Via Vino
No. 43 "Wine & Music"<ワインと音楽>
<日時・場所>
2012年5月26日(土)18:30〜21:00 銀座「ル・シャボテ」
参加者:16名
<今日のワイン>
白・やや甘口・発泡性「テタンジェ・ノクターン・セック」
白・辛口「フェウド・アランチョ ダリラ 2009年」
白・辛口「デディエ・ダグノー・ブラン・フュメ・ド・プイィ 2006年」
赤・辛口「エスターハージー・オマージュ・アン・ハイドン」
赤・辛口「ココ・ファーム・ワイナリー“第一楽章” 2009年」
<今日のランチ>
サーモンのサワクリーム風味のジュレ
イベリコ豚とフォアグラのテリーヌ、バルサミコ風味
三重県産小鯛とズワイカニのムース、サフランソース
北海道産黒毛和牛のミスジのシチュー
ヌガー・グラッセ
1.友よ、この調べではなく…
時と共に移ろい、過ぎ去っていく、留め置くことの出来ない「味わう」歓び。
ワインも音楽も、数値化を拒絶しながら、それを要求される運命を担う。
官能的で、それでいて理性的な、両極を必要とする芸術のかたち。
音楽を聴く楽しみと、ワインを味わう歓びには、どこか通じるものがあります。魅力的な旋律が時間と共に移り変わっていくように、香りや味わいも時と共に変化し、消え去っていきます。音が大きければ良いというわけにはいかないように、ワインの味も濃ければよいというものではありません。
「仮にブラームスの3番やショスタコーヴィッチの5番とバッハの作品を比べ、100点法で評価するとしたら、まさしく噴飯ものだろう。ブルックナーの7番が、澄んで澱がなさすぎるから65点だとしたら? (中略)ワインの売買と飲用に評価点を持ち込むアメリカ的現象には、およそ意味がない。味覚という主観的な領域では、普遍的に当てはまる物差しなどありえないのだから。」(ジェラルド・アシャー)
ありとあらゆるワインの多様性が、簡単に一本の物差しで測ることができないように、様々な形で感動を歌い上げる音楽も、一律に数字で評価されるべきものではありません。それでいながら、ワインや音楽ほど、多種多様な評価点やランキングに結びついてしまうものもないでしょう。人を熱狂させ陶酔させる一方で、それをしっかりと識別するには冷静な知性と感覚を要求される、そんなところも共通しているように思われます。
2.シャンパーニュ
「テタンジェ・ノクターン・セック」(タイプ:やや甘口の白・発泡性 品種:シャルドネ40%、ピノ・ノワール+ピノ・ムニエ60% 産地:フランス/シャンパーニュ)
ランスに本拠を構えるシャンパーニュ・テタンジェは、1734年創立のフルノー社をその起源としています。第一次大戦時にピエール・シャルル・テタンジェがフルノー社を買い取り、1930年からテタンジェの名前でシャンパーニュの販売を始めました。「ノクターン」は「Sec(残糖度17〜32g/L)」のシャンパーニュで、最終調合で35以上の「クリュ」をブレンドし、デゴルジュマン(滓抜き)の前に4年間熟成させ、糖分20g/Lのドザージュが加えることにより、まろやかな味わいとワインの熟成感が調和して、文字通り夜楽しむのに最適なシャンパーニュに仕上がっています。シャンパーニュはもともと甘口が基本でしたが、その本来の味わいが楽しめる一品です。
3.白ワイン
「フェウド・アランチョ ダリラ 2009年」(タイプ:辛口の白 品種:グリッロ80%、ヴィオニエ20% 産地:イタリア/シチリア)
シチリア島に伝わる愛を歌った楽譜があしらわれています。国際品種とシチリアの地場品種の素晴らしい出会いを、シチリア版ロミオとジュリエット、カントドーロ(男性)とダリラ(女性)のラブストーリーに重ねています。楽譜はそのラブストーリーをうたったもの。
グリッロをステンレスで、ヴィオニエをオーク樽で醗酵後、マロ・ラクティック醗酵し、再びグリッロをステンレスで12ヶ月、ヴィオニエをオーク樽で8ヶ月(225L、フランス産)熟成させています。華やかなトロピカルフルーツのアロマが非常に印象的で、ヴィオニエに由来する白い花の香りが強く感じられます。上質な酸とミネラルのバランスが魅惑的な素晴らしい白ワインでした。
「デディエ・ダグノー・ブラン・フュメ・ド・プイィ 2006年」(タイプ:辛口の白 品種:ソーヴィニヨン・ブラン100% 産地:フランス/ロワール)
「世界トップ10」の白ワイン生産者に選ばれたディディエ・ダグノー氏は、残念な事に、2008年、不慮の事故でその生涯を終えてしまいました。この2006年がある意味ラストビンテージとなります。ラベルにあしらわれている楽譜は、彼の友人である作曲家の手によるもので、シャンソン歌手のジョルジュ・ブラサンスのために作った『Mauvaise reputation=悪い噂』と名付けられた曲です。この楽譜を素直に演奏しようとすると調が違ったり、綺麗な和音が成立しなかったりと、かなり前衛的なメロディーとなるそうです。発酵は樽で行われ、半分をステンレスタンク、もう半分を樽で熟成させます。味わいはソーヴィニヨン・ブランの厚みを感じさせる力強いもので、優しい果実や華やかな香りのニュアンスに爽快感のあるミネラルの厚みが加わります。一見オーソドックスでありながら、複雑な風味が長く口に残るワインです。
4.赤ワイン
「エスターハージー・オマージュ・アン・ハイドン」(タイプ:辛口の赤ワイン 品種:カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー 産地:オーストリア)
