Via Vino No. 26 "South America"<南アメリカ>

 

<日時・場所>
2009年7月11日(土)12:00〜15:00 西新橋「レストラン"S"」 
参加者:17名
<今日のワイン>
白・微発泡・辛口「コノスル・ビオ・ビオ・ヴァレー・スパークリング・ブリュット」
白・辛口「ボデガ・J&F・リュルトン・メンドーサ・トロンテス2008年」
白・辛口「ドン・クリストパル・メンドーサ・ヴェルデリョ2008年」
赤・辛口「ヴィーニャ・ファレルニア・エルキ・ヴァレー・サンジョベーゼ2005年」
赤・辛口「マァジ・トゥプンガト・マルベック・コルヴィーナ2007年」
赤・辛口「トラヴェルサ・モンテヴィデオ・タナ2007年」
赤・辛口「ラ・プラヤ・コルチャグア・ヴァレー・カルメネール2004年」
<今日のランチ>
エンパナーダス
セビチェ
ロモ・サルタード
アロス・コン・レチェ
     


1.はじめに〜南アメリカワインについて
●新世界で最も早く欧州品種が栽培された土地
●南米最大のワイン生産国アルゼンチン
●国際的な舞台で先を行くチリのワイン
 南アメリカは、メキシコからアルゼンチンまでのスペイン語を公用語とする18カ国と、ポルトガル語を話すブラジルが中枢となっており、ラテンアメリカ、あるいはイベロアメリカと呼ばれています。
 南米には、イギリス、フランス、オランダ、アメリカに領有された非独立国がまだ13カ国残っています。
 総面積は約2055万平方キロメートルで、日本の約54倍、総人口は約4億8千万人で、日本の約4倍となっています。
 南米の気候は、その領土の殆どが南北回帰線の中に入るので、平地では熱帯、亜熱帯に属する土地が多いのですが、高原地帯ではそれがかなり緩和されています。現在、多くの都市が海抜1,500ないし3,000メートルの高原にあるのです。
 アンデス山脈は、その中央部、すなわちペルー南部及びボリビアにおいて最高の幅となり、山間高地や盆地が発達しています。そのため古来から標高3,000メートル以上の高地に数百万の人口が密集して文明をいとなむという、世界でもまれな現象が起こったのです。
【チリ】
 既に16世紀にヨーロッパから苗木が移植されていましたが、1980年代以後近代醸造技術が導入され、今日の国際的な名声を築きました。
 地中海性気候で冬季は湿潤、夏季は乾燥しています。最暖月の昼間の最高気温は30℃以上になりますが、夜間は涼しく、気温の日較差は海岸近くで15〜18℃、アンデスの麓で20℃以上もあり、良質ブドウの栽培には最適な土地となっています。
 地理的に海と山に囲まれ、東西南北ともに隔離されているため、害虫フィロキセラの影響を受けていないとされています。
 輸出量は急増しており、輸出量合計で世界第6位となっています。シャルドネやソーヴィニヨン・ブラン、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローといった国際品種の生産量 が多い中、土着品種のパイスやボルドー原産のカルメネールなどの注目株が知られています。
【アルゼンチン】
 世界第5位の生産量を誇るワイン産地で、その栽培地域は国土の西側、アンデス山脈の東の麓に沿った標高500メートルから1,000メートルの地域となっています。チリとは対照的に大陸性気候に属し、アンデスからの吹き下ろしの風のお陰で、温暖で乾燥しています。
 南北に連なる生産地域の中でも、アンデス山麓標高600メートルの丘陵地メンドーサ州が、全生産量 の70%を占める最大の生産地となっています。殆どの高級ワインもここで生産されています。
 お隣りのチリに刺激され、近代醸造を導入した国際品種のワインの品質が目覚ましく向上していますが、独自の品種である白のトロンテスや、ボルドー原産のマルベックでも非常に良質なワインが作られています。
【ウルグアイ】
 ワイン生産量はアルゼンチン、チリ、ブラジルに次いで第4位。1870年にはタナをはじめとするヨーロッパの高級品種が導入されました。タナの原産はバスクとされ、バスクの移民からウルグアイに持ち込まれたと言われています。
 タナは最初の伝道師の名に因み、「ハリアーグ」と呼ばれていましたが、それらはウィルスにやられ、近年フランスから移植されたものに切り替わっています。ウルグアイで生産されるタナは、その故郷である南西フランスよりも肉付きが良く、ベルベットのようにしなやかで、早飲みが可能です。
 ウルグアイはアルゼンチンとは異なり、天候は良いものの湿度が高めで、ワイン生産地は海岸都市における海洋性気候の影響下にあります。

2.スパークリングワイン

  

