Via Vino
No. 61 "Turkish Wine"
<トルコワイン>
<日時・場所>
2015年4月25日(土)12:00〜15:00 新宿「ボスボラスハサン・新宿二丁目店」
参加者:12名
<今日のワイン>
白・辛口・発泡性「アルトゥン・キョプク・ブリュット」
白・辛口「アンゴラ・サルタナ 2013年」
白・辛口「アンシラ・ナリンジェ2007年」
赤・辛口「アンシラ・カレジックカラス2009年」
赤・辛口「カヴァクリデレ・オクズキョズ・エラジー 2002年」
<今日のディナー>
スープ
サラダ
前菜の盛り合わせ(チキン、エジプト豆、茄子、ジャガイモ、辛味野菜)
牛挽肉のピザ
チョバン カヴルマ
ケバブの盛り合わせ
チャイ
デザート〜ライスプディング
1.「トルコワイン」について
紀元前四千年前から葡萄が栽培されワインが飲まれていたトルコ。
世界第4位の葡萄栽培面積を誇るが、ワイン用はその3%。
あまりなじみのない地場品種で造られる、古くて新しいワイン産地。
トルコワインの歴史は古く、その始まりは紀元前4000年ほどまでさかのぼります。ブドウの名産地が続くシルクロードの西端に近い現在のトルコのアジア側、アナトリア地方は、ヒッタイト帝国の時代からワインの名産地として知られていました。
古代に栄えたトルコワインですが、オスマン帝国時代にはイスラム教徒が酒を造ることは禁じられ、1923年にトルコ共和国が設立するまで、トルコでは大々的にワインが造られることはありませんでした。世界屈指のブドウ栽培面積を誇るトルコですが、その殆どは生食用もしくは干しブドウ用で、ワインの生産はその3%程度、しかもその殆どは輸出用で、1/4は蒸留酒に回されます。酒税が非常に高いため、それほど広まってはいないようです。
ナリンジェやエミール、カレジックカラスやオクズギョズなど、トルコのワイン用品種はあまり我々には馴染みのないものが多く、なかなか味もイメージできませんが、逆に古くて新しい、それがイタリアワイン同様トルコワインの本質なのかも知れません。
2.トルコワインについて
【産地】
温暖な海洋性気候のトラキアとマルマラは、最もヨーロッパ的な主要生産地です。ブルガリアの黒海北岸地帯やギリシャの北東部地域と同じく、ワインに適した気候と土壌に恵まれており、全体の2/5を生産しています。エーゲ海岸のイズミル周辺では、1/5を生産しており、古典的なスタイルのミスケトやスルターニェから造られる白ワインが有名です。そのほか中央アナトリアの高地でもワインが生産されています。この高地の冬はとても寒く、夏はとても乾燥しています。
【品種】
白ワイン品種
ナリンジェ(Narince) 、エミール(Emir)、 ボルノファミスケティ(Bornovamisketi)、 スルターニェ(Sultaniye)など
赤ワイン品種
オクズギョズ(Okuzgozu)、 ボアズケレ(Boazkere) 、カレジックカラス(Kalecikkarasi) 、チャルカラス(Calkarasi)など
【生産者】
トルコ共和国の創始者ケマル・アタテュルクは、1920年代に国営醸造所を設立し、ワイン産業の育成を図りました。国営公社はいくつものワイナリーを経営しており、その大半は輸出用です。トラキアやブズバーの名が、軽めで色の濃い赤ワインの産地として知られています。
私企業の中では、ドルジャ社(Doluca)とカヴァクリデレ社(Kavaklidere)が主導的です。
ドルジャ社はトルコ共和国設立の時期にまで歴史をさかのぼることのできる伝統的なワイナリーです。地場品種からワイン造りを始めましたが、セミヨン、サンソー、リースリングといったヨーロッパ品種をトルコに導入、技術革新も進め、地場品種と国際品種をブレンドしたカルマシリーズなどを展開しています。
一方、カヴァクリデレ社も、1929年にアンカラに設立された歴史の古いワイナリーです。アナトリア地方に550haの畑を持ち、何世紀にもわたって受け継がれたアナトリアのブドウ品種を普及させることを信条としています。1950万Lを生産し、うち約20%をヨーロッパ、アメリカ、アジアへ輸出しています。設立から今日まで国内外のコンテストで500を超える賞を獲得、ワイン教育や出版の分野でも様々なプロジェクトを展開しています。今回はこのカヴァクリデレ社でトルコの地場品種から造られたワインをご用意しています。
3.ワインテイスティング
「アルトゥン・キョプク・ブリュット」(タイプ:辛口の発泡性白ワイン、品種:エミール 、産地:トルコ/カッパドキア)
