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         ま じ め な 小 説 マ ガ ジ ン

       月 刊 ノ ベ ル ・ 連 載 号

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http://plaza5.mbn.or.jp/~joshjosh/ 


  インターネット上にきら星のごとく散らばる創作サイトの中か
 ら、私(編集人)ジョッシュこと宮崎靖好が独断と偏見(?)に
 基づき選抜した小説を、作者の了解を得てから順次掲載してゆく
 メールマガジンが「月刊ノベル」です。

  コミカル、ミステリ、叙情、ラブロマンス、ファンタジーSF、
 などなどジャンルは多彩ですが、アダルトはありません。

  今回はホームページ「月刊ノベル」の10000アクセス達成
 を記念して、初めての長編小説を連載の形でお届けします。

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      月刊ノベルは当幅フォントでお読みください。
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  連載小説:1対1 第1回    作者:憑木影(つきかげ)

  ジャンル:SFゲーム      長さ:文庫本9ページ  

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  記念すべき月刊ノベル初の長編小説は、2000年度AWC大賞
 (アマチュアライターズクラブ大賞)の長編部門賞受賞作を、連載
  の形でお届けいたします。4回完結の予定です。
  どうぞ、お楽しみください。

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    一対一 (連載第1回)     つきかげ

「やったぜ、見ろよ」
 画面に派手に、『YOU WINNER』の表示が出る。おれは満
面に笑みを浮かべ、深紅のスーツに身を包んで傍らに立っているナミ
へ声をかけた。
 ナミはうんざりしたようなため息をつく。
「大体さあ、なんでデートの行き先がゲームセンターなのよ。私たち
は塾帰りの高校生なわけ?」
 おれはナミの愚痴を無視して再び画面に向かう。
「おまえさあ、知らないの?今、このスーパードッグファイトってゲ
ーム凄ぇはやってんだぞ」
 派手なダンスミュージックが鳴り響き、いかれた格好の子供たちが
うろつき回っているそのゲームセンターには、ジェット戦闘機のコッ
クピットを模したブースがざっと二十機は並んでいる。どういう訳か
対戦型のジェット戦闘機ゲームが大ブレークし、世界ランキングまで
できていた。
 ナミはおれの頬の肉をつかむとぐいっと、捻る。
「はやってるとかそういう問題じゃないでしょう」
「いや、あの」
 おれは、慌ててナミの手をタップする。しかし、ナミの力はさらに
強まった。
「だいたい恭平、元戦闘機パイロットのあんたがこういうゲームで素
人相手に勝ってもしょうがないでしょう」
「いや、判った、やめるよ、ここを出よう」
 ナミはにっこり笑って手を離した。
「じゃ、ショットバーにでもいく?」
「もう一勝負したらな」
 おれは殺気を感じて首を竦める。おれの頭の上をエルメスのバック
が唸り音をたてて通りすぎた。
「おい、恭平。てめぇなめてんのかよ」
「今日はまだ、やつに会ってない」
「やつって、誰よ」
「MAYAだ。ファントムMAYA」
 おれは対戦者待ちのリスト表示画面をスクロールさせていく。日本
中のゲームセンターのブースと通信対戦可能であるが、難易度AAA
のクラスになると流石に待ちの数は三桁を割る。
