Via Vino No. 25 "Central Italy"<中部イタリア>

<日時・場所>
2009年5月23日(土)12:00〜15:00 目黒「サント・スピリト」 
参加者:12名
<今日のワイン>
赤・微発泡・辛口「ヴェントュリーニ・バルディーニ・レッジャーノ・ランブルスコ 2007年」
白・辛口「パラッツォーネ・グレケット2007年」
白・辛口「ベリサリオ・カンブルジャーノ・ヴェルディッキオ・ディ・マテリカ・リゼルヴァ2005年」
赤・辛口「マリーナ・ツヴェティック・イスクラ・ロッソ・ディ・アプルティーニ2003年」
甘口「サンファビアーノ・カルチナイア・ヴィンサント・デル・キャンティ・クラッシコ2000年」
<今日のランチ>
パルマ産生ハム ニョッコフリット添え
手長海老のテールと空豆のサラダ仕立て パプリカのヴィネグレットソース
貝類とアスパラソヴァージュ ローズマリを練りこんだマルタリアーティ
牛胃袋のトマト煮
クルミとチーズのトルタ カントュッチを添えて
     


1.はじめに〜中部イタリアワインについて
● 北と南の中間にある、比較的安定した気候
● 沿岸部から内陸部へと続くブドウ畑
● 古代ローマ帝国以前に、エトルリア人が開拓したワインの地
 ピエモンテやフリウリに代表される北イタリアのワインは、どこかフランスやドイツを意識したものになりがちですし、一方の南イタリアのワインは、カンパーニャやシチリアなど野性味があるものの、どこか取っ付きにくさを感じる方もいるかも知れません。その意味では、その中間地点にあり、比較的安定した気候の中部イタリアワインは、果 実味があり飲みやすく、トスカーナのキャンティをはじめとして、初心者にも入りやすい分かりやすさを持っているように思われます。
 キャンティに限らず、中部イタリアには多くの親しみやすいワインが存在します。エミリア・ロマーニャの弱発泡酒ランブルスコ、マルケの代表的な白ワインであるヴェルディッキオ、ウンブリアの白ワインの筆頭であるオルヴィエート、アブルッツの赤ワインの注目株であるモンテプルチアーノ・ダブルッツォなど、いずれもバラエティ豊かで、それでいてどこかで飲んだ記憶がある様な、馴染み深い味わいを持っているのです。
 ワインと料理との組み合わせは、ある意味理屈で通そうと思えば通せる部分もあるのですが、特にここイタリアでは、あらためて「組み合わせる」までもなく、地方の食文化の中から自然発生的に生まれたものでした。エミリア・ロマーニャはやや脂の多い豚肉料理で知られていますが、そういった料理を食べた後、同じ地方特産の微発泡ワイン「ランブルスコ」を飲むと、口の中がさっぱり洗い流されてすっきりします。食生活の中に溶け込んだ状態で受け継がれてきたこれらのイタリアワインが、最初から馴染み深い味わいを持っていることは、ある意味自然なことなのかも知れません。

2.微発泡ワインのテイスティング
●中部イタリアのワイン品種 
 
中部イタリアは、歴史の古い地場品種に加えて、東はギリシャから、西はスペインから、様々なブドウ品種が流れ込んで来ました。フランスの葡萄が国際品種としてかなり研究が進んでいるのに対し、イタリアの品種は、その複雑な歴史と不十分な記録のために、まだその由来や分類に不明な点が多いようです。
<ランブルスコ>
 ランブルスコはエミリア・ロマーニャ州の黒ブドウで、多種多様の種類がありますが、オリジナルはソルバーラと言われています。ローマ人が畑のそばに成育していた野生のブドウ品種をLabrusca Vitesと呼んだことが、その名の由来となっています。(現在でもアメリカ系の生食用品種は、ヨーロッパのVitis Viniferaに対しVitis Labruscaと呼ばれます。)ランブルスコ・ソルバーラはやや明るめのルビー色をしており、スミレの花などの新鮮で繊細な香りがあります。デリケートな味わいとしっかりとした酸味が特徴です。ランブルスコ・グラスパロッサは濃い黒みがかったルビー色で、柔らかなフルーツ香を持ち、適度なボディがあります。ランブルスコ・サラミーノは濃いルビー色でフレッシュな果 実香があり、タンニンも多めで中期熟成タイプのワインとなります。
 

