Via Vino No. 22 "Le Gibier"<ジビエとワイン>

 
 

<日時・場所>
2008年12月13日(土)12:00〜15:00 銀座「銀座カンセイ」 
参加者:19名
<今日のワイン>
フランス・シャンパーニュ「ゴネ・レゼルヴ・ブリュット」
フランス・ボルドー白「シャトー・ティユレイ・ブラン2002年」
フランス・ブルゴーニュ赤「ドメーヌ・シャルソネ・サン・ロマン・ルージュ2002年」
<今日のランチ>
京都の田鶴さんの九条ねぎのスープ
静岡産トマトのソルベ・キャビア添え
三陸の牡蛎のフライ・人参のピューレ
静岡産のシイタケとフォアグラ
新潟産青首鴨のロースト・血入りソース(選択)
北海道産蝦夷鹿のステーキ・黒胡椒ソース(選択)
デザート
      


1.はじめに
 ジビエが美味かどうかを問うこと自体が愚問である。

 「ジビエ」(gibier)を訳せば、「野禽・野獣類」「狩猟鳥獣」となりますが、具体的には鴨、鳩、雉などの鳥類、そして鹿、猪、野兎などの獣類がそれに相当します。フランスをはじめとして、ヨーロッパ各地では、大空や森林を駆け回り自然の餌で育った野生動物の肉が、飼育された動物よりもはるかに段違いの旨味を持つものとして賞味されて来ました。秋から冬にかけて、動物達は越冬に備えて身体に脂肪を蓄え始めます。本場フランスでは9月頃から猟が解禁となり、それに合わせて秋には様々な茸が、初冬にはトリュフも集まりはじめ、レストランの厨房はがぜん活気づき、その緊張感は2月一杯まで続きます。
 古代ローマの権力者達は、熊や鹿、鶴やフラミンゴなどに至るまで、あらゆる野獣を異国から取り寄せました。中世ヨーロッパでは狩猟とジビエの大饗宴が王侯貴族達によって行われました。当然のことながら、ジビエとワインは古来切っても切れない関係にあります。フランスは今も質・量 共に世界第一のワイン生産国ですが、一方でフランスにおける狩猟人口も約135万人に達しており、ヨーロッパ内でも一位 を誇っています。
 仏教国として殺生を禁じた日本では、ジビエのような肉食の風習はなかったとされていますが、「日本書紀」には、天皇が神とともに狩猟を楽しむことを「徳」とする記述があるそうです。長野の諏訪大社の「諏訪の勘文」には、「業のつきた生き物はむしろ人間の食用となり、それを食べた人間の功徳を分けてもらい、ついには仏の救いにあずかる」という言葉があります。毎年4月15日に行われる「酉の祭」の中で執り行われる「饗膳儀式」では、山海の幸と酒で神と人が共食を行います。日本にも狩猟で得た獲物を神に捧げ、自らもご相伴にあずかる文化があったのです。

2.ジビエについて
 
●青首鴨 Col-vert
 日本で狩猟が許されているのは真鴨、カルガモ、尾長鴨、小鴨などですが、中でも王者とされているのが真鴨です。特に真鴨の雄は、頭部が美しい緑色で、首にははっきりとした白い輪があり、別 名青首鴨(コルヴェール)と呼ばれています。鴨の血は生のままでは強烈な匂いがしますが、加熱してソースとなると何故か芳醇な旨味が生まれ、高貴な香りが立ち上がります。野生の鴨を使って初めて可能となる醍醐味であると言えます。
 北半球に広く分布し、日本には主に冬鳥として飛来します。日本での狩猟期間は11月15日から翌年2月15日までで、この期間が最も脂が乗って美味しい時期でもあります。
●鹿 Chevreuil
 日本にいる鹿(シュヴルイユ)には、北海道の蝦夷鹿、本州の本州鹿、九州の九州鹿など7種類の亜種があるとされますが、中でも大型の蝦夷鹿は、脂が多く肉の味も濃くて美味であるとされています。
 明治時代に乱獲により激減し、1888年には捕獲が禁止されたこともある蝦夷鹿ですが、最近では豪雪も少なくなり、天敵のエゾオオカミもいなくなったため、逆にその数は増え続け、道東地域で20万頭近くが生息していると言われています。平成12年には社団法人エゾシカ協会が設立され、北海道経済の活性化に一役買っています。
 蝦夷鹿肉を牛肉と比較すると、カロリーは1/4以下で、鉄分は約7倍、タンパク質は約2倍で、脂肪は1/10以下。しかも魚に多く含まれるとされるDHA(ドコサヘキサエン酸)をはじめとする不飽和脂肪酸を多く含みます。
 春から夏にかけては、草や木の芽を食べていますが、秋になるとドングリなどの果 実類を食べるようになります。2歳までの交尾前の若いメスが最も肉が柔らかく好まれます。ソテーして黒胡椒をきかせたソースを添えるのがオーソドックスなやり方ですが、甘酸っぱい果 物の風味ともよく調和し、洋梨やマンゴー等も相性が良いとされます。
 
