Via Vino
No. 101 "Wine & Hundred Years' War "
<ワインと百年戦争>
<日時・場所>
2025年6月1日(日)19:00〜22:00 池袋「サンシャイン・クルーズ・クルーズ」
参加者:13名
<今日のワイン>
辛口・白・発「カナール・デュシェーヌ・シャンパーニュ・シャルル7世・グラン・キュヴェ・ブラン・ド・ブラン」
辛口・白「クロ・サン・フィアクル・オルレアン・ブラン 2022年」
辛口・赤「フィリップ・ル・アルディ・ポマール2016年」
辛口・赤「シャルル・ジョゲ・シノン・シレーヌ 2022年」
辛口・赤「シャトー・タルボ 2021年」
ブランデー「ジャンヌ・ダルク・ナポレオン・ブランデー」
<今日のディナー>
帆立のスモーク・春野菜のメリメロ
タスマニアサーモンの柑橘マリネ・フロマージュ・紫蘇
鰆のブレゼ・菜の花と浅利のソースヴェール・海老ブーレット・レタスとオルツォ
牛タンと湯葉・プティポワのクレメ・サンジェルマン風
百年戦争ゆかりのワイン産地
百年戦争のゆかりの地は、そのまま今もワインの銘醸地として知られています。
1309年から教皇庁が置かれるようになったローヌのアヴィニヨンは、国際都市として空前の繁栄を迎え、教皇クレメンス6世はアヴィニヨンの北に葡萄園を作り、そのワインが有名になって「シャトーヌフ・デュ・パプ」(教皇の新城館)の名を頂くようになりました。
ブルゴーニュ公国の繁栄はそのままワイン産業の発展へと繋がりました。フィリップ・ル・アルディ(豪胆公)は1395年にガメイの栽培を禁止します。
1429年にジャンヌ・ダルクがシャルル7世と謁見したのは、ロワールのシノン城でした。シノンのワインは今もロワールを代表する銘品となっています。そしてシャルル7世はシャンパーニュのランスで戴冠式を行いました。
フランス統一の波に最後まで抵抗したのはボルドーでした。1453年にカスティヨンの戦いでボルドーは降伏し、長い戦争は終結しますが、その後もイングランドとのワイン貿易は続いていくことになります。
1.カペー朝断絶
1285年に即位したフランス・カペー朝のフィリップ4世は、美男王(le Bel)の愛称で知られる容姿端麗な姿で知られていますが、イングランドとの戦費捻出のため、聖職者への課税問題でローマ教皇と対立、アナーニ事件で教皇が死ぬと、ボルドー司教が新教皇となり、南仏アヴィニヨンに教皇庁を移してしまいます。さらに豊富な資金を持つテンプル騎士団を異端の嫌疑で一斉逮捕し、その財産を没収して処刑してしまいます。1314年の火刑の際、ブルゴーニュ出身の騎士団総長ジャック・モレーは、フィリップ4世とクレメンス5世に呪いの言葉を残しますが、その呪いを受けてなのか、同じその年に、クレメンス5世も、そしてフィリップ4世も46歳の若さで死んでしまいます。しかも後を継ぐ多くの王子達がいたにも関わらず、次々と病死、ついにカペー朝は断絶してしまうのです。後を継いだのはフィリップ3世の孫に当たるヴァロワ伯フィリップ6世でしたが、イングランドに嫁いでいたフィリップ4世の娘イザベルは、息子のエドワード3世の王位継承権を主張、百年戦争が始まることになるのです。
当時のシャンパーニュ
フランス王国の始祖、フランク王国建国者クローヴィス1世が、496年にシャンパーニュ・ランスの大聖堂で洗礼を受けました。
以後、フランス国王となるには、ランスのノートル・ダム大聖堂で戴冠式を行うことが必要となったのです。
ランスやエペルネのワインに関する最初の記述は9世紀頃見られるようになります。
14世紀頃には葡萄畑が拡大、フランドルやイングランドへのワイン輸出が始まりましたが、ブルゴーニュ公国の二つの領土に挟まれていたこともあり、当時はまだそれほど進展は見られませんでした。
「カナール・デュシェーヌ・シャンパーニュ・シャルル7世・グラン・キュヴェ・ブラン・ド・ブラン」 (タイプ:白・辛口・発泡性・NM、品種:シャルドネ 100%、産地:フランス/シャンパーニュ/ランス)
樽職人のヴィクトル・カナールと葡萄栽培農家の娘、レオニー・デュシェーヌ、両家の名を冠した「マリッジ・シャンパーニュ」カナール・デュシェーヌの歴史は1868年に始まりました。1890年に二人の息子エドモンドが、ロシアへの販路を開拓。皇帝ニコライ2世の御用達となり、現在でもボトルにはロマノフ王朝の紋章「双頭の鷲と冠」が描かれています。「シャルル7世」は、創業100周年を記念して造られたスペシャル・キュヴェで、きめ細やかな酸と充分なミネラルがあり、きれいな透明感と伸びやかさを備えた個性が感じられ、ワイン評論家ヒュー・ジョンソン氏も、「カナールの切り札はシャルル7世!」と断言しています。