「コノスル・スパークリングワイン・ブリュット」(品種:シャルドネ、リースリング、ピノ・ノワール 、産地:チリ/ビオ・ビオ・ヴァレー)で乾杯しました。コノスルは、有機栽培と高品質な味わいで近年人気のあるチリワインですが、このスパークリングワインはシャルドネをベースに、若干のリースリングとピノ・ノワールを加えて造られています。シャルマ法(タンク製造)によるものですが、意外としっかりした味わいで、リースリングが若干加わっているせいか、どこか甘い香りがありました。若々しい淡いレモンイエローの色調で、泡は細かく、イチジクや白い花などの華やかな香りと、ミネラルのニュアンスや蜂蜜、酵母などの風味が重なり、しっかりとした酸味が全体をまとめ上げているという印象でした。

 最初のお料理は、「エンパナーダス」。餃子のような形をした軽食で、様々な食材を小麦粉で出来た皮で包んだ物を、オーブンで焼くか、油で揚げるかをしたものです。まさに揚げギョーザ。代表的なエンパナーダとしては、中に、カルネ(牛肉)が入ったものになります。今回頂いたものも牛肉入りのもので、非常に香ばしく、スパークリングワインとの相性もぴったりでした。

3.白ワイン
●南米の白ワイン品種 
<トロンテス>
 トロンテスはアルゼンチンの代表的な白品種で、元々はスペイン北西部ガリシアの土着品種とされています。大きく広がる大ぶりの葉を持ち、房もまた大きく、素晴らしく芳香の強いゴールデン・イエローの球状の顆粒をつけます。強い甘味のある芳香があり、バラの風味と紅茶の含み香を持ちます。マスカットの香りが特徴的で、近年ではミュスカとクリオジャ・チカとの交配とも言われるようになりました。実際、マスカット種の典型的なアロマを補完する様な、柑橘類や蜂蜜の含みが見られることもあり、これは瓶内に余韻が残る程です。
<ヴェルデリョ>
 マデイラの原料の一つとなるポルトガル原産の品種で、フィロキセラ禍後は希少な品種となっています。マデイラのものはは小さくて固い実で、高い酸が特徴です。オーストラリアでは、活き活きとしたレモンの香りのするテーブルワインとして、暑い地域を中心に成功しています。

    
「ボデガ・J&F・リュルトン・メンドーサ・トロンテス2008年」(品種:トロンテス、産地:アルゼンチン/メンドーサ)
「ポエジア」はスペイン語で「詩」を意味します。ポムロールの「クロ・レグリーズ」など、ボルドーで数カ所のプティ・シャトーの経営とワイン醸造を手がけるレヴェック家のガルサン・レヴェックと、彼女の夫でありワイン醸造家であるパトリス・レヴェックが造る、アルゼンチンならではの個性を活かした新星ワインです。
 淡いレモン色で、強いマスカットの香りがあり、ハチミツとスパイスのアロマが程よく感じられ、ピーチとオレンジの花の香りが重なります。
「ドン・クリストパル・メンドーサ・ヴェルデリョ2008年」(品種:ヴェルデリョ、 産地:アルゼンチン/メンドーサ)
「ドン・クリストバル・1492」は世界に通用するアルゼンチンワインとして2001年よりネーミングされました。 1492年はクリストファー・コロンブスがアメリカ大陸を発見した年であり、ラベルに描かれた帆船がまさにそれをイメージしています。ラティンフィーナ社は1998年に設立された新興のワイナリーですが、最先端技術を備え、コストパフォーマンスの高いワインを生産しています。
 メロンや百合の花、バラの花を思わせる、非常に華やかで豊かな香りを持ち、酸味が比較的はっきりしているので爽やかな印象が後に残ります。

 白ワインにはセビチェを。セビチェは中南米で食べられる魚介類のマリネで、ペルーが発祥の伝統料理です。小骨を良く取り除いた生の魚を1-2cm角くらいに切り、これにみじん切りにした野菜を加え、レモンをたっぷり絞って混ぜ合わせます。シラントロやパセリなどの香草やアヒ・アマリージョ(唐辛子)などの香辛料を好みで加えます。オリーブ油を加えることもあります。塩で味を整えて完成です。今回用意して頂いたものは、カレイの刺身に赤タマネギを加えたもの。レモンの風味がアロマティック系のトロンテスと、赤タマネギのスパイシーな味わいがヴェルデリョと、それぞれ合うように用意されたとのことです。

