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         ま じ め な 小 説 マ ガ ジ ン

       月 刊 ノ ベ ル ・ 連 載 号

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http://plaza5.mbn.or.jp/~joshjosh/ 


  インターネット上にきら星のごとく散らばる創作サイトの中か
 ら、私(編集人)ジョッシュこと宮崎靖好が独断と偏見(?)に
 基づき選抜した小説を、作者の了解を得てから順次掲載してゆく
 メールマガジンが「月刊ノベル」です。

  コミカル、ミステリ、叙情、ラブロマンス、ファンタジーSF、
 などなどジャンルは多彩ですが、アダルトはありません。

  今回はホームページ「月刊ノベル」10000アクセス達成を
 記念しての連載小説、第2回です。

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      月刊ノベルは当幅フォントでお読みください。
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  連載小説:1対1 第2回    作者:憑木影(つきかげ)

  ジャンル:SFゲーム      長さ:文庫本8ページ  

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  記念すべき月刊ノベル初の長編小説は、2000年度AWC大賞
 (アマチュアライターズクラブ大賞)の長編部門賞受賞作を、連載
  の形でお届けいたします。4回完結の予定です。
  どうぞ、お楽しみください。

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    一対一 (連載第2回)     つきかげ

 連載第1回は次のページで読めます。
 http://plaza5.mbn.or.jp/~joshjosh/a104r1t.htm

(前回からの続き)




「会いたいというから来たんだ」
 少女は突っ慳貪に言った。
「気にいらないなら帰る」
「いやまて、まてよ。MAYAなんだろ」
「そうだ」
「いや、ちょっと意表をつかれた」
 ナミがくすくす笑う。
「そうだと思ったわ」
 おれはナミを睨む。
「後出しじゃんけんはずるいだろうが」
「まあね。私もいてもいいよね、趣味悪い女だけど」
「好きにしたら」
 MAYAはそっけなく言った。おれはどういう言葉をかけていいか、
迷った。何しろ十代の女の子と会うこと自体、久しぶりな気がする。
「とりあえず自己紹介しとこうか」
「知ってるよ、自分のサイトに書いてるじゃないか。鷹見恭平27歳。
航空評論家で元自衛隊パイロット」
「いや、そうなんだけどな」
「だいたいなんで、夜なのにサングラスしているの。見えにくいじゃ
ない」
「いやこれは」
 おれはサングラスを外す。義眼の右目と傷跡が顕わになる。
「なんとなく初対面の人間には素顔を出しにくいんだよ」
 MAYAが息を呑むのが判った。くるっと振り返るとおれの前から
立ち去ってゆく。
「おいおい」
 おれは慌ててMAYAを捕まえる。
「なんだよ、折角会ったのに」
 MAYAは小さな声で何かいった。
「なんだよ、どうした」
「悪かったよ、サングラスはずさせて」
「気にすんなよ、そんなことでいちいち逃げなくていいじゃねえか。
えーっとなあ、とりあえず飲みにいこうと思ってたけど制服姿じゃま
ずいしな」
「いいんじゃない、あそこで」
 ナミが駅前のファーストフードの店を指さす。
「私は構わないが」
 MAYAが同意する。おれは少し肩を竦めた。
「じゃいこうか」

