Via Vino No. 63 "Champagne"
シャンパーニュ


<日時・場所>
2015年8月29日(土)12:00〜15:00 広尾「マノワ」 
参加者:19名
<今日のワイン>
白・辛口・発泡性「プティ・カミュザ・ブラン・ド・ブラン・ブリュット」
白・辛口・発泡性「グロンニェ・カルプ・ディエム 」
白・辛口・発泡性「シャルル・ド・ブリモン 2002年」
VDL「ドラピエ・ラタフィア・ド・シャンパーニュ 」
<今日のディナー>
岩手県産、ムラサキウニと魚介のタルタルの山葵菜の泡
鮎の2時間コンフィ 鮎の肝と山梨県・芦安の山山椒の香り
伊豆天城山から届いた、日本夏鹿のロースト 鹿のジュとビーツのソース
山梨県のすももと、ヴァローナチョコレートの球体
コーヒー

   


1.シャンパーニュについて

「マーケティングからテロワールへ」
テロワールを表現するワインとしてのシャンパーニュ。
マーケティングとブランドの世界から、農産物としてのステージへ。
見直されつつある少量生産と古代品種。

  シャンパーニュはもともと、瓶内2次発酵のための整備された設備とリザーヴワインを保管する巨大なカーヴを必要とすることから、大手メーカーが葡萄を購入して大量生産するワインとして受け入れられていたように思います。従ってボルドーやブルゴーニュのようにヴィンテージの差が議論されることもなく、ウイスキーのようにブレンド(アッサンブラージュ)が主流となり、大々的なマーケティングが展開され、20程度のシャンパーニュメーカーを知っていればそれで充分、と言われていました。  

 しかし近年では、ワイン文化が定着するにつれ、シャンパーニュの世界でも他のワインと同様、ヴィンテージやテロワールが問われるようになり、大手のNM(ネゴシアン・マニュピラン)よりも少量生産のRM(レコルタン・マニュピラン)が注目されるようになっています。画一的な飲みやすいシャンパーニュばかりではなく、長期熟成を経たどっしりとしたスタイルのものや、ビオデナミなど自然派の濃密な味わいのものも登場しています。  

 品種へのこだわりも、その流れの中にあるように思われます。シャンパーニュといえば、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエ、シャルドネの3品種と多くの本には書かれていますが、実は正式に認められた古代品種があり、一部の生産者はそれらを復活させ、あらたな味わいを追求しようとしているのです。

2.シャンパーニュの葡萄品種

【シャンパーニュで認められている品種】
 日本ソムリエ協会の教本にも、シャンパーニュの使用品種はシャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエの3品種しか取り上げられていませんが、実はAOCの認定葡萄品種として、アルバンヌ、プティ・メリエ、フロモントー(ピノ・グリ)、そしてピノ・ブランが今でも正式に認められています。育てにくくて低収量という理由から姿を消したとされる古代品種ですが、一部の生産者はそれらを復活させ、生産量は限られているものの、混植混醸により製品化を図っています。

【ピノ・ノワール Pinot Noir】  
 ブルゴーニュで古くから大切にされてきた黒葡萄品種です。赤ワイン用高貴品種として世界的に有名で、シャンパーニュ地方が赤ワインの生産地であったころから主流の葡萄品種として栽培されてきました。地元ではさらに数種に区分けされており、最も有用とされているのが地元でピノ・ドーレPinot Doréと呼ばれている品種で、他にル・ブティ・プラン・ドーレLe Petit Plant Doré、ヴェール・ドーレVert Doréなどがあります。熟成により、ビスケットのような香ばしい風味が生まれます。

【ピノ・ムニエ Pinot Meunier(ムニエ Meunier)】  
 ピノ・ノワールの突然変異種とされながらも、実はDNA的に独立したものであると20年以上前INRA(モンペリエの農学研究所)が明らかににしたため、10数年間INRAの勧告を受け続けていたCIVV(シャンパーニュ委員会)が2012年にムニエと表記するようになりました。これを受けて日本ソムリエ協会の教本も2013度からムニエ表記となっています。ムニエはフランス語で「粉屋」を意味し、葉の裏が白いことからこの名が付きました。ワインにまろやかさと果実味を与えるとされています。補助品種のイメージがありますが、一部の生産者はムニエ100%のブラン・ド・ノワールを造っています。熟成によりマッシュルームのような複雑な風味を持つようになります。

