Via Vino No. 68 "Suchi & Wine"
すしとワイン


<日時・場所>
2016年10月1日(土)12:00〜15:00 東銀座「壮石」 
参加者:17名
<今日のワイン>
ロゼ・辛口・発泡性「ライテラー・シルヒャーフリザンテ2015」
白・辛口・発泡性「ランソン・ゴールドラベル・ヴィンテージ・ブリュット2005年 」
白・辛口「テメント・ソーヴィニヨン・ブラン・グラスニッツベルグ2011年」
白・辛口「ヴィーニンガー・ゲミシュター・サッツ・ビザンベルク・アルテレーベン2013年」
白・辛口「ヴィーニンガー・ゲミシュター・サッツ・ローゼンガルトル・アルテレーベン2012年」
白・辛口「シュロス・ゴベルスブルク・リースリング・トラディツィオン2005年」
赤・辛口「ピットナウアー・ザンクトラウレント・ドーフラーゲン2012年」
<今日のディナー>
【前菜】 生筋子だし醤油漬け ・ 煎り銀杏
【お造り】 平目:醤油の他塩・酢橘で、平貝:醤油の他塩・酢橘で、中トロ
【煮物】 子持ち鮎甘露煮、石川芋の炊合せ
【揚物】 毛蟹の甲羅揚げ
【江戸前鮓】根室の秋刀魚(生姜醤油)、北海道の雲丹(塩)、余市の甘海老昆布〆、
気仙沼の戻り鰹たたき風、富津の煮穴子(柚子塩)、煮鮑(煮ツメ)
【椀物】赤出汁・青森の蜆

  
   


1.すしとワインについて

「和食の定番と欧州の歴史」
魚介類とワインとの相性〜進化するマリアージュ。
素材の良さを活かしつつ最低限の職人技を加える点が共通している。
地産地消が原則でありながら、世界に広まる美酒と美食の世界。

 ソムリエ協会教本に載っているような食とワインの相性を江戸前寿司で実践しようとすると、なかなか大変なことになります。フレンチでは、1つの皿に1つの食材と1つのソースが基本。その食材とソースに合う一杯を、香りや酸との相性から選ぶことになります。しかし、握り寿司は一口サイズの握りに1つの食材なので、生の白身魚、濃い味の煮魚とネタが代わる度に別のワインを用意することになりかねません。その意味では、1つの皿に様々な魚介が並ぶ握り寿司は、非常に贅沢な料理であると言えます。全ての握りには米が使われるのですから、米を原料とする日本酒が合うに決まっています。  

 しかし「ミシュラン」などで江戸前握りの店が紹介され、世界的にもその知名度が上がると共に、銀座や六本木でもワインを扱う店が増えてきており、実際に味わってみると、以前に比べてあまり違和感を感じなくなってきました。私見ですが、意識の高い職人が新鮮な素材を扱って握るなら、ワインと寿司は意外に合わせやすいのではないでしょうか。上質な握り寿司は厳選された良質なネタと熟戦した職人の腕を必要としますが、それはワインが優れた産地と造り手を要求するのと同じことです。  

 ワインは元々、その土地に根ざしたブドウで造り、その土地で味わうものでした。ある意味ローカルな地酒であったものが、流通技術の発達によって世界中で親しまれるようになったわけです。そして今、日本の江戸前寿司も、鮮度の良い魚介を味わう美食として、日本の枠を越えて世界に広まりつつあります。素晴らしい自然の味わいを活かしつつ、そこに丹念な人の技が若干加わることで見事な一品に仕上がる、というところに共通点があるように思うのです。

