Via Vino No. 32 "Eastern Europe"<東ヨーロッパ>

<日時・場所>
2010年6月12日(土)12:00〜15:00 虎ノ門「レストラン"S"」 
参加者:9名
<今日のワイン>
ルーマニア・白・半甘口「グラサ・デ・コトナリ 2007年 」
ルクセンブルク・白・辛口「ドメーヌ・ヴァンモーゼル・リースリング 2004年」
ハンガリー・白・辛口「マヨロシュ・トカイ・フルミント・樽熟成 2001年」
ハンガリー・赤・辛口「ティファーン・ヴィラーニ・ヤンメタル・キュヴェ 1997年」
ブルガリア・赤・辛口「テッラ・アンティカ・マヴルッド 2007年」
オーストリア・赤・辛口「マインクラング・ツヴァイゲルト 2007年」
モロッコ・赤・辛口「タンデム・シラー 2007年」
キプロス・白・甘口「コマンダリア・セント・バルナバス」
<今日のランチ>
前菜の盛り合わせ(タラトール、シガラビョレイ、サルマ、ドルマ、プハリ)
「ハーラスレー」 鶏肉のトマト煮込み
「ムサカ」
「スィミット」

   


1.はじめに〜「歴史あるワイン生産国の、復活への歩み」

● 失われたハプスブルク帝国の遺産を受け継ぐ、伝統ある新しい生産地。
● 様々な言語、宗教が混在する、民族混住の国々。
● 西方世界と東方世界とが衝突する、20世紀に至るまで戦争の続いた歴史。

 ワインといえば、フランス、イタリア、スペインといった西ヨーロッパの国々が頭に浮かびます。古代ローマから続く長い歴史と恵まれた気候・風土は、アメリカやオーストラリアなどの新世界がいかに優れたワインを生み出しても、なかなか太刀打ちできるものではないかも知れません。しかし、歴史と風土を考えるなら、東ヨーロッパのハンガリーのトカイには400年に及ぶ栄光の歴史があり、ルーマニアはフランスと同じ緯度で気候や土地にも恵まれているのです。
 古代ローマ帝国が東西に分裂した後、西ローマにはフランク王国が生まれ、やがてそれがフランスやイタリアへと受け継がれるわけですが、一方で東ローマ帝国はオスマン帝国と張り合いつつも命脈を保ち、それを受け継いだハプスブルク帝国は、現在の東ヨーロッパを殆ど包み込むほどまでに発展しました。カトリックの守護神を自負するハプスブルクのもと、華やかなワイン文化も帝国内に広まっていったのです。
 第一次大戦によりハプスブルク帝国が瓦解し、東欧の国々が共産主義国家としてソビエト連邦の影響下に置かれるようになると、ワイン産業は質より量が求められるようになり、伝統ある東欧のワインはその多くが名声を失ってしまいました。しかし現在、ハンガリーをはじめとして、これらの生産地は見直され、復活への期待も高まりつつあります。これらの国々が経験してきた苦難の歴史に想いを馳せつつ、東ヨーロッパのワインを味わってみました。

 さて、今回は田崎真也氏プロデュースのワイン専門レストラン「レストラン"S"」での開催。東ヨーロッパという難しいテーマで、かつ料理とも合わせて……となると、あらゆる国のワインを手の届く価格帯で用意して頂けるこのお店しかありません。結果として色々盛り上がってしまい、ルクセンブルクやモロッコ、キプロスのワインまで揃えて頂きました。お料理も東欧の料理をベースにしつつ、ワインとの相性を考えて色々とアレンジを加えて頂きました。

 


