない」とも記されています。この特権が廃止され、運河や鉄道の開通により南仏のワインは急速に北部へと広まったものの、フィロキセラの害やそれに伴う質の低下により評価は下りました。南西地方やラングドックのワインが、数々の生産者達の努力により名声を復活させはじめたのは、主に第二次大戦以降のことです。

<今回の1冊>
   
レジーヌ・ペルヌー/ジョルジュ・ペルヌー「フランス中世歴史散歩」白水uブックス
 ジャンヌ・ダルクの世界的権威であるレジーヌ・ペルヌー女史による、フランス中世史の入門書。風光明媚なだけではない南フランスを知るには、やはり歴史からのアプローチが必要です。本書では、ラングドックやプロヴァンスの過去の繁栄と、それが中央集権化によって解体され取り込まれていく様子が、ある意味淡々と、しかし分かりやすく書かれています。ペルヌー女史は既に1998年に逝去されていますが、本書を元に企画された「フランス中世を旅する」ツアーはその後も十数回行われたとか。

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