2.オーストリアワインについて

  フランスワインやイタリアワインに比べて、オーストリアワインはあまり馴染みがないかも知れません。最近の辛口志向であまり見かけなくなったドイツワインと近いようなイメージがおぼろげにある程度でしょうか。しかしドイツ以上の厳しい基準を持ち、ヨーロッパの中心であり中東にも近かったハプスブルク帝国の輝かしい歴史を持つオーストリアワインは、まさしくウィーンで活躍したモーツァルトの音楽にも似て、親しみやすく、それでいて非常に奥深い味わいを持っています。その純粋さと深遠さは、ある意味日本の食文化にも通じるものがあると思うのです。

【オーストリアワインの生産地】  

 オーストリアの主要16栽培地域は、ハンガリー国境沿いの東側の地域に集まっています。首都ウィーンはかつての帝国の中心地でありながら、今も630軒のワイナリーがあり、石灰質土壌によりミネラリティの高いワインが造られています。カンプタールやクレムスタールで知られるニーダーエスタライヒ州は、中世以来常に銘醸地であり続けたワイン生産の中心地であり、フルボディで透明感のある辛口白ワインが造られます。栽培地の中心にあるブルゲンラント州は、3000年の歴史を持つ最古のワイン産地ですが、1921年まではハンガリー領で、その意味では新しい産地とも言えます。湖周辺で貴腐ワインが造られるノイジードラーゼーなどの産地が含まれます。南に位置するシュタイヤーマルク州は、辺境の地として長く知られていませんでしたが、ブルゴーニュと同じ緯度に位置し、石灰質やシスト土壌を含む理想的なテロワールを持ち、近年注目を集めています。

【オーストリアワインの品種】  

 ドイツ系のリースリングシルヴァーナー(いずれもオートリア原産との説もある)、フランス・ピノ系のヴァイスブルグンターグラウアーブルグンダー(それぞれピノ・ブラン、ピノ・グリに相当)などが知られていますが、オーストリア固有品種としては、なんといっても全ぶどう栽培面積の1/3を占める白のグリュイナー・フェルトリナー(トラミナー種の子孫、収量を抑えれば長熟のワインとなる)、そして優れた赤ワインの原料となる、フランク王国に由来するブラウフレンキッシュ、ピノ・ノワールを片親に持つザンクト・ラウレント、そしてこの2つを交配して造られたツヴァイゲルトを忘れるわけにはいきません。

3.ワインテイスティング
 
  

「ライテラー・シルヒャーフリザンテ2015年」
(タイプ:ロゼ・辛口・発泡性、品種:ブラウアー・ヴィルトバッハー100%、産地:オーストリア/シュタイヤーマルク)

 クリスティアン・ライテラーは、オーストリアのヴェストシュタイヤーマーク南部ヴィースでトップクラスのシルヒャーとゼクトを生産する人物として有名です。ちなみにシルヒャーは、オーストリアの西シュタイヤーマルクで栽培されるブラウアー・ヴィルトバッハーというブドウ品種から造られたロゼワインの総称で、この地域でしか作られない珍しいワインです。ブドウの熟成を待ち、できる限り収穫を遅め、ワインの残糖は7g/L。これがこの品種の特徴でもある鋭い酸を和らげ、オレンジ色の輝きとサーモンカラーの調和がとれたロゼができあがります。

「ランソン・ゴールドラベル・ヴィンテージ・ブリュット2005年」
(タイプ:白・辛口・発泡性、品種:ピノ・ノワール、シャルドネ、産地:フランス/シャンパーニュ)

 1760年、シャンパーニュ地方の都市、ランスで、フランソワ・ドゥラモット判事がシャンパン事業を興しました。これがもっとも古いシャンパンメーカーのひとつであると記録されています。1823年にジャン=バプティスト・ランソンとパートナーシップを組み、1837年から社名をランソンに変更。1860年のヴィクトリア女王時代より、150年以上英国王室に愛され続け、現在、ボトルネックにはエリザベス2世女王の名前が刻まれた英国王室御用達の証が印されています。ゴールドラベル・ブリュットは5年間の熟成を経たヴィンテージ物で、乾燥させたイチジクやアンズ、洋梨のアロマに加えビスケットのニュアンスがあります。繊細で豊かさに溢れ、いきいきとしたフィニッシュが持続します。