「ヴェントュリーニ・バルディーニ・レッジャーノ・ランブルスコ 2007年」(品種:ランブルスコ/グラスパロッサ、サラミーノ、ソルバーナ、マエストリ、モンテリッコ 、産地:エミリア・ロマーニャ州)バルディーニは、150haの丘を持つカンティーナで、そのうち50haで葡萄栽培をしています。他からブドウを買い取ってランブルスコを醸造する造り手が大半を占める中、自社畑で有機栽培されたブドウのみを使用しています。通 常は軽やかでフルーティーなタイプが多いのですが、こちらのカンティーナのランブルスコは、濃厚な果 実味とコクが感じられるフリッツァンテ(微発泡)辛口赤ワインです。食前、食中と幅広く食事に合わせることができます。
 甘口のイメージの強いランブルスコですが、実際飲んでみると、しっかりとした辛口の味わいで、さっぱりしていて軽やかでありながら、赤ワインの持つ独特の後味で生ハムと絶妙にマッチングしていました。

3.白ワインのテイスティング
●中部イタリアの白ワイン品種 
<グレケット/ピニョレット>
 グレコやグレケットなどの名称の品種は多く存在するのですが、おもに中世に東地中海から伝来したとされており、似たようなタイプの白ワインが産出していました。1世紀頃の著作「自然の歴史」にピニョレットと思われる品種の記載があるそうです。グレケットと呼ばれた品種が19世紀から20世紀にかけて、ウンブリアで非常に多く栽培されていたという記録もあります。近年グレケットには、大別 して2つの異なる種が存在することが判明しました。1つはグレケット・ディ・オルヴィエートであり、黄色を帯びた濃い麦わら色で、アルコールが高く酸味も高めで、樽熟向きの品種です。もう1つはグレケット・ディ・トーディと呼ばれるもので、地方によってはピニョレットとも呼ばれています。黄緑がかった麦わら色で、豊かな酸味とボディを備えています。
<ヴェルディッキオ>
 かなり古い品種と考えられていますが、記録が残っていないためその起源は不明とされています。中部イタリアにおける数多くの教会組織が中世に残したブドウ畑の寄進や名義変更の書類の中に、ヴェルディッキオが栽培されていたと思われる記述が見られるそうです。名前の由来は、緑がかったブドウの色から。緑色のブドウを示すラテン語のViridicareやviridisに由来すると言われます。近年のDNA鑑定では、トレビアーノ・ディ・ソアヴェと同一品種であるとされています。果 房は中程度の大きさで、成熟期は中期から晩期。黄緑がかった麦わら色で、柑橘系果 実の他に白い花やアーモンドなどの豊かな香りを持ち、余韻にほろ苦さがあり、しっかりした酸味もあります。木樽で長期熟成したものは、アニスやドライフルーツなどの香りが現れます。

    
「パラッツォーネ・グレケット2007年」(品種:グレケット、産地:ウンブリア州)パラッツォーネは、オルヴィエート・クラシコで有名な造り手ですが、このワインはウンブリアで古い歴史を持つグレケット100%で醸造されています。土壌は貝の化石を多く含み、石灰石を主とした泥灰粘土質です。果 皮が厚く酸度が高いブドウで、実際に飲んでみると色も明るく、ライムや柑橘系のさわやかでそれでいてどこかハーブのような独特の香りとシャープな酸味があり、非常に繊細でドライな印象があります。良く冷やして飲みたいワインです。手長海老のテールと空豆のサラダ仕立てと一緒に味わいました。グレケットのハーブ香とサラダが意外に合いました。
「 ベリサリオ・カンブルジャーノ・ヴェルディッキオ・ディ・マテリカ・リゼルヴァ2005年」(品種:ヴェルディッキオ、産地:マルケ州)ベリサリオ・カンプルジャーノは、エジーノ川渓谷上流の220ha以上に及ぶ敷地で、良質のヴェルディッキオ種を栽培しています。ミネラル分を多く含む肥沃な土地で、ブドウ本来の個性を十分に引き出しています。ヴェルディッキオにはVerdicchio Dei Castelli Di Jesi とVerdicchio Di Matelicaの2種のDOCがありますが、このワインは後者に属します。リゼルヴァタイプも少量 造られており、熟成にも耐えられるポテンシャルを秘めています。スキンコンタクト後、9〜10ヶ月間樽熟成(バリック20%・ステンレス80%)させています。先のグレケットと比べて若干濃い麦わら色で、トーストしたアーモンドやナッツの香りを持ち、ボリュームが感あり、後味には柑橘系のほろ苦さが感じられました。こちらはマルケ州のパスタ、ローズマリーを練りこんだマルタリアーティと合わせて。魚介のパスタの味がボディのある白ワインでより引き立てられました。