「強いの?、そのMAYAっての」
「強い、強い」
 おれはふーっとため息をつく。
「本気だして10回くらいやったけど、一度も勝ったことないんだ」
 ナミが目を剥いた。
「一度も?冗談でしょ。仮にも三年前はエースだったのに。なまりす
ぎよ」
 おれはMAYAを探すのに夢中で、ナミの言葉に返事している余裕
が無かった。
「時間的にはそろそろ出てくるはずなんだが、おっ」
 何回かリスト表示画面のリロードを繰り返しているうちに、MAY
Aの名前が出現した。おれは膝を叩く。
「さあて、今日のメーンイベントだ」
 ナミは諦めたように天井を仰いでてを広げる。
「さっさと負けるのよ」
「冗談じゃねぇ」
 おれの対戦要求をMAYAが受諾した。画面が自動的にフライトシ
ミュレーターとしての飛行場画面へと切り替わってゆく。おれはいつ
ものようにF14を選択する。機体の色は白だ。
 MAYAの選ぶ機種も画面の片隅に表示される。例によってF4
ファントムであった。相変わらず、なめたまねをする野郎だ。
 コックピットのレイアウトは、実物とほぼ同様である。操作もある
程度簡略化されているとはいえ、難易度AAAクラスであればほぼ実
物と同様だ。
「いくぜ」
「ばーか、やられちゃえ」
 ナミのふてくされた声援を受けておれのF14は舞い上がる。全く
Gを感じないのは奇妙なものだ。エンジン音が悲鳴のように高まって
ゆき、速度が上がる。
「きたきた、やつだ」
「何あれ、凄いの」
 機体がゴールドメタリックに塗装されたF4が画面の片隅に表示さ
れている。それをみてナミが感心した。
「自衛隊もこういうの使えばいいのよ」
「馬鹿いえ」
 あっという間にバトルへ突入する。おれはナミの相手をする余裕を
無くした。高速でスラロームしあう二機は、戦闘ステージとして選ん
だ山岳地帯を飛び回る。
 ナミは結構興奮して後ろで叫んでいた。画面は三半規管が弱いもの
ならあっとうまに酔いそうな勢いで変化している。おれはナミが肩を
叩いて呼びかけても、応える余裕が全く無い。
 おれが撃墜されるまで、ものの3分ほどであったろうか。おれはシ
ートに深く腰を降ろすとため息をついた。煙草が恋しくなる。
 画面は自動的に二本目の戦闘ステージである海のシーンへと切り替
わってゆく。航空母艦の滑走路が表示された。
 おれは二本目のバトルをキャンセルした。画面が初期画面のデモン
ストレーション画面へと切り替わってゆく。
「やめちゃうの?」
 ナミが意外にも、つまらなそうな声をだす。
「そう。終わりだ」
 おれは立ち上がる。ゲームは三本勝負であるが、MAYAとの勝負
はいつも一本目でキャンセルしていた。二連敗したくないというのも
あるが、実戦で二本目は無いだろうという意識もある。
 おれは、今日のバトル情報をメモリカードにセーブする。メモリカ
ードには戦闘記録が保存されるようになっていた。カードには自分用
の機体のカスタマイズ情報をセーブして持っておくことができる。そ
のカードを使えばどのブースでも自分用にカスタマイズした機種が使
えるようになっていた。
 対戦情報を、インターネットを通じて専用サイトへアップロードす
れば世界ランキングが割り振られる。今のところおれもMAYAもノ
ーランカーだが、二人ともランカー相手の対戦で負けなしだった。M
AYAはさしずめ無冠の帝王というところだ。
「けっこう面白いね、このゲーム」
 ナミが上気した顔で声をかけてくる。
「だからいったろうが」
 おれはゲームセンターの外へ向かう。後ろからナミが声をかけてく
る。
「ねえ、私もやってみていい?スーパードッグファイト」
「馬鹿いえ」
 おれは憮然とした声になる。
「夜は短い。いくぞ」
 ナミは笑いながら、おれの腕に絡まってくる。
「じょーだんだよ。むきになんなよな」
 おれは苦笑して、ナミの肩を抱いた。

