Via Vino No. 90 "Champagne VIII"
シャンパーニュ8


<日時・場所>
2020年8月1日(土)18:30〜21:00 広尾「マノワ」 
参加者:17名
<今日のワイン>
白・辛口・発泡性「ピエール・ペテルス・ブラン・ド・ブラン・ブリュット・メニル・マグナム」
白・辛口・発泡性「ベルナール・ペルトワ・ブラン・ド・ブラン・マグナム」
白・辛口・発泡性「ランソン・ブラックラベル・ブリュット・マグナム」
白・辛口・発泡性「ガティノワ・グランクリュ・アイ・マグナム」
白・辛口・発泡性「アンリ・ジロー・エスプリ・ナチュール・ジェロボアム」
<今日のディナー>
【アミューズ】3種のマノワのアミューズ
(ニホンジカのアメリカンドッグ、クヌギマスとトマトコンソメジュレ、ツブ貝のマリネとアヤメユキカブのムース)
【前菜】ムラサキウニと魚介のタルタル、北海道石見沢の高麗きじのジュレ
【前菜】長崎県・うなぎと夏ごぼうのガトー仕立て、ポートワインとうなぎの肝のラヴィゴットソース
【魚料理】山梨県・芦安の山椒のムースを詰めた鮎のベーニエ、鮎の肝のソース
【肉料理】北海道・函館 夏蝦夷鹿のロースト、鹿のジュとビーツとパプリカのソースで
【デザート】ヴェルヴェーヌの香る、山梨県・一宮しずめ農園のもものコンポート 桃のソルベと共に

     


1.シャンパーニュ・マグナム/ジェロボアム2

最初は嫌われものだったシャンパーニュの泡
泡を受け入れたのはフランスではなくイギリス
テロワールよりも商業的成功が先に訪れた地

 スティルワインと食事とのマリアージュは、何かと気を遣う話になりがちです。酸とのバランス、タンニンとのせめぎ合い……しかし、一般的にシャンパーニュは、魚だろうが肉だろうが、サラダだろうがチーズだろうが、あるいは光り物の寿司ですら、合わせることが可能だとされています。やはりあの爽やかな泡の存在が大きいと思われます。

 しかし、もともとシャンパーニュの泡は、できそこないの印として最初は嫌われていたのです。気温の低い地域では、糖を残したまま途中で発酵が止まってしまい、瓶詰めされた後に気温が上がって再発酵が始まってしまい、破瓶などのトラブルに発展しました。かのドン・ペリニヨンも、泡を撲滅しようと実験を繰り返したとされています。

 泡を受け入れたのは、お膝元のフランスではなく、輸出先のイギリスでした。ガラスの製造において大陸を上回っていたイギリスでは、スティルワインに糖を加えて発泡性ワインを作り、その味わいを楽しみました。これを受けてシャンパーニュ地方でも、18世紀初頭から、発泡性ワインを率先して造るメゾンが現れて来ます。

 原産地統制呼称が発足するはるか以前に商業的な成功を収め、糖を加えて発泡性ワインを造ることが当たり前になったシャンパーニュでは、葡萄以外に一切混ぜ物を許さない他のスティルワインとは異なり、糖を加えることも、赤・白ワインを混ぜてロゼを造ることも認められる、特異な生産地となったのです。

2.ワインテイスティング
 
      

「ピエール・ペテルス・ブラン・ド・ブラン・ブリュット・メニル・マグナム」(タイプ:白・辛口・発泡性、品種:シャルドネ100%、産地:フランス/シャンパーニュ/コート・デ・ブラン/ル・メニル・シュル・オジェ)
 総じて高い評価を獲得する造り手、ピエール・ペテルスは、クリュッグ・クロ・デュ・メニル、サロンという二大カリスマシャンパーニュによって名声が築かれたメニル・シュル・オジェ村で、100年以上の歴史を持ち、注目を集めているレコルタン・マニピュランです。2005年にはフランスのベストセラーワインガイド「デュセール・ジェルベ」で、クリュッグ、ボランジェ、ドン・ペリニヨンに並ぶ5ツ星の最高ドメーヌに格付けされました。すっきりとした果実味のアタックからミネラルを含んだ酸が広がり、フレッシュでミネラルな余韻へと繋がっていきます。シャープな味わいのシャンパーニュです。

「ベルナール・ペルトワ・ブラン・ド・ブラン・マグナム」(タイプ:白・辛口・発泡性・RM、品種:シャルドネ100%、産地:フランス/シャンパーニュ/コート・デ・ブラン/メニル・シュール・オジェ)
 ペルトワ家は、ル・メニル・シュール・オジェに1650年から続くぶどう栽培家の家系で、1910年に現在のRM(レコルタン・マニピュラン)の姿になったという名門です。所有面積は15haですが、自社ビン詰めには4.5haのグラン・クリュ(ル・メニル・シュル・オジェとオジェ)のシャルドネのみを使用し、残りのぶどうはネゴシアンや協同組合に販売してしまいます。ドメーヌの全生産量でさえわずか1,700ケースという極少ドメーヌで、ぶどう栽培にはリュット・レゾネを厳格に適用し、原則的に化学肥料、除草剤、殺虫剤といった農薬は使用しません。ミネラル感を重視したシャンパーニュ造りを行っています。同じブラン・ド・ブランでも、先のピエール・ペテルスに比べると柔らかく甘みのある味わいです。

