Via Vino No. 23 "Portugal"<ポルトガル>

 

<日時・場所>
2009年1月31日(土)12:00〜15:00 表参道「ペローラ・アトランティカ」 
参加者:20名
<今日のワイン>
白・辛口「カサル・ガルシア」
白・辛口「レイス・ダ・クーニャ・マルヴァジア 2005年」
赤・辛口「キンタ・ドス・ロケス・ダン 2005年」
赤・辛口「ルイス・パト・バガ 2003年」
酒精強化ワイン「バーベイト・マデイラ・ブアル 10年」
<今日のディナー>
前菜3品盛り合わせ
コリアンダーとパルミジャーノチーズのサラダ
牛肉のエスペターダ
デザート
      


1.はじめに〜ポルトガルワインについて
●歴史が古く、世界で最初に原産地管理法を制定
●酒精強化ワインの代表格、ポートとマデイラの生産地
●EU加盟以後、一気に技術革新が進む

 他のヨーロッパの国々と比べて、あまり馴染みのないポルトガルですが、ワインの世界では、三大酒精強化ワインのうちの2つ、ポートマデイラの生産地として有名です。前者はイギリスで、後者はアメリカで、それぞれ絶大な支持を得て発展し、大航海時代を終えたポルトガルの経済を支えました。ポルトガルという国の名も元々はこのポートワインを輸出する港町「ポルト」から来ています。また、建国時の王朝はフランス・ブルゴーニュから来た貴族によって打ち立てられた「ブルゴーニュ王朝」であり、ことワインについては建国当初から様々な面 で関係が深かったと言えます。
 他のヨーロッパの国々と同様、この小さな国においても北部と南部との間に多くの差が見られます。北部は山岳地帯で雨も比較的多く、保守的でカトリック教の影響が強く、イスラムの影響が少なかったためローマの石の文化がそのまま受け継がれました。南部は平原地帯で乾燥しており、個人主義の傾向が強く、イスラムの影響で建物には粘土が多く使われました。自然環境と生活様式の違いは、ワインの世界にも強く反映しています。
 ポートにしてもマデイラにしても、海外貿易によって国を支えていたポルトガルが、外的要因から必要に迫られて作り出した輸出向けワインという側面 を持っていることは否めません。しかしポルトガルでは、それ以外の魅力的なスティルワインが、他の地には見られない様々な地場品種を元に、意欲的な新しい生産者によって作りだされています。地方言語ミランダ語の公用語化や、ポルトガル語諸国共同体(CPLP)の結成など、国際化が声高々に叫ばれる中であえて反グローバリゼーションを目指すポルトガルは、これからも非常にユニークなワインを造りだしていくように思われます。

2.白ワインのテイスティング
●軽やかな「緑のワイン」と、珍しいマデイラの辛口ワイン。 
    
 白ワインでは、軽快な「ヴィーニョ・ヴェルデ・カザル・ガルシア」と、ボディのある「レイス・ダ・クーニャ」という対照的なワインを用意して頂きました。
 1947年創設のキンタ・ダ・アヴェレーダ社は、ヴィーニョ・ヴェルデ生産者の中でもトップシェアを誇り、年間計1200万本ものワインを産出しています。うち50%は世界の50カ国に輸出され、国内外で高い評価を得ています。最近ではWine&Spirits誌において、ワイン・プロデューサー・オブ・ザ・イヤーに選ばれるなど、優秀な成績を収めています。アヴェレーダは「女性預言者」を意味し、昔この地に住んでいたとの言い伝えがあります。「ヴィーニョ・ヴェルデ」とはポルトガル語で「緑のワイン」を意味しています。緑色をしているというよりは淡い透明な黄色で、むしろこれは「若いワイン」を示していると考えた方が良いようです。完熟1週間前に収穫された葡萄を使用し、アルコール度数も低めで微発泡、フレッシュな味わいが特徴です。マスカットのような親しみやすい香りで、軽快な味わいは食前酒にぴったりでした。
 「レイス・ダ・クーニャ」は初ヴィンテージが2004年、実際に市場に流通するようになったのは2005年ヴィンテージからとなります。300年も昔から、酒精強化ワインしか作られてこなかったマデイラ島で、唯一のテーブルワイン用の醸造所となっています。マデイラの伝統的な品種であるマルヴァジア品種を100%使用。前者のワインよりも色が濃く、輝きのある黄金色をしており、きりっと辛口でフルーティな味わいがあり、ミネラルとハーブのアクセントも楽しめます。マデイラの持つどこか香ばしい、トースト香が感じられたのですが、イノックス(特殊鋼)製タンクで発酵された後瓶詰めされているとのこと。独特の香ばしさはむしろ葡萄そのものから来ているようです。 