 ふと目がさめる。
 ナミの部屋の馬鹿でかいベッドの上だった。高層ビルのペントハウ
スであるナミの部屋は、片側の天井と壁がガラス張りである。月明か
りがおれの身体を蒼く染めていた。
 おれはベッドの脇のテーブルからピタースターブザンドのエクスト
ラマイルドを一本とると、火を点ける。ナミの姿は見えない。おれは
ぼんやりと壮観ともいえる夜景を眺めていた。
 まだ真夜中を少し回ったくらいの時間だ。おれはニコチンが身体に
行き渡ると同時に次第に意識が覚醒していくのを感じた。
「見つけたわよ」
 突然、ナミの声が上から降ってくる。
 ナミの部屋は片側は壁に面しているが、ガラス張りになっている側
は二階まで吹き抜けになっていた。おれは、上に声をかける。
「何が見つかったって?」
「あなたの恋人、MAYAちんよ」
 おれは苦笑する。立ち上がるとバスローブを羽織った。
 おれは、カルヴァドスに氷をぶちこんだグラスを二つもって螺旋状
になった階段を昇り、ナミのいる二階へゆく。ナミは、下着姿のまま
MACのパソコンの前に座っている。ディスプレイの明かりに照らし
出されたナミは、ショウウィンドウの中のマネキンを思わせた。彼女
の整った顔はレプリカントのように美しい。
 おれはナミの分のグラスを手渡すと、苦笑しながらディスプレイを
のぞき込む。
「おまえさぁ、何やってんだよ、ったく」
「結構あるのよね、スーパードッグファイト関連のサイトって。あち
こち回っているうちに、MAYAちんがチャットに出てきたのよ」
「へえ」
 おれは興味を持って画面をのぞき込む。
「どんな感じだよ、MAYAの野郎は」
「もぉたぁーいへん。ちょー人気ものって感じ」
「へぇ」
 おれは感心した。
「人気ものなの?」
「うっそぴょーん」
 ナミはくすくす笑う。
「まあ人気あるっつーか、アンチヒーロー?袋叩き状態ね。ばりぞう
ごんのオンパレードだわさ」
 おれは興味を持って画面を読み出す。スーパードッグファイト系の
サイトは何度か見たことがあるし、掲示板の書き込みも多少は知って
いた。MAYAの書き込みは何度か掲示板で読んだことがあるが、結
構論理的でクールな書き込みだったように思う。チャットで見かけた
ことは無かった。ただ、おれ自身チャットに参加することがあまりな
かったせいかもしれない。

れんふる>MAYAさん、あんたがうまくて強いのは認めるが、人間
     としてその態度はどうかと思うよ。
ゲデルン>MAYAよ、おまえなんざ、ゲームの世界でしか相手にさ
     れない所詮可哀想なやつさ。
えりしゅ>おまえはさ、戦闘機フェチの変態野郎だろ、結局。
れんふる>とりあえず、謝罪したらどうだい、さっきの言葉に対して。
MAYA>その必要は認めないね。大体なぜ私のことを変態呼ばわり
     するやつらに謝罪なんかする必要があるんだ?
れんふる>あなたが、人のことを馬鹿呼ばわりするからだよ。
バルキリ>MAYAよ、おまえがランカーとの対戦で無敗なのは知っ
     てるけど、負けたやつを屑よばわりするのはいただけない
     な。
えりしゅ>思考回路が壊れてんだろ。現実世界で人間関係破綻してっ
     から、ゲームに浸りきってんだよ。あーきもちわりぃ、や
     だやだ。
MAYA>弱いやつは弱いし、負けたやつに気を遣うつもりもない。
     大体それのほうが失礼だろ。おまえらの私に対する言葉の
     ほうが、どうかしてるね。
MAYA>負けて馬鹿にされるのがいやなら勝てばいい。勝てないな
     ら初めからゲームをしなけりゃいい。違うか?
れんふる>それは違うだろ。
MAYA>とにかく私に文句があるならまず私に勝てよ。そうしたら
     好きなだけ謝ってやるさ。

 おれは苦笑する。議論はループしているようだ。感情的になってい
るのはMAYA以外の連中らしい。MAYA自身はあきれるばかりに
毅然としている。まあ、それがかえって反感をかってるようだが。
「のけよ、ナミ」
「ちょっと、何するのよ」
 おれはナミを立たせると、MACの前に座る。キーボードを引き寄
せた。
「ちょっと、まさか私のアカウントでログインしたまま書き込むつも
り?やめてよ、入り直しなさい」
「まあ、気にするなよ。IPアドレスチェックするやつはいないはず
だ、このメンバなら」
 おれは、チャットに参加することにする。

シデン >よお、MAYA。おまえの味方はどこにいるんだ?