  

「テメント・ソーヴィニヨン・ブラン・グラスニッツベルグ2011年」
(タイプ:白・辛口、品種:ソーヴィニヨン・ブラン100% 、産地:オーストリア/シュタイヤーマルク)
 テメント氏は、オーストリアのシュタイヤーマルク州に45ヘクタールの畑を持つ、ソーヴィニヨン・ブランの造り手として有名です。ぶどう畑はスロベニア国境に面し、南向きで日照の良い粘土質土壌と石灰質土壌から成るグラスニッツベルグから、非常にパワフルでアルコール度の高いソーヴィニヨン・ブランを造っています。2007年ころより、コルク栓からガラス栓に切り替えはじめました。しっかりと落ち着いたレモンイエローで、少し抑え気味の青い香りは複雑で大人びた印象を与えます。木などを連想させる凝縮した味わいもあります。

「ヴィーニンガー・ゲミシュター・サッツ・ビザンベルク・アルテレーベン2013年」
(タイプ:白・辛口、品種:ヴァイスブルグンダー40%+グラウアーブルグンダー40%+シャルドネ20%、産地:オーストリア/ウィーン)
 ウィーンは世界で唯一、首都にある商業ベースのワイン生産地域と言えますが、現在も300軒ほどのワイナリーがあり、そのほとんどがウィーンの名物といえる「ホイリゲ=居酒屋」にて消費される安価なワイン造りに重きを置いています。その彼らの名物がゲミシュター・サッツといわれる混植混醸のワインです。ヴィーニンガー醸造所は、ドナウ川の東側にあるビザンベルクのホッホフェルド区画の、樹齢40年超のフランス系古木のみのぶどうを100%使用した、世界に誇れる最高品質ゲミシュター・サッツ造りを行っています。

「ヴィーニンガー・ゲミシュター・サッツ・ローゼンガルトル・アルテレーベン2012年」
(タイプ:白・辛口、品種:グリューナー・フェルトリナー50%+ヴァイサーブルグンダー+ノイブルガー+トラミネール+リースリング、産地:オーストリア/ウィーン)
 今回は特別に、同じくヴィーニンガー醸造所のゲミシュター・サッツ、もう一つの単一畑、ローゼンガルトルの2012物も試飲させて頂くことができました。こちらはヴィンテージ違いですが、より旨味が強く、ペトロール香もしっかりしていてより長い余韻が楽しめました。ファルスタッフというオーストリアワインのガイドブックでナンバーワンになっているいわくつきのワインです。ラベルも名前にあやかって少しバラ色を帯びています。

   

「シュロス・ゴベルスブルク・リースリング・トラディツィオン2005年」
(タイプ:白・辛口、品種:リースリング100%、産地:オーストリア/カンプタール)
 オーストリアの銘醸地カンプタールで、シトー派修道院のバロック様式の城をそのまま使用したアーティスティックなワイナリーを構え、高品質でリーズナブルなワインを造り出しているシュロス・ゴベルスブルク。その設立は1171年と非常に長い歴史を誇るワイナリーであり、オーストリア屈指の生産者として君臨していました。1996年から、カンプタールのトップ生産者の一人ブリュンドルマイヤー氏の協力を得てワイン造りを行っています。収穫されたブドウは一昼夜、外に放置された後、自重と水圧式垂直プレスで柔らかく絞った果汁を、澱下げや清澄作業を一切行わず、マンハーツベルク産オークの大樽で自発発酵させ、かつ18か月熟成させています。洋ナシや桃、アンズといった様々な味わいのニュアンスが感じられ、落ち着いた上品な味わいに仕上がっています。