カッパドキア地方の火山性の土壌で育ったエミール種を使用した、シャルマ方式で造られたスパークリングワインです。エレガントな味わいは、お祝いの席だけでなく、食前酒はもちろん、魚介料理や寿司、リゾットやパスタとも合います。ペールイエローの外観で、ほのかに甘い爽やかな果実の香りと、芳しいフローラルな香りがあり、口中では綺麗な酸が感じられ、フレッシュな味わいが広がります。香りの甘さと辛口の味わいが印象的です。
「アンゴラ・サルタナ 2013年」(タイプ:辛口の白ワイン、品種:スルターニェ、産地:トルコ/デニズリ)
デニズリ地方のスルターニェを使用したフレッシュなワインです。スルターニェ独自のアロマが際立ち、新鮮な果実味とのバランスが良いトルコワインです。ミュスカデやソーヴィニヨン・ブランを思わせるフレッシュな酸味が印象的。魚のグリル、グリルチキン、フレッシュチーズとも抜群の相性を見せてくれます。
「アンシラ・ナリンジェ2007年」(タイプ:辛口の白ワイン、品種:ナリンジェ、産地:トルコ/アナトリア)
ワインの歴史において重要な起源とされる地の一つ、中央アナトリアに位置する首都アンカラの古代名であるアンシラの名を持つワインです。中央アナトリアのナリンジェ種を使用。生き生きとしてフルーツ系の香りが高く、酸味と果実のバランスの良いまろやかなワインです。上記のサルタナと比べると、より色が濃くアルコール度も高くて、ピノ・グリを思わせるボディがあります。
「アンシラ・カレジックカラス2009年」(タイプ:辛口の赤ワイン、品種:カレジックカラス、産地:トルコ/中央アナトリア)
中央アナトリアの葡萄品種カレジックカラスから作られるこのワインは、鮮紅色で生き生きとしてかつエレガントで豊かな香り。果実味と軽いタンニンのバランスがとれており、肉料理全般、フレッシュチーズに合うとされています。実際に飲んでみると、レーズンを思わせる甘い風味が極めて印象的で、アルコールも14%と高く、イタリアのアマローネを思わせる華やかさがあります。
「カヴァクリデレ・オクズキョズ・エラジー 2002」(タイプ:辛口の赤ワイン、品種:オクズギョズ、産地:トルコ/エラジー)
エラジー地方の厳選された葡萄畑から9月の中旬に収穫されるオクズギョズを使用したモノセパージュです。フレンチオーク樽で1年間寝かせた後2〜4年間瓶で熟成されます。芳醇で深いコクを感じる味わいです。肉料理全般、そして熟成したハードチーズに合うとされています。色が濃く、樽香由来のヴァニラやムスクの風味があり、13年近い熟成を経ていますが、熟成したメルロー主体のボルドーワインを思わせる柔らかさのあるワインでした。
「テキルダー・ゴールド・ラク」(タイプ:アニス系リキュール)
最後に、やはりトルコでワイン以上に飲まれているラクを試さなければ…ということで、最高品質の生葡萄とアニスを使用した、ラクの高級品。アルコール度数は45度あり、甘くて口当たりが良いので注意が必要です。ウゾやベルノ・リカール同様、水を入れると白く濁ります。2個のグラスでラクと水割りとチェイサー水をもう一度水を含み口の中で割って飲むのがトルコ式 、とのこと。
4.コーランとワイン
イスラム教では飲酒が禁じられていますが、そもそもイスラム教の聖典であるコーランには、どう記されているのでしょうか。次の4節によって飲酒が禁じられているとされています。
(2:219)酒と賭矢について、人は汝に尋ねるだろう。答えてやれ、「それらは人々にとって大きな罪悪であるが、利益にもなる。だが、罪悪の方が利益よりも大きい」。また、彼らが費やすものについて尋ねるだろう。「余計の分を」と答えよ。このように神は、おまえたちにみしるしを明らにしたもう。おまえたちが反省するよう望んでおられるからである。
(4:43)信ずる人々よ、おまえたちが酔っているときは、自分の言っていることがわかるようになるまで、礼拝に近づいてはならない。身がけがれているときは、旅路を行く者を除いて、身を洗い浄めるまではいけない。もしおまえたちが病気であるとか旅に出ているとき、あるいはだれでも厠から出てきたとき、また女とまじわったときには、水を見つけることができなかったなら、清い砂を使って顔と手をこすれ。まことに神は寛容にして、よく赦したもうお方である。
(5.90)信ずる人々よ、酒、賭矢、偶像、矢占いは、どれもいとうべきものであり、サタンのわざである。それゆえ、これを避けよ。そうすれば、おまえたちはおそらく栄えるであろう。
(5.91)サタンは、酒や賭矢などで、おまえたちのあいだに敵意と憎しみを投じ、おまえたちが神を念じ礼拝を守るのをさまたげようとしているのである。それゆえ、おまえたちはやめられるか。
