■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
     百 花 繚 乱 の ま じ め な 小 説 マ ガ ジ ン

      月  刊  ノ  ベ  ル 9 月 号
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

   月刊ノベルHP 
http://plaza5.mbn.or.jp/~joshjosh/

----------------------------------------------------------------
      月刊ノベルは当幅フォントでお読みください。
----------------------------------------------------------------
   今月の1作:『5号室』の秘密   作者:ドルフィン
   ジャンル: ユーモア       長さ:文庫本6ページ  
----------------------------------------------------------------

 9月になりました。しかし秋の気配はちっとも。お元気でしょうか。

 まじめな小説マガジンの月刊ノベルです。ネット上に毎日のように発
表される小説の中から、編集者ジョッシュが独断と偏見で、面白そうな
作品を月に1本だけ選抜し、作者の了解を得て掲載してゆくメルマガが
「月刊ノベル」です。

 先月号掲載の短編「停電」(青木無常)には、多数のコメントをあり
がとうございました。読者評価の最終結果はインターネット「月刊ノベ
ル」のトップページに発表しておりますが、総合評価としては「大好評」
ということになりました。そういうわけで、青木無常氏の再登場をまた
交渉したいと考えております。ご期待ください。

 さてさて、9月号は「アマチュアライターズクラブ」で活躍するドル
フィンさんの短編「『5号室』の秘密」をお送りいたします。幻想怪奇
的な作風に独特の味があり、仲間内から「ドルフィン節」と呼ばれて支
持されているドルフィンさんの文章ですが、今回はまたまた編集人の好
みを優先させてもらって、ちょっと変わった雰囲気のこの短編を選ばせ
ていただきました。

 なお、本編終了後に簡単なアンケートがあります。今後の作品選択の
参考にしたいと思いますので、なにとぞご協力ください。

           平成12年9月9日 編集人 ジョッシュ

----------------------------------------------------------------

     『5号室』の秘密  ドルフィン

     

「あのぉ…」あたしはおそるおそる『5号室』の扉を開いた。
「わははは、だからして君はぁ…」一番奥で少し毛の薄いおじさんが4
人の男女と談笑している。
「夢枕鵺が朝月新聞の夕刊に連載するのですって!」年季が入った様子
の貫禄ある女の人が新聞を拡げながらそんなことを言っている。
「きゃぁぁぁ素敵!」ワニのぬいぐるみを抱えたもう一人のいかにもミ
ーハーそうな若い女の子が甲高い声をあげた。
「すいませんが…」そう声をかけたのに誰ひとり見向きもしてくれない。
完全に無視された形のあたしは仕方なく部屋をぐるりと見渡した。机の
上には書類の束、ポテチの袋、灰皿、見事な枝振りの松、その他得体の
知れない品物が雑多に積み重なっている。幻滅。これがわが区トップと
言われているあの『5号室』なの?
 ぶぶぶぶぶ…あたしは部屋の隅に置かれたひどく旧式のテレビの画像
がブレてカラーが白黒になっていることに気づいた。ブレていることに
誰も気にしていないみたい。今どき博物館以外ではお目にかかれない手
でがちゃがちゃチャンネルをあわす型のようだわ。まめに気がつく女性
であることを印象づけなくっちゃ。あたしはこの部屋に配属されて手始
めにこのテレビを直すことにした。
 ところが、あれれ…あたしがいじったらよけい悪くなった。前はブレ
ているだけだったのが今度はまったくと言ってもいいほど映らなくなっ
た。困ったわ。これじゃ新人であるあたしの立場というものがないじゃ
ないの。
 トンっと軽く机を叩く音が聞こえてテレビの映りがよくなった。振り
向いたら若い男の人と目があった。そして軽くトントンとこぶしで机を
叩いてからあたしを見てにこりと笑った。ちょっと好みのタイプ。
「あ、あの…初めまして」
「今度配属された人でしょう? ありきたりの挨拶は無用ですよ。初日
から古株みたいな顔をしていればいいんだ。この部屋の連中みんな変わ
り者ばかりだから」
 よかった、テレビ壊さなくて。それにこの青年、いい人みたいだわ。
あたしは胸をほっとなでおろした。
「来るわよ」そのとき唐突に『夢枕鵺』の新聞うんねんと言った女の人
が叫んだ。穏やかだった部屋の中の空気が一瞬のうちに変わるのがわか
った。

