Via Vino
No. 50 "World Sherry Day : Japanese Food with Sherry"
<ワールド・シェリー・ディ〜和食とシェリー>
<日時・場所>
2013年5月26日(日)18:30〜22:00 渋谷「なだ万茶寮店」
参加者:22名
<今日のシェリー>
辛口・マンサニージャ「エレデロス・デ・アルグエソ・サン・レオン・マンサニージャ」
辛口・フィノ「ウィリアムズ&ハンバート・コレクション・フィノ」
辛口・アモンティリャード「ウィリアムズ&ハンバート・コレクション・アモンティリャード12年」
辛口・オロロソ「エレデロス・デ・アルグエソ・オロロソ」
甘口・クリーム「ウィリアムズ&ハンバート・コレクション・クリーム」
甘口・ペドロ・ヒメネス「エレデロス・デ・アルグエソ・ペドロ・ヒメネス」
<今日のディナー>
旬菜/煮鮑と肝ソース、唐墨カッペリーニ、子持ち昆布辛子マヨネーズ、鰹笹巻箱寿司・錦糸卵、稚鮎と山うにのカナッペ
お造り/鮪漬けアボカドピンチョス、鯛塩辛千草和え、鯵サマーロール・ポン酢ジュレ
焼物/駿河産釣り太刀魚・うすい豆のグリーンソース、赤地鶏シェリー酒揚げ、蓮根煎餅
煮物/賀茂茄子田楽、針葱、海老・帆立、二色万願寺唐辛子
食事/茶蕎麦サラダ 桜海老ばら揚げ
デザート/シェリー酒のデザート
1.和食とシェリーについて
● 辛口から極甘口まで、多彩な味わいを持つシェリー。
● 現地では食前酒というよりもむしろ食中酒。
● 魚介類を中心とした日本料理とは抜群の相性を見せてくれます。
日本ではシェリー、特にドライ・フィノ・シェリーは、代表的な食前酒として扱われています。シェリーを輸入していた欧米では、コース料理の中で辛口は食前、甘口は食後に親しまれていた部分もあり、日本もその影響を受けたと言えるかも知れません。しかし、実際には現地スペインで、バルなどでタパスなどと共に気軽に食中酒として楽しまれています。
原産地であるヘレスやマンサニージャは海に近く、魚介類と一緒に飲まれていて、アルコールが高く酸が低いところなども日本酒に通じるものがあります。濃厚なスタイルのアモンティリャードなどは、日本の古酒やみりん、中国の紹興酒に通じる香ばしさを備えています。日本でももっと親しまれて良いお酒だと言えるでしょう。
5月26日は「ワールド・シェリー・ディ」でした。この日は世界同時に、様々なシェリー関連のイベントが開催されました。ここ日本でシェリー・ディを祝うのなら、やはり日本料理がふさわしいと考え、日本的な和の料理に対して、スタンダードなシェリーの組み合わせを提案致しました。今回の日本料理はなだ万さんのこの日のためのオリジナルレシピ。シェリーとの相性を考慮しつつ、和のテイストをしっかり打ち出した魅力的なメニューが揃いました。
【ワールド・シェリー・ディについて】
World Sherry Dayは1933年5月26日にシェリーの原産地呼称が認められたことを祝福するために、80周年という記念すべき節目の年にスタートした運動です。
↓「ワールド・シェリー・ディ」
http://www.worldsherryday.com/about-world-sherry-day/
シェリー・マンサニーリャ原産地統制委員会のジェネラル・マネージャー、セサル・サルダーニャ氏は下記のようにWorld Sherry Dayについて語っています。
「シェリー・マンサニーリャ原産地統制委員会、シェリーの生産者の協力により世界中の数百人に上るシェリー・アンバサダーを誕生させました。私は最初のワールド・シェリー・ディがとてもユニークなイベントになる事を確信しています。」
今回は特別編・ワールド・シェリー・ディ。実際のところ世界各地でシェリー・エデュケーターやヴェネンシアドールによって様々なイベントがこの日に開催されます。日本だけでも、京都や宮崎で、東京でも別な店で、さまざまなシェリーにまつわるイベントが開かれた模様。当日は本拠地へレスのテレビ局に日本からレポートすることになり、直前までセッティングでバタバタしましたが、なんとか無事にSkypeで繋がりました!