「ランソン・ブラックラベル・ブリュット・マグナム」(タイプ:白・辛口・発泡性・NM、品種:ピノ・ノワール50%+シャルドネ35%+ピノ・ムニエ15%、産地:フランス/シャンパーニュ/ランス)
 ランソンは、シャンパーニュ地方の大聖堂で知られる美しい街ランスにある、最も古いシャンパーニュハウスの一つで、1760年ランスの行政長官フランソワ・ドゥラモットにより設立された「ドゥラモット・シャンパン・ハウス」がランソンの前身となります。ランソンのボトルネックラベルとコルクには十字のマークが刻まれており、これは、創設者フランソワ・ドゥラモットの息子が聖マルタ騎士団に所属していた事に由来しています。1837年にジャン・バプティスト・ランソンにより社名を「ランソン」に変更後、ブランドの確立と国際的販売網の拡大に成功し、世界的ブランドへと発展してきました。マロラクティック発酵を行わない数少ないシャンパンメーカーのひとつでもあり、トーストのニュアンスに加え、さまざまな花の蜜の香りがあります。余韻が長く、あらゆる機会に楽しませてくれます。

    

「ガティノワ・グランクリュ・アイ・マグナム」(タイプ:白・辛口・発泡性、品種:ピノ・ノワール90%+シャルドネ10%、産地:フランス/シャンパーニュ/ヴァレ・ド・ラ・マルヌ/アイ)
 シャンパーニュ随一のピノ・ノワールを誇るグラン・クリュ、アイ村の畑は殆どが南向きで、最高峰のピノ・ノワールを産み出しますが、その中でも最高の畑はアイの街のすぐ背後、冷たい北風が遮断される、マルヌ川沿いに落ちこむ急斜面と言われています。ガティノワは、これらの最高の区画を含む27区画をアイ村だけに所有しており、卓越したピノ・ノワールを用いて、あえてエレガントさとフィネスを優先させたワイン造りを行っています。濃い色合いで、余韻の長さが魅力的なシャンパーニュです。

「アンリ・ジロー・エスプリ・ナチュール・ジェロボアム」(タイプ:白・辛口・発泡性・NM、品種:ピノ・ノワール80%+シャルドネ20%、産地:フランス/シャンパーニュ/ヴァレ・ド・ラ・マルヌ/アイ)
 1625年創業者のフランソワ・エマールが葡萄畑を購入したのがメゾンの始まりです。20世紀初頭に、アンリ・ジローの父レオンがエマール家の娘と結婚したのがメゾン名の由来となりました。アルゴンヌ製木樽とテラコッタ製卵型タンクで醸造。50%のリザーヴワインをブレンドして造られています。完熟した桃や洋梨などのフルーティな香りの中に、バニラや白コショウのニュアンスが感じられ、ピノ・ノワール主体のシャンパーニュならではの芳醇さと、軽やかなタンニンが印象的です。旨味が強く、コクのある味わいが魅力的で、さすがジェロボアムと思わせる風格があります。

3.シャンパーニュを科学する

「何故泡が出るのか」
 シャンパーニュの泡は、酵母の発酵によって造られる二酸化炭素です。シャンパーニュに溶け込んでいる二酸化炭素のガス圧は5〜6気圧。1Lのシャンパーニュに溶けている二酸化炭素の量は約12グラムです。100mlのシャンパーニュをグラスに注ぐと、1100万個の泡が放出されるのです。

「泡の造られる場所」
 一般的にシャンパーニュの泡は、グラス内部の傷や凹凸から生まれると思われていますが、実際にはグラス内壁に付着している不純物から形成されています。空気中に漂っていた、あるいは洗浄後の拭き上げによってグラス内に残った繊維の空洞から、泡は発生するのです。従って、いかなる物質も付着していないグラスに注がれたシャンパーニュからは、泡は発生しません。ガスは全て液体の表面から直接空気中へ逃げていくのです。

「シャンパーニュの泡とビールの泡」
 シャンパーニュの泡とビールの泡とを比べると、ビールの泡の方がゆっくりと立ち上ります。しかしシャンパーニュとビールの粘性は殆ど変わりません。ビールにはシャンパーニュより遙かに多く界面活性剤が含まれているためで、これは葡萄よりも大麦の方が糖タンパクを多く含むからです。またシャンパーニュには溶解しているガスの量がビールよりも倍以上あり、泡が非常に早く膨れていくため、早く泡が立ち上ることになります。

「シャンパーニュの口当たりとは」
 液面ではじける泡は、風味成分の放出においても重要です。アルコールや一部のアルデヒド(ヘキサナールやヘキセナールなど)、有機酸(プロピオン酸や酪酸など)といった芳香成分の多くは、界面活性剤として機能し、泡は上に向かう際にこれらの分子を引き連れていくのです。そのため、こうした分子はシャンパーニュの液面に集まり、空気中に広がって、鼻で感じられる香りや、舌で感じられる風味を強調し、スティルワインのようにわざわざスワリングしなくても、飲み手の五感を刺激してくれるのです。

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