 ぎぃぃぃ、部屋のドアが開く。皆の目が一斉に注がれる中、落ちぶれ
た感じの灰色のコートを着た男が部屋に入ってきた。
「みんな気をつけろ」少し毛の薄いおじさんが低い声で、それでも緊迫
感はたいしてない調子で警告した。
「新井君、まず説得してくれ」おじさんがワニのぬいぐるみを持った若
い女性に声をかけると彼女はじっと目を閉じて何かを考えている風だっ
たが、
「駄目です。説得を聞こうとしません」やがて目を開けるとそう言った。
 すると男はいきなり無言でコートの前をさっと開いた。
「きゃっ」
 でも期待していたものは現れず、そのかわり男の身体からは気味のわ
るい茶色い触手がいっぱいに垂れ下がっていて、びっくりしてわたしが
見守るうちにするするとコートの下からこちらに伸びてきた。
「仕方ない。神林君、攻撃だ」少し毛の薄いおじさんが言った。
 ぶすりぶすりぶすり、な、な、なんと神林と呼ばれた男がいきなり机
の上に並べられた何十本もの尖らした鉛筆をまるで機関銃のような信じ
られないスピードでつぎつきと男に向かって投げつけたではないか!
 びゅるびゅるびゅる、身体中に鉛筆が突き刺さった灰色の男の姿形は
溶け崩れるように消えてなくなり、後には茶色の巨大なイソギンチャク
の怪物が部屋のいたるところに触手を伸ばしてきつつあった。
「だめです。攻撃が効きません!」
「まずいな。それじゃ新人の…ええと名前なんてどうでもよい、君、何
かやってみろ」少し毛の薄いおじさんはあたしを指さして言った。
『5号室』の常連たちの好奇の目が一斉にわたしに向けられた。
「はい! それじゃ」あたしは勇んで持ってきた蛇の目傘を取り出し、
目の前に置かれていた枝振りのいい松をひっ掴むと蛇の目傘の上に放り
投げ回し始めた。
「ありゃりゃ、そりゃあ、わしの自慢の松…」少し毛の薄いおじさんの
口から思わず小さな悲鳴が上がったが、かまわずわたしは傘の回転速度
を増していく。
 テンテコテン、回転する傘の上でぐるんぐるんと回り弾みながら松が
鳴き出した。しかし茶色のイソギンチャクの反応はまだわずかだ。
 テンテコテンテン、テンテコテンテン、もっとリズミカルに威勢よく、
大げさになるように傘を回した。もう上の松はばらばらのぐちゅぐちゅ
だ。青臭い松と根っこについた土の匂いが部屋中に漂い、催眠誘導的に
目まぐるしく跳ね回るその動きについに茶色のイソギンチャクは好奇心
で辛抱堪らなくなって蛇の目傘の上に覆い被さってきた。
 うまくいったわ! あたしはほくそえんだ。
 テンテコテンテン、テンコテン、テンテコテンテン、勢い良く松と茶
色のイソギンチャクが斑にならないように慌てず騒がず蛇の目傘を回す。
 やがて茶色と緑のコントラストが美しい巨大な肉団子が蛇の目傘の上
でできあがった。
「すばらしい!」
「すばらしいわ!」皆があたしのことを誉めてくれた。ははは…どんな
もんだいと自慢したいところだったがわたしは新人の女の子らしく「ま
ぐれですよ。まぐれ!」と謙虚な言葉で返した。
「くっくっく」新井と呼ばれた女の人が何を感じてか小さく笑う。
 賞賛のざわめきが収まったころ、少し毛の薄いおじさんがあらためて
口を開いた。
「それじゃ、まずわしから自己紹介しよう。天下の筒井部長じゃ」
「天下の筒井部長さんですか」
「さよう」部長は漫画をもっと読みなさいと言った顔であたしを見る。
「この男が、山田君じゃ、器用なものでスニーカの紐の位相幾何学的も
つれから宇宙ひもの重力量子相対論的もつれに至るまで何でもこの手で
直せる」
 先ほどトントンと机を叩いてテレビを直した青年がにこりと笑った。
「それからゴミ箱の前に立っておるのが神林君じゃ、鉛筆での速射攻撃
が得意だ」
 丸くなった鉛筆の芯をナイフで削りながら男がにこりと笑った。
「椅子にでんとかまえておるのが栗本女史じゃ、すべてを見通す先見の
眼を持つ」
 年季の入った女の人が手に持っていた新聞を投げ渡してくれた。そこ
には夢枕鵺の連載記事のお知らせなどどこにもなかった。
 何も書かれていないじゃない?とわたしが聞く前に「今日の夕刊に載
るのよ」と栗本女史がそっけなく言った。見ると、あたしが持っていた
のは朝刊で夕刊ではなかった。
「そして最後にテレパシーで会話ができる新井さんじゃ」
『よろしく』と頭の中に声が響いて来た。
「これで『6号室』の説明は終りじゃ」天下の筒井部長がそう言った。
「あのぉ、『6号室』って…」さっきまでは『5号室』だったじゃないの、
と言おうとしたとき「筒井部長と山田君と神林君と新井さんとわたしで
五人。それから見習いのあなたで6人でしょう?」栗本女史がすばやく
先を読んで説明してくれた。
 そうだったのか、5人いるから『5号室』、6人になれば『6号室』…
実に簡単で実に明確で実に冴えた作者らしい安易な名づけ方だ。あたし
はうんうんとうなづいた。
 キーンコーンカンコーン、昼食のチャイムが鳴る。
「わたしはエビフライ」と栗本女史。
「それじゃ、わたしはきつねうどん。新人さん。あなたは何にするの?」
 新井さんの問いにわたしはにっこり笑って答えた。
「あたしは肉団子」
「あらぁ、さっきの食べるの」
「やだぁ、そんなわけないでしょ」キャキャキャキャキャ
 宇宙ではさまざまな宇宙人種の笑い声がこだまする。
 こちら宇宙区宇宙公園前派出所、今日もいつもと変わらぬ楽しくおお
らかな日になりそうだ。

