Via Vino
No. 72 "Suchi & Wine II"
<すしとワイン2>
<日時・場所>
2017年4月15日(土)17:00〜20:00 淺草「寿司初総本店」
参加者:16名
<今日のワイン>
白・辛口・発泡性「ランソン・ブラックラベル」
白・辛口「サントネージュ・佐竹畑収穫シャルドネ 2015年」
白・辛口「クラギー・レンジ・ソーヴィニヨン・ブラン 2016年」
白・辛口「シモネ・フェブル・シャブリ・モンマン 2015年」
赤・辛口「ルイ・ラトゥール・ヴォルネイ・サントノ 2006年」
赤・辛口「ニコラ・ペラン・コート・ロティ 2013年」
酒精強化・辛口「ウイリアム・ハンバート・ドン・ソイロ・フィノ」
<今日のディナー>
【先付け】蛤焼き/蟹とほうれん草和え
【お造り】鰹のたたき春野菜色採り和え
【揚げ物】春の芝海老しんじょう揚げ
【焼き物】和牛の網焼き
【江戸前鮓】本鮪生中トロ炙り、とろサーモン炙り、白身魚の昆布〆、鈴々、〆鯖、活穴子、玉子
【椀物】生湯葉と雲丹の茶碗蒸し
【デザート】苺アイスクリーム
1.すしとワインについて
「素材ありきで、匠の技も」
魚介類とワインとの相性〜進化するマリアージュ。
素材の良さを活かしつつ最低限の職人技を加える点が共通している。
地産地消が原則でありながら、世界に広まる美酒と美食の世界。
ソムリエ協会教本に載っているような食とワインの相性を江戸前寿司で実践しようとすると、なかなか大変なことになります。フレンチでは、1つの皿に1つの食材と1つのソースが基本。その食材とソースに合う一杯を、香りや酸との相性から選ぶことになります。しかし、握り寿司は一口サイズの握りに1つの食材なので、生の白身魚、濃い味の煮魚とネタが代わる度に別のワインを用意することになりかねません。その意味では、1つの皿に様々な魚介が並ぶ握り寿司は、非常に贅沢な料理であると言えます。全ての握りには米が使われるのですから、米を原料とする日本酒が合うに決まっています。
しかし「ミシュラン」などで江戸前握りの店が紹介され、世界的にもその知名度が上がると共に、銀座や六本木でもワインを扱う店が増えてきており、実際に味わってみると、以前に比べてあまり違和感を感じなくなってきました。私見ですが、意識の高い職人が新鮮な素材を扱って握るなら、ワインと寿司は意外に合わせやすいのではないでしょうか。上質な握り寿司は厳選された良質なネタと熟戦した職人の腕を必要としますが、それはワインが優れた産地と造り手を要求するのと同じことです。
ワインは元々、その土地に根ざしたブドウで造り、その土地で味わうものでした。ある意味ローカルな地酒であったものが、流通技術の発達によって世界中で親しまれるようになったわけです。そして今、日本の江戸前寿司も、鮮度の良い魚介を味わう美食として、日本の枠を越えて世界に広まりつつあります。素晴らしい自然の味わいを活かしつつ、そこに丹念な人の技が若干加わることで見事な一品に仕上がる、というところに共通点があるように思うのです。
2.ワインからのアプローチ
寿司に合うワインについて、どんなものが合うか。香りや酸味などの相性について色々こだわることもできますし、その一方であまり難しく考えなくても良いという意見もあります。以前は江戸前ずしと濃厚な赤ワインの組み合わせなどあり得ないと思われていたような気もしますが、最近ではワインの質も寿司の味も向上して、寿司とワインの組み合わせについてもかなり自由度が増している印象があります。
日本人で初めて「マスター・オブ・ワイン」の資格を取得した大橋健一氏は、その資格取得のために提出した論文で「すしとワイン」をテーマに取り上げています。イギリス、ロンドンでは寿司屋に行くと100種類近いワインの品揃えがあり、それに比べると国際化を進めているはずの日本の飲食店のワインリストは、むしろ海外の旅行者からは「品種も産地も偏っている」と言われているそうです。
ワインと食の相性は「地産地消」が基本とされ、その意味ではまずは和食と日本ワイン、という考え方もあるのですが、世界の都市の食文化はむしろ多様性を求める傾向にあります。ソムリエの石田博氏も、「世界を均等に見る姿勢が必要だ」と語っています。
【スパークリングワイン】
シャンパーニュをはじめとする辛口スパークリングワインは、炭酸ガスの効果で口の中をさっぱりさせてくれるため、あらゆる料理と相性が良く、その意味では寿司全般に良く合うと言えます。乾杯から最後の一品までシャンパーニュで通すこともできますし、寿司でも光り物など酢で締めたタイプの物ともしっかり合わせることができます。