2.東欧/地中海沿岸ワインの概要

【ハンガリー】
 大陸性気候で夏は暑く、冬は極寒の地で、かつて世界三大貴腐ワインの一つとして、400年近くもの間語り継がれ、ルイ14世にも愛されたトカイワインで知られています。社会主義時代の停滞は今では解消され、近代化により名声を取り戻しつつあります。トカイはハンガリーの東北部、ウクライナとの国境近くにあり、フルミントとハルシュレヴェリュから高級な貴腐ワインが造られています。他に北ハンガリー地方の赤ワイン、「雄牛の血」の異名を持つ「エグリ・ビカベール」などが有名です。
【ブルガリア】  
 かつてはアルゼンチンやチリと並ぶバルクワインの宝庫として知られていましたが、今では国際品種を使った高級ワインの産地として生まれ変わろうとしています。地場品種としては、耐寒性に優れた白品種のルカツィテリや、黒品種のマヴルッドなどがありますが、バルカン山脈の南にあるトラキア・ヴァレーではカベルネとメルローが多く栽培されています。フランスのAOCに相当する原産地統制呼称として、「コントロリラン」の名称が使われています。
【ルーマニア】  
 ワイン生産の殆どは国内消費に回されていましたが、現在では自由化の波と共に栽培や醸造設備を改良し、輸出に力を入れつつあります。フランスと同じ緯度にあり、やや湿度が高く温暖ではあるものの、生産地は標高の高い黒海沿岸やカルパチア山脈付近に集中しています。主な生産地としては、「モルダヴィアの真珠」とまで言われた、北東部にあり貴腐ワインや国際品種の生産も多い「コトナリ」や、赤ワインで有名な東部の「デヤルル・マレ」などがあります。
【ルクセンブルク】
 ドイツ、フランス、ベルギーに囲まれた人口約50万人の小国です。現在では世界唯一の大公国ですが、15世紀にルクセンブルク家が断絶した後は、ブルゴーニュ公国領、そしてハプスブルク家領となり、後にオランダと同君連合を結び、世界大戦下ではドイツに占領されました。ドイツとの国境を流れるモーゼル川流域でワインが生産されていますが、その味わいは、「アルザスをさらに辛口にした」と形容され、フレッシュさと活き活きした味わいで知られています。実際、ドイツとは異なり、造られているワインは平均残糖8〜10g/Lの辛口で、オーセロワ、ピノ・ブラン、ピノ・グリなどフランス系の品種が多くなっています。

【モロッコ】
 北アフリカ諸国の中でも、モロッコ、アルジェリア、チュニジアの3国は、フランスの植民地として膨大な量のテーブルワインを供給していました。20世紀中葉には、世界のワイン取引の3分の2近くを占めていたと言われていますが、国内市場が全く確立していなかったため、独立後ワイン産業はたちまち衰退に向かいます。もっとも、その停滞が長期間に及んだため、これらの国々では葡萄の木の寿命が並外れて長く、近代的な技術を駆使することで、非常に上質なワインが産まれる可能性が高いと言われています。中でもモロッコは、良質ワインの産地として知られ、グルナッシュやカリニャンによるコクのある赤ワインが造られています。
【キプロス】
 地中海の東の端に位置する島国で、南部がギリシャ系の「キプロス共和国」、北部はトルコ占領下の「北キプロス・トルコ共和国」に分かれています。ワイン生産は殆どが南部に集中しており、得意先だったソ連の崩壊と共にワイン造りの大変換を迫られた点では、東欧諸国とよく似ています。現在では、最新の設備により、フレッシュでフルーティな国際嗜好に合ったワインが造られ始めています。歴史的にも国際的評価の高い「コマンダリア」が有名ですが、これは地場品種のジニステリやマヴロを天日干しにして、糖分を凝縮させてから発酵、酒精強化し、シェリーのように熟成させた上質な甘口ワインです。

3.白ワイン

    

