Via Vino No. 51 "Champagne"<シャンパーニュ

<日時・場所>
2013年8月3日(土)12:00〜15:00 広尾「マノワ」 
参加者:19名
<今日のワイン>
辛口・発泡性「ニコラ・フィアット・ブラン・ド・ブラン 2005年(NM)」
辛口・発泡性「アグラッパール・レ・セット・クリュ・ブラン・ド・ブラン(RM)」
辛口・発泡性「ドノン・エ・ルパージュ・レコルト・ノワール(NM)」
ロゼ・辛口・発泡性「ジョゼ・ミシェル・ブリュット・ロゼ(RM)」
<今日のランチ>
ハモのフリット、新玉葱のソースとシェリーヴィネガーの泡
真鯛のタイム風味・バルサミコソース
伊豆天城山から届いた雌の日本夏鹿のロースト(熟成1ヶ月)
山梨県一宮市の桃の瞬間コンポートとベルベーヌのジュレ、桃のシャーベット添え

   


1.シャンパーニュについて

● グローバルとローカル、伝統と革新の2つの側面を見せる発泡性ワイン。
● 発泡性ワインの代名詞でありながら、あくまでも地名であり続ける「シャンパーニュ」。
● 統合の進むNMと、躍進するRM。

 
世界中で知られているスパークリングワインの代表格にして最上級品であるシャンパーニュは、まさにブランドとして定着していて、その意味ではグローバルなビジネスの最先端にいると言っても良いでしょう。一方でシャンパーニュを名乗れるのは、シャンパーニュ地方で造られる発泡性ワインのみ。その品質は畑で造られる葡萄そのものに委ねられており、まさにローカルな「地酒」の典型とも言えるのです。

 シャンパーニュのランスは、代々フランス王が戴冠式を行った、まさに王朝の中心地であり、元々は赤ワインの産地として、ブルゴーニュとも張り合っていました。冷涼な気候のため、酸は高いものの糖度が上がらない地で、より葡萄の特性を活かしたワインを作り出そうとした結果、品種をブレンドして瓶内2次発酵をさせ発泡ワインに仕上げるという、シャンパーニュ独特のスタイルが完成したのです。

 手間も費用も掛かる発泡性ワインの製造には、規模の大きなメゾンの存在が必要でした。ヴィンテージとクリマが何よりも優先される高級スティルワインと異なり、あくまでもブランドとそれを支えるマーケティングがシャンパーニュの大手メーカー「ネゴシアン・マニピュラン」の武器となっていましたが、近年ではブルゴーニュのドメーヌ同様、小規模生産者が自社畑の葡萄で自ら製造する「レコルタン・マニピュラン」が注目を浴びています。

【シャンパーニュとは】
 ボルドーやブルゴーニュと同様、シャンパーニュも元来は土地の名です。飲むシャンパーニュはLe Champagne、地名の方は女性冠詞を付けてLa Champagneと呼びます。パリの東、ブルゴーニュの北にあり、その中心都市はランスとエペルネです。シャンパーニュはもともと「平原」を意味しますが、実際標高は低く、北緯49°に位置し、平均気温は10℃程度で、まさにブドウ栽培の北限にあります。石灰質の豊富な白亜土壌で、ワイン用ブドウの生育に適しているだけでなく、古代ローマ人が道路を舗装する白亜を掘り出した後に残された広大な洞窟が、絶好の貯蔵庫になりました。  
 シャンパーニュ地方で作られる発泡性ワインのみが、「シャンパーニュ」を名乗ることができます。シャンパーニュの最大の特徴は、ワインを作って瓶に詰めてから、瓶の中で2回目の発酵を行い、発生した炭酸ガスを閉じこめることにあります。これにより、普通の炭酸飲料では味わえないきめ細かい泡が楽しめます。白もロゼも、白ブドウのシャルドネと、黒ブドウのピノ・ノワール、ピノ・ムニエが主要品種です。