「フィリップ・ル・アルディ・ポマール2016年」 (タイプ:赤・辛口 品種:ピノ・ノワール100% 産地:フランス/コート・ド・ボーヌ/ポマール)
サントネイを本拠地とし、その起源を9世紀まで遡ることのできる生産者「シャトー・ド・サントネイ」は、2021年から「フィリップ・ル・アルディ」の名を冠して、新たな歴史を歩み始めました。ブルゴーニュ公国の初代公王フィルップ・ル・アルディ(豪胆公)が所有していたとされる葡萄畑の区画を所有し、シャトーの城館も公王が保有・増改築したものです。所有する98haの畑全てにビオロジック農法を導入、良質な葡萄の収穫を進めています。ピノ・ノワールの豊かさと、赤系果実味と黒系果実味の広がりが見事に表現されていて、フレッシュさ、濃縮、美しい滑らかさ、エレガントなタンニンを全て備えたワインに仕上がっています。
「クロ・サン・フィアクル・オルレアン・ブラン 2022年」 (タイプ:白・辛口 品種:シャルドネ100%、産地:フフランス/ロワール/オルレアン)
クロ・サン・フィアクルは、1635年以来ワイン造りを続け、オルレアンの原産地呼称の設立を大きく牽引した歴史あるワイナリーです。オルレアンは、ロワール川に沿った13市町村に認められた原産地呼称で、大陸性気候の影響を受け平均気温が低く、4つの独立した生産者と12の小規模生産者を集めた協同組合からワインが造られています。17haの畑を所有、6000本/haの密植栽培が行われており、除草剤や殺虫剤は使用しません。レモンやグレープフルーツ、リンゴなどのフレッシュな果実のアロマに、白い花やセージを想わせるハーブのニュアンスが重なり、芳醇な風味とともに訪れる深みある余韻も魅力です。
「シャルル・ジョゲ・シノン・シレーヌ 2022年」 (タイプ:赤・辛口、品種:カベルネ・フラン100%、産地:フランス/ロワール/シノン)
シャルル・ジョゲは、あのロバート・パーカーが「シノン最上の生産者」と認めた、揺るぎない地位を築いた伝説の造り手です。ビオロジック栽培と極限まで収穫量を落とす栽培方法により、クリアで凝縮感溢れるブドウを獲得、そして当時ロワールでは斬新だった区画ごとの収穫・醸造・瓶詰を実践することで、テロワールを反映したワインを生み出しています。ロワール河とヴィエンヌ川の間に広がる砂質沖積土壌の畑から造られるカベルネ・フランから、赤いチェリーのような心地よいアロマとハーブのニュアンス、 のびのびとした味わいで、引き締まった重い赤ワインとは対極にある穏やかで深い旨味を堪能できるワインを造っています。
「シャトー・タルボ 2021年」 (タイプ:赤・辛口 品種:カベルネ・ソーヴィニヨン69%+メルロ26%+プティ・ヴェルド5% 産地:フランス/ボルドー/サン・ジュリアン)
シャトー・グリュオー・ラローズの近くにあるサン・ジュリアン村の第4級格付けシャトーです。シャトー・タルボの名前は、1453年のカスティヨンの戦いに破れたイギリス軍指揮官、シュースベリー伯ジョン・トールボットにちなんだものです。所有する区画は約100haで、砂利混じりの土壌に、葡萄の樹がギヨー・ドゥーブル仕立てで栽培されています。平均樹齢は40年ほどで、全て手摘みにて収穫され、新樽率50〜60%のフレンチオーク樽にて約15カ月間熟成されます。華やかなベリーとハーブの香りが特徴で、しっかりとした骨格を備えており、クラシックなボルドースタイルがお好みの方に支持されるワインとなっています。
「ジャンヌ・ダルク・ナポレオン・ブランデー」 (タイプ:ブランデー・コニャック 品種:ユニ・ブラン主体 産地:フランス/コニャック/グランド・シャンパーニュ)
製造元は1860年に創業。オーナーは、グランド・シャンパーニュ地区の中心にある町で、5世紀以上にわたってぶどう園を所有してきたマルタン家。それ以上の詳細は不明ですが、「ジャンヌ・ダルク」の名を広めたのがあのナポレオンだったことを思うと、なかなか感慨深いものがあります。
<今回の1冊>
【佐藤賢一「 英仏百年戦争」(集英社新社 )】
百年戦争やジャンヌ・ダルクを扱った書籍は沢山あると思うのですが、とりあえず手軽にかつ通しで知識を得たいなら、非常におすすめの本だと思います。百年戦争開戦の頃には、そもそも今のようなイギリス、フランスという国家の感覚がなかったということ、むしろジャンヌ・ダルクの登場が、そのままフランスやイギリスのナショナリズムと結びついて、終戦後に国家という意識が高まったのだという指摘は、非常に納得できるものがあります。宗教、経済、言語、そしてワイン……様々な観点からこの戦争を読み解くことで、ある意味ヨーロッパの歴史が俯瞰できる……そのことを教えてくれると言う意味で、非常に魅力的な著作です。