Via Vino No. 84 "Sushi & Wine V"
すしとワイン5


<日時・場所>
2019年4月27日(土)12:00〜15:00 銀座「壮石」
参加者:15名
<今日のワイン>
辛口・白・発泡性「ランソン・グリーンラベル・ブリュット・オーガニック」
辛口・白「ペーター&パウル・グリューナー・ヴェルトリーナー・ビオ 2017年 」
辛口・白「トーマス・ハレター・シャルドネ 2016年」
辛口・白「ヨハネスホフ・ライニッシュ・グンポルツキルヒナー 2017年」
辛口・白「モリッツ・ハウスマルケ・スーパーナチュラル 2017年」
辛口・オレンジ「ゲルノット&ハイケ・ハインリッヒ・グラウ・フライハイト 2015年」
辛口・赤「ピットナウアー・ザンクト・ラウレント・ドーフラーゲン2016年」
辛口・赤「ストレコフ・1075・ズヴェトヴァヴリネツケー 2014年」
<今日のディナー>
【前菜】  
・サヨリ昆布〆・菜の花の煎り酒和え 、生鳥貝・独活・スナップエンドウの黄身酢和え
【お造り】  
桜鯛薄造り(すだちと塩で)、兵庫の本鮪中トロ
【江戸前鮓】 
鹿児島の春子鯛(白)、島根の〆鯵(白)、熊本の小車海老甘酢漬け(白)
【料理】  
稚鮎の唐揚げ・木の芽餡、鰆・筍の酒蒸し・木の芽田楽&雲丹ソース
【江戸前鮓】  
三重の煮蛤(赤酢)、北海道の馬糞雲丹(白)、アイルランドの本鮪大トロ(赤酢)

       


1.「すしとオーガニックワイン」

 鮮度と職人技が同居してこその美味なる世界。
 地産地消でありながら、グローバルな広がりを持つ世界。
 長い歴史と変遷を繰り返しながら、自然な姿へと立ち返っていく世界。  


 近年脚光を浴びている自然派ワインですが、考えてみれば歴史の黎明期、本来ワインは皆自然派ワインでした。都市が発達し、遠くへ大量のワインを運ぶ必要に迫られると、あらゆる保存料が試され、パストゥールによる低温殺菌などの技術も確立し、亜硫酸塩の添加が現在に至るまで認められています。しかし冷蔵や充填などの技術の発達により、保存料や加熱殺菌の必要性は低くなり、今ではより自然なスタイルのワインが求められるようになりました。

 鮮度が命とされる「鮨」も、本来は保存性の高さが求められた発酵食品でした。流通や技術の発達により、生の魚の美味しさを味わう江戸前寿司が主流になり、安価な回転寿司が様々な工夫で客層を拡げていく一方で、熟成させたネタや赤酢を使った酢飯など高品質な鮨も注目を浴びています。例えばウニでも、以前は保存のためにミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム)を使うことが当たり前でしたが、今では塩水ウニなどミョウバンを使わない物も出てきました。これなどはまさに近年の自然派ワインの流行に通じる物があります。

 そして今、グローバルな飲料の代表格であるワインと、和食の代表格である鮨とのマリアージュがさまざまな形で試みられるようになりました。ワインも鮨も、カジュアルで親しみやすい物と、究極を目指すより自然で高品質な物との二極化が見られるようになりましたが、その結果として私たちは非常にバラエティ豊かな組み合わせを楽しめるようになったとも言えるのです。

2.オーストリアワインについて

 オーストリアワインの歴史は2000年以上前にさかのぼり、今日でもローマ時代のセラーやバロック式修道院とその所有畑を見ることができます。気候と土壌の条件が揃っているのも大きな特徴で、緯度は銘醸地フランス・ブルゴーニュとほぼ同じ、石灰岩や小石などを多く含む多彩な土壌を備えています。小規模家族経営のワイナリーが大半を占め、ビオロジックやビオデナミなど自然派の造り手が多いのもオーストリアワインの大きな特徴と言えます。そもそもビオデナミの提唱者、ルドルフ・シュタイナーもオーストリア人でした。

 オーストリアワインのミネラル感の高さは、魚介のミネラル感や塩味のニュアンスと共通項があります。また、酸味の繊細さは酢飯の深みのある味わいを引き立ててくれますし、酸味と果実味のバランスが良く、飲み疲れることのないオースリアワインは、鮨などの和食に寄り添う食中酒として最適なアイテムの一つと言えます。。

3.オーガニックワインと自然派ワイン

 いわゆる「オーガニックワイン」と「自然派ワイン」は同じものでしょうか。「オーガニックワイン」は、すなわち「有機栽培の葡萄から造られたワイン」です。有機栽培とは、化学的な農薬・肥料・除草剤などを使わず、自然にあるもの(たとえば、動物の糞や草を発酵させたものなど)を使って栽培されていることを指します。そしてEUでは、2012年にオーガニックワインに関してガイドラインが設定され、そのガイドラインに沿って認証されたワインは「オーガニック」「ビオ」を名乗ることができます。公的な認証機関のあることは強みではありますが、一方で50種あまりの保存料や添加物が認められていることに対して異論を唱える人もいます。