【シャンパーニュの製法】
(1)収穫Vendange :通常9月半ばから10月初旬、全て手摘み。
(2)圧搾Pressurage :浅く広い圧搾機で、皮の色がつかないように果汁を搾る。
 @初搾りTéte de Cuvée A二番搾りPremière Taille 一次発酵 Première Fermentation 畑ごと、葡萄品種ごとに別々に一次発酵させる。
(3)調合Assemblage: 収穫の翌年2月頃に、Vins de Réserve(リザーヴワイン)を含めて一次発酵で得たワインを30〜50種調合する。
(4)瓶詰Tirage: Liqueur de Tirage(蔗糖24g/Lと酵母)を加えて、瓶詰めしてカーヴに寝かせる。
(5)瓶内2次発酵 Deuxième Fermentation en Bouteille :再発酵により二酸化炭素が発生。6〜8週間で二次発酵は終わり、独特のブーケが発生、酵母は澱となって溜まる。
(6)瓶内熟成 Maturation sur lie :澱と共に熟成。NV(ノン・ビンテージ)は最低15ヶ月熟成、ミレジメ(ビンテージ)は3年以上熟成。
(7)動瓶Remuage :Pupitre(澱下げ台)に瓶口を下に向けて並べ、5〜6週間にわたり瓶を1/8回転ずつ回し、澱を口部へ集める。
(8)澱抜きDégorgement :塩化カルシウム水溶液(-20℃)で澱を凍らせて取り除く。
(9)ドサージュDosage :門出のリキュール(原酒に糖分を加えた物)を添加。
(10)打栓Bouchage :コルクを打って針金で固定する。

【シャンパーニュの甘辛度】
●ブリュット・ナチュールBrut Nature:3g/L未満
●パス・ドセPas Dosé:3g/L未満
●ドサージュ・ゼロDosage Zéro:3g/L未満
●エクストラ・ブリュットExtra Brut(極辛口):0〜6g/L
●ブリュット Brut(辛口):12g/L以下
●エクストラ・ドライ Extra Dry(やや辛口):12〜17g/L
●セックSec(やや甘口): 17〜32g/L
●ドゥミ・セックDemi Sec(甘口):32〜50g/L
●ドゥー Doux(極甘口):50〜g/L

2.シャンパーニュと食事のマリアージュ
 
   

「ニコラ・フィアット・ブラン・ド・ブラン 2005年(NM)」(タイプ:辛口のシャンパーニュ   品種:シャルドネ100%  産地:シャンパーニュ/コート・デ・ブラン)
 創始者が現存するシャンパンメーカー「ニコラ・フィアット」は、1976年の創設からわずか30年余りで販売数量フランス国内No.1、世界No.3と目覚しい躍進を遂げたブランドです。シャンパーニュ地方最大の協同組合と手を組み、約5千件の栽培農家から良質なぶどうが大量に集まるとあって、その設備はシャンパーニュ地方で最も近代的なものとなっています。
 ブラン・ド・ブラン・ヴィンテージは、最低でも6年間の熟成を経ており、ライトグリーンの繊細な輝きを放ち、きめの細かい豊かな泡があり、セイヨウサンザシやアカシアを思わせる白い花の香りと、繊細な柑橘類や、洋ナシ、菩提樹の風味が感じられます。2005年はヴィンテージ物としてはまだ飲むのが早かったような気がしますが、シャープな酸味とほのかな香ばしさが、NVにはない奥行きの深さを見せてくれました。

「アグラッパール・レ・セット・クリュ・ブラン・ド・ブラン(RM)」(タイプ:辛口のシャンパーニュ   品種:シャルドネ100%  産地:シャンパーニュ/コート・デ・ブラン)
 ビオディナミに取り組み、自然なシャンパーニュを造る生産者アグラッパール・エ・フィスは、1894年にコート・ド・ブランのアヴィズ村にハウスを設立、4世代に渡りシャンパーニュを造り出しています。現在はパスカル・アグラッパール氏が切り盛りしています。一部樽発酵・樽熟成の原酒を使用し、自然酵母を使用する溌剌とした味わいが特徴のシャンパーニュです。「レ・セット・クリュ」は7つの村(Avize, Cramant, Oger, Oiry, Avenay Val d’Or, Berge`res-les-Vertus, Mardeuil)のシャルドネをブレンドしたもので、フルーツの香りの中にナッティーな風味が感じられ、ドライフルーツに若いアーモンドが加わった繊細な味わいに仕上がっています。正統派のブラン・ド・ブランらしいシャンパーニュでした。

    