4.赤ワインのテイスティング
●中部イタリアの赤ワイン品種
<モンテプルチアーノ>
 アブルッツォに起源があり、20世紀初頭にはアブルッツォ州内とマルケ南部に広まりました。長年サンジョベーゼと混同されていましたが、1875年に書かれた文献の中に、両者を区別 した記載が見つかっているそうです。ブドウは晩熟型で、特にアブルッツォ以南のものは暗めのルビー色をしており、スパイス系の香りがあり、中期熟成に向いているとされています。白ワイン醸造法で造られたロゼも有名です。
<サンジョベーゼ>
 大変に有名な品種でありながら、16世紀までは文献に記載がなく、それ以前の歴史を特定することは難しいようです。通 説によれば、赤ワインの表現や象徴のSangue(血の意)に関係が深く、天空神Giove(ジュピター)と合わせて、天からの授かりものという意味で、Sanguis Jovis(Sangue di Giove)と呼ばれるようになったというのです。またワインと関係の深い12聖人の中の1人、San Giovanniから取られたのではないかとも言われています。19世紀初頭あたりから文献にも非常に多く見られるようになり、トスカーナとロマーニャに関係の深いことが知られています。モンテプルチアーノ村で栽培されていたサンジョベーゼは、長い間モンテプルチアーノと呼ばれ、同名の品種との混乱を招きました。種子によって繁殖したこの品種は、多くの同一遺伝子型・同系遺伝子型を持つようになり、ブルネッロ、カラブレーゼ、ニエルキオ、プルニョーロ、モレリーノなどの様々な別 名、類似品種を持ちます。発芽から結実までの成長が早く、環境に敏感な品種のため、この品種から作られるワインの特徴を特定することは難しいとされていますが、ステンレス熟成のものは明るいルビー色でフレッシュな酸味を持ち、木樽熟成のものはやや深めの色合いで、スパイスや動物系の香りを持つようになります。

  
「マリーナ・ツヴェティック・イスクラ・ロッソ・ディ・アプルティーニ2003年」(品種:モンテプルチャーノ、産地:アブルッツォ州)昨年夏惜しまれつつ亡くなったアブルッツォの有名な造り手であるジャンニ・マシャレッリが造っているのですが、このワインは奥様の名前を冠した「イスクラ」という銘柄で、何処にもマシャレッリとは書いておらず、生産者名も「Marina Cvetic」と奥様の名前になっています。コントログェッラという、アブルッツォ州北部、マルケ州境目付近の標高220m、広さ30ha程の畑から、モンテプルチャーノ100%で造られたワインです。ステンレス発酵後、バリックで12ヶ月熟成させています。2003年という、記録的な猛暑で複雑な年にも、アドリア海沿岸のマルケ州とアブルッツオ州の葡萄は健全で非の打ち所がない収穫年となりました。
 非常に濃厚な色合いで、果実の凝縮感を伴いながらも、ドライフラワーの香りが感じられ、実際に口に含んでみると、存在感のあるタンニンが舌を刺激しますが、全体としては上品にまとまった赤ワインでした。イタリアの名物料理トリッパとは、当然ながら絶妙な相性を見せてくれました。

5.甘口ワインのテイスティング

    
 最後にはイタリア最高の甘口ワインを。「サンファビアーノ・カルチナイア・ヴィンサント・デル・キャンティ・クラッシコ2000年」 (品種:トレッビアーノ、マルヴァージア、サンジョベーゼ、産地:トスカーナ州 )サンファビアーノは、トスカーナで最も良いワインを多く産出しているカステリーナ・イン・キャンティ地域の定評あるカンティーナです。オーナーのグイド・セリオとエノロゴのカルロ・フェリーニ、そしてアグロノモのロッコ・ジョルジュたちの手によって、キャンティ地区を代表するワインを造りだしています。普通 のワインとは異なり、葡萄を陰干しにした後、長い年月をかけて造られています。Vinsantoとは「聖なるワイン」という意味の甘口ワインで、名前の由来には様々な説がありますが、醸造する時期がキリスト教の祭日と重なることで「サント=聖なる」と付いた、と言う説が有名です。
 濃い琥珀色をしていて、甘いプルーンやキャラメルの香りで覆われており、味わいはハチミツのように重くまろやかで、ソーテネヌよりもフルーティ。熟成したドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼを思い出させますが、より濃厚で、後味に心地よい苦みが残るところが違います。トスカーナの堅焼き菓子、カントゥッチを浸して食べるのが習わしとのことで、デザートのカントゥッチを実際に浸してみました。固い菓子が柔らかくなって非常に美味でした。