 一方「自然派ワイン」それ自体は公的な認証制度はありません。どんな生産者でも「自然派」を称することは可能です。健康に栽培された葡萄で、自然環境に配慮し、人手を極力加えずに造られたワインを自然派ワインと呼ぶのであれば、それを公的機関で認証することは逆に難しいことでもあるのです。

 農作業を月の満ち欠けに合わせるなど、よりスピリチュアルな農法であるビオデナミは、ある意味自然派ワインの一つのあり方ですが、これについては認証基準が設けられています。バイオダイナミック農法を実践する生産者団体デメターが、1946年に品質認証のための自主基準を作っており、世界約40か国から認証された3500を超える商品が流通しています。

4.ワインテイスティング
 
     

「ランソン・グリーンラベル・ブリュット・オーガニック」
( タイプ:白・辛口・発泡性、ビオデナミ、品種:ピノ・ノワール50%+シャルドネ20%+ムニエ30%、産地:フランス/シャンパーニュ)

 ランソン社は2010年にヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区ヴェルヌイユ村に16haの畑を取得し、そのうち8haで有機栽培を行い、2017年に「ランソン・グリーンラベル」としてリリースしました。ビオデナミ農法を取り入れ、国際認証団体である「デメテール」と、フランス政府が制定した「アグリキュリチュール・ビオロジック(AB)」の認証を受けたEU認定のオーガニック・シャンパーニュです。シャープな酸味が特徴で、前菜のサヨリ、生トリ貝と抜群の相性を見せてくれました。

「ペーター&パウル・グリューナー・ヴェルトリーナー・ビオ 2017年」
(タイプ:白・辛口、ビオデナミ、品種:グリューナー・ヴェルトリーナー100%、産地:オーストリア/クレムスタール)

 ホーク家は、「クレムスタール」南東部のホレンブルグ村にて1640年からぶどう栽培を営む名門ですが、2008年よりすべての自社畑でオーガニック栽培を開始。2015年、「BIOS」の認証を取得したのを機に、新ブランド「ペーター&パウル」の発売を開始しました。「ペーター&パウル」はキリスト教の聖人であるペトロとパウロのことで、創業以来ワイナリーに鎮座している2聖人の木像からの命名です。80%をステンレスタンクで、20%を樽で発酵、熟成(5〜6ヶ月間)させています。香りは比較的大人しめで、とても柔らかい味わいが、すだちと塩で頂く桜鯛だけでなく、中トロも包み込んでくれました。

「トーマス・ハレター・シャルドネ 2016年」
(タイプ:白・辛口、ビオデナミ、品種:シャルドネ100%、産地:オーストリア/ブルゲンラント)
 1725年以来、ハレター家は農業に従事してきましたが、4世代にわたってワイン醸造を続けてきました。2006年にオーガニック農法への切替を決定、2009年以来、オーガニック認定を受けている生産者です。2011年にトーマスが両親からワイナリーを引き継ぎました。トーマス・ハレター・シャルドネは、ステンレスでの発酵後、ステンレスタンクと大樽で熟成。樽香はなく、シュール・リーにより色が濃く、独特の風味があります。熟したオレンジの皮、ドライ・アプリコットなどの風味を持っています。昆布締めなど若干手を加えて旨味をのせた江戸前鮨としっかり合います。

「ヨハネスホフ・ライニッシュ・グンポルツキルヒナー 2018年」
(タイプ:白・辛口、ビオデナミ、品種:ツィアファンドラー 60%+ロートギプフラー 40%、産地:オーストリア/テルメンレギオン)
 ヨハネスホフ・ライニッシュ氏は、世界中でたった130haしか存在しないとされる、地場品種ツィアファンドラーとロートギプフラーの特徴であるエレガンスと力強さを最大限に引き出し、伝統を守りつつ、現代手法をも取り入れた醸造を行っています。ツィアファンドラーは酸味と苦味があり、ロートギプフラーはやや粘性のある、甲州に似たグリ系の品種で、この2つをアッサンブラージュしています。ほのかな甘さは〆鯵や車海老の握りの白い酢飯にとても合いました。薄い黄緑色をしたワインは、ジャスミンの花やエギゾチックな果実、マンゴー、バナナ、レモン等の黄色いフルーツの風味があり、クリーミーな柔らかさとしっかりとした構成を合わせ持っています。

    

「モリッツ・ハウスマルケ・スーパーナチュラル 2017」
(タイプ:白・辛口、ビオデナミ(認証なし)、品種:グリューナー・ヴェルトリーナー約80%+シャルドネ約20%+リースリング1%未満、産地:オーストリア/ブルゲンラント)