(終わり)
----------------------------------------------------------------
 読了アンケート:あなたの率直な感想をお聞かせください。
    ↓末尾に投票用のボタンがあります。
----------------------------------------------------------------
 ドルフィンさんのホームページ ドルフィン通信
   URL
http://www5a.biglobe.ne.jp/~doru/
 現在、期間限定で幻想美術館を無料開館中。以下はご本人からのメッ
 セージです。
----------------------------------------------------------------

 幻想美術館をわたしのドルフィン通信に9月1日から30日(予定、
 進行具合によっては10月1日からになるかもしれん)まで開催する
 ことにしました。第T展示室と第U展示室に分けています。
 ホームページのフレームや、投票やご感想(ぜひぜひ感想をください)
 のページまでメル友のどれいを酷使して創りました。苦難の後が伺え
 ますのでぜひ見てください。

 絵柄は、白と黒だけで表現し、天野風、ビアズリー風と影響を受けた
 ドルフィン節になっています。

 
http://www5a.biglobe.ne.jp/~doru/

----------------------------------------------------------------
 お気に入りのネット作家・作品を推薦ください=>
mbooks@dream.com
----------------------------------------------------------------
     タイトル:テキスト版月刊ノベル
      発行日:平成12年09月09日
    総発行部数:1,100部 
    編集・発行:MiyazakiBookspace 
mbooks@dream.com
  お申込みと解除:
http://plaza5.mbn.or.jp/~joshjosh/
----------------------------------------------------------------
----------------------------------------------------------------
このメールマガジンは以下の配信システムを利用させていただいてます。
    インターネットの本屋さん まぐまぐ id=74
    無料メールマガジンスタンド PUBZINE id=2337
    広告付き配送システム melma! id=m00001786
    COCODEメール id=prn81060@ba.mbn.or.jp
----------------------------------------------------------------

感想表明ボタン

評価をお願いします





感想コメント-> ゲストブック

表紙へ戻る