3.赤ワインのテイスティング
●地場品種を使った赤ワイン、「ダン」と、「バガ」。
    
 赤ワインは、これもまた対照的なダン「キンタ・ドス・ロケス」とバイラーダの「ルイス・パト・バガ」の2品を用意して頂きました。ダンが内陸に位 置し、花崗岩とスレート土壌が中心の大陸性気候にあるのに対し、その隣のバイラーダは粘土性土壌で、海洋性気候に属します。
 「キンタ・ドス・ロケス」はダン地方の中心部ネラスの北東に位置し、エストレラ山脈の南斜面 に40haの葡萄園を所有するワイナリーです。年産17,000ケース(赤ワイン80% 白ワイン20%)を生産します。高級葡萄品種への植え替え、キンタ・ワイン(生産者元詰め)の製造、フレンチオークを使ったワイン造り等を次々に実施、ワイン&スピリッツ誌の「世界のベストワインとベストワイナリー2000年版」ではトウリガ・ナシオナル1996年が見事ポルトガルワインで最高の得点を獲得するに到りました。ステンレスタンクで28℃〜30℃で10日間の発酵後、フレンチオークとアメリカンオークの小樽をそれぞれ半々使用し10ヶ月間樽熟成させます。カシスに代表される様々な果 実香に、樽由来のバニラ香が重なり、稠密で深い味わいが特徴となっています。ポートワインに通 じるフルーティな味わいが印象的です。
 「ルイス・パト」はポルトガル中部バイラーダ地方、コインブラの北側アナディアの地に60haの葡萄園を所有するワイナリーです。ポルトガル語で「パト」とは「鴨」を意味し、ラベルにはトレードマークの鴨がデザインされています。 伝統品種バガはもともと多産な品種ですが、これを収量抑制することで、従来のバイラーダワインとは異なるスタイルのワインを生み出しています。27℃に温度コントロールされたステンレスタンクで2週間発酵後、フレンチオークと一部アメリカンオークの数年使用樽で熟成されます。熟成により中程度の濃さの鮮やかなガーネット色を呈しており、チェリージャムのような甘い果 実香と、熟成によるムスク香、そしてどこか磯の香りに似た独特の風味があり、タンニンは柔らかく、素直で素朴な、それでいてとびきり個性的な印象のワインです。

4.デザートワインのテイスティング
●伝統を感じさせる10年物のマデイラ

 
 デザートワインには、「バーベイト・ブアル10年物」を用意して頂きました。10年間「カンテイロ」と呼ばれる手法で620Lのフレンチ・オークに寝かせた、中甘口の単一品種のマデイラです。 1946年に設立されたバーベイト社は、世界一品質の高いマデイラワインを目指し、マデイラ島で最も近代的なワイナリー設備の導入や、イギリスのフォートナム&メーソン用のオリジナルマデイラを手がけるなど、今、マデイラで最も注目される生産者です。糖分の多い高品質の原料葡萄のみを厳選し、伝統的な加熱方式を用いてマデイラ独特の風味を生み出すことに努めています。樽熟成はフレンチオークのみを使用。中甘口のワインで、バニラ、はちみつ、ナッツのコクのある凝縮された香りを持ち、バランスのとれた酸味と、なめらかでふくよかな口当たりが特徴です。