 モリッツは2001年設立の醸造所で、当主のローラント・フェリッヒ氏はエレガント系ブラウフレンキッシュのパイオニア的存在として知られています。フィネスとエレガンスを追求する彼は、小樽や新樽を使用せず、500L〜4000Lのオークの大樽にて18ヶ月〜20ヶ月の熟成を経てリリースされます。「ハウスマルケ」は、モリッツが造る希少な白ワインで、塩味を感じるほどリッチなミネラル感と、とても柔らかなボディが調和する旨み一杯の白ワインです。稚鮎の唐揚げとの相性は素晴らしいものでした。

「ゲルノット&ハイケ・ハインリッヒ・グラウ・フライハイト 2015年」
(タイプ:オレンジ・辛口、ビオデナミ、品種:ピノ・グリ40%+シャルドネ40%+ピノ・ブラン20%、産地:オーストリア/ブルゲンラント・ノイジードラーゼー)
 ゲルノット&ハイケ・ハインリッヒは、オーストリアの恵まれた土壌で、ツヴァイゲルトやブラウフランキッシュなどの土着品種の可能性を信じて畑を買い足し、現在は100haの自社畑を持つ、数ある伝統的なワイナリーと並んで高い評価を得ている生産者です。ビオデナミ農法を取り入れ、オーク樽にて14ヶ月熟成、硫黄を添加せずに瓶詰めしています。グラウ・フライハイトの畑はライタベルクにあり、ワインは濁りがあり、かならず振って混ぜてから飲むことを推奨しています。紅茶のような繊細な風味を持ち、活気に満ちた酸味と余韻の長いミネラル感を兼ね備えています。鰆のウニソースと共に愉しみました。

「ピットナウアー・ザンクト・ラウレント・ドーフラーゲン2016年」
(タイプ:赤・辛口、ビオデナミ、品種:ザンクト・ラウレント100%、産地:オーストリア/ブルゲンラント・ノイジードラーゼー)
 ピットナウアーはノイシードラセー北部ゴルスのワイナリーです。2006年よりビオディナミ農法に転換しました。ドルフラーゲンはそのゴルスの北、パームドルファー・プレートに広がる複数の葡萄畑から採れた葡萄を使用し、旧小樽で14ヶ月熟成されています。明るいスミレ色、ベリー系フルーツの香り、程よい酸味とチョコレートの風味を持つ、フルーティで長い余韻を感じさせるワインです。

「ストレコフ・1075・ズヴェトヴァヴリネツケー 2008年」
(タイプ:赤・辛口、ビオデナミ(認証なし)、品種:ズヴェトヴァヴリネツケー(ザンクト・ラウレント)100%、産地:スロヴァキア/南スロヴァキア)
 首都プラスチラヴァより南東に約150kmに位置するストレコフ村。「1075」はストレコフ村が最初に歴史に記述された年を意味するとされています。その南にはハンガリーとの国境を分ける国際河川“ドナウ”が流れます。オーナーのジョルト氏の丘陵の斜面に位置する畑は、複雑な地層を持ち、上層部は海洋堆積物や砂岩、石灰を含む粘土質ロームで、より深い層は黄色または青灰色の粘土によって構成されています。収穫量は25hl/haまで抑えられ、開放樽で発酵、醸造中には亜硫酸を加えず、瓶詰めの時にのみ亜硫酸を加えるというナチュラルな醸造法を取っています。薔薇やチェリー、熟した野イチゴなどの華やかな香りに加えて、アールグレイに腐葉土や甘草などの風味も感じられます。煮蛤や大トロの握りと共に。世界一のレストランといわれる“ノーマ”にもオンリストされました。 

5.今回の一冊

 


岡田壮石「オーストリアワイン、江戸前鮓と会席料理」(集英社インターナショナル)
 以前なら、江戸前に合わせるのは日本酒か日本茶が当たり前で、何も無理してワインを合わせなくても……というのが世の常識だったと思うし、1998年刊行の堀賢一著「ワインの自由」(集英社)にも、フランス人の友人にマグロのにぎりとピノ・ノワールを薦められた著者は、「折角のマグロを赤ワインで台無しにされたくない」と記しています。しかしいまや多くの寿司店にワインが置かれており、銀座「鮨からく」大将の戸川基成氏「『鮨からく』流ワイン好きに喜ばれる和のつまみ」(世界文化社)に続いて、今回でワイン会開催が3回目となる銀座「壮石」のソムリエ兼代表取締役・岡田壮石氏もこの「オースリアワイン、江戸前鮓と会席料理」を発行するほどで、鮨とワインのマリアージュはひとつのスタイルとして確立しているとすら言えそうです。「春」「夏」「秋」「冬」ごとに、旬の鮨とオーストリアワインとのペアリングが丁寧に紹介されていて、思わず季節毎に寿司店を訪れなければ、という気にさせてくれる一冊です。

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