↑ワールド・シェリー・ディを祝ってヴェネンシアを披露…といいつつ練習不足がたたってこぼしてばかり……。
【シェリーの種類と製法】
@ マンサニージャ
サンルーカル・ド・バラメーダで造られるドライ・シェリーです。「サンルーカルで造られるフィノ・タイプ」と言われますが、実際にはフィノより歴史は古く、1781年にはマンサニージャが造られていました。フロールと呼ばれる産膜酵母の影響で、酸化がある程度抑えられ、淡く透明なすっきりとした辛口の味わいに仕上がります。より海に近い地域で造られるため、若干の塩気が感じられると言われます。
A フィノ
マンサニージャ同様、黄色く透明なすっきりとした味わいのドライ・シェリーです。スペイン後の「フィノ」は、英語の「ファインFine」に相当し、「上質」「上品」を意味します。「フィノ」が最初に登場したのは、1823年、ガルヴェー社「サン・パトリシオ」が輸出された時のことですが、シェリーのタイプ名として定着したのは20世紀に入ってからのことです。フロールによる膜が液面に発生し、15%までアルコールが添加され、これによりフロールの活性は妨げられず、酸化による褐変が防止され、黄色く透明なすっきりとした辛口になるのです。
B アモンティリャード
フロールの付いていたフィノ・タイプから、フロールが途中で消失した、もしくは人為的に消失させた物は、17%までアルコールが添加され、「アモンティリャード」となります。途中でフロールがなくなるため、ワインは酸化の影響を受け、琥珀色になります。「マンサニージャ」と異なり、殆どがスペイン国外で消費されるため、「アモンティジャード」と呼ばれることは少ないようです。
C オロロソ
フロールが付かなかった、もしくは敢えて付けなかった物は、18%までアルコールが添加され、これによりフロールの発生は完全に抑えられるため、酸化の影響で褐色になり香ばしい風味の強い「オロロソ」となります。「オロロソ」は「香り」を意味する「オロール」という言葉の形容詞形で、文字通り香り高く、赤ワインの代わりにもなるほどしっかりしたボディを持っています。
D クリーム
オロロソにペドロ・ヒメネスをブレンドして造る甘口シェリーで、デザート・シェリーの代表格です。元々ブラウン・シェリーにミルクと呼ばれるタイプがあり、そこから派生したタイプですが、ミルクの方はライト嗜好の影響で淘汰され、今では造られていません。
E ペドロ・ヒメネス
辛口シェリーはパロミノから造られますが、こちらは単一品種「ペドロ・ヒメネス」をベースに造られる甘口シェリーです。収穫後に天日干しされ、糖度を極端に高めた状態で圧搾、わずかに発酵させた後に酒精強化され、甘さをかなり残した状態で製品化されます。300〜400g/L近い糖度を持つ、「黒蜜」のような甘さが特徴です。
2.日本料理とシェリーのマリアージュ
「エレデロス・デ・アルグエソ・サン・レオン・マンサニージャ」(タイプ:辛口/マンサニージャ 品種:パロミノ100% 産地:スペイン/ヘレス アルコール度15%)
エレデロス・デ・アルグエソは、スペイン北部から来たフアン・レオン・デ・アルグエソにより1822年に創立された、家族経営のボデガ(醸造所)です。古いボデガから古いシェリーを買い集め、熟成しているので、現在のソレラ(出荷用の樽)は180年以上も前から続いているものです。現在、サンルーカル・デ・バラメーダの中心街の近くに三つのボデガを保有しています。サン・レオン・マンサニージャは、最低7年間のソレラ・システムで熟成。輝くような淡黄色、繊細でありながら刺激的な香りを持ち、辛口ではありますが、口に含むとほのかに塩気が感じられる複雑な味わいで、長い余韻が楽しめます。
合わせた旬菜は、煮鮑の肝ソースに鰹笹巻箱寿司と、なかなか普通の白ワインでは合わせにくい文字通り魚介の風味を活かしたお料理ですが、海の近くで造られた、かすかに磯の風味を持つマンサニージャならではの相性の良さを見せてくれました。
「ウィリアムズ&ハンバート・コレクション・フィノ」(タイプ:辛口/フィノ 品種:パロミノ100% 産地:スペイン/ヘレス アルコール度15%)