5.ポルトガルワインについて
●伝統を感じさせる10年物のマデイラ
 南北に長いポルトガルは、中央部を流れるテージョ川を挟んで南北に分かれますが、南と北では気候風土が大きく異なっています。南部のアレンテージョ(テージョ川の彼方、の意)では、標高200メートル以下の台地が続き、高温で乾燥した気候が特徴となっています。一方、北の内陸部では、標高1000メートルを超える産地が連なり、秋から冬にかけて多量 の雨が降る肥沃な土地となっています。高温で雨も多いため、日本と同様に棚式のブドウ栽培を行っている地域もあります。花崗岩質の土壌が北から南へと続き、特に山岳地帯の開墾には大変な労力が必要とされました。海洋性気候が主体の栽培地域ですが、良質なワインは、その多くが内陸にあるドウロ、ダン、アレンテージョ等の大陸性気候に属する地域で作られています。
<栽培ブドウ品種>
 ポートやマデイラなどの酒精強化ワインで知られるポルトガルですが、実際にはスティルワインが8割以上を占めています。一部国際品種の栽培も進められていますが、個性豊かな地場品種が主流となっています。白ブドウでは、ヴィーニョ・ヴェルデの原料となるアルバリーニョアリント(ペデルナン)、ボディのある白ワインを造るエンクルザード、マデイラの原料となるセルシアル、ヴェルデーリョ、ブアル、マルヴァジアなどがあります。黒ブドウでは、ポートの原料となるトゥリガ・ナシオナル、スペインのテンプラニーリョと同品種のティンタ・ロリス(アラゴネス)、バイラーダで主流となるバガ、南部のトリンカデイラなどがあります。
<ヴィーニョ・ヴェルデ>  
 ポルトガル北部のミーニョ川一帯に広がる、全国の1割近くを占める広大な栽培地区で、比較的雨の多い夏涼しく冬暖かい丘陵地帯となっています。6割近くが白ワインで、酸の豊かな軽口のものが主流となっています。「緑のワイン」は色合いというよりむしろ若々しさを表現したもので、比較的若いうちに飲むタイプが多くなっています。
<ポルト/ドウロ>  
 港町ポルトの名を冠する酒精強化ワイン「ポート」の原料は、都市ポルトから東に向かってドウロ川を100キロ程上ったところにある町バルケイロスよりスペイン国境に至るまでの、「ドウロ限定生産地域」に広がるブドウ畑から得られます。降水量 は少なく寒暖の差も激しい地域で、シストと呼ばれる薄く板状に割れた岩石でできた貧しい土壌となっており、それだけに濃厚なワインの生産が可能となっています。  
 ポートではワイン作りはドウロで行うことになっていますが、そのワイナリーの中には「キンタ」と呼ばれる物が多数あります。これは敷地内に邸宅や畑、牧場、山林などがある大所有地のことで、必ずしもブドウを作っているとは限らないのですが、ドウロ地区をはじめとしてポルトガルではブドウ栽培を主流とするキンタが多かったため、キンタと言えばワイナリーのことを示すと考えて良いでしょう。
<ダン、バイラーダ>  
 ダンは中央部よりやや北よりの内陸部、高い山脈に囲まれたダン川の一帯に広がる生産地で、日照に恵まれかつ雨の少ない、ブドウ栽培に適した土地となっています。北部では花崗岩質、南部では片岩質が主流で、生産量 の8割が赤ワインとなり、上質のものは力強く色の濃いことで知られています。  
 バイラーダはダンの隣に位置し、海岸から近い側にあるため、粘土質と石灰岩質が主流となります。バイラーダの名も粘土=Barroに由来しています。5割近くが赤ワインで、かつその半分以上をバガという品種が占めています。
<マデイラ>
 ポルトガル領のマデイラは、本土から南西千キロ近く離れたところにあり、どちらかというとアフリカに近い温暖な火山島です。佐渡より一回り小さく、平地も殆どありません。日本では料理酒のイメージが強いマデイラですが、ポートと同様歴史のある本格的な酒精強化ワインです。大航海時代の風味を再現するために独特の加熱処理を行うことで知られ、普及品向けに火を焚いて人工的に加熱する「エストゥファ」と、高級品向けに太陽光のみで自然に暖める「カンテイロ」というシステムがあります。

