Via Vino No. 42 "Wine & Literature"<ワインと文学>

 

<日時・場所>
2012年3月24日(土)12:00〜15:00 表参道「レ・クリスタリーヌ」 
参加者:13名
<今日のワイン>
白・辛口・発泡性「マルキ・ド・サド・グラン・クリュ・ブラン・ド・ブラン・ブリュット」
白・辛口「シャトー・シャス・スプリーン・ブラン 2009年」
白・辛口「オリヴィエ・ルフレーヴ・ムルソー・シャルム 2009年」
赤・辛口「シャトー・ブラネール・デュクリュ 2006年」
赤・辛口「シャトー・マレスコ・サンテグジュペリ 2008年」
<今日のランチ>
5種のオードヴル盛り合わせ (赤ピーマンのムース、キッシュ、鴨のテリーヌ他)
鯛のロースト・白ワインバターソース
エゾジカのコロッケ
デザート盛り合わせ

   


1.手放せない一冊、こだわりの一本…

黎明期から結びついていたワインと文学。
ワインに魅了された文学者達の残した賛辞。
記憶に刻まれる深みのある言葉と印象深い味わい
 
 そもそも、欧米の最古のベストセラーである文学「聖書」にも、ワインの記述が多く見られるほど、ワインと文学は切っても切れない関係にあります。神話や宗教と深く結びついていたワインは、当然ながら文学の黎明期には既にそこに根付いていました。「葡萄酒色の海」を描いたホメロスの「オデュッセイア」、「酒こそ人生」と言い切るペトロニウスの「サテュリコン」と、枚挙にいとまはありません。  
 文学者や小説家とワインとの逸話も多く残されています。「三銃士」の作者デュマが、「脱帽し、ひざまずいて飲むべし」という賛辞を贈った「モンラッシェ」や、ヘミングウェイがその名にちなんで孫娘に「マーゴ」と名付けた「シャトー・マルゴー」等々……。  
 ワインと文学には確かに共通点があるように思われます。しっかりと向き合わないと、その本質を掴みきれない難解さを持ち合わせていること、そしてそれでいて、その味わいゆえに多くの人と語り合う話題を提供してくれること。一見取っつきにくそうな長編小説が、いつの間にか手放せない一冊となるように、分かりにくくて手に入りにくいだけと思っていたワインが、人に薦めたくなるこだわりの一本となることもあるのではないでしょうか。

2.シャンパーニュ
 
   

「マルキ・ド・サド・グラン・クリュ ・ブラン・ド・ブラン・ブリュット」(タイプ:辛口の白・発泡性   品種:シャルドネ100%  産地:フランス/シャンパーニュ)
 暴行、虐待などの罪により、74年の生涯の約三分の一を獄中や精神病院で過ごすかたわら、その獄中生活において現代まで語り継がれる多くの文学作品を遺した、マルキ・ド・サド侯爵。その直系子孫が生誕250周年を記念してゴネ家と共同で開発、88年からリリースを始めました。特級畑のシャルドネ種100%で造られ、クリーミーな泡立ちと芳醇な香りが特徴となっています。

【サド侯爵の生涯】 
 マルキ・ド・サド(1740 - 1814年)は、フランス革命期の貴族にして小説家で、正式名は、ドナスィヤン・アルフォーンス・フランスワ・ド・サド。その作品は暴力的で、究極の自由と肉体的快楽の追求を原則としていましたが、虐待と放蕩の廉で、パリの刑務所と精神病院に入れられます。バスティーユ牢獄で11年、コンシェルジュリーで1ヶ月、ビセートル病院で3年、要塞で2年、サン・ラザール監獄で1年、そしてシャラントン精神病院で13年を過ごし、その作品のほとんどは獄中で書かれたものとされています。サディズムという言葉は、彼の名に由来しているのです。「ソドムの百二十日間」をはじめ、淫猥にして残酷な描写が描かれた作品が多いため、19世紀には禁書扱いされており、ごく限られた人しか読むことはありませんでした。サドはフランス革命直前までバスティーユ牢獄に収監されていましたが、革命の影響で1790年に釈放されます。しかし再び投獄され、後にナポレオンによって「狂人」とされ、1803年にシャラントン精神病院に入れられてそこで生涯を終えました。キュルノンスキー著「美食の歓び」には、バスティーユ牢獄でのサド侯爵の食事が記載されていますが、「ポタージュ、とろけるような羊の骨付き肋肉二切れ、コーヒー入りクリーム菓子、煮たリンゴ2個…」等々、囚人にしてはそれなりの物を食べていたことが分かります。

