混声合唱のための組曲「旅」

          山之井愼・田中清光 作詞  佐藤眞 作曲

 

 旅立つ日/村の小径で/旅のよろこび/

なぎさ歩めば/旅のあとに/行こうふたたび

 

7曲からなるこの組曲は、混声合唱のための組曲「蔵王」と同様に、

ニッポン放送(あの乗っ取り騒ぎで注目されたところ)の依頼により、

文部省(当時)主催の芸術祭合唱部門の参加作品として作られた曲である。

「旅」(1962年)は「蔵王」(1961)より一年後に作曲されたが、

企画の段階から、「蔵王」と同じような

構成と音楽スタイルで作ることが意図されている。

 

私にとって、二つの組曲はいずれも、

合唱を始めたばかりの学生時代の思い出につながる。

ただそれは、晴れやかな演奏会のステ−ジでの記憶ではない。

合唱団のメンバ−によるグル−プ合唱で歌ったこと、

サ−クルBOXのピアノの周りに集まり、思い思いにハモったこと、

大学祭の音楽自主イベントに、ゼミ仲間と一緒に参加したこと、
などなど・・。

「若者はある日・・」「ある時、若者は・・」との語りは、
その過ぎ去りし懐かしいシ−ンへと誘ってくれる。

 

 飛んでる飛んでる 飛んでる雲が

みどりや山脈(やまなみ) わたって飛ぶぞ

お−い! 

 

と「旅のよろこび」を歌いだすと、

合唱団の夏合宿のグル−プ合唱で、

軽快に指揮を振りながら歌っていた仲間の顔が浮かんでくる。

 

「なぎさ歩めば」は、ハモリ曲の定番。

ピアノの譜面台に置かれた一冊の楽譜を、

みんなで折り重なるように見ながら歌い、

感傷的なメロディ−とハ−モニ−に酔いしれたことを思い出す。

 

 めくるめく ひかりの波に

 声あわせ しぶきあげて

二匹の魚の ほとばしる あの日の宴よ

 

今回の演奏会に向けての練習のある時、

「この部分(二匹の魚)は、かつての彼と彼女、

二人の恋人の姿を重ね合わせながら歌ってみては・・・」

との指揮者からのコメントが、なぜか印象深く心に残った。

 

とんだばやし混声合唱団では、第5回定期演奏会で「蔵王」を取り上げ、

今回10年をふり返ってのステ−ジで、その中から終曲「早春」を再演する。

そしてこの組曲「旅」を、第10回記念定期演奏会の最終ステ−ジで歌う。

合唱団として、そして団員一人一人が、

心ときめく思い出を内に秘めながら、

初心に立ち返り、再び新しい旅、“合唱の旅”に出かける決意を込めて・・・

 

  行こう ふたたび 旅立とう

ああ 未来は明るく輝き

いまこそ 旅をおもう

行こう 美しい旅に

 

行け 旅に

いまこそ

憧れに になわれて

 

 

(注)手元の楽譜は、学生時代に買い求めた昭和48(1963)年第22刷版

(出版社は、現カワイ出版の前進であるカワイ楽譜)ですが、

   その後作曲者自身によって手が加えられ、

現在使用されている楽譜と比較すると、

表情記号や速度記号などがかなり変わっています。

 

また第一曲「旅立つ日」(P5)にはこんな注意書きがあります。

[おことおり]

20刷まで皆様には“たのしくさえずり”と歌っていただきましたが、

草雲雀はこおろぎ科の昆虫であり、

“さえずる”という不自然さをなくすため、

田中清光先生により“ひかりはみなぎり”と替えることになりました。

 

            2005.6.5