6.ポルトガルワインの歴史
B.C.600〜500年 フェニキア人によるブドウ栽培とワイン醸造のはじまり
8〜11世紀 イスラム教徒支配による空白期間
1095年 アンリ・ド・ブルゴーニュ、ポルトゥス・カレ伯領を与えられる
1143年 カスティリャ王国から独立。アンリの息子アルフォンソ1世初代国王に。
1420年 エンリケ航海王子の時代、マデイラ島の発見
1498年 ヴァスコ・ダ・ガマ、喜望峰回航しインド・カリカットへ到着
1549年 フランシスコ・ザビエル、鹿児島へ上陸
1580年〜1640年 スペイン・ポルトガル同君連合
1661年 英国のチャールズ2世、ポルトガル王女と結婚
1670年 イギリス人による最初のポート輸出会社ワレが設立される
1703年 イギリスとのメシュエン条約、関税引き下げによる英国輸出増大
1756年 首相マルケル・デ・ポンバル侯爵、世界で最初の原産地管理法制定
1794年 マデイラのための最初の「加温貯蔵庫(エストゥファ)」が作られる
1986年 EC(現EU)加盟、ワイン法の整備
1990年 I.P.R.制定
1993年 Vinho Regional制定

 ポートワインで知られる都市ポルトは、ローマ時代には「カレ」と呼ばれていましたが、4世紀末には「ポルトゥス・カレ(カレの港)」の名で知られるようになります。レコンキスタ(国土回復運動)で功績のあったフランス・ブルゴーニュ出身のアンリ・ド・ブルゴーニュ(エンリケ・デ・ボルゴーニャ)は、レオン・カスティリャ国王から報酬としてポルトゥス・カレ伯領を与えられます。このアンリの息子が初代国王アルフォンス1世となり、新しい王国はポルトガルと呼ばれるようになります。
 17世紀の大航海時代、赤道を越えて長い航海を終えると、積み込んだワインが酸化によって独特の香りを呈することが知られるようになりました。また18世紀に入り、ジブラルタル海峡を巡る紛争によりワインの搬送が滞るようになると、貯蔵量 を調節し保存性を高めるために一部のワインを蒸留して加えるようになります。若干の加熱による酸化と、酒精強化を行うマデイラワインはこうして誕生しました。ワインの中で最も長命で、甘味と酸味の豊かな贅沢な酒は、アメリカで絶大な支持を得ます。アメリカ合衆国の独立宣言、そしてジョージ・ワシントン大統領就任の時、乾杯のワインにはマデイラが使用されたと言われています。
 大航海時代が終わると、ポルトガルの経済は衰退しますが、その苦境を支えたのがポートワインでした。ポートはイギリス貴族達に好まれ、メシュエン条約によりポルトガル産ワインの関税が引き下げられると、イギリスへの輸出が増大、外貨獲得のための国際的な商品としてポルトガルの経済を支えることになったのです。対英関係を重視するブドウ栽培貴族達が政権の座に就き、一方で産業革命前のイギリスはこの貿易から多大な利益を得ることになります。「ワインには旅をさせるな」と言われますが、ポルトガルのワインは、まさに旅をすることによってその価値を高めたのだと言えるのです。  

<今回の1冊>
 
金七紀男「ポルトガル史」彩流社
 著者に言わせると、最近は一国の通史というものはあまり流行らないそうで、本書のようにポルトガルというヨーロッパの小国について古代から現代まで通 して歴史を記したものは珍しいそうです。ただ、ワインに関してはその国の歴史と何かと結びつけたい私としては、このような一つの国の歴史を通 して論じてくれる本というものは有り難いです。ワイン関連の本であっさりと数行で解説されている事柄の背景を知ることができるからです。
 マデイラ島を発見したエンリケ航海王子、世界初の原産地統制呼称を制定したポンバル侯爵……ワインを学ぶ時に必ず教本などに登場する人物達。彼らの先見の明、時代を先読みし見事に意志を貫き通 したその生き様は勿論称賛されるべきものなのですが、ポルトガル史全体の流れから見ると、ドン・エンリケはイスラムを打ち倒し奴隷売買を率先して行った過激な主戦派であり、ポンバル侯爵は国王の権威を守るために平民から貴族に至るまで反対派を残酷な方法で処刑した独裁者の一面 を持っていました。ワインも人も、ままならぬ様々な歴史のうねりの中にあり、決して一本調子に進歩してきた訳ではないことに気付かされるのです。
 


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