1877年、イギリス人のアレクサンダー・ウィリアムズが義父のアーサー・ハンバートと共に興した、スペイン最大のボデガを持つウィリアムズ&ハンバート社。同社が世界的名声を築き上げてきたルイス・パエス社の「ドン・ソイロ」ブランドを引き継ぎ、より優れた品質と長い熟成を重ねたシェリーとしてリリースしたのが「ウィリアムズ&ハンバート・コレクション」です。厳選したパロミノ種のファーストプレスの果汁のみを使い、ホワイトオーク樽でのソレラ・システムによる熟成を経て生まれる辛口のフィノで、かすかに緑色を帯び、輝く透明感のある黄色の色調があります。その香りはストレートで華やかで、すっきりとした酸味を持ちながらも丸みがあり、口中には熟成による繊細な複雑さが広がります。
カクテルグラスに盛りつけられた鯛の塩辛に、鯵のサマーロール、鮪の漬けアボカドと、これもまた見かけは洋風ですが中身は和のテイストそのもの。塩辛などはワインには合わせにくい食材の1つですが、よりボディのあるフィノであれぱ何の問題もありません。高いアルコールと独特のシェリー香が、魚介の旨味を引き立ててくれます。
「ウィリアムズ&ハンバート・コレクション・アモンティリャード12年」(タイプ:辛口/アモンティリャード 品種:パロミノ100% 産地:スペイン/ヘレス アルコール度18%)
「ウィリアムズ&ハンバート・コレクション」の1つですが、全面にフロールを生じさせてできるフィノに対し、アモンティリャードは樽の上面の70-80%しかフロールが生じないものを更に時間をかけて熟成させています。「12年」の表示はソレラ・システムによる平均熟成年数を示しています。トパーズのような魅力的な色合いと、ほのかな甘さを感じさせる豪直な香りが特徴 です。香ばしくローストしたニュアンスが 酸味と引き立てあい、その味わいを一層甘美に、かつ複雑にしています。中国料理やエスニックのスパイシーさや、熟成の進んだチーズ、ハム、ソーセージとの相性は最高です。
釣り太刀魚にうすい豆のグリーンソース、そしてシェリーに漬け込んでから揚げた赤地鶏は、まさに香ばしいアモンティリャードとぴったりの相性でした。上質な紹興酒にも通じるアモンティリャードは、まさにしっかりと調理された料理のためにあることを実感させてくれます。
「エレデロス・デ・アルグエソ・オロロソ」(タイプ:辛口/オロロソ 品種:パロミノ100% 産地:スペイン/ヘレス アルコール度15%)
スペイン語で“オロロソ”とは“いい香りの、かぐわしい”などの意味を持っています。フロール(産膜酵母)なしで酸化熟成させたタイプで、名前の通りの芳香をもつ、辛口の味わいです。このシェリーを作るのは、1822年創業のシェリーメーカー、エレデロス・デ・アルグエソ。伝統にこだわり素晴らしいシェリーを200年の月日をかけてつくってきました。コーヒーを思わせるほどの濃厚な色合いにまず驚かされましたが、クルミやナッツの香ばしさとチェリー系の果実味、酸化に由来する複雑でゆったりとした香りがあり、まさに芳醇としか言い様のない充実した味わいでした。
この濃厚なスタイルのオロロソは、賀茂茄子田楽の香ばしい味噌の味わいをより引き立ててくれます。まさにこれ以上は考えられないほどのベスト・マッチング。今回の料理とシェリーの組み合わせの中でもまさに出色の出来だったのではと思います。
「ウィリアムズ&ハンバート・コレクション・クリーム」(タイプ:甘口/クリーム 品種:パロミノ+ペドロ・ヒメネス 産地:スペイン/ヘレス アルコール度18%)
「ウィリアムズ&ハンバート・コレクション」の1つですが、パロミノ種とペドロ・ヒメネス種から造られます。ペドロ・ヒメネス種を天日乾燥させてから搾汁。糖度の高い果汁を発酵させ、夏にソレラ・システムで熟成させます。香りとコクの強い、オロロソベースの甘口シェリーです。干したプルーンやレーズン、イチジクなどを思わせる香りは、リッチで滑らかな味わいと共に至福の時に誘います。決して甘すぎることのない絶妙な調和が心地よく余韻として残ります。会場ではクラッシュアイスも用意して、きりりと冷やして甘さを引き立てかつ飲みやすくしたスタイルでも楽しめるようにしました。