「グラサ・デ・コトナリ 2007年」(タイプ:甘口白ワイン 品種:グラサ 産地:ルーマニア/モルドヴァ)    
 コトナリ社はコトナリ村の丘陵にたたずむ広大なブドウ畑を持ち、 この地方原産のブドウ品種にこだわって栽培・醸造を行っています。「ワインの女王」としばしば呼ばれるグラサ・デ・コトナリは、ルーマニアで最も高貴で甘いワインとして知られています。グラサ(grasa)は「肥えた」という意味の名を持つルーマニアの固有品種で、ハンガリーのフルミントに近い品種です。葡萄は貴腐若しくは干しブドウ状になるまで待って収穫され、オーク樽で2年以上熟成させた後、さらにセラーで二次熟成させています。色は緑がかった黄色で、時が経つにつれ緑青がかった黄金色に、さらに琥珀色にまで変化します。ドライアプリコットや蜂蜜を連想させるアロマを持ち、レーズンの甘さとアーモンドの濃厚な風味をブレンドした、ウォールナッツの果肉を思わせる複雑な味わいがあるとされます。実際に飲んでみると、色は淡く香りも華やかで、甘口ながらアルコールは控えめで非常に飲みやすく、最初の乾杯にはぴったり。酸のきりりとした味わいを楽しんで欲しいということで、最初はかなり冷やして出して頂きましたが、しばらく置いておくと、どこか不思議な、中国茶を思わせる植物的な香りが出てきて、より個性的な味わいが感じられました。若干の貴腐葡萄が入っているとのことで、香りにもどこか複雑さがあるようです。

「ドメーヌ・ヴァンモーゼル・リースリング 2004年」(タイプ:辛口の白ワイン  品種:リースリング  産地:ルクセンブルク)    
 ドメーヌ・ヴァンモーゼルは、1966年に設立された、650軒ほどの農家が参加する協同組合で、ルクセンブルクワインの約6割以上を生産しています。甘い香りがあり、味はかなりミネラル感が強く、かつリースリングらしい果実の風味があります。ルクセンブルクはドイツとの国境でワインを造っているものの、フランスの影響も強く、アルザスワインをより辛口にしたスタイルと良く言われます。実際飲んでみると、確かにアルザスのワインに近い印象。ただアルザスのワインがどちらかというと濃厚でエキス分が強くやや重たい印象があるのに対し、こちらはより軽やかに、きりっとドライに仕上がっています。それでいてしっかりリースリング独特のオイリーな味わいもしっかり感じられます。

「マヨロシュ・トカイ・フルミント・樽熟成 2001年」(タイプ:辛口の白ワイン  品種:フルミント  産地:ハンガリー/トカイ)    
 多くの家庭経営のワイナリーと同様に、マヨロシュ醸造所も体制変換後に独立しました。彼らのぶどう畑は、トカイ・ヘジャイア地区のなかでも良好な条件を持っています。主な栽培品種はフルミントとハルシュレヴェリュですが、ミュスカ・リュネルも一部栽培しています。市場に在庫がない稀少品となっています。琥珀色というより、むしろ透明感が強く黄金色の輝きがあり、レーズン、菩提樹、蜂蜜、レモン、オレンジ等が混じり合った複雑な香りを持ち、辛口というもののどこか甘さを感じさせるやわらかな味わいが印象的でした。

 さて、合わせた料理は、東欧風前菜盛り合わせ。「タラトール」は、カップ入りの冷製スープ。「シガラビョレイ」は、左側の巻いたクレープのような物。「サルマ」は、フォアグラなどの具が入ったトマト。「ドルマ」は、ナスのピューレ。「プハリ」は、緑色のニョッキ。いずれも白ワインと絶妙な相性を披露してくれました。本場東欧でも、ここまで美味しい組み合わせができるかどうか。非常に充実したひとときを過ごすことができました。

4.赤ワイン

      

