Via Vino
No. 93 "Sushi & Wine 6"
<すしとワイン6>
<日時・場所>
2023年12月16日(土)18:00〜21:00 銀座「壮石」
参加者:20名
<今日のワイン>
辛口・白「NYV 余市ケルナー 2022年」
辛口・白「レート・ローター・フェルトリーナー・クラシック 2022年」
辛口・白「ユルチッチ・グリューナー・フェルトリナー・テラッセン 2022年」
辛口・オレンジ「マラート・ロー・ゲヴュルツトラミナー2021」
辛口・赤「マラート・ツヴァイゲルト・フルト 2019年」
甘口・赤「ピットナウアー・ザンクト・ラウレント・フォン・ドルフ 2020年」
<今日のディナー>
【先付け】
牡蠣のしぐれ煮
【炊き合わせ】
蕪と春菊、鶏のたたきのお団子
【揚げ物】
毛蟹の甲羅揚げ
【鮓】
トロ、煮ハマグリ、イカ、アジ、カマス昆布締め、ボタンエビ、マグロのづけ、メジマグロ
【汁物】
赤出し
【デザート】
アイスクリーム
1.オーストリアワインについて
フランスワインやイタリアワインに比べて、オーストリアワインはあまり馴染みがないかも知れません。最近の辛口志向であまり見かけなくなったドイツワインと近いようなイメージがおぼろげにある程度でしょうか。しかしドイツ以上の厳しい基準を持ち、ヨーロッパの中心であり中東にも近かったハプスブルク帝国の輝かしい歴史を持つオーストリアワインは、まさしくウィーンで活躍したモーツァルトの音楽にも似て、親しみやすく、それでいて非常に奥深い味わいを持っています。その純粋さと深遠さは、ある意味日本の食文化にも通じるものがあると思うのです。
【ぶどう品種について】
<ケルナー Kerner>
1969年にドイツでトロリンガー(スキアーヴァ・グロッサ)とリースリングの交配によって開発された白品種。開発者の名ではなく、地元の酒の賛歌の作詞家にちなんで命名されました。耐寒性に優れ、樹勢は強く、高い酸により熟成に耐えうる能力を持っています。リースリングに似た香味と、葉っぱのような独特の香りがあり、ブレンドせず単体で熟成が期待できる優れたヴァラエタルワインになります。北海道でもナイアガラ、キャンベル・アーリーに次いで第三位の生産量を誇ります。
<グリューナー・フェルトリナーGrüner Veltlinerとローター・フェルトリナーRoter Veltliner>
グリューナー・フェルトリナーは、オーストリア独自の最も重要な品種で、全栽培面積の約1/3を占めています。アルザスのスタイルのように、香りが高く存在感のあるワインを造ることが可能で、ワインは基本的に辛口でフルボディ、良く凝縮したものは若干スパイシーで、ブルゴーニュの白の銘醸品のような特色を醸し出すことがあるとされています。ローター・フェルトリナーはグリューナーの変異種で、やや早熟で果皮が赤く酸が低いのが特徴です。
<ゲヴュルツトラミナー Gewürztraminer>
ピンク色の果皮をした、ライチやバラを思わせる特徴的な香りで知られる品種です。イタリア・チロル地方の地場品種トラミナーの変異種で、「ゲヴュルツ」はドイツ語で「スパイスの効いた、芳香」を意味します。糖度が高く、ワインはアルコールが高く酸の低いスタイルとなります。アルザスを代表する高貴品種ですが、ドイツやオーストリアでも栽培されています。
<ツヴァイゲルト Zweigelt>
1922年にクロスターノイブルグ研究所のツヴァイゲルト博士によって、ブラウフレンキッシュとザンクト・ラウレントから開発された交配品種です。前者の刺激的な味わいと後者のボディを受け継ぎ、オーストリアで最も広く栽培されている黒葡萄品種です。やや強めのタンニンを持ち、穏やかな酸が感じられるフルーティーな味わいが特徴です。1970年には北海道にも導入され、赤ワイン用品種として多く栽培されています。
<ザンクト・ラウレント St. Laurent>
ザンクト・ラウレントは、遺伝子解析によりブルゴーニュ品種と素性が不明の品種の自然交配です。約150年前にアルザス地方からドイツにもたらされました。その名は聖人歴に名を連ねる聖ラウレンティウス(8月10日が祝日)に由来するものではないかと言われ、シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)よりも10日から12日早く熟すことを考慮して命名されたのではないかと考えられています。みずみずしい果実味と、やや低めのタンニンは、ピノ・ノワールと近い味わいと見なされています。
【すしとワイン】
一般的には、酸味の爽やかな白ワインと、脂が少なくさっぱりした味わいの白身魚は相性が良く、苦渋味を持つ赤ワインと、脂がのった濃厚な味わいのマグロのような赤身魚も合うとされています。
ワインと魚介は合わせにくいと言われますが、一説には、ワインに含まれる鉄イオンが、干物などに含まれる(E,Z)-2,4-ヘプタジエナール(DHAが酸化したもの)と反応して生臭さを発生させるとのこと。また一説には、ワインに微量に含まれる二酸化イオウが、魚介のDHAと反応してアルデヒドが発生し不快臭を感じさせるとも言われています。鉄分をあまり含まない白ワインや、二酸化イオウが含まれない自然派ワインが合わせやすい理由として説明されています。
2.ワインテイスティング