「ドノン・エ・ルパージュ・レコルト・ノワール(NM)」(タイプ:辛口のシャンパーニュ   品種:ピノ・ノワール100%  産地:シャンパーニュ/コート・デ・バール)
 コート・デ・バール地区を端的に表すユニークな「キュヴェ・モノ・セパージュ」(単一品種キュヴェ)を造る生産者です。「レコルト」は、ブルゴーニュのピュリニィ・モンラシェ村で造られた容量228リットルのオーク樽の中で、発酵・熟成させています。最適な熟成期間はさまざまですが、24ヶ月を下回ることはありません。「レコルト・ノワール」は、透明で淡い黄色を帯びており、細かくて勢いのよい気泡は、いつまでも規則正しく上昇ラインを描きます。さまざまなワインの芳香に混ざって、ブリオッシュの香りが感じられ、また口に含むと重厚感があり、かすかにリンゴや洋ナシのニュアンスがあります。風味のバランスとくっきりとした立体感が楽しめるブランド・ノワールです。ブラン・ド・ブランとはまたひと味違った、ピノ・ノワールらしい濃厚の味わいがあり、鹿肉とも意外にしっくりした相性を見せてくれました。

「ジョゼ・ミシェル・ブリュット・ロゼ(RM)」(タイプ:辛口のロゼ・シャンパーニュ   品種:ピノ・ムニエ50%+ピノ・ノワール50%  産地:シャンパーニュ/コート・デペルネ(ムッスィ))
 ピノ・ムニエを中心とする黒葡萄の生産者として非常に有名で、他の生産者への葡萄の供給も行うジョゼ・ミシェルは、レコルタン・マニュピュランとして非常に優秀なシャンパンを造り続けています。「ブリュット・ロゼ」はセニエ方式で抽出されたロゼで、6〜8時間の果皮浸漬により綺麗な色が抽出されます。ステンレス・タンクで発酵・熟成、新鮮なイチゴのニュアンスがあり、酸のバランスも絶妙で、口当たりは優しく、それでいて厚みのあるボディがあり、長い余韻が楽しめるシャンパーニュです。デザートの桃のコンポートと、色合いも味わいもまさにぴったりの組み合わせとなりました。

3.NM(ネゴシアン・マニピュラン)とRM(レコルタン・マニピュラン)

@N.M.(Négocian-Manipulant)
 シャンパーニュを製造する会社または個人が、必要とする葡萄を、一部あるいは全部、外部から購入するものです。大規模で著名な会社が多く、沢山の有名ブランドがこれに属します。多くの栽培農家からブドウやベースワイン(原酒)を買い入れて、自社の持つノウハウで醸造・ブレンドしてシャンパンを造り、自社名を大きく名乗って販売しています。従って、複雑なブレンドのシャンパンを造ることができますが、同時に常にブランドにふさわしい安定した品質のシャンパンを生産することが必須事項で、生産量も多いだけに、相当の資金力と実績を持っていなくてはできません。現在約260社あると言われていますが、この中でさらに規模が大きく、質量共に名門とされる「グランド・マルク」が25社あり、従来はこれらの「グランド・マルク」の銘柄を知っておけば十分とされていました。モエ・エ・シャンドンや、ボランジェ、ポール・ロジェ、アヤラなどが有名です。今回のテイスティングアイテムでは、「ニコラ・フィアット」と「ドノン・エ・ルパージュ」がNMに相当します。

AR.M.(Récoltant-Manipulant)
 自家葡萄栽培中心の製造者で、自ら造ったワインを自らのラベルで出しています。自社畑のブドウだけでシャンパンを造るため、当然生産量は限られ、また大規模なメゾンに比べるとブレンドも単純にならざるを得ませんが、その分個性的なものが少なくありません。ブルゴーニュなどの生産者に近いイメージなので、このワインを「ドメーヌ・シャンパン」と言う人もいます。小規模な会社が多く、あまり輸出されずにフランス国内で消費されるものが多かったのですが、20世紀末頃から非常に数が増え、シャンパーニュ業界を塗り替えつつあります。EUによる関税撤廃と流通の多様化によって、小さなメーカーでもワインを売るルートが開けたことがその理由ですが、実際のところかなりレベルが高いものも多く、大手メーカーの味わいに決してひけをとりません。現在4960社近くあるとされています。ジャック・セロスやエグリ・ウーリエなどが有名です。今回のテイスティングアイテムでは、「アグラッパール・エ・フィス」と「ジョゼ・ミッシェル」がRMに相当します。