「ティファーン・ヴィラーニ・ヤンメタル・キュヴェ 1997年」(タイプ:辛口の赤ワイン 品種:ケクフランコシュ  産地:ハンガリー/ヴィラーニ)   
 ハンガリーの赤ワインといえば、「雄牛の血」と呼ばれる、地場品種ケクフランコシュで造られるワインが有名ですが、「有名すぎるので」と、もっととっておきのスペシャルワインがお店から提示されました。田崎真也氏自身がじかにハンガリーから入手したという、殆ど入手不可能なワインだそうです。お店にも入手当時の資料はなく、ホームページにも殆ど紹介のないこのワイン、手元の書籍で調べた限りでは、やはり凄いワインのようで……ヴィラーニは、ハンガリーの最も高価な赤ワインを生産する栽培地区で、ヤンメタルは、「嘆きの谷」を意味するこの地域の最優秀葡萄畑、 ティファーンは、この地の造り手で、第2次大戦下この地に潜伏して追放を免れたドイツ人家族なのだそうです。10年以上の熟成を経ているということで、抜栓後ただちにデカンターに移して供されました。熟成した赤ワインならではの独特の動物香、ムスクの香りが支配的な、非常に柔らかく、それでいて余韻の長いワインでした。

「テッラ・アンティカ・マヴルッド 2007年」(タイプ:辛口の赤ワイン  品種:マヴルッド  産地:ブルガリア)   
 マヴルッド種という伝統的な土着品種から造られています。青紫が強い赤色で、ブラックベリーの香りを持ち、柔らかい酸があります。マスカット・ベリーA等にも通じる果実味があり、後味に甘さが残ります。若いワインということで、前述のケクフランコシュとは対照的に非常に果実味あふれるスタイルのワインでした。

「マインクラング・ツヴァイゲルト 2007年 」(タイプ:辛口の赤ワイン  品種:ツヴァイゲルト  産地:オーストリア/ブルゲンラント)   
 マインクラングはビオディナミ農法を実践するオーストリアの代表的なワイナリーです。ハンガリーとの国境近くに位置するブルゲンランド州ノイジードラーゼーの近くにあるワイナリーです。タンクや樽熟成庫は温度変化が少ない地下7メートルにあり、ポンプは使わず、重力を利用して醸造を進めています。美しい赤紫色で、プラムやスミレ、ストロベリーの香りがあり、優しくて丸みのあるタンニンとブーケが楽しめる逸品となっています。「ツヴァイゲルト」は、1922年にツヴァイゲルト教授によりブラウフレンキュッシュとザンクト・ラウレントを交配して造られました。ザンクト・ラウレントがピノ・ノワールに近いとすれば、こちらのツヴァイゲルトはメルローに近いと言われています。実際、ボルドーのメルローを思わせる土の香りとバランスの取れたタンニンが、比較的とっつきやすい印象を与えます。前回の「オーストリア」特集でお出しできなかったので、今回あえてラインアップに取り入れてもらいました。

「タンデム・シラー 2007年」(タイプ:辛口の赤ワイン  品種:シラー  産地:モロッコ)   
 クローズ・エルミタージュの巨匠アラン・グライヨが、サイクリング仲間のモロッコワイン第一人者ジャック・プーランとコラボレーションして造りあげた赤ワインです。2人乗りの自転車が描かれているラベルのワインの名は、そのまま「タンデム」。夏は日中温度が上がるものの夜は涼しく、雨量が非常に少ない気候で出来るワインは、凝縮感がありながらもフレッシュ。圧倒的な果実感が印象的な、エレガントなスタイルの作りのシラーとなっています。やさしい飲み口ですが、厚みのあるボディが特徴です。スパイシーな羊肉料理のムサカにぴったりの、濃厚でありながら親しみのあるワインでした。

5.甘口ワイン

  

 「コマンダリア・セント・バルナバス」(タイプ:甘口白ワイン  品種:ジニステリ  産地:キプロス)   
 キプロス大手のソダップ社によるコマンダリアです。摘み取ったブドウを藁に並べ天日に乾し糖度を高めてから発酵させるという、紀元前からの製法を踏襲しています。地味豊かな土壌、輝く太陽の下に育ったブドウからできるコマンダリアの甘美な味わいは、昔から羨望の的でした。酒精強化ワインならではの、ポートのような香りで、やさしい上品な甘さが特徴的なデザートワインでした。