「ピットナウアー・ザンクト・ラウレント・ドーフラーゲン2012年」
(タイプ:赤・辛口、品種:ザンクト・ラウレント100%、産地:オーストリア/ブルゲンラント・ノイジードラーゼー)
 オーストリアの赤ワインの銘醸地といえばブルゲンラント州が代表産地となります。この地でゲアハルト・ピットナウアーはザンクト・ラウレント種の巨匠として知られ、2014年フォルスタッフ誌でワインメーカー・オブ・ザ・イヤーに選ばれています。2006年から化学合成物の使用をやめ、ビオデナミ農法を実践しています。ドーフラーゲンは、Dorf(村)Lagen(畑)で、その名の通り村名畑の村名ワイン。ゴルスの北に広がるパームドーファー・プレートにある複数の畑からワインが造られています。鉄分に富む小石土壌と風通しの良さがザンクト・ラウレントに最適な条件となっています。ブドウは手摘みで、自然酵母で醸造、使用済み小樽で14カ月熟成させています。濃いルビーガーネットに紫色が入り、力強いカルダモンやクローヴを思わせるスパイス、フレッシュなレモンの皮、黒オリーブの上品な香りがあり、厚みのあるタンニンが印象的、果実味は豊かで、余韻は長めです。

4.すしとワインの相性について
 
 食とワインの相性を検討する際には、ワインの香りと酸、タンニン、そして食材の持つ脂と酸に注目する必要があります。

【押さえておきたいマリアージュ】

 一般的には、酸味の爽やかな白ワインと、脂が少なくさっぱりした味わいのヒラメのような白身魚は相性が良く、タンニンによる苦渋味を持つ赤ワインと、脂がのった濃厚な味わいのマグロのような赤身魚も合うとされています。  炭酸ガスのあるスパークリングワインは寿司ネタ全般と合わせやすく、より酸味の相性を考慮するなら、レモンやすだちなど柑橘系の果汁を加えたり、ワインを足した醤油を使ったりという工夫も考えられます。  良く言われているように、木樽熟成を経た濃厚なワインはその風味があまり新鮮な魚介類と合わないとされているので、樽熟シャルドネやボルドーワインよりは、樽熟させないリースリングや酸のあるピノ・ノワールの方が合わせやすいという印象があります。

【「生臭さ」の原因物質】

 ワインと魚介は合わせにくい、特に干物のようなものはワインを飲むと生臭さを強く感じると言われます。メルシャン研究所によると、ワインに含まれる鉄イオンが、干物に含まれる(E,Z)-2,4-ヘプタジエナール(DHAが酸化したもの)と反応して生臭さを発生させるとのこと。また一説には、ワインに微量に含まれる二酸化イオウが、魚介のDHAと反応してアルデヒドが発生し不快臭を感じさせるとも言われています。鉄分をあまり含まない甲州ワインや、二酸化イオウが含まれない自然派ワイン、そして日本酒が合う理由として説明されています。

【旬の寿司について】

 素材にこだわるなら、旬の寿司ネタにも気を遣いたいところです。 
 カツオは、江戸の頃から軽やかな香りが魅力の初鰹が文字通り初物として珍重されましたが、秋の戻り鰹の方が脂もあり香りも強いとされています。サンマは北海道よりも北の海域で漁をし、各港に水揚げします。北海道から三陸沖に水揚げされるのは8月末から10月中旬頃まで。この期間のサンマはサイズが大きく、脂も乗っています。

<今回の1冊>

   
「すしの雑誌・第15集」(旭屋出版MOOK)
 年1回発刊される、一冊丸ごと「すし」を紹介する文字通り「すしの雑誌」です。すしを食べに行く人というよりは、寿司屋を営んでいる人のための雑誌です。調味技術の紹介や、最新寿司店チェック、全国すし技術コンクール入賞作の発表などの記事が満載ですが、第14集にはワインとのマリアージュを提案する銀座「鮨からく」が紹介されていて、この第15集には、アサヒビール・マーケティング本部の担当者として、私が「すしとワイン」の相性について紹介しています。

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