【シャルドネ Chardonnay】  
 従来のシャンパーニュのAOC規格書には、使用可能な品種として、すべてのピノ系品種、アルバンヌ、プティ・メリエとしか書かれていませんでした。シャルドネはピノ系と見なされていたわけですが、近年のDNA鑑定の結果では、ピノ・ノワールとグエ・ブランの自然交配によって誕生した品種とされています。シャンパーニュ地方ではピノ・シャルドネPinot Chardonnayやブラン・ド・クラマンBlanc de Cramantなどと呼ばれています。熟成により独特のトースト香がもたらされます。

【それ以外の品種について】  
 上記3品種でシャンパーニュ地方の葡萄品種の99.7%を占めていますが、それ以外の品種も認められています。しかしその内容は年度によって違いが見られます。1919年に制定されたシャンパーニュの規定によると、3品種の他にアルバンヌとプティ・メリエが認められていました。フロモントーはシャンパーニュにおけるピノ・グリの別名、アンフュメはピノ・ムニエに近い品種で,いずれもピノ系品種として共に指定品種とされました。2014年はアルバンヌ、プティ・メリエ、ピノ・ブラン、フロモントー、アンフュメの5品種を加えた8品種、2015年はフロモントーとアンフュメが外れ、代わりにフロモントーのシノニムとされるピノ・グリが加わり、計7品種となっています。

@アルバンヌArbanne
 白ブドウ品種。ドライで生き生きとして、香り高いブーケを持ち、並外れた熟成力を持つワインを生み出すと言われています。スミレやお香、シナモン、スズランなどの香りと味わいを持っています。晩熟で低収量という理由で廃れてしまいました。

Aプティ・メリエ Petit Meslier
 白ブドウ品種。豊満で新鮮さに満ち溢れ,非常にフルーティーなワインを生み出します。酸味が強いことが特徴とされています。オレンジのコンフィ、グレープフルーツ、南イタリアのベルガモット・エッセンス、フレッシュ・アーモンドなどの香りと味わいを持っています。こちらも晩熟で低収量が災いしたと考えられています。

Bピノ・ブラン Pinot Blanc
 白ブドウ品種。ピノ・ノワールが突然変異した品種とされています。グリーンを帯びた黄色の果皮を持ち、果物の香りが豊かで、シャルドネと良く似た特長を持ちますが、シャルドネよりはマイルドな味わいです。

Cフロモントー Fromonteau
 バラ色がかった灰色から青みがかった灰色までバラエティに富んだ果皮を持つ品種です。非常に上品で高い品質のワインを生み出します。過熟が可能な品種で、チェリーやチェリー・ブランデー、白すぐりなどの香りと味わいを持っています。ピノ・グリの別名とされ、300年前のシャンパーニュ地方ではこの品種が5割近くを占めていたと言われています。

Dアンフュメ Enfume(ムニエ・フュメ Meunier Fume)
 黒ブドウ品種。ムニエ・フュメという名も持っており、ピノ・ムニエに近い品種とされています。半透明のバラ色の果皮が特徴的です。ドライ・フルーツや小さなレッド・フルーツの香りと味わいを持っています。

3.ワインテイスティング
 
    

「プティ・カミュザ・ブラン・ド・ブラン ・ブリュット(RM)」(タイプ:白・辛口・発泡性  品種:ピノ・ブラン100%  産地:フランス/シャンパーニュ)
 当主フレデリック・プティ・カミュザは、妻エヴリンがオーブの名門タサン家より相続したピノ・ノワール5.5haとピノ・ブラン1.5haのうち、樹齢60年以上のピノ・ノワールをネゴシアンに販売し、「ピノ・ブランは元々シャルドネよりアロマも果実味も豊かで、正しく造れば、完熟レモンの風味たっぷりの類稀なシャンパーニュとなる」と、ピノ・ブラン100%のシャンパーニュ造りを選びました。生産量は年間1万本程度ですが、フランスの愛好家からの予約注文が殺到しており、日本への年間最大割当本数は840本のみとされています。栽培はリュット・レゾネ、マロラクティック発酵は実施。畑はCelles-sur-Ource村のLes FiolesとEssoyesのEnvers de Fenêtreで、樹齢60〜65年の超VV。現在販売中のものは、2008年産が3分の2、2006年産と2007年産のヴァン・ド・レゼルヴが3分の1のブレンドです。2年間以上瓶熟成で、ドザージュは8g/L。