6.東欧/地中海沿岸ワインの葡萄品種

「グラサ」Grasa  
 ルーマニアのコトナリで独占的に栽培される大粒の白品種です。糖度が非常に高くなりやすく、バランスを取るために他品種の酸をブレンドする場合が多いようです。貴腐に敏感で、西モルダヴィアでは15世紀から栽培されてきたと言われています。
「フルミント」Furmint  
 ハンガリー北西部のトカイ地域と国境を越えたスロヴァキアで最も広く栽培されている、良質で強い香りを持つ白品種です。オーストリアのブルゲンラント州ではモスラーと呼ばれています。ルーマニアのグラサと近い品種とされ、晩熟で貴腐の影響を受けやすく、甘口トカイワインの主原料として知られています。酸が高いため長期熟成に適しており、また糖度も高く、厚みのあるフレーバーを持っています。トカイ地域では、より香りの高いハルシュレヴェリュや、ミュスカ・リュネル(ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン)がブレンドされます。発芽は早いものの、ゆっくりと果実が成熟するので、年によっては11月に入ってかなり経つまで貴腐葡萄は収穫されません。
「ケクフランコシュ」Kekfrankos  
 オーストリアの「ブラウフランキッシュ」と同じ黒葡萄品種で、ドイツ語の「ブラウ」もハンガリー語の「ケク」も「青」(ブルー)を意味し、「フランキッシュ」も「フランコシュ」も「フランク王朝の」を意味し、古来高貴な品種に付けられた名称です。ハンガリーの「エグリ・ビカベール」(雄牛の血)の主要品種となっています。
「マヴルッド」Mavrud  
 ほぼブルガリア中南部だけで栽培されている、バルカン原産の黒品種です。完熟させると、凝縮したタンニンの強い赤ワインを造ることができます。果実は小さく収量も低く、普通は灌木の茂みの中で栽培されます。ブルガリアの他の土着品種よりもかなり早く熟成する傾向があり、オーク樽での熟成に向いているとされています。
「ジニステリ」Xynisteri  
 キプロス島で栽培されている、最も一般的な、明るい色の実をつける品種です。黒い果皮のマヴロと共に、濃厚なデザートワインであるコマンダリアの原料となります。

7.東ヨーロッパワイン・地中海ワインの歴史

1000年 イシュトヴァーン1世、キリスト教に改宗、ハンガリー王国建国
1393年 ブルガリア王国、オスマン帝国に滅ぼされ併合される
1461年 ルクセンブルク、ブルゴーニュ公国に併合される
1650年 オレムシュと呼ばれる畑で、はじめて貴腐葡萄からトカイ・アスーが造られる
1699年 ハンガリー、ハンガリー王国領クロアチアやトランシルヴァニアがハプスブルク帝国領に
1700年 ラーコーツィ侯爵、トカイ・ヘジャリアの葡萄畑を初めて分類する
1703年 ラーコーツィ侯爵、ルイ14世にトカイワインを献上
18世紀 ルーマニア、ハプスブルク家のハンガリー王国領となる
1815年 ルクセンブルク、ウィーン会議によりオランダ国王を大公とするルクセンブルク大公国に
1867年 オーストリア・ハンガリー帝国の成立
1878年 オスマン帝国、露土戦争に敗北、ブルガリアは自治公国となる
1912年 フランス、モロッコを保護領とする
1914年 イギリス、オスマン帝国からキプロスを奪う
1918年 ハンガリー民主共和国成立、ハンガリー革命、ハンガリー・ルーマニア戦争へ
1946年 ブルガリア人民共和国成立
1947年 ルーマニア人民共和国成立
1949年 ハンガリー人民共和国成立
1956年 モロッコ王国、フランスから独立
1960年 キプロス、イギリスから独立
1960〜70年 ブルガリアワイン生産量拡大
1974年 トルコ、キプロスに侵攻、キプロスの分裂
1980年代 ブルガリアでのカベルネ・ソーヴィニヨンのブーム
1985年 ゴルバチョフ、ソ連共産党書記長就任、飲酒を規制
1989年 社会主義体制の崩壊
1990年 ブルガリアでの国営公社ヴィンプロンの解体