4.赤ワイン
●南米の赤ワイン品種
<マルベック>
 かつてボルドーで人気のあった品種ですが、現在では南西フランスのカオールアルゼンチンで最も多く栽培されています。多くの別 名を持っていますが、コット(コー/Cot)、そしてカオールではオーセロワとも呼ばれています。メルローほどはっきりとした果 実味がなく、花ぶるいやベト病に弱いというメルローの短所を多く持つとされ、フランス本国では衰退しつつありますが、アルゼンチンではボルドー的な風味を持つ長期熟成型赤ワインの原料として支持されています。カオールは別 名「黒ワイン」とも呼ばれ、マルベックの濃い色調を反映しています。
<タナ>
 南西地方の赤ワイン「マディラン」の原料として知られる、非常に深い色とタンニンを持った黒ブドウ品種です。タンニンはそもそもこのタナというフランス語名称に由来するとされています。原産地はバスク地方といわれ、19世紀にバスク移民によってウルグアイに持ち込まれました。
<カルメネール>
 元々18世紀の初めから、メドック地区に広く栽培されていたボルドー系品種です。その名前は「カルミネ(深紅)」に由来すると言われ、実際その色調は深く濃厚です。チリでは当初メルローと思われていた品種が実はこのカルメネールであることが1990年代に判明したことで話題となりました。

      
「ヴィーニャ・ファレルニア・エルキ・ヴァレー・サンジョベーゼ2005年」(品種:サンジョヴェーゼ、 産地:チリ/エルキ・ヴァレー)
 ヴィーニャ・ファレルニアは、チリ最北のワイン産地「エルキ・ヴァレー」の開拓者で、ヒュー・ジョンソン氏やジャンシス・ロビンソン女史も大注目の生産者です。手摘み100%のサンジョヴェーゼをステンレスタンクとオーク樽で熟成させています。濃い赤紫の色合いで、果 実香が強く、レッドチェリーを思わせるフレーバーがあり、やわらかいタンニンが特徴的で、非常にバランスが良く飲みやすい味わいの赤ワインです。サンジョベーゼという品種の味わいを本国イタリア・トスカーナの並のキャンティ以上に再現していました。
「マァジ・トゥプンガト・マルベック・コルヴィーナ2007年」(品種:マルベック70%+コルヴィーナ30%、 産地:アルゼンチン)
 イタリアのマァジは、ヴェネト地方の固有のブドウ品種が育ちうる環境を探して、New worldのいくつもの国の調査を進めてきました。そして1996年にもっとも有望な土地をアルゼンチンのメンドーサ州に、特に名前の由来となった火山の麓にあるTUPUNGATO(トゥプンガート)渓谷に見つけることができました。 
 このワインはマルベックと軽く半乾燥させたコルヴィーナを2次発酵させて造られており、ワインの名前は、この二重発酵に由来しています。半乾燥させたブドウを使用することにより、なめらかな舌ざわりとプラムなどの果 実や、カンゾウ、シナモン、ミント、胡椒などのスパイシーさをたっぷり感じることのできる、大変複雑味のあるワインに仕上がっています。イタリアのヴァルポリチェラに通 じる豊かさを感じることができました。

   
「トラヴェルサ・モンテヴィデオ・タナ2007年」(品種:タナ、産地:ウルグアイ)
  トラヴェルサ・ファミリーは、3世代にわたりブドウ畑とワインに夢と情熱をかけてきました。1904年、カルロス・ドミンゴ・トラヴェルサは両親とともにイタリアから移住、モンテヴィデオに土地5ヘクタールを購入して、自身のワイン造りの一歩が始まったのです。1956年にはダンテ、ルイス、アルマンドらの息子達により醸造所を設立。現在はカルロスの孫達がその夢を引き継いでいます。
 タナは、もともとフランス南西地方のブドウ品種ですが、ウルグアイにおいてその個性を発揮した品種として認知されています。干しイチジクやカンゾウ、黒系果 実の香りがあります。濃厚な果実味がしっかりと感じられる、飲みごたえのある1本です。まだ若いので、デカンテーション後3時間ほど置いてから味わいました。上質のボルドーワインに見られるムスク香や複雑な風味があり、おそらくブラインドで新世界ワインと思う人は殆どいないのではないかと思わせるようなワインでした。
「ラ・プラヤ・コルチャグア・ヴァレー・カルメネール2004年」(品種:カルメネール、産地:チリ/コルチャグア・ヴァレー)
 ナパのアクセルセン・ファミリーと、チリのエラスリスのパートナーシップにより、1989年に設立されたのが 「ラ・プラヤ」 です。コルチャガ・ヴァレーに約600エーカーのプロパティーを持ち、高級ワインからデイリーワインまで幅広い作品を手がけています。
 カルメネールはメドック地方の古品種ですが、フィロキセラのために20世紀初頭にほとんど壊滅し、ボルドーではフィロキセラ以後再び植えられることはありませんでした。この品種はよく熟すと、イチゴ、チェリー、チョコレートの風味が出てきます。 味わいはまろやかでタンニンのしっかりとした味わいが感じられます。濃厚な中にも洗練された味わいがあり、こちらも上質のボルドーに通 じる深味が感じられました。