●その他のジビエについて
・ヤマウズラ(Perdreau/ペルドロー):代表的な鳥のジビエです。1歳以下の若鳥をペルドローといい、それ以上をペルドリ(Perdrix)と呼んで区別 します。肉質は淡白な灰色の物と、野性味の強い赤色の物とがあります。
・キジ(Faisan/フザン):雄より雌の方が肉が柔らかく、珍重されます。なお、肉の熟成を意味する「フザンダージュ」はキジの仏名に由来しています。
・ライチョウ(Grouse/グルーズ):日本では天然記念物であるため狩猟できませんが、フランスでは比較的よく見かけるジビエです。肉は赤身で独特の香りがあります。
・山シギ(Becasse/ベカス):肉質は柔らかく、ジビエにしては繊細。内臓が特に珍重され、付けたまま料理されます。乱獲されたため、非常に希少価値が高く、こちらは逆にフランスで禁猟となっています。
・野ウサギ(Lievre/リエーヴル):ジビエの中ではクセが強く、また肉質も硬くパサつきやすいので、火の入れ方、スパイスやハーブの使い方など調理に気を使う食材です。一匹を丸ごと煮込む、ロワイヤルと呼ばれる調理法が代表的です。一方家禽のウサギはラパン(Lapin)と呼ばれ、リエーヴルよりも淡白な味わいで知られています。
・イノシシ(Sanglier/サングリエ)、仔イノシシ(Marcassin/マルカッサン):日本では成獣を狩るのが一般 的ですが、フランスでは肉が硬くなるのを嫌って仔イノシシを珍重します。味、料理法等は豚肉に準じますが、加熱しても豚肉より柔らかさが保たれます。 

3.ワインのテイスティング

 ワインは、シャンパーニュ「ゴネ・レゼルヴ・ブリュット」、ボルドー白「シャトー・ティユレイ」、ブルゴーニュ赤「ドメーヌ・シャルソネ・サン・ロマン・ルージュ」 の3品を用意して頂きました。  
●ゴネ・レゼルヴ・ブリュット(Gonet Reserve Brut) 
 タイプ:辛口の白・発泡性 品種:シャルドネ 生産地域:フランス、シャンパーニュ地方
 1783年から6代に渡ってシャンパン造りに従事しているゴネ家は、シャンパーニュ地方で最も秀逸なシャルドネを産出することで有名なメニル・シュール・オジェ村に19haのブドウ畑を所有しています。 他社から大量にブドウを買い付ける大規模なメゾンとは違い、ゴネでは十数人の家族経営で、先祖から継承した自社畑でブドウを育てるRM(レコルタン・マニピュラン)で、その最高の原料から丁寧に出来上がるシャンパンは、まさにブラン・ド・ブランの王道と言えます。淡い黄金色で、ナッツ香があり、やや甘い香りも感じられ、酸はまろやかで長い余韻があります。
   
●シャトー・ティユレイ・ブラン2002年(Ch.Thieuley Blanc 2002)
 タイプ:辛口の白 品種:ソーヴィニヨン・ブラン主体 生産地域:フランス、ボルドー地方
 栽培学の教授でもあるオーナーのフランシス・クールセル氏は、ボルドーの辛口白ワインの世界で最も注目を集める生産者の一人で、ドウニ・デュブディエー教授と並び賞賛される人物です。洗練された、きれいなフルーティさを持つ、現在注目の白ワインの生産者です。
 かなり濃い色調で、柑橘系の香りにミネラルの風味が加わり、まろやかな酸味が印象的な辛口白ワインでした。
 