  

3.白ワイン

   

「シャトー・シャス・スプリーン・ブラン 2009年」(タイプ:辛口の白ワイン  品種:ソーヴィニヨン・ブラン、セミヨン  産地:フランス/ボルドー)
 クリュ・クラッセ(格付メドック)の水準にある、メドックで最も人気のあるクリュブルジョワであるシャトー・シャス・スプリーン。「シャス・スプリーン」は「憂鬱を追い払う」を意味しますが、その由来は、シャトーに滞在した詩人バイロンが名付けたとも、ボードレールの「悪の華」の「憂鬱と理想」にあるとも言われています。その白は、1999年が初ヴィンテージとなる珍しいもので、比較的酸は控えめですが、グレープフルーツやミネラル、かすかにメロンなどのアロマがあり、豊かな果実味が華やかな雰囲気をかもし出しています。

【ボードレール「悪の華」とシャトー・シャス・スプリーン】  
 シャルル・ピエール・ボードレール(1821-1867年)は、フランス近代詩の父と呼ばれた詩人ですが、出版された詩集は「悪の華」と、死後に発行された「パリの憂鬱」のみ。「悪の華」は、その中の6編が公序良俗に反するとして罰金刑を受けました。後に第二版を増補版として出版し、詩人としての地位を確立、その耽美的で背教的な内容は、後の世代に絶大な影響を与えました。シャトー・シャス・スプリーンの名はこのシャルル・ボードレールの「悪の華」の「憂鬱と理想」に由来すると言われています。当時の城主は、画家オディロン・ルドンと親交があり、「悪の華」の版画を描いたルドンが手渡した一冊からイメージをふくらませ、シャトー名にしたとされています。

「オリヴィエ・ルフレーヴ・ムルソー・シャルム2009年」(タイプ:辛口の白ワイン 品種:シャルドネ100%  産地:フランス/ブルゴーニュ)
 ムルソーには特級畑はなく1級畑のみしかないものの、「ペリエール」「シャルム」の畑などを筆頭に、 「ジュヌヴリエール」など、生産者によれば並の特級畑を凌ぐワインが多く産まれています。バターやブリオッシュ、熟したパイナップル、マンゴーなど南方系フルーツのアロマが刺激的で、アタックから豊富はエキス分をタップリと感じ、ほんのりとした甘味、レンゲハチミツのような味わいが押し寄せてきます。生産者オリヴィエ・ルフレーヴは、かの有名なドメーヌ・ルフレーヴの名声を築き上げた、故ヴァンサン・ルフレーヴの甥で、1984年からワイン造りを始め、数々のエレガントなスタイルの銘品を世に送り出しています。

【アルベール・カミュ「異邦人」とムルソー】  
 アルベール・カミュ(1913-1960年)は、フランスの小説家、劇作家。フランス領アルジェリア出身。第二次大戦中に刊行された小説「異邦人」、エッセイ「シーシュポスの神話」等で注目されました。1957年、史上二番目の若さでノーベル文学賞を受賞するも、1960年交通事故により急死。カミュは「異邦人」の主人公を「ムルソー Meursault」と名付けていますが、作者自身は、「死」にあたるモール(mort)と「太陽」を意味するソレイユ(soleil)を掛け合わせた造語だとコメントしています。1960年1月4日、カミュは大手出版社ガリマール社の甥一家と共に車でムルソー、ボーヌと過ぎ、ブルゴーニュ地方を抜けたポン・シュール・イヨンヌの国道で、プラタナスの木に激突してしまうのです。