「グロンニェ・カルプ・ディエム(RM)」(タイプ:白・辛口・発泡性   品種:シャルドネ60%+ピノ・ノワール17%+ピノ・ムニエ17%+ピノ・ブラン2% +プティ・メリエ2%+アルバンヌ2%  産地:フランス/シャンパーニュ)
 女性醸造家セシル・グロンニェが、「コート・デ・ブラン」の南、地域区分でいうと「コート・ド・セザンヌ」に属するエトージュ村では、コート・デ・ブランと同様の白亜質にやや粘土質が加わる土壌のため、白亜特有の豊富なミネラルや酸に加え、力強い果実味と深いコクのあるシャンパーニュが生まれます。1500人以上のパリジャンたちが毎年彼女の新作を心待ちにしています。グロンニェはコート・ド・セザンヌ地区随一のレコルタン・マニピュランといわれます。平均樹齢30年。木製の大樽(33hl)で醸造。マロラクティック発酵は実施せず。現在販売中のものは、2007年産が80%、5年分のヴァン・ド・レゼルヴが20%のブレンド。ドザージュは8g/L。古代ローマの格言だった「カルプ・ディエム」は、「今を楽しむ」という意味です。セシル・グロンニェが自ら命名、ラベルもデザインしました。

    

「シャルル・ド・ブリモン 2002年(NM)」(タイプ:白・辛口・発泡性   品種:ピノ・ノワール50%+シャルドネ50%  産地:フランス/シャンパーニュ)
 ランスの南、ルード村に18haの畑を持ち、現在6世代目を数える名門メーカーであるフォルジェ・ブリモン。伝統的な製法に情熱を傾けるこのメーカーで作られるシャンパーニュの中で、プルミエ・クリュの名を関するシャンパーニュ、それがこのシャルル・ド・ブリモンです。光り輝く金色のローブ、細かい泡は控えめで美しく立ち上がる色合いです。最初の一口からシャルドネとバランスのとれたピノ・ノワールの存在が感じられ、焼いたブリオッシュの香りがヘーゼルナッツやアーモンド、ヌガティーヌの上に立ち上がります。丸みがあり、あとから砂糖漬けの果実とバニラの香りが絹のように包む熟成された逸品です。

「ドラピエ・ラタフィア・ド ・シャンパーニュ(NM)」(タイプ:V.D.L.(ヴァン・ド・リカール)   品種:ピノ・ノワール 100%  産地:フランス/シャンパーニュ)
 「ピノ・ノワールの父」と崇められるシャンパーニュの名門中、1808年創立のオーブの名門ドラピエ家によるヴァン・ド・リケールです。自社畑のピノ・ノワール100%にSO2無添加の果汁と、2回蒸留のオー・ド・ヴィーを加え、オーク樽にて長期熟成で造られます。長期熟成させる間に糖分がアルコールに溶け出して、甘くリッチな味わいに仕上げられます。褐色を帯びたカリンのジュレ、胡桃、わずかにマンダリンのコンフィの味わいが口の中に柔らかく広がります。

4.古代品種にこだわる生産者たち

 一部の生産者は、伝統を絶やさないために、古代品種の復活を図ろうとしています。これらの品種は元々栽培が難しいことから次第に避けられてしまった背景があり、なかなか一定量を確保することはまだ難しく、多くは単品種ではなくブレンドされて製品化されています。

【オブリ・フィス Aubry Fils 】
 モンターニュ・ド・ランス地区ジュイ・レ・ランス村に本拠を置くオブリ・フィスは、フランス革命の翌年、1790年から200年以上続くRM(レコルタン・マニピュラン)です。現在、ドメーヌはピエールとフィリップの双子の兄弟によって運営されています。20年以上も前に古代品種の栽培に着手。現在のムーブメントを生み出した中心的存在です。このオブリ・フィスの造る伝説的シャンパーニュ「ル・ノンブル・ドール・カンパナエ・ウェテレス・ウィテス」は、シャンパーニュで認められているすべてのブドウ品種8種類ブレンドから造られる珍しいシャンパーニュとして、2004年の発売以来世界中で大反響を巻き起こし、日本でも人気コミック「ソムリエール」の第5巻・第30話「ひとりぼっちのクリスマス」のなかで、 <サロンの対極にあるシャンパーニュ>とし て、印象的に紹介されました。日本では出水 商事が取り扱っていますが、次回発売は11 月になるとのことです。

【ラエルト・フレール Laherte Frères 】
 コトー・スュッド・デペルネのシャボー村にあるラエルト・フレールは、10ヶ村に合計10haの畑を所有し、現当主オーレリアン・ラエルトの祖父は、伝統を絶やさないために、アルバンヌなどの古代品種を2%程度畑に残していたそうです。7品種全てを使用するキュヴェは、以前は「レ・クロ」の名で登場、今日では、「7」を意味する「レ・セット」という名で販売されています。2005年には、所有する畑のうち、5〜6ha分をビオデナミに転換しています。