【白ワイン】
白ワインは一般的に、脂が少なくさっぱりとした白身魚と相性が良いとされています。生牡蠣とシャブリの組み合わせは、特に牡蠣にレモンなどを垂らすことで爽やかな酸味が繋がり、より相性を高めることができます。ニュートラルな風味とやや塩味に近いミネラル感がシャルドネの特徴ですが、一方で青いハーブ香を含むソーヴィニヨン・ブランなどは、山葵や大葉を使った寿司と非常に良い相性を見せてくれます。
【赤ワイン】
赤ワインは、一般的に濃厚な味わいのマグロなどの赤身の魚や脂ののりのよいトロサーモンなどと相性がよいとされます。赤ワインのタンニンは、脂を流し次の一口をより美味しくさせてくれるという点で、脂を含む肉や魚と相性が良いようです。デリケートな風味の肉や魚には、酸味があり味わいが柔らかなピノ・ノワールを、ややスパイシーな料理には、同様にスパイスの風味を持つシラーやカベルネ・ソーヴィニヨンを合わせます。
【シェリー】
ぜひ試して頂きたいのが、スペインの酒精強化ワイン、シェリーとの組み合わせです。食前酒のイメージが強いシェリーですが、スペインではタパスなど魚介類を中心としたおつまみ料理と辛口のフィノがバルで気軽に楽しまれています。他のワインと比べて、酸味が低くかつアルコール度も高くなっています。熟成した日本酒に近い風味を持っており、まさに魚介類と万能の相性を持つワインと言えます。
3.ワインテイスティング
「ランソン・ブラックラベル」
(タイプ:白・辛口・発泡性、品種:ピノ・ノワール50%、シャルドネ35%、ピノ・ムニエ15%、産地:フランス/シャンパーニュ)
ランソン社は、1760年にシャンパーニュ地方のランスで、判事フランソワ・ドゥラモットによって創業された最も古いシャンパンメーカーのひとつであり、マロラクティック発酵を行わない数少ないシャンパンメーカーのひとつでもあります。トーストのニュアンスに加え、さまざまな花の蜜の香りがあります。余韻が長く、あらゆる機会に楽しませてくれます。
「サントネージュ・エクセラント・佐竹畑収穫シャルドネ 2015年」
(タイプ:白・辛口、品種:シャルドネ100%、産地:日本/山形)
サントネージュ・エクセラントは、厳選された国産ぶどうを100%使用し、サントネージュワインで製造した、日本のおいしさを伝える上質なワインです。山形県「かみのやま」佐竹畑収穫ぶどうを使用しています。青りんご、洋なしなどの香りと樽香が調和し、豊かなミネラル感と爽やかな酸味をもつ、いきいきとした味わいです。
「クラギー・レンジ・ソーヴィニヨン・ブラン 2016年」
(タイプ:白・辛口、品種:ソーヴィニヨン・ブラン100%、産地:ニュージーランド/マーティンボロー)
クラギー・レンジは、1998年に設立されたワイナリーです。品質にこだわり、それぞれの単一畑で気候・土壌に最も適したぶどう品種を栽培しています。ほんのり緑がかった淡い麦わら色で、ライムのフレッシュなアロマがあります。コクと厚みがある味わいで、グリルしたパイナップルなどの力強い果実味を爽やかな酸味が引き締めます。余韻が長くミネラル感に溢れたエレガントなワインです。
「シモネ・フェブル・シャブリ・モンマン 2015年」
(タイプ:白・辛口・発泡性、品種:シャルドネ100%、産地:フランス/シャブリ)
シモネ・フェブルは、1840年シャブリに創業。シャブリで最も歴史あるワイナリーのひとつです。白い花、柑橘系のアロマに支えられたミネラル感。いきいきとした繊細な酸が、凝縮したピーチやプラムのフレーヴァーと調和しています。快活でありながら、凝縮感もあわせもつワインです。
「ルイ・ラトゥール・ヴォルネイ・サントノ 2006年」
(タイプ:赤・辛口、品種:ピノ・ノワール100%、産地:フランス/ブルゴーニュ)
ルイ・ラトゥール社は200年以上も続く、ブルゴーニュを代表する造り手。ブルゴーニュ2大白ワインのひとつといわれる「コルトン・シャルルマーニュ」の生みの親としても広く知られています。今やコート・ドールで最大規模のグラン・クリュを所有しており、「コルトンの帝王」と称されています。ヴォルネイは、コート・ドールの赤ワインの中でも、最も繊細で、ボーヌやポマールなど近隣の地区で造られるワインよりもかなり早めに熟成します。スミレに似た強い香りをもち、優雅さと力強さを兼ね備えています。
「ニコラ・ペラン・コート・ロティ 2013年」