サラダ仕立ての茶蕎麦と。クリームはもしかしたら甘口デザートでないと難しいかもと思ったのですが、梅酒やみりん、甘口の日本酒と蕎麦はもともと相性が良いこともあり、まったく問題なく合わせることができました。茶蕎麦の独特の食感を楽しむには甘味のあるお酒の方が良いような気がします。
「エレデロス・デ・アルグエソ・ペドロ・ヒメネス」(タイプ:甘口/ペドロ・ヒメネス 品種:ペドロ・ヒメネス% 産地:スペイン/ヘレス アルコール度17%)
1822年創業のシェリーメーカー、エレデロス・デ・アルグエソ。そのペドロ・ヒメネスはシェリーの種類の一つであると同時に、ぶどう品種の名前でもあります。独特の香りを凝縮させるために、太陽の光を長く浴びてから収穫されたブドウを使用しており、濃厚な自然の甘味が表れています。熟成は500リットルのアメリカンオーク樽(新樽10%、古樽90%)で7年程度行われます。レーズン、干しいちじく、干し柿、マカダミアナッツなど、多くの上質な甘い香りを持っています。贅沢で濃厚な梅酒やカルーア(コーヒーリキュール)を想起させる、独特の味わいがあります。煮込みやデザートの仕上げのソースにもぴったりです。
最後のデザートも、シェリーを使ったオリジナル作品でした。シェリーは泡立てて梅風味のシャーベットにのせてあり、一見洋風のデザートであるクレマカタラーナとチーズケーキにも、それぞれあんこときなこが使われていて、まさに味わってみると和のテイストで驚きました。
3.ガストロノミー/シェリーと料理
シェリーは、辛口から極甘口まで、多様な味わいを持つワイン。いろいろなタイプがあるので、どんなお料理とも相性が良いのです。 よく冷やしたフィノやマンサニーリャは、オードブルやタパス各種、エビ、蟹、貝類、白身魚などを塩味系で調理したもの、マイルドなチーズなどに合います。天ぷらの起源のような魚介のフライは、シェリーの産地の得意料理。
アモンティリャ―ドは、各種スープやコンソメ、白身肉、青身魚を各種ソースで調理したもの、熟成タイプのチーズと好相性。中華系ソースともマッチします。
オロロソは、ジビエや赤身肉、しっかりした味の煮込み、熟成タイプのチーズに。また、アジア系スパイスが効いたエスニック料理にも。ペイル・クリームはフォアグラやフレッシュ・フルーツ、そして中華の辛口およびスパイシーな料理や甘辛ソース味のものとどうぞ。ミディアムも軽く冷やしたものはパテやキッシュに最適。アジアン・テイストの甘辛酸っぱい味付けにも。クリームはボディと甘さがあるためデザート類に合うシェリーです。
ペドロ・ヒメネスもどんなデザートにも合いますが、アイスクリームのソースになるし、チョコレート系スイーツやブルーチーズにも合います。
(シェリー委員会ホームページ「シェリー〜ヘレスのワイン」より)。
4.日本とシェリーの歴史
日本においては、1611年と1613年にメキシコそしてイングランドの大使によって「サック(シェリーの古称)」が献上され、徳川家康や秀忠が飲んだという記録があります。その味は長い船旅によって熟成が進んでいたため、おそらくシェイクスピアやジェームズ1世が同時期に飲んだものより濃く香りの高いものだったと思われます。
やがて、1870年(明治3年)に洋酒が輸入されるようになると、ようやく日本でも、シェリーの名が高まり、次第に晩餐会や宮中にも出されるようになりました。
1885年(明治18年)に創業した明治屋の目録には「しゑりー酒」の名で登場し、同じ年に生まれた詩人木下杢太郎は、「該里酒(しぇりーしゅ)」と謳いました。日本でのシェリーは、その後幾たびかの流行廃りを経ながら、吉田茂首相や俳優の松田優作といった人たちにも愛され、今やこの日本においても「食前酒の代名詞」となりました。
(中瀬航也「シェリー酒」PHPエル新書より)。
<今回の1冊>
明比淑子「シェリー、ポート、マデイラの本」(小学館)
三大酒精強化ワイン、「シェリー」「ポート」「マデイラ」について、その生産地や製法、歴史や楽しみ方、そして様々な銘柄の紹介まで、まさに至れり尽くせりの本です。著者の明比淑子さんは、シェリー委員会の日本代表で、今回のシェリーの会にも参加して頂きました。