「NYV 余市ケルナー 2022年 :NYV Yoichi Kerner 2022」(タイプ:白・辛口 品種:ケルナー100% 産地:北海道/余市)
「NYV」は新たな銘醸地として注目されている北海道・余市町産・自社畑100%の日本ワインです。常に新しい試み・探求・進化を続けていくワインとして考案され、「NYV」は「ネクスト・余市・バリュー」を表しています。ケルナーは主として寒冷地で栽培されるドイツ生まれの交配品種で、耐寒性が高く、穏やかな酸味とフルーティな味わいが特徴です。魚料理や鶏肉などの白身肉料理、特に貝類との相性が抜群とされています。
「レート・ローター・フェルトリーナー・クラシック 2022年 :Leth Roter Veltliner Klassic 2022」(タイプ:白・辛口 品種:ローター・フェルトリーナー100% 産地:オーストリア/ニーダーエスタライヒ州)
黄色いリンゴとオレンジピールのほのかな香りに、しっかりとした高い酸味と軽い残糖感がハーモニーを織り成しています。焼きリンゴ、熟成した柑橘類などの味わいに、グリ系の品種らしい心地よい苦味があり、しっかりと長い余韻を残します。造り手のフランツ・レートは長年にわたって持続可能なブドウ栽培を目指して、化学物質を一切使用せず、自家製酵母でワイン造りをしています。オーストリアでも生産量が少なくなった地場品種で、雲丹など海産物との相性が最高です。
「マラート・ロー・ゲヴュルツトラミナー2021 :Weingut Malat Raw Gewürztraminer 2021」(タイプ:オレンジ・辛口 品種:ゲヴュルツトラミナー 産地:オーストリア/ニーダーエスタライヒ州)
マラートは、1722年に設立された家族経営のワイナリー。「オレンジワイン」とは、赤ワイン同様、ぶどうの果皮と一緒に果汁を漬け込んで仕込んだ白ワインです。手摘みのブドウを皮ごと自然酵母で自然発酵させるため、ややオレンジイエローがかった色調のワインになります。オークの大樽に澱とともに移してマロラクティック発酵を行い、澱抜きせず硫黄無添加で瓶詰します。ライチ、柑橘ときれいな酸に、旨味と苦味など品種の個性とオレンジワインの良さが両立した、和食にもぴったりのワインです。
「マラート・ツヴァイゲルト・フルト 2019年 :Weingut Malat Zweigelt Furth 2019」(タイプ:赤・辛口 品種:ツヴァイゲルト100% 産地:オーストリア/ニーダーエスタライヒ州)
マラートは、ドナウ川の南岸にあるシュティフト・グートヴァイグ修道院の丘陵地帯に拠点を置き、隣接するヴァッハウ地域にも畑を所有、多様な土壌からユニークなワインを生み出しています。ツヴァイゲルトは、優しい赤系ベリーと、野性味のある黒系ベリーが組み合わさり、シナモンなどの熟成感も軽く感じられ、全体にバランスがとても良いワインです。一般的なツヴァイゲルトの味とは一線を画し、とても繊細な造りとなっています。脂の乗った赤身のネタとは最高の相性です。
「ユルチッチ・グリューナー・フェルトリナー・テラッセン 2022年:Jurtschitsch Grüner Veltliner Terrassen 2022」(タイプ:白・辛口 品種:グリューナー・フェルトリナー100% 産地:オーストリア/ニーダーエスタライヒ州)
ユルチッチはオーストリア、カンプタールの中心地ランゲンロイスに位置するワイナリーで、その歴史は長く、畑は1541年よりすでに、 「修道院に隣接するブドウ収穫の中庭」として使用されていました。 2006年には全ての畑を有機農法に転換し、2009年にはオーガニック認証を獲得しています。栽培される主要品種グリューナー・フェルトリーナーは、とても綺麗な酸があり、黄土(レス)由来のリンゴや熟れた柑橘などに加えて、軽いスパイシーさもある優れたワインとなっています。
「ピットナウアー・ザンクト・ラウレント・フォン・ドルフ 2020年 :Pittnauer St. Laurent vom Dorf 2020」(タイプ:赤・辛口 品種:ザンクト・ラウレント 産地:オーストリア/ブルゲンラント州)
ピットナウアーは、2006年以後ビオデナミに転換、15haの畑を独自のオーガニック精神で手入れしています。「vom dolf」は「村から」の意で、村名クラスワインであることを示しています。手摘みで収穫後、ステンレスタンクにて自然発酵、旧樽500Lで22ヶ月熟成させています。濃いルビー色をしており、ブルーベリー、ラズベリーなどの赤い果実とスミレの花とスパイスの香りがあり、果実味は豊富ですが素朴でエレガント、柔らかくて繊細な赤ワインに仕上がっています。
<今回の1冊>
【岡田壮石「オーストリアワイン、江戸前鮓と会席料理」(集英社インターナショナル)】(2018年刊行)
今回ワイン会の会場となった銀座「壮石」のソムリエ兼代表取締役・岡田壮石氏が発行された、「オーストリアワインと江戸前鮓」マリアージュの解説本です。鮨とワインのマリアージュはもはやひとつのスタイルとして確立している言えそうですが、合わせるワインをオーストリアの物に限定しているという意味では、なかなか貴重な一冊です。「春」「夏」「秋」「冬」ごとに、旬の鮨とオーストリアワインとのペアリングが丁寧に紹介されていて、思わず季節毎に寿司店を訪れなければ、という気にさせてくれる一冊です。