ハンガリー人でありながら、ハプスブルクの忠臣として勢力を伸ばしたエスターハージー伯爵家。その名家に仕えた有名な宮廷楽団長ヨーゼフ・ハイドンの没後200周年記念ワイン。ハイドンは給料の一部をワインで受け取っていました。ハイドンの優れたクラシック音楽の完璧さとハーモニーとが表現されたワインとなっています。輝きのあるガーネット色と、力強いブラックベリーとプラムの香りがあり、豊かなフルーツの果実味と熟成したタンニンの味わいが長く続きます。
「ココ・ファーム・ワイナリー“第一楽章” 2009年」(タイプ:辛口の赤ワイン 品種:マスカットベリーA 産地:日本/栃木)
知的障害者施設「こころみ学園」園長川田昇氏は私財をなげうって栃木県足利市の山の斜面に葡萄畑を開墾。1980年には収穫したブドウを活用するためにワイナリーを設立。現在では日本トップクラスの実力を有するワイナリーに成長しました。ワイナリーの前の急斜面の畑の最上部と、第二農場とも言うべき佐野市赤見農場で栽培しているマスカットベリーA種を野生酵母で発酵させたワイン。フランス産オークの古樽で7 ヶ月熟成した後、ステンレスタンクにて3 ヶ月熟成。澱引き後、清澄・濾過処理なしで瓶詰しています。2009年ヴィンテージは、8月後半から気温が下がるものの晴天続きという、葡萄にとっては理想的な気候でした。 醸造責任者柴田氏も「2009年みたいな年はなかなかありません」とコメントしています。日本で開発された交配品種であるマスカットベリーAは、岩の原葡萄園やタケダワイナリーなどでも近年非常にレベルの高い物が作られていますが、このココ・ファームの作品も忘れがたい1本です。
5.ワインにちなんだ音楽
ワインにちなんだ音楽をいくつか選んでみました。ハイドンの大作から、ベルクの歌曲まで、探すと色々あるものです。
「ハイドン〜オラトリオ・四季」(カラヤン指揮、ベルリン・フィル、ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団)
2度にわたるロンドン生活を経て、オーストリアへと戻ったハイドンが、齢70に近づく老体に鞭打って完成させた最後の大作がオラトリオ「四季」です。この楽曲の第三部「秋」のパートの最後、第28曲に、ワイン万歳を謳った合唱曲が置かれています。大地の恵みであるワインを楽しみながら、声高らかに歌い、陽気に踊り回る人々がストレートに描かれています。
フランツ・ヨーゼフ・ハイドンは、古典派を代表するオーストリアの作曲家。多くの交響曲、弦楽四重奏曲を作曲し、交響曲の父、弦楽四重奏曲の父と呼ばれています。弦楽四重奏曲第77番第2楽章にも用いられた皇帝讃歌「神よ、皇帝フランツを守り給え」の旋律は、現在ドイツの国歌として用いられています。生涯の大半はエスターハージー家に仕えていて、そのために作られた曲も多く、この時他の音楽家との交流や流行の音楽との接触があまりなかったため、より独創的な音楽家になったとされています。
「エグベルト・ジスモンチ〜水とワイン」
ポピュラーとクラシックの垣根を越えたブラジルの作曲家ジスモンチ自身のヴォーカルに、マリオ・タヴァレス指揮のチェロ・アンサンブルが加わる、ジスモンチの曲の中でも五本の指に入る名曲とされています。
エグベルト・ジスモンチは、1947年にリオデジャネイロ州の内陸の街、カルモで生まれました。父親はレバノン、母親はイタリア・シチリアの出身で、音楽一家に育ち、20歳でパリに留学、レナード・バーンスタインも指導した作曲家ナディア・ブーランジェに師事して作曲を学びました。
「ベルク〜ワイン」(アバド指揮、ウィーン・フィル/アンネ・ソフィー・フォン・オッター)
1929年に作曲されたコンサート・アリア「ワイン」は、ベルクが歌手ヘルリンガーからの依頼で、前回ご紹介した、ボードレール「悪の華」の中から3つを選んで曲を付けたものです。
アルバン・マリア・ヨハネス・ベルクは、シェーンベルクに師事し、ヴェーベルンと共に、無調音楽を経て十二音技法による作品を残したオーストリアの作曲家です。十二音技法の中に調性を織り込んだ作風で知られています。歌劇「ヴォツェック」の成功によって順調であるかに見えたベルクの作曲家人生は、1933年のナチス・ドイツ政権発足によって暗転、師シェーンベルクと共に「退廃音楽」のレッテルが貼られ、不遇のまま1935年に50歳で死去しました。
「シャルパンティエ〜歌曲“赤ワインを飲んだあと”」(ウイリアム・クリスティ指揮、レザール・フロリサン)
マルカントワーヌ・シャルパンティエ(1643-1704)は、17世紀に活躍したフランスの作曲家。「赤ワインを飲んだあと」は、1704年に発表された酒の歌(エール・ア・ボワール)です。
マルカントワーヌ・シャルパンティエは、フランス盛期バロック音楽を代表する作曲家です。多作家でありながら洗練された作曲家であり、主に宗教曲が重要な、ジャン=バティスト・リュリの同時代人でもあります。フランス宮廷とほとんど関連を持たず、現代になって重要性が再認識されたため、生涯や経歴に不明な点が多いとされています。
<今回の1枚>
「神の雫〜ワインと音楽のマリアージュ」(キングレコード)
コミック「神の雫」による企画。実際にそのワインと音楽が合うかどうか、試してみるのも一興かと思います。コミックに登場するワインに合う音楽が20曲セレクトされています。クラシックが基調ですが、中にはシャンソンや読経など、異色な音楽も収められています。