Via Vino No. 45 "Wine & Music II"<ワイン音楽U>

<日時・場所>
2012年9月29日(土)18:30〜21:00 丸の内「エスカール・アビタ」 
参加者:15名
<今日のワイン>
白・辛口・発泡性「フランソワ・スコンデ・クラヴィエ」
白・辛口・発泡性「ケーヴェリッヒ・リースリング・ゼクト・ベートーヴェン」
白・辛口「“Y” by Yoshki シャルドネ 2008年」
赤・辛口「アリエッタ・レッド・ヴァリエーション・ワン 2000年」
赤・辛口「オーパス・ワン 2006年」
<今日のランチ>
オードブルの盛り合わせ
(人参のムース、ホタテ貝柱と茄子のグリル、 松茸とジゴ(子羊モモ)のサラダ仕立て)
穴子のブレゼとフォアグラ 貴腐ワインのソース
牛タンのシチュー・フィジッリ添え
デザート: 抹茶のアイスクリームとガトーショコラ

   


1.音楽とワイン

名だたるワインと名だたる音楽家たちの、意外なつながり。
ハイドンも、モーツァルトも、ベートーヴェンも…。
そして、YOSHIKIやDEENまで。
 
「ワインと音楽」第1回でも紹介したように、ワインと音楽には色々と繋がりがあるように思えます。常に変わらぬ姿を持つ絵画や文学と違って一期一会、味わいもメロディも出会った瞬間に次々に消え去り、あとは「印象」だけが残されます。人を熱狂させ、陶酔させる一方で、一つ一つの音符は数学的な規律に従っていて、それを演奏するには冷静な判断が必要になります。

ヨーロッパの宮廷音楽家たちは、当然ながら王室や貴族をパトロンとして持っていたので、必然的にワインの世界と関わることになります。ハイドンが仕えていたオーストリアのエスターハージー家は、現在も良質なワインを造り続けています。あのベートーヴェンも、その母方はワイン醸造所と繋がりがあるとされています。一方で、モーツァルトの音楽を聴かせることで樽の中のワインの状態がより良くなるとして、実際にそのような造り方を行ったワインも販売されています。

「作曲をする時、私は楽譜に音符を書いていきます。楽器は滅多に使いません。頭の中で全てのメロディが聞こえるからです。そしてこの工程でほとんど完成します。ワインは私にとって音楽と同じです。口に含む度にイマジネーションが広がり、心が解き放たれます」…まるでモーツァルトの話のようですが、これはX−JAPANのYOSHIKIの言葉。最近、「神の雫」の原作者とコラボレーションした楽曲を発表したDEENなど、音楽とワインのマリアージュの世界は、これからも広がっていきそうです。

2.スパークリングワイン
 
    

「フランソワ・スコンデ・クラヴィエ」(タイプ:辛口の白・発泡性  品種:シャルドネ2/3、ピノ・ノワール1/3  産地:フランス/シャンパーニュ)
 フランソワ・スコンデは、シルリー村に1976年に創立されたシャンパン・ハウスで、18世紀のシャンパーニュ地方の発泡性ワインを代表する栄光の「シルリー・ムスー」を現代に再現した、モンターニュ・ド・ランスの新星です。現在、シルリー村には2軒のドメーヌが存在していますが、シルリー100%のテロワールを表現したシャンパーニュを造っているのは、このフランソワ・スコンデのみ。涼しげな果実味、酸、繊細な泡立ちがどれも突出する事なく、見事に調和されたフィネス溢れるシャンパーニュです。  白葡萄と黒葡萄のセパージュ比率の白黒具合がピアノに似ているため、クラヴィエ(鍵盤)と名付けられていますが、これはまた、フランソワ氏の娘Claire(クレール)と、不慮の事故で亡くなった息子Xavier(グザヴィエ)の名前を組み合わせたものでもあるのです。
 実際に味わってみると、シャンパーニュならではのイースト香が強く感じられ、酸味がしっかりとした、切れ味の良い正統派のシャンパーニュでした。