6.中部イタリアワインの歴史
B.C.534年 エトルリア人によりフェルシナ(後のボローニャ)建設
728年 ボローニャ、ロンゴバルド族の王リウトプランドによって攻略される
1088年 世界最古の大学、ストゥディオと呼ばれるボローニャ大学が創立される
1164年 ボローニャ、神聖ローマ皇帝フリードリヒ1世に対抗するロンバルディア同盟へ加わる
1405年 都市国家フィレンツェ、ピサを併合
1421年 都市国家フィレンツェ、リヴォルノを併合
1434年 メディチ家のフィレンツェ共和国支配開始
1569年 トスカーナ大公国の誕生
1716年 トスカーナ大公コジモ3世、キャンティを名乗れる生産地を厳格に定める布告を発する
1737年 トスカーナ、メディチ家断絶後オーストリア帝国へ併合
1801年 トスカーナ大公国の廃止、トスカーナはオーストリアからフランスへ、エトルリア王国の誕生
1847年 リカソリ男爵によるキャンティの品種制定
1859年 イタリア独立戦争
1861年 イタリア王国の建設

 イタリアでブドウ栽培が最初に伝播されたのは、紀元前8世紀頃とされています。南イタリアにはギリシャ人が、サルディニアにはフェニキア人が、ほぼ同時期にブドウを持ち込みました。そして中部イタリアには、イタリア原住民であるエトルリア人が既に土着ブドウ品種を使ってワインを作っていました。イタリアのワインは、フランスよりもさらに古い起源を持っています。
 フランスと異なり、イタリアはローマ帝国崩壊後、北部はおのおの自由都市国家へと独立し、南部はハブスブルク帝国など諸外国の支配下へ置かれ、19世紀にイタリア王国へと統一されるまでは、完全な分裂状態にありました。従ってワインも、フランス以上の歴史を持ちながら、フランスのように格付けによって整理されたり、イギリスなどの輸出先の影響を受けたりすることなく、長い間混沌とした状態が続くこととなります。
 15世紀後半、中部イタリアのフィレンツェ共和国で銀行業を営んでいたアンティノリ家、フレスコバルディ家がワイン業に参加し始めます。18世紀初頭にトスカーナ大公コジモ3世が、フランスとの競争力を高める目的で、キャンティワインの造り方に関する法律を制定しますが、あまり成果 が上がりませんでした。その後、19世紀半ばにイタリア共和国の初代首相であるベッティーノ・リカソリ男爵がキャンティワインに使用するブドウ品種を選び出し、質の向上が認められ有名となります。後にスーパータスカン「サシカイア」を作り出したのも貴族のロケッタ侯爵家です。まさに中部イタリアのワインは、貴族によって作り出され、守られてきたとも言えるのです。
 エミリア・ロマーニャの州都ボローニャは、多くのニックネームを獲得してきました。『学問都市』(ラ・ドッタ)の名は世界最古の有名な大学に由来し、『肥満都市』(ラ・グラッサ)の名はその食文化に由来します。学問の街が同時に食通 の街でもあるというのは、ある意味イタリアらしいという気もしますが、何よりワイン文化の本質的な部分に一番近いようにも思われるのです。

<今回の1冊>
 
マット・クレイマー「イタリアワインがわかる」白水社
「ワインがわかる」「ブルゴーニュワインがわかる」(いずれも白水社) のマット・クレイマーによる最新刊。実はこの前に「カリフォルニアワインがわかる」という本が書かれているのですが、何故か翻訳が出ていません。それならばと原書を購入したのですが、数ページで挫折。何故翻訳が出ないのでしょうか。「ブルゴーニュワインがわかる」の生産者ごとの説明に非常に助けられた私としては、ぜひとも日本語版をそばに置きたいところですが。
 さて、この「イタリアワインがわかる」ですが、ユニークなのはワインの項目がアルファベット順に並んでいること。イタリアワインといえば、全州でワインが造られているので、北から南まで順を追ってワイン産地を並べて解説するのが定番のやり方で、そうでなければ多種多様な葡萄品種を切り口に論ずる他はないと思われていました。しかし著者の狙いはあくまで「イタリアの本当に偉大なワインを知ってもらいたい」という一言に尽きるのです。そこで地理的な観点を一切排し、ワインの名称のみを手掛かりに店で購入できることを目指しています。ワイン名称は地名であることもあり、品種名であることもあるわけですが、元々イタリアワインは、地名と品種と生産者を並べただけでやたらと長くなってしまうものが多いわけで、シンプルにメインの名称だけを取り上げた本書は非常に実用的で、逆に新鮮に映るのではないでしょうか。


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