  

4.赤ワイン

   
「シャトー・ブラネール・デュクリュ2006年  タイプ:辛口の赤ワイン」(品種:カベルネ・ソーヴィニヨン70%、メルロ22%、カベルネ・フラン5%、プティ・ヴェルド3%  産地:フランス/ボルドー)
 ボルドー、メドックのサン・ジュリアン第4級に格付けされています。サン・ジュリアン村のワインは、繊細なタンニンと果実味のバランスが特徴的ですが、このシャトーの畑は内陸に位置するため、隣接するベイシュヴェルやデュクリュ・ボーカイユと比べても、よりボディの力強いワインに仕上がっています。全体的に輝きある深い紫色で、果実の凝縮感と豊富なタンニン、しっかりした酸がある複雑性の高いワインです。

【ロアルド・ダールとシャトー・ブラネール・デュクリュ】  
 ロアルド・ダール(1916-1990年)は、イギリスの作家・脚本家。「南から来た男」「味」「大人しい兇器」などで、日常的な風景や会話の中に人間の心の奥底に潜む狂気をうかがわせ、高い評価を得ました。007シリーズで有名なイギリス人作家のイアン・フレミングの友人である事から、映画「007は二度死ぬ」と「チキ・チキ・バン・バン」の脚本も手がけており、児童文学では、ティム・バートン監督の映画でも有名な「チャーリーとチョコレート工場」などの作品を残しています。

シャトー・マレスコ・サンテグジュペリ 2008年  タイプ:辛口の赤ワイン」(品種:カベルネ・ソーヴィニヨン50%、メルロ35%、カベルネ・フラン10%、プティ・ヴェルド5%   産地:フランス/ボルドー)
 マルゴー第3級格付けのシャトーで、シャトー・マルゴーのあるマルゴー村に位置しています。シャトー名は、17世紀の所有者であるシモン・マレスコと、19世紀はじめに所有者となったサン・テグジュペリ伯爵の名前に由来します。自然派の「リュット・レゾネ農法」を用いており、除草剤を使わず、野生酵母で発酵、仕上げも無清澄、無濾過。濃厚でしっかりした抽出をし、かつほぼ100%新樽熟成を行っていて、フルボディの味わいに仕上げられています。

【「星の王子さま」の作者とマレスコ・サンテグジュペリ】  
 アントワーヌ=ジャン=バティスト=マリー=ロジェ・ド・サン=テグジュペリ(1900-1944年)は、フランスの作家、操縦士。郵便輸送のためのパイロットとして、欧州-南米間の飛行航路開拓などにも携わりました。1944年7月31日、写真偵察のためロッキードF-5B(P-38の偵察機型)を駆ってボルゴ飛行場から単機で出撃、地中海上空で行方不明となります。「夜間飛行」「人間の土地」「戦う操縦士」等の作品が知られています。名作「星の王子さま」は、1943年4月にニューヨークで出版、フランスでは死後の1945年11月にガリマール社から出版されました。 シャトー・マレスコ・サン・テグジュペリは、17世紀末、ルイ14世の法務長官であり、ボルドー議会の公証人であるシモン・マレスコが買い取り、1825年以降はサン・テグジュペリ伯爵が買い取りました。アントワーヌ・ド・サンテグジュペリはそのひ孫にあたります。

  

<今回の1冊>
   
須藤海芳子「フランスワイン33のエピソード」白水社
 単なる「美味しい飲み物」に終わらないワインの横顔を紹介するとして、作家や画家にゆかりのあるワインを紹介している本です。バルザックやラブレー、藤田嗣治や岡本太郎、「肉体の悪魔」と「悪の華」、ゴッホの描いたプロヴァンスの葡萄園や、ロートレックの愛した「シャトー・マルロメ」等々、文化・芸術がらみのエピソードが満載で、まさにフランスワインの醍醐味ここにあり、といった感があります。フランス文学やフランス絵画の世界でいかにワインが重要な位置を占めているかが実感できます。

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