Via Vino
No. 46 "Sherry"<シェリー>
<日時・場所>
2012年11月10日(土)18:30〜21:00 銀座「バル・デ・オジャリア」
参加者:21名
<今日のワイン>
辛口・マンサニージャ「ペドロ・ロメロ・マリア・クリスティーナ・マンサニージャ」
辛口・フィノ「ウィリアムズ&ハンバート・コレクション・フィノ」
辛口・アモンティリャード「ペマルティン アモンティリャード」
辛口・パロ・コルタド「エミリオ・イダルゴ・マルケス・デ・ロディル・パロ・コルタド」
辛口・オロロソ「バードン・ドライ・オロロソ」
甘口・ペドロ・ヒメネス「テレサ・リベロ・ラウレアード・ペドロ・ヒメネス」
<今日のランチ>
冷製タパス(前菜)7品
[オリーブ、トルティージャ、ピクルス、ピスト(野菜のトマト煮)、エスカベチェ(南蛮漬)、真鯛のプディング、秋刀魚の酢漬他]、
温かいお料理
チャンケテ(白魚フリット)
ツブ貝のドノスティアラ風
タラのナバラ風
鶏・茸・栗の煮込み カジョス(モツ煮)
オジャ・ネグラ(イカスミおじや)
バニラ・アイス
<写真提供:tosico様>
1.シェリーについて
● スペインのヘレス特産、独自品種を用いた酒精強化ワイン。
● 洗練された食前酒でもあり、魚介に合わせやすい地酒でもあるワイン。
● まさに、旅をさせるな、ではなく、旅をさせるために作られたワイン。
南スペインで、通常のワインにアルコールを添加して造られる酒精強化ワイン、それがシェリーです。シェリーはスペイン本国では「ヘレス」と呼ばれており、ヘレスはアンダルシア地方の地名なので、シャンパーニュやポートと同様、どこでも造られるものではありません。
日本ではあくまで食前酒として扱われることが多いようですが、地元スペインでは、むしろカジュアルな食中酒。一口サイズのタパスと共に気軽に楽しめるお酒として、バルでさかんに飲まれています。酸味が低くアルコールが高めなので、日本酒や紹興酒に近いスタイルで、魚介類にも合わせやすいワインなのです。
シェリーという英語名がメジャーとなっているように、シェリーの普及はイギリスによってもたらされました。フランスと戦争状態にあったイギリスが、スペインからワインを輸入しはじめたのが始まりと考えられます。酒精強化やソレラシステムなど、シェリー独特の製法は、まさに輸出するために工夫されたものだったのです。
2.マンサニージャ/フィノ
まず基本となる辛口のワインをパロミノで通常のアルコール発酵で造ります。発酵温度をコントロールするためにステンレスタンクを用いる場合が多いようです。そしてそれを樽へ移して熟成させますが、満量充填せずにワインがやや空気に触れる状態にします。これにより「フロール」と呼ばれる産膜酵母による膜が液面に発生します。ワインは15%までアルコールが添加され、これによりフロールの活性は妨げられず、酸化による褐変が防止され、黄色く透明なすっきりとした辛口の「フィノ」が造られます。なお、「サンルーカル・デ・バラメーダ」で造られるフィノは「マンサニージャ」と呼ばれます。
「ペドロ・ロメロ・マリア・クリスティーナ・マンサニージャ」(タイプ:辛口/マンサニージャ 品種:パロミノ100% 産地:スペイン/サンルーカル・デ・バラメーダ アルコール度15%)
1860年に創業者のヴィセンテ・ロメロにより設立されました。創業当時からの伝統的ソレラ・システムを採用し、葡萄畑はサンルーカル・デ・バラメーダ地区に100haの自社畑を持っています。「マリア・クリスティーナ・マンサニージャ」は、パロミノ種を100%使用し、永続的に生じたフロールの下で、3年間の熟成を施しています。薄い黄金色で、穏やかな心地良い白い花を想わせる香り、フレッシュで軽快な口当たりと滑らかな味わいから、あらゆる種類のタパスや魚介料理と最高の相性を持っています。
「ウィリアムズ&ハンバート・コレクション・フィノ」(タイプ:辛口/フィノ 品種:パロミノ100% 産地:スペイン/ヘレス アルコール度15%)