「ケーヴェリッヒ・リースリング・ゼクト・ベートーヴェン」(タイプ:辛口の白・発泡性  品種:リースリング  産地:ドイツ/モーゼル)
 ケーヴェリッヒ醸造所は、中央モーゼルにある小さなケーヴェリッヒ村のほぼ中心に位置し、ワイナリーの目の前の通りが「ベートーヴェン通り」です。このワイナリーは、あの大作曲家ルードヴィッヒ・ファン・ベートーヴェンの母親マリア・マグダレーナ・ケーヴェリッヒが生まれ育った家で、マリアはボンに居をおいていたケルン選帝侯の宮廷テノール歌手であったヨハンと結婚し、1770年12月に生まれた第三子が、 ルードヴィッヒ・ファン・ベートーヴェンでした。ベートーヴェンも、幼少の頃から慣れ親しんだケーヴェリッヒ・ワインを飲みながら、「第九交響曲」の作曲を手掛けたと伝えられています。
 シャンパーニュと比較すると、やはりリースリング独特の重厚さが感じられ、スパークリングワインながらどっしりとした厚みの感じられる、余韻の長いゼクトでした。

3.白ワイン

  

「“Y” by Yoshki シャルドネ 2008年」(タイプ:辛口の白  品種:シャルドネ  産地:アメリカ/カリフォルニア)
 2009年春にはシャンパーニュ騎士団からシュバリエ(騎士)の称号を受けたほどのワイン愛好家で、現在はカリフォルニアに拠点を置くYoshikiが、カリフォルニアワインの象徴でもある故ロバート・モンダヴィの長男マイケル・モンダヴィとコラボレートしたワインが「“Y” by Yoshiki」です。「“Y”は、マイケル・モンダヴィ・ファミリーと共に、ワインと音楽への私の情熱から創造されたワインです。」(Yoshiki)「白ワインはしっかりとしたスタイル」というYoshikiのイメージのもと、マイケル・モンダヴィ、息子のロバート・モンダヴィJr. と共にティスティングを重ね、自身が納得するブレンドを造り上げました。
 香りが甘く、しっかりとした樽香が感じられ、味わいもどこかまろやかである意味贅沢な、新世界ならではのスタイルの白ワインでした。

4.赤ワイン

    

「アリエッタ・レッド・ヴァリエーション・ワン 2000年」(タイプ:辛口の赤ワイン  品種:メルロー72%+シラー28%  産地:アメリカ/カリフォルニア/カーネロス地区)
 ジョン・コングスガード夫妻とフリッツ・ハットン夫妻が共同で所有している「アリエッタ」。カーネロス地区の畑が、フランス・メルローの産地ポムロールに類似していることをいち早く見つけ、栽培に取り掛かった結果、最上級のブドウを得ることができました。1999年までは「アリエッタ・メルロー」として販売されていましたが、2000年からは「アリエッタ レッド ヴァリエーション・ワン」と名前が代わっています。ベートーヴェンが残した最後のピアノソナタ「オーパス111 アリエッタ」直筆による楽譜の一部がラベルに使われていますが、この楽譜はクラシック音楽の頂点のひとつとして高く評価されており、アリエッタとそれに続く4つのヴァリエーション(変奏)から構成されています。
 12年の熟成を経ただけあって、やや澱がありますが、レーズンのようなまろやかな香りが印象的で、落ち着きながらもしっかりとした酸味が感じられるワインとなっていました。ベートーベンのピアノ・ソナタ「アリエッタ」の演奏に合わせて味わいましたが、熟成したメルローの繊細な味わいはピアノ曲のイメージに合うように思われます。