 ナミが吹き出す。
「なにこのシデン、て恭平のハンドル?だっさいの」
「うるせえ」

れんふる>シデンさん今晩は。
シデン >どうも、れんふるさん。ちよっとMAYAと話をしたい。
     おじゃまさせてもらうよ。
MAYA>なんだよ、シデン。おまえと話なんかないぞ。
シデン >おいおい、いきなりそれか?普通は初めましてだろ。
MAYA>ふん。どうせおまえも今日コテンパにやられて悔しいとか
     くだらないことほざきにきたんだろ。
シデン >負けたのは認めるけどな。おまえだって今日は何度かやば
     いなってところはあったろうが。
MAYA>ぜんぜん楽勝だったよ。だいたい女づれでくるから負ける
     んだよ。

 おれの後ろでナミがカルヴァドスを吹き出してむせ返った。おれは
苦笑する。

シデン >おまえもあそこにいた訳?見てたの?
MAYA>ああ。だいたい、女の趣味が悪いぞおまえ。紅いシャネル
     のスーツ着てゲーセン来る女なんて最低だね。

「ばりむかつく、こいつ。ネットで私を馬鹿にしたぁ!」
 おれはふくれるナミを宥めながらチャットを続ける。

シデン >おまえって結構面白いやつだなぁ、MAYA。
MAYA>何が言いたいんだよ。
シデン >そう構えるなよ。おれは単純に思ったことを言ってるだけ
     だから。なあ、一度会わないか、おれと。
MAYA>なんでだよ。
シデン >おまえはさあ、おれを知っていて、おれはおまえを知らな
     いってのはフェアじゃないだろ。
シデン >ついでに言っとくが、おれが趣味の悪い女をつれてゲーセ
     ンへ行ったとかネットで言うのはルール違反じゃないのか?
MAYA>フェアもくそも、おまえ自分のサイトに自分の写真貼り付
     けてるじゃない。そもそも、私の言ったことも事実と認め
     る必要は無かったはずだよ。
シデン >でも認めちゃったし。
シデン >とにかく、おれの管理しているサイトの掲示板のほうへこ
     い。そこなら邪魔も入らないしな。

「なんでおまえも来るんだよ、ナミ」
 一週間後、おれとMAYAは会うことになったが、待ち合わせ場所
にはナミがしっかり来ていた。ナミは馬鹿にされたシャネルのスーツ
を着ている。
「え、なんか面白そうなやつじゃん、MAYAって」
「また噛みつかれるぞ」
「ま、いいから。パソコン少年をお姉さまが調教してやるわさ」
「おっさんだと思うよ」
「おっさんは得意よ。むしろ」
 おれはため息をつく。そこは待ち合わせ場所として有名な駅前の某
所である。週末はいろんな人間であふれかえるその場所をぼんやり眺
めた。
 おれはなぜか胸が高鳴るのを感じる。奇妙な高揚感といっていいだ
ろうか。おれは苦笑する。まるで初恋の相手に久しぶりに会うみたい
じゃないか、これじゃあ。
「何緊張してんのよ」
 ナミがせせら笑ってつっこんでくる。おれはピータースターブザン
ドをくわえた。珍しく自分で自分の感情をコントロールできていない。
「うるせえ。黙っててくれよ。おれはいまナーバスな気分…」
 ふとおれは目の前に一人の少女が立っているのに気がついた。有名
私立高校の制服を着て髪の毛をショートカットにした少女。顔立ちは
整っているが痩せているので女性らしい魅力を感じさせない。まるで
シンディ・シャーマンの写真にでてくる人物のように、孤独さを身に
纏っている。
「まさか、あんたが」

(以下、4月25日配信の次号へ)

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          つきかげ氏の小説サイト

          戎克庭園 junk garden
     
http://www5a.biglobe.ne.jp/~tukikage/ 

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      えびす      「青空」
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   メルマガタイトル:テキスト版月刊ノベル・連載号
        発行日:平成13年4月10日
      総発行部数:1,100部 
      編集・発行:MiyazakiBookspace mbooks@dream.com
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