1877年、イギリス人のアレクサンダー・ウィリアムズが義父のアーサー・ハンバートと共に興した、スペイン最大のボデガを持つウィリアムズ&ハンバート社。同社が世界的名声を築き上げてきたルイス・パエス社の「ドン・ソイロ」ブランドを引き継ぎ、より優れた品質と長い熟成を重ねたシェリーとしてリリースしたのが「ウィリアムズ&ハンバート・コレクション」です。厳選したパロミノ種のファーストプレスの果汁のみを使い、ホワイトオーク樽でのソレラ・システムによる熟成を経て生まれる辛口のフィノで、かすかに緑色を帯び、輝く透明感のある黄色の色調があります。その香りはストレートで華やかで、すっきりとした酸味を持ちながらも丸みがあり、口中には熟成による繊細な複雑さが広がります。
3.アモンティリャード/パロ・コルタド/オロロソ
<写真提供:Wakita様>
フィノと同様にパロミノから造られますが、フロールが付かなかった、もしくは敢えて付けなかった物は、18%までアルコールが添加され、これによりフロールの発生は抑えられるため、酸化の影響で褐色になり香ばしい風味の強い「オロロソ」となります。なお、フロールの付いていたフィノ・タイプから、フロールが途中で消失した、もしくは人為的に消失させた物は、17%まで酒精強化され、「アモンティリャード」となります。
「ペマルティン・アモンティリャード」(タイプ:辛口/アモンティリャード 品種:パロミノ100% 産地:スペイン/ヘレス アルコール度18%)
「ペマルティン」ブランドは、1810年にシェリー醸造における先駆的な存在として有名な「ジュリアン・ペマルティン」によって設立されたホセ・ペマルティン社をルーツとしています。現在は、「フェデリコ・パテルニナ」というスペインのシェリー醸造の大手に引き継がれておりますが、「ペマルティン」と「ホセ・ペマルティン」の両ブランドに関しては、昔ながらの伝統的な製法にこだわって造り続けられています。日本ではこの11月に新しく輸入されたブランドです。アモンティリャードは、フィノをより熟成させたタイプですが、濃い琥珀色で、ナッツのような香ばしい風味があり、非常に余韻の長い味わいとなっていました。
「エミリオ・イダルゴ・マルケス・デ・ロディル・パロ・コルタド」(タイプ:辛口/アモンティリャード 品種:パロミノ100% 産地:スペイン/ヘレス アルコール度18%)
エミリオ・イダルゴ社は、1874年の設立。葡萄畑はシェリーの生産地区の中心にあり、ボデガはヘレスの街の中心地区にあります。近年は伝統的手法を守りながらも最新設備の導入を図り、高品質のシェリーは国内外の評価も非常に高いものとなっています。輝きのあるマホガニー色で、ヘーゼルナッツの香りがあり、辛口でバランスの取れた、エレガントで大変余韻の長いワインとなっています。パロ・コルタドは、アモンティリャードのソフトな香りの特性と、オロロソの充実度とボディを兼ね備えた稀少なシェリーですが、マルケス・デ・ロディルは、食事とも合わせやすい比較的軽快な味わいに仕上がっています。
「バードン・ドライ・オロロソ」(タイプ:辛口/オロロソ 品種:パロミノ100% 産地:スペイン/エル・プエルト・デ・サンタ・マリア アルコール度20%)
ジョン・ウィリアム・バードン社は、ダフ・ゴードン社で働いていたジョン・ウィリアム・バードン氏が独立し1854年に商社としてスタートしたもので、ボデガはサンタ・マリアのハーモニー社を買収して獲得しました。その後クエスタ社、カバジェロ社へ引き継がれ、一時期ルスタウのセカンドとして販売されていましたが、現在では再びバードン社の名前が復活しています。現在スペイン本国では飲めない、輸出専門の銘柄です。ほど良い熟成感で酸味、甘味のバランスがすばらしく、心地よい余韻も楽しめるオロロソでした。
4.甘口シェリー
「テレサ・リベロ・ラウレアード・ペドロ・ヒメネス」(タイプ:甘口/ペドロ・ヒメネス 品種:ペドロ・ヒメネス100% 産地:スペイン/サンルーカル・デ・バラメーダ アルコール度18%)
1803年創業のボデガ・カイシャは、サンルーカル・デ・バラメーダ最大手の協同組合でしたが、2010年よりグループ・ガーベイの傘下になり、ボデガス・テレサ・リベロとなりました。1803年からの伝統に最新技術も取り入れながら、低価格でありながらも高品質を誇っています。厳選された葡萄を使用し、最新設備を導入、良質のワイン造りにたゆまぬ努力を続けています。約8年熟成され、色は濃い赤褐色。レーズンのような独特の風味が楽しめる極甘口シェリーです。バニラアイスと一緒に供されましたが、バニラアイスにこのペドロ・ヒメネスをかけると、まさに絶品のデザートとなりました。