 ブルガリアのワイン造りは、4000年以上前のトラキア人の時代までさかのぼるものの、ワイン産業の形成は1950年代から始まります。1960年代には国際品種を導入、1970年代にはカリフォルニアワインの醸造技術が取り入れられ、1980年代には西欧諸国への輸出も始まり、英国を中心にカベルネ・ソーヴィニヨンのブームを巻き起こします。しかし、ゴルバチョフによる反アルコールキャンペーンにより、1985年には450万hlあった年間生産量は、1990年には180万hlまで減少してしまいます。
 ルーマニアは紀元前にはダキアと呼ばれ、約6000年前のワインの容器が発見されるほどワイン産地として発展していました。「モルダヴィアの真珠」と評される「コトナリ」は、1889年フランスのパリ博覧会で最高賞を獲得し、これによりパリでルーマニアワインが大流行します。しかし1947年にルーマニアは社会主義国家となり、国際市場からは遠ざかってしまいました。共産圏の有力なワイン生産地として、ソ連へのワイン供給の役割を果たし、1960年代には広大な面積の耕作地がブドウ畑に転換され、1990年代後半にはヨーロッパの中でも第5位の生産量を誇ることになります。輸出が大半を占めるブルガリアやハンガリーと異なり、国内消費が大部分を占めていますが、社会主義体制の崩壊と共にそのワインは海外でも知られるようになります。
 古代ローマの時代から葡萄産地として知られていたハンガリーでは、発掘によって13世紀頃には既にトカイワインの主要品種であるフルミントなどが植えられていたことが知られています。しかし16世紀以後、トルコによる占領で葡萄畑は破壊され、続くハプスブルク家による占領で高額関税をかけられ、黄金時代を謳歌していたハンガリーワインは苦境に陥ります。1867年のオーストリア・ハンガリー帝国の成立により自由を得たハンガリーワインは、フランス、イタリアに次ぐ世界第3位の生産国となりますが、19世紀後半にフィロキセラにより大きな打撃を受け、さらに20世紀に入りソビエトに占領されると、ワイン協同体や生産者連合は解体され、多くの葡萄畑が国有化されてしまいます。結果として、数万haに及ぶ歴史的な葡萄畑は完全に消滅してしまい、現在に至るまでその打撃から立ち直れてはいないと言われています。
 東ヨーロッパが、政治的な足枷から自由になってから、まだ20年程度しか経っていません。数十年の樹齢を誇る葡萄や、百年近い熟成が可能なワインの世界から比べれば、まだその復活への歩みは始まったばかりであり、本当の意味で真価を発揮できるようになるためには、まだ数十年はかかるかも知れません。しかし、だからこそ、黎明期にあるワインを今この時代に味わえるということは、ある意味得難い体験だと言えるのではないでしょうか。

<今回の1冊>
   
ロハーイ・ガーボル他「ワインの国ハンガリー」美術出版社
 まだまだ日本にとっては東ヨーロッパの国々はなじみのある場所とは言えません。実際、フランスやイタリアのワインに比べると、殆ど資料もないに等しく、ネットショップでもそうそう見つけることはできません。というわけで、参考になる本もなかなかないなあと思っていたところ、偶然書店で見つけたのがこの本でした。A4版・260ページ・フルカラーで一冊まるごとハンガリーワイン、トカイの貴腐ワインがかろうじて専門店で買えるかなあという国で、こんな立派な本が出版されているなんて……と驚きましたが、やっぱり買っておいて良かったです。お店で当日出されて驚いた「ヴィラニー・ヤンメタル」も、この本には少しばかり記載がありました。この本が話題になって、日本でハンガリーや東欧のワインがもっと広まるとうれしいなあと思います。


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