オーパス・ワン 2006年」(タイプ:辛口の赤ワイン  品種:カベルネ・ソーヴィニヨン77%、メルロー12%、カベルネ・フラン5%、プティ・ヴェルド3%、マルベック3%   産地:アメリカ/カリフォルニア/ナパ・ヴァレー)
 バロン・フィリップ・ロートシルトと、ロバート・モンダヴィのジョイントで1979年に誕生した、カリフォルニア最良の赤ワイン「作品番号第一番」です。「文化や伝統の違いを取り入れ、ボルドーとカリフォルニアから最高の人材と技術を使って独自のスタイル、特色、格式を持つワインを造る」という構想を見事に結実させた作品となっています。現在では、モンダヴィを傘下に持つコンステレーション・ブランズと、バロン・フィリップの共同経営のもと、栽培・醸造・マーケティングの部門の運営で独立を保っています。深く濃いルビーカラー、モカコーヒーやバニラ・熟したダークチェリーのアロマ、控えめの酸、デリケートなタンニン、クリーミーで豊満、ビターチョコの香りとスパイシーな長いフィニッシュを味わうことができます。2006年ビンテージということで、ややまだ若いといった印象ですが、さまざまな味わいが重なっていて、フルオーケストラの音楽を想起させる味わいです。ブラームスの交響曲第一番・第4楽章と合わせて味わいましたが、ベートーヴェンの影響がベースにありながらもロマン派ののびのびとした楽想を持つ終楽章は、ボルドーの伝統に根ざしながらもカリフォルニアの陽光をイメージさせるこのワインに合っているのではと思いセレクトしました。

5.ワインと音楽

 今回も第13回と同様、ワインにちなんだ音楽をいくつか選んでみました。前回と重複しているものもいくつかあります。

「ハイドン〜オラトリオ・四季」 (リリング指揮、ゲヒンゲン聖歌隊)    
 
2度にわたるロンドン生活を経て、オーストリアへと戻ったハイドンが、齢70に近づく老体に鞭打って完成させた最後の大作がオラトリオ「四季」です。この楽曲の第三部「秋」のパートの最後、第28曲に、ワイン万歳を謳った合唱曲が置かれています。大地の恵みであるワインを楽しみながら、声高らかに歌い、陽気に踊り回る人々がストレートに描かれています。    

「ベルク〜ワイン」 (アバド指揮、ウィーン・フィル/アンネ・ソフィー・フォン・オッター)  
 1929年に作曲されたコンサート・アリア「ワイン」は、ベルクが歌手ヘルリンガーからの依頼で、ボードレール「悪の華」の中から3つを選んで曲を付けたものです。

「ベートーヴェン〜ピアノ・ソナタ第32番 “アリエッタ”」(ピアノ:ヴィルヘルム・ケンプ)
 ベートーヴェンのピアノソナタ第32番ハ短調作品111は、作曲者の最後のピアノソナタとなった作品。1821年から1822年にかけて作曲されました。この作品は、ベートーヴェンの数あるピアノソナタの中でも、第1楽章の対位法主体の進行や、第2楽章の変奏曲形式など完成度が特に高いとされている傑作です。

「ブラームス〜交響曲第一番ハ短調」(ヴァント指揮、北ドイツ放送交響楽団)
 ヨハネス・ブラームスが作曲した4つの交響曲のうちの最初の1曲。ハンス・フォン・ビューローに「ベートーヴェンの交響曲第10番」と呼ばれ高く評価されました。「暗から明へ」という分かりやすい構成ゆえに、第2番以降の内省的な作品よりも演奏される機会は多く、最もよく演奏されるブラームスの交響曲となっています。

「ベートーヴェン〜交響曲第9番」 (レナード・バーンスタイン指揮、ウィーン・フィル)  
 終楽章に合唱が導入された、ベートーヴェン最後の交響曲。バーンスタインによる1970年のライブ録画DVD。9作目にして生涯最後の交響曲というジンクスは、その後シューベルト、ドボルザーク、ブルックナー、マーラー、そしてヴォーン・ウィリアムスにまで及ぶこととなります。  

<今回の1枚>

   
アルバン・ベルク「ワイン」(グラモフォン)
 ワインにちなむクラシック音楽にはどんなものがあるかなあと漠然と探していたら、ありました、文字通り「ワイン Der Wein」というタイトルの曲が。作曲はアルバン・ベルク。シェーンベルクの十二音技法を受け継ぎ、前衛的なオペラ「ヴォツェック」と「ルル」、マーラーの未亡人アルマの娘マノンへ捧げられた「ヴァイオリン協奏曲」で有名ですが、この「ワイン」という作品は、ボードレールの「悪の華」の詩に曲を付けたもの。「文学とワイン」で取り上げた詩人ボードレールと、「音楽とワイン」で取り上げた作曲家ベルクとが、まさに作品の上で繋がったのが「ワイン」だったというわけなのです。

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