●ドメーヌ・シャルソネ・サン・ロマン・ルージュ2002年(Domaine de Chassorney Saint-Roman Rouge 2002)
 タイプ:辛口の赤ワイン 品種:ピノ・ノワール  生産地域:フランス・ブルゴーニュ地方
 ブルゴーニュ、サン・ロマンのドメーヌ・シャソルネのオーナー、フレデリック・コサール氏ジュンコ・アライさん、藤小西さんのコラボレーションが生んだ1haの畑からの3樽だけのワイン、その最初のリリースとなるワインです。ドメーヌ・シャソルネは比較的新しい生産者ですが、瞬く間に高い評価を得て、注目されました。98年からは完全なビオデナミの造りとなり、 SO2無添加・無農薬・ノンフィルターのワインとなりました。
 ジュンコ・アライこと新井順子さんは、ボルドー大学でワイン醸造学を学び、自由ケ丘にレストラン「メゾン・ド・オドゥール」をオープン、現在はロワールのトゥレーヌでワイナリー「ドメーヌ・ド・ボワ・ルカ」を経営する醸造家として活躍しています。
 ややレンガ味を帯びた色調で、熟成感があり、ビネガー、ストロベリーシナモンや丁字、クローブなどスパイスの香りの他に、マツタケの香りも合わせ持ちます。熟成したピノ・ノワールならではの、しっかりした果 実味ときれいな酸、動物的なニュアンスを兼ね備えた赤ワインです。
   

4.ジビエとワイン
● ジビエの多くは香りの強い赤身の肉で、その香りを引き立てるのがスパイス。従ってジビエを楽しむなら、スパイス風味を持った赤ワインが合います。シンプルなローストなら、ふくよかな果 実味を持った赤ワインを。内蔵を用いた濃厚なソースや、旨味が潤沢な煮込み料理なら、より複雑な風味を備えた、オーク樽で熟成させたコクのある赤ワインを合わせます。同じジビエでも、キジのように白身肉のものは、シャルドネを使用した白ワインが合わせやすいとされます。
● ラムのローストとボルドーの赤は、同化型マリアージュの古典的な例です。ラムのソースにはバジルやミントなどのハーブを多く使いますが、これにはハーブやミントなどの香りを持つカベルネ系のワインが自然と合います。同様にして、血の風味の強い野兎などは、鉄っぽい風味を持つコート・ロティや南イタリアのタウラジなどが合います。
● ワインと料理との相性で最も重要なのは酸味です。ワインは果物由来の酸を備えており、それ故にpHのレベルを合わせることが重要となるのです。赤ワインをソースに使った料理が赤ワインに合うのはきわめて自然なことですが、フレンチやイタリアンでは、それ以外にもレモンを搾ったりマリネとして漬け込んだりすることで、料理の酸をコントロールしています。酸の反対の働きをするものが塩で、酸が低めのワインには塩を強めに入れます。同じステーキでも、酸の低いボルドーワインには、シンプルに塩と胡椒で味付けした物を、酸の高いブルゴーニュワインには、赤ワインソースを添えた物を合わせます。
焼いた肉にはカベルネ、煮た肉にはピノ・ノワールが合います。焼いた場合は肉そのものの噛みごたえがカベルネの固さに合い、煮た場合は肉のなめらかさとソースの香り高さがピノ・ノワールの柔らかさと合うとされます。また、しっかりした噛みごたえのある肉は、ビンテージの新しいタンニンの苦みのはっきりしたワインが、一方柔らかさのあるリブロースなどには、ある程度年代を経た熟成感のあるワインが馴染みます。
● ジビエにはワイルドな血の香りが多く含まれますが、若く濃厚なワインで血の香りを高めすぎると食べ疲れてしまいます。一方で軽いワインでは料理に負けてしまいます。「ワイナート7月号・ワインと料理の方程式」では、一般 的に成功する確率が高いのは、濃密さと優雅さを持つブルゴーニュであると断言しています。ジビエは熟成風味が特徴であり、従ってワインもある程度熟成した物が望ましいとしています。

<今回の1冊>
 
「ジビエ料理大全」旭屋出版
 ワインの本に比べると、ジビエについて書かれた本はあまり多くありませんが、本書は、豊富な写 真入りで、フレンチの名店シェフによるジビエ料理を解説しています。なかなか馴染みのないジビエですが、鴨や鹿、その他鳥類のジビエについての詳しい解説、信州を中心とした日本で楽しめるジビエ各種、ジビエの規制や狩猟の実体に関するレポートなど、かなり楽しめる内容となっています。
 


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