5.シェリーの歴史
B.C.1000〜700年 フェニキア人による葡萄栽培導入 711年 イスラムの侵入
1236年 コルドバ陥落
1248年 セビリア陥落、イスラム圏はグラナダが残る
1264年 レコンキスタ〜アルフォンソ10世によるヘレスの征服
1338年 英仏百年戦争の勃発、英国でヘレスのワインの需要が高まる
1469年 カスティーリャ王国とアラゴン王国の統一
1483年 スペインにおいて葡萄栽培者やワイン醸造者達によって協同組合が作られる
1485年 英国のヘンリー7世による航海条例、英国への輸入は英国籍船のみに認められる
1492年 グラナダ陥落、イスラムの撤退
1587年 英国のフランシス・ドレイク、カディスを攻略、三千樽のシェリーを奪う
1651年 オリバー・クロムウェルによる航海条例、輸入品の英語化が進む
1653年 最も古いCZブランドによる税金支払いの記録
1682年 英国人フィッツ・ジェラルドによる産地に取引会社を設立した最初の外国人の記録
1781年 マンサニージャの登場
1823年 フィノの登場、ガルウェー社のフィノ、サン・パトリシオが輸出される
1834年 ヘレスのギルドの解散、シェリーの貯蔵熟成が自由化される
1894年 フィロキセラ、ヘレスを襲う
1933年 スペインのワイン法の制定
1935年 ヘレスD.O.の制定
1983年 巨大企業ルマサ、国家に接収される
シェリーはスペイン固有のワインですが、スペイン本国では「シェリー」と言っても通じません。スペインではあくまで「ヘレス」。一見似ても似つきませんが、もともと「ヘレス」の地は、「ヘラ(XERA)」「セレト(CERET)」と呼ばれていました。イベリア半島を征服したイスラム教徒はこの地を「シェリッシュ(SHERISH)」と名付けましたが、スペイン語には「SH(シュ)」の発音はないので、再びこの地がキリスト教徒に奪還された時には、「ヘレス(XERES)」となり、フランスなどにはこの綴りが残りましたが、スペインでは「ヘレス(JEREZ)」となったのです。一方でヘレス産のワインは早くからイングランドに輸出されていたので、「シェリッシュ」の名がそのまま残り、「シェリー(SHERRY)」となりました。
フランスのボルドーやシャンパーニュ、スペインのシェリー、ポルトガルのポートやマディラ……これらのワインは、ある意味流通を握っていたイギリスが作り上げたものだとも言えます。ボルドーを含むアキテーヌ公国を領土に加えたイングランドは、百年戦争によってフランスからのワインの輸入が困難になると、スペインやポルトガルのワインに目をつけました。自国に有利な航海条例によって、これらのワインはむしろ英国名で流通するようになり、今もその名が残されているのです。「ワインは旅をさせるな」と言われますが、シェリーやポートは、まさに旅をさせるために酒精強化によって高いアルコール度数や高い糖度を持つようになりました。
ワインを規定する原産地統制呼称、シェリーのラベルを見ると、「JEREZ(ヘレス)XERES(ケレス)SHERRY(シェリー)」と、スペイン語・フランス語・英語が併記されています。他のワインのように原産地の名前のみではなく、三ヶ国の名称が認定されていることは、シェリーの国際性、広く世界に愛されたワインとしての歴史が反映されているように思われます。一方でサンルーカル・デ・バラメーダのフィノ・タイプであるマンサニージャは別の原産地呼称を持っていて、「ヘレス・ケレス・シェリー」という呼称は入っていません。マンサニージャという名称はフィノよりも先に歴史に登場しており、フィノを上回るクリアデラ群の数がフロールの安定化をもたらして、微妙に異なる味わいをもたらしているのです。
<今回の1冊>
中瀬航也「シェリー酒」(PHPエル新書)
まさに帯にあるように、シェリーに関して「日本語で読める最高のガイドブック」です。今回お世話になった「銀座バル・デ・オジャリア」の中瀬航也氏が10年前に書かれた本で、ソムリエ教本などでは当時見開き1ページ程度しか記載されていないシェリーについて、まさにまるごと一冊解説されています。製法から銘柄まではもちろん、ややこしいシェリーの分類やソレラシステムなども、この本では非常に丁寧に書かれていて、他の本では今ひとつピンと来なかったことも明確に理解できるようになりました。