一方で、コーランには酒への賛美も記されています。これでもかこれでもかと死後の世界である楽園における酒の美味しさが強調されているのです。イスラム教の敬虔な信者のみが、死後入ることを約束されている永遠の楽園には、甘い美酒の流れる川があるとされています。
(37:45-49) 泉から汲んだ美酒の杯が彼らのあいだをめぐる。それは、飲む者に甘く、真白である。 それには頭痛もなく、酩酊するようなこともない。彼らのそばには、大きな瞳を伏し目がちにした乙女たちが控えている。彼女たちは、砂に隠されている玉子のようにうるわしい。
コーランは、酒は「サタンのわざ」と断じる一方で、甘い酒のあふれる楽園を描いて見せるのです。そうなると、我々人間は、酒の美味しさを教えられた上で、現世で酒を飲んだら来世で業火に炙られると脅かされていることになります。あくまでお楽しみはあの世で、この世ではお預けを食っているということになるのでしょうか。
5.トルコワインの歴史
B.C.18世紀 インド・ヨーロッパ語族のヒッタイト王国が建国
B.C.12世紀 ヒッタイト、海の民によって滅ぼされる
B.C.6世紀 アケメネス朝ペルシアの支配を受ける
B.C.4世紀 セレウコス朝シリアの支配を受ける
330年 ビザンティウムがローマ帝国の首都コンスタンティノポリス(現在のイスタンブール)となる
1038年 セルジューク朝の樹立
1299年 オスマン帝国の樹立
1453年 コンスタンティノープルの陥落、東ローマ帝国滅亡
1571年 レパントの海戦でスペイン艦隊に敗れる
1683年 オスマン帝国の領土が最大となる
1922年 軍人ムスタファ・ケマル(アタテュルク)のトルコ革命、オスマン帝国滅亡
1923年 トルコ共和国の樹立。指導者アタテュルクによるワイン国営醸造所の設立が始まる
トルコワインの歴史は古く、その始まりは紀元前3,500〜4,000年ほどにさかのぼるとされています。シルクロードの西端に近い現在のトルコのアジア側に位置するアナトリア地方は、ブドウの名産地として知られていました。紀元前2,000年ごろからアナトリア中央部に栄えたヒッタイト帝国でも、ワインは現在のイタリア語と同様に「vino」と呼ばれていました。
古代栄えたトルコワインですが、オスマン帝国時代にはイスラム教徒がお酒を作ることは禁止され、1923年にトルコ共和国が設立するまで、トルコでは大々的にワインが作られることはありませんでした。しかし、干しブドウなどに利用し続けたため、ブドウ畑そのものが息絶えてしまうことはありませんでした。 その後、政教分離を強力に推し進めたトルコ共和国の指導者ケマル・アタテュルクが1920年代からワインの国営醸造所の設立を進めました。アタテュルクがトルコワインから作られる蒸留酒「ラク」の愛飲家であったことは有名です。
同じイスラム圏でも、豚とは違い酒について様々な見解があります。その対象も、飲酒からみりん等に使われる調味料、医療用のアルコールまで様々です。公式に飲酒が禁止となっているのが、アフガニスタン、イラン、イラク、イエメン、クウェートなど。イスラム教徒の飲酒は禁止されているが、国内でも酒類が製造されているのが、パキスタン。一方でイスラム原理主義の勢力の及ばないトルコやインド、中央アジアなどでは公然と飲酒文化が存続しています。
初代大統領に就いたケマル・アタテュルクが、政教分離を行ったことが、結果的にトルコでの飲酒やワイン製造を可能にしたとされています。アタテュルクは、宗教と政治を分離しなければトルコの発展はないと考え、憲法からイスラム教を国教とする条文を削除し、アラビア語の筆記方法に代えてアルファベットを採用。一夫多妻性を廃止し、1934年には女性参政権を認めました。政教分離が徹底されており、大学など公の場ではスカーフを着用することも禁じられています。飲酒は通常イスラム教で禁止されていますが、トルコにおいてはアルコールを法律上18歳から飲むことができます。
<今回の1冊>
薗田嘉氏uカッパドキア・ワイン」(彩流社)
トルコのワインに関する資料がなかなかないなあと思って、本棚の奥から引っ張り出してみたのが、随分前に購入してから放置していたこの本であります。「カッパドキア・ワイン」とあるからには当然トルコが舞台、第18回ファンタジーノベル大賞最終候補作なのだそうで、副題に「銘醸地ブルゴーニュワイン誕生秘話」とあるからには、これはもうかなり考証に考証を重ねた歴史ミステリーなのかしらと思いきや、内容はロマネ、モンラッシェ、ムルソー、ティオ・ペペといった名を持つ騎士達が、トルコから葡萄の株を持ち帰るために十字軍に参加するという、何というかフィクションには違いないものの出だしからあまりにもぶっ飛んでいるので、いやいやどこまでマジなんだろうかと思ってしまった作品なのでありました。こういうのもありなのですね。