4.「シャンパーニュ」関連年表

496年  メロヴィング朝クローヴィス、ランスにて戴冠
1429年 ジャンヌ・ダルク、シャルル七世をランスで戴冠させる
1660年頃 発泡性ワイン、ロンドンに出回る
1668年 ドン・ペリニヨン、オーヴィレール修道院のセラーマスターに
1729年 最古のシャンパーニュハウス、リュイナール社創業 (修道僧リュイナールの甥)
1730年 シャノワーヌ・フレール社創業
1743年 モエ・エ・シャンドン社創業
1772年 クリコ社創業
1796年 クリコ未亡人(ヴーヴ)ポンサルダン(27)経営引き継ぐ ルミアージュ(動瓶)に使う台(プュピートル)の開発
1829年 「ボランジェ」発売
1856年 ポメリー・エ・グレノ社創業
1858年 ルイ・ポメリー死去、マダム・ポメリー(39)経営引き継ぐ ロンドン市場に注目、辛口志向へ
1874年 「Pommery Nature」発売〜ブリュット(辛口)の先駆者
1908年 デリミタション法(生産地区限定法)制定
1909年 多雨のため不作
1910年 エペルネ地区の栽培者の暴動
1911年 オーブの栽培者達、デリミタション法の撤回を求める→栽培者の暴動へ→確認新法(妥協案)
1941年 未亡人エリザベス・リリー・ボランジェ(45)、第二次大戦・ドイツ占領を乗り切る
1944年 連合軍がエペルネになだれ込む。アイゼンハウアー、ランスにてドイツ降伏のニュースを聞く

 シャンパーニュの中心地ランスは、ここでメロヴィング朝の創始者クローヴィスが戴冠したことで有名で、以降ここでフランス歴代の王の戴冠式が行われることになります。百年戦争の頃、ジャンヌ・ダルクはランスの大聖堂でシャルル7世の戴冠式を上げることに成功します。他ならぬこの地で戴冠することが、フランスの王として君臨するために絶対必要だったからです。

 なお、当時戴冠式に使われるワインは、今日のように発泡性ではなく赤ワインでした。シャンパーニュはもともと、ブルゴーニュと同様に、赤ワインの産地だったのです。ブルボン朝の開祖アンリ4世は、シャンパーニュを愛飲し、これを国内外に広めることになりますが、ルイ14世の時代になって、ブルゴーニュが王室御用達となると、シャンパーニュは何らかの対抗手段を取らざるを得なくなります。そこで登場するのが、発泡性ワインとしてのシャンパーニュであり、ブレンド技術の先駆者であるドン・ペリニヨンです。盲目だった彼は、葡萄を一口含んだだけでその畑を言い当てたと言われています。

 18世紀に入り、次々と創業されたシャンパーニュ・メゾンでは、女性の活躍が目立ちます。27才の若さで事業を引き継いだヴーヴ・クリコ・ポンサルダンは、ルミアージュ(瓶内の澱を落とすための動瓶)を効率的に行う台(ピュピートル)を作らせ、またロゼを初めて作ったことでも知られています。ポメリー社を引き継いだマダム・ポメリーも、英国での辛口嗜好に着目して、甘口が主流であった頃に、今日のブリュット(辛口)タイプの先駆者となる「ポメリー・ナチュレ」を発売します。

 20世紀の前半、シャンパーニュには受難の日々が続きました。ブドウ栽培者の暴動に始まり、第一次大戦で畑の4割が破壊され、ロシア革命と米国の禁酒法、そして経済恐慌により消費は落ち込み、第二次大戦ではドイツに占領され生産・販売を厳しく統制されたのです。この厳しい時代を乗り越えた数々のシャンパーニュの名品は、戦後見事に復活を遂げました。現在、その販売量は年間3億本以上、フランスのブランド品売上高の約2割を占めています。

 そして20世紀後半、マーケティングとブランド展開で拡大したシャンパーニュ業界に、レコルタン・マニピュランという、どちらかというとブルゴーニュなどの生産者に近いスタイルのメーカーが、再び異なったアプローチを仕掛けています。小規模生産を逆に活かし、アイテムを絞りつつ品質の向上や自然派的な造り方を推進することで、シャンパーニュもまさにテロワールを表現するワインの1つであると主張しているように思われます。

<今回の1冊>

   
山本博「シャンパンのすべて」(河出書房新社/2006年刊行)
 同じ著者による「シャンパン物語」(柴田書店/1992年刊行)を編集し直して再刊行したもの。どちらも400ページ近い厚い本ですが、「シャンパン物語」の方は、シャンパンハウス物語の章に各社銘柄のラベル写真が掲載されていて、かなり贅沢なつくり。再刊行の「シャンパン物語」はその分ラベル写真が割愛されてしまっていますが、近年めざましく発展しているレコルタン・マニピュランが多く紹介されているのがポイントです。おかげで両方買わなければならなくなりましたが…。

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