【ルネ・ジョフロワ René Geoffroy】
 プルミエ・クリュのキュミエールを代表するRMであるルネ・ジョフロワは、11haの所有畑のうちピノ・ノワールとピノ・ムニエが4割、シャルドネが2割を占めますが、0.4haの区画に古代品種のアルバンヌとプティ・メリエを植え付けています。2012年に千本をティラージュしたとされていますが、まだ市場には出回っていないようです。

5.シャンパーニュの歴史

451年  カタラウヌムの戦い、フン族アッティラの敗走、一万人が戦死
496年  メロヴィング朝クローヴィス、ランスにて戴冠
1429年 ジャンヌ・ダルク、シャルル七世をランスで戴冠させる
1638年 ルイ14世、ドン・ペリニヨン誕生
1660年頃 発泡性ワイン、ロンドンに出回る
1668年 ドン・ペリニヨン、オーヴィレール修道院のセラーマスターに
1715年 ルイ14世、ドン・ペリニヨン死去
1729年 最古のシャンパーニュハウス、リュイナール社創業       (修道僧リュイナールの甥)
1743年 モエ・エ・シャンドン社創業
1772年 クリコ社創業
1796年 クリコ未亡人(ヴーヴ)ポンサルダン(27)経営引き継ぐ       
      ルミアージュ(動瓶)に使う台(プュピートル)の開発
1829年 「ボランジェ」発売
1856年 ポメリー・エ・グレノ社創業
1858年 ルイ・ポメリー死去、マダム・ポメリー(39)経営引き継ぐ       
      ロンドン市場に注目、辛口志向へ
1874年 「Pommery Nature」発売〜ブリュット(辛口)の先駆者
1908年 デリミタション法(生産地区限定法)制定
1909年 多雨のため不作
1910年 エペルネ地区の栽培者の暴動
1911年 オーブの栽培者達、デリミタション法の撤回を求める
      →栽培者の暴動へ(レ・ゼムト)→確認新法(妥協案)
1941年 未亡人エリザベス・リリー・ボランジェ(45)、第二次大戦・ドイツ占領を乗り切る
1944年 連合軍がエペルネになだれ込む
      アイゼンハウアー、ランスにてドイツ降伏のニュースを聞く

 今の北フランス、シャロン・アン・シャンパーニュ付近に相当するカタラウヌムで、451年にフン族のアッティラと、西ローマの将軍アエティウスが衝突、結果としてフン族は敗退、西ローマも消耗し没落へと向かいました。この類い稀な世界史上の東西両民族の大衝突の地が、友愛と祝賀の象徴であるシャンパーニュ産地であったことは、歴史の皮肉とも言えるでしょうし、ある意味土地にこだわり続ける人類の宿命とも考えられます。事実、ヨーロッパにおける大きな戦争は、その多くがシャンパーニュの地を舞台にすることが多かった訳で、その中心地ランスは、クローヴィスの戴冠以来、パリ以上にフランス王家の象徴的な土地となりました。

 17世紀のフランスを代表する太陽王ルイ14世と、シャンパーニュのワイン造りに生涯を捧げたドン・ペリニヨンは、奇しくも同じ年に生まれ、同じ年にこの世を去りました。今日スパークリングワインの王者とも言えるシャンパーニュですが、この両名がシャンパーニュの泡を嫌っていたことは、ある意味これも歴史の皮肉なのかも知れません。ルイ14世はシャンパーニュを好んだ甥のオルレアン候の放埒な私生活の象徴とみなし、侍医のファゴンの進めるブルゴーニュで壊疽にかかった脚を洗っていたと言われています。ドン・ペリニヨンはワインのブレンド技術に比類ない才能を発揮しましたが、修道院に残された記録では、扱われていたのは殆どが樽入り赤ワインであったことが分かっています。あくまできれいな、透明感のあるワインを目指した彼は、ワインの泡を取り除くために奮闘し続けたと言われています。

 時代は下り、1911年、「レ・ゼムト(大暴動)」として知られる騒動がシャンパーニュを襲います。この騒動は2つの内閣を潰し、この地を内戦の一歩手前まで追い込んだと言われています。シャンパーニュではもともと畑の農家とシャンパーニュメーカーとの対立があり、農家からの懇願を無視してメーカーはより安い葡萄をロワールや南仏から購入していました。また、これに中心地マルヌとより南に位置するオーブとの対立が絡みます。マルヌは歴史的に自分達こそが正統派であることを主張していましたが、オーブもシャンパーニュの古都トロワがあり、ブルゴーニュに近いものの土壌はシャンパーニュに近いと考えられていたのです。栽培者がカーヴを襲い、栽培者以上の数の軍隊がシャンパーニュを占拠しました。現在、オーブはシャンパーニュの生産地として認められ、すばらしいワインが多く生み出されています。

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