(タイプ:赤・辛口、品種:シラー98%、ヴィオニエ2%、産地:フランス/ローヌ)
北部のニコラ・ジャブレ氏と南部のペラン・ファミリーの友好関係からこの「夢のジョイント・ベンチャー」が誕生しました。ニコラ・ペランのトレードマークに書かれた「AXIS MUNDI(アクシス・ムンディ)」とは「世界の基軸」を意味し、ローヌ川に隔てられた右岸と左岸、そして北部地区と南部地区の4方面を表しています。名前が示すように(コート・ロティの意味は「ローストしたスロープ」)、段地は南に向いています。ぶどうが一日中日光の照射を浴びることもよくあります。豊潤でタンニンはなめらか、余韻はエレガントに長く続きます。
「ウイリアム・ハンバート・ドン・ソイロ・フィノ」
(タイプ:辛口/フィノ、品種:パロミノ100%、産地:スペイン/ヘレス、アルコール度15%)
1877年、イギリス人のアレクサンダー・ウィリアムズが義父のアーサー・ハンバートと共に興した、スペイン最大のボデガを持つウィリアムズ&ハンバート社。同社が世界的名声を築き上げてきたルイス・パエス社の「ドン・ソイロ」ブランドを引き継ぎ、より優れた品質と長い熟成を重ねたシェリーとしてリリースしたのが「ウィリアムズ&ハンバート・コレクション」です。厳選したパロミノ種のファーストプレスの果汁のみを使い、ホワイトオーク樽でのソレラ・システムによる熟成を経て生まれる辛口のフィノで、かすかに緑色を帯び、輝く透明感のある黄色の色調があります。その香りはストレートで華やかで、すっきりとした酸味を持ちながらも丸みがあり、口中には熟成による繊細な複雑さが広がります。
4.寿司からのアプローチ
これから寿司を楽しもうという時に、あえてお酒としてワインを選ぶとしたら、どんなところがポイントとなるでしょうか。。
【「生臭さ」の原因物質】
ワインと魚介は合わせにくい、特に干物のようなものはワインを飲むと生臭さを強く感じると言われます。最近の研究結果からは、ワインに含まれる鉄イオンが、干物に含まれる(E,Z)-2,4-ヘプタジエナール(DHAが酸化したもの)と反応して生臭さを発生させるとの報告がなされています。また一説には、ワインに含まれる二酸化イオウが、魚介のDHAと反応してアルデヒドが発生し不快臭を感じさせるとも言われています。
言い換えれば、鮮度の高い魚介類と、余計な物を含まないワインとの相性は、さほど悪くないということになります。鉄分をあまり含まない白ワインや、二酸化イオウが含まれない自然派ワイン、そして日本酒が、江戸前寿司と合わせやすいのはそのためだと考えられています。
【押さえておきたいマリアージュ】
寿司とワインとの組み合わせは、香りと酸味がポイントとなります。より香りや酸味の要素を工夫することで、両者の相性はより強いものとなります。良く言われているように、木樽熟成を経た濃厚なワインはその風味があまり新鮮な魚介類と合わないとされているので、樽熟シャルドネやボルドーワインよりは、樽熟させないリースリングや酸のあるピノ・ノワールの方が合わせやすいという印象があります。また、酸味の相性を考慮するなら、レモンやすだちなど柑橘系の果汁を加えたり、ワインを足した醤油を使ったりという工夫も考えられます。
【旬の寿司について】
素材にこだわるなら、旬の寿司ネタにも気を遣いたいところです。カツオは、江戸の頃から軽やかな香りが魅力の初鰹が文字通り初物として珍重されました。秋の戻り鰹の方が脂もあり香りも強いとされていますが、初鰹は脂身が少なく、さっぱりとした食感で、むくみを予防するカリウムや、カルシウムや葉酸などが戻り鰹よりも多く含まれています。ミネラル感のあるシャルドネとも、繊細な香りのピノ・ノワールとも合わせることができます。
<今回の1冊>
戸川基成「鮨からく流ワイン好きに喜ばれる和のつまみ」(世界文化社)
銀座の「鮨からく」は、以前からワインをグラスやボトルで提供し、それと会う鮨を握ってくれることで有名なお店の1つです。その店の大将が紹介するおつまみは、お店で出される料理そのままで、そのレシピまで公開してしまうあたり、かなり鮨とワインとの組み合わせの普及に本腰を入れていることが感じられます。銀座のフレンチ「ロオジェ」のシェフソムリエ中本聡文氏の監修により、自宅でもワインと和食とのマリアージュが試せるような内容となっています。鮨という閉ざされた和の世界が、グローバルなワインの世界と共鳴していく今の時代の流れを感じさせてくれる一冊となっています。