 赤ワインにはロモ・サルタードを。ロモ・サルタードは、ペルーの伝統的な料理の一つで、牛肉と野菜の炒め物です。材料に多少異なる組み合わせがあり、アンデス山脈地域でも好まれているため、ペルーに限らず隣国エクアドルでも人気があります。白米(インディカ種)の上に、油でしっかり炒めた牛肉と野菜をのせて、炒め汁をかけ、その上にフライドポテトを盛り付けるのだとか。今回用意していただいた物は、お米は別 皿にして、ミディアム・レアの牛肉にタマネギとパプリカを載せたもの。向こうではかなりしっかりと火を通 してしまうのだそうですが、日本人向けに少し柔らかい仕上がりにしていただきました。南米のしっかりした赤ワインには、シンプルに牛肉を焼いた料理がやはり一番合うような気がします。

5.南アメリカワインの歴史

BC2000年頃 メキシコのオルメカ文明、アンデスのチャビン文明
15世紀 メキシコのアステカ文明、アンデスのインカ文明
1492年 コロンブスのアメリカ発見
1521年 コルテス、アステカ王国を征服
1531年 ペルーにヨーロッパ系品種の導入
1532年 ピサロ、インカ帝国征服
1551年 スペイン人によるチリへのヴィニフェラ種導入
1557年 スペイン人によるアルゼンチンへのヴィニフェラ種導入
1580年 スペインのフェリペ2世、ポルトガル王を兼ね、
      ポルトガルもその統治下に入る。
1701年 スペイン継承戦争、アメリカ大陸独占貿易の崩壊
1816年 アルゼンチンの独立
1818年 チリの独立
1825年 ブラジル戦争
1828年 ウルグアイ独立
1851年 オチャガビアによるチリへの国際品種導入
1959年 アルゼンチンのワイン法導入
1877年 初めてチリワインがヨーロッパに輸出
1979年 スペインのミゲル・トーレス、チリのワイナリーに投資
1982年 マルビーナス戦争(フォークランド紛争)
1994年 チリのカルメネールの再発見
1995年 チリの原産地統制呼称導入(DO) 
1999年 アルゼンチンの原産地統制呼称導入(DO)


 アメリカ大陸の文明は、他の影響を受けずに全く独自に発達したものでした。中央アンデスは全く文字を持たず、鉄器すらありませんでした。スペイン人が侵略した時、彼らは石器文化の段階にあったのです。アステカもインカも瞬く間に滅ぼされ、その歴史的背景はいまだに多くの謎に包まれています。
 トマト、ジャガイモ、トウモロコシ…アメリカ大陸で発見された植物は、略奪された金銀と共に、一気にヨーロッパの食生活を変えてしまいます。一方で南米の文明は徹底的に破壊され、ヨーロッパ大陸からもたらされたウィルスの大流行により、原住民の人口のおよそ85%が失われたと言われます。
 まさにその歴史に復讐されるかのように、19世紀にアメリカ大陸からヨーロッパへともたらされたフィロキセラは、ブドウ畑を壊滅状態に陥れることになります。異なる大陸の文明のぶつかり合いは、かなり劇的な影響を双方に与えたのです。
 フィロキセラ禍は、アメリカ産の台木への接ぎ木によって、何とか解決することができましたが、その試行錯誤の中で、ヨーロッパの畑や品種の様相はすっかり変わってしまったと言われています。多くの畑が打ち捨てられ、一部の品種は姿を消してしまいました。
 さて、現在南米ワインにおいて重要な存在となっている黒ブドウ品種であるマルベックやタナ、カルメネールは、本来フランス、ボルドーの主要品種でした。これらは台木との相性の問題もあり、本国フランスでの栽培面 積が縮小していく中で、南米の地に広く根付き、その本来のポテンシャルを発揮しているのです。
 南米の人々の美しさは、文明の衝突により混血が進んだためだと言われています。現在ヨーロッパのブドウはその殆どが台木への接ぎ木によるものですが、耐久性と味わいを兼ね備えた物となっているという見方も可能なのです。一方で、本国ヨーロッパで失われつつある品種は南米でその真価が再発見されています。南米ワインを飲むということは、ある意味旧世界ワインの本来の姿に触れることでもあるのです。

<今回の1冊>
 
増田義郎「物語ラテン・アメリカの歴史」中公新書
 中公新書の「物語・歴史」シリーズの中の一冊。「物語」と題するほどロマンティックな語り口となっている訳ではないのですが、その国のワインを知るにはその国の歴史から……と思う者にとっては結構手を伸ばしやすい本の一つです。導入部はいきなり「恐竜とゴンドワナ大陸」という章から始まるので少々面 食らいますが、アメリカ大陸がヨーロッパ、アジアと全く異なる歴史を辿ってきたことがよく理解できます。


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