 店の中は10代の子供ばかりだった。おれとしてはとても居心地が
悪い。しかし、それは目の前のMAYAも同じようだ。多分、MAY
Aはどこにいてもこんなふうに居心地悪そうに孤独な瞳で、それでい
て毅然とした表情であたりを見てるんだろう。そんな気がした。
 一方ナミは、MAYAと対照的である。深紅のシャネルで武装し傲
岸とした態度で高く足を組んだナミは、自分の縄張りにいる猫のよう
にリラックスしていた。
「私も自己紹介しとくね」
 ナミはMAYAに微笑みかける。
「横山ナミ、24歳。職業は公務員」
「つーか、内閣調査室の対テロ部門の室長だろ。だいたい歳はおれと
ためだろうが」
 ナミはおれの顔面へ裏拳をとばす。おれはあやうくスウェイでかわ
した。
「なんでそんなこというかな」
「いいじゃねえか、気にするなって。MAYA、おまえはどうすんの。
いやなら本名言わなくていいよ」
「御子柴摩耶。17歳。高校生。これでいいか」
「うーん、なんていうかさあ、おまえが始めてだぜ、ネットで知り
合ってオフで会った時にネット以上にもどかしい感じがするやつって。
もっとこう心を開いてみろよ」
 ナミはせせら笑った。
「馬鹿じゃないの、恭平」
「なんだよ」
「そんないきなり心開けって、むつごろうの動物王国じゃないんだし。
とりあえず、楽しく会話するうちに、和んでゆくものでしょうが」
「まあ、そうだろうけど」
 いざ、話をしようとすると十代の少女相手に言葉がつまる。
「質問ごっこしようか」
「なんだよ、それは」
 MAYAはそっけなく聞きかえす。
「おれが質問したら、あんたも質問しかえせるというの」
「ふーん」
 MAYAは光る目でおれを見る。多少興味を持ったようだ。
「じゃ質問どうぞ」
「なぜランキングに登録しない?したらぶっちぎりで一位だろうに」
「ランクづけされるのは学校だけで充分だから。だいたいそれはお互
い様だろ?」
「まあな」
「じゃこっちの質問のばん。シデンてのは大昔のアニメからとった
訳?」
「なんだそりゃ。シデンといったら四式戦に決まってるだろうが」
「ああ、飛行機の名前だったのね」
 MAYAは始めて少し笑みを見せた。
「んじゃ次の質問な。なぜF4ファントムを使う。難易度Dクラスや
Cクラスなら機体はそれほど関係ないだろうが、Bクラス以上は性能
のいい機体のほうが有利だろう。まあ、F4ならなんとかならんこと
もないだろうが、もっと楽に戦える機体があるだろ。せめてF4EJ
とか。思い入れでもあるわけ?」
「負けたやつからすれば、自分よりスペックの低い機体に負けたほう
が悔しいだろ」
 おれは苦笑する。
「やなやつだね、やっぱりおまえは」
「あんただって、F14使ってるじゃない。F14も最新鋭では無い
でしょう」
「いいんだよ、F14はいざとなればロボットに変形するから」
 ナミが吹き出した。MAYAはきょとんとした顔になる。
「何の話?」
「いいから次の質問いけよ」
 ナミが笑いながら口出しする。
「この人F15が嫌いなのよ。F15に乗ってておっこちたから」
「それは、悪かったな」
「いちいち謝るなよ、MAYA。ナミ、おまえも余計な口出しすんな
よ」
「じゃ、質問するよ。生きていてさ、楽しいと思う?」
「なんだそりゃ、楽しいよ」
「飛行機に乗れなくても?」
「関係ないってそんなの。おまえは楽しくないのか?MAYA」
「ああ」
 MAYAは当たり前のように言った。
「楽しいことなんて何もないね」
「おまえくらいの年頃っていえば普通こう、学校の友達といっしょに
遊んだり語り合ったり恋愛したりいろいろあるだろうが」
 MAYAは喉の奥で笑った。
「こないだのチャットみただろう」
「ああ」
「学校もあんな感じだよ、私にとって」
「困ったやつだな、おまえ」
「そうだな」
 MAYAは不思議な笑みを見せる。
「困っている」
「だったらさ、なんとかすんだよ、そんなの」
「ただな」
 MAYAは少しはにかんだような笑顔で言った。
「シデン、おまえと戦っている時だけは少し生きてるって感じがする
んだ」
「おまえな、おまえ。そのシデンというのを面と向かって言うのやめ
てくれるか。頼むから。オフの時は恭平なんだよ、おれは」
 MAYAはくすくす笑う。
「おまえって結構面白いね。恭平」
「いや、おれはおまえのほうが面白いとおもうぞ。時間はまだいいの
か。両親が心配するとか?」
「うちの親は、離婚の裁判中だから子供のことには無関心なんだ」
「やれやれだな。ま、いい。じゃこれから遊びにいこうぜ」
「どこへ?」
「ついてくりゃ判るよ」

 おれたちは、ナミのアルファロメオに乗って高速を抜け、郊外にあ
る某電気メーカの研究所に着いた。ナミは仕事の続きがあるといって、
さっさと帰ってゆく。
 おれたちはだだっぴろい敷地に建つシンプルなデザインの4階建て
の研究所へ向かって歩いてゆく。MAYAがぽつりと言った。
「忙しい人だな、ナミさんは」
「まあな。健康の為に1日3時間は寝ることにしてるといってたけど
な。何しろあの歳で内閣調査室の室長だからなあ」
 研究所の回りはちょっとした公園のように木々が植えられている。
回りに遮るものが無いせいか夜空がやたらと広く感じられた。
「相当なエリートなわけだな、ナミさんは」
「なにせ、SASに2年間実習にいってトップクラスの成績だったそ
うだし、実戦でもベテラン以上の成果をあげたというから天才という
より怪物だよ、やつは」
 おれたちは、おれの持っているパスカードを使って研究所の中に入
る。宿直の警備員は制服姿のMAYAを見て少し困った顔をしたが、
おれのつれということで無理矢理入り込む。
 おれたちは4階に昇ると暗証番号キーつきの頑丈そうな鉄の扉を開
き、マシン室へと入ってゆく。深夜ではあるが、思ったとおり数人の
エンジニアが作業している。ひげ面でやせ細った男がおれに気がつき
手を振った。
 ここのチーフエンジニアの甲賀明彦だ。おれの隣の女子高生姿のM
AYAを見てちょっと困った顔になる。
「なんだ、困るな。あからさまに部外者つれこんでもらったら」
「いいじゃねえか。堅いこというなよ。明日疑似本番テストやるんだ
ろ」
「ああ。今日も眠れそうにないな」
「ちょっと遊ばせろよ、こいつといっしょに」
「こいつって誰?」
「ファントムMAYAだ」
 甲賀はほーうとため息をつく。
「彼女がMAYAだって?おまえが0勝十敗のか」
「十一敗だ」
 MAYAがそっけなく訂正する。思わずおれが顔を顰めるのを見て、
甲賀はくつくつと笑った。
「面白そうだな」
「だろ」
「よろしく、MAYAさん。おれは甲賀明彦。鷹見の幼なじみでね」
 MAYAは軽く会釈を返す。甲賀が先に立って歩き出した。MAY
Aがおれに尋ねる。
「何があるんだよ」
「行けば判るさ」
 コンピュータの収容されたラックとコンソールがいくつも並ぶマシ
ン室を抜け、奥のドアを開く。スパードッグファイトとよく似たコッ
クピット風のブースが三つ並んでいる。
 その奥はガラス張りになっており、吹き抜けから階下が見下ろせる
ようになっていた。おれはその吹き抜けをのぞき込み、MAYAを呼
んだ。下を見たMAYAは息を飲む。
 そこに並んでいるのはF4EJ、F15、FX−2の三機の戦闘機
である。
「どういうこと」
 MAYAの問いに甲賀が満面に笑みを浮かべ、解説する。
「おれたちの造っているのはジェット戦闘機の遠隔制御システムだ。
ここに有るのはその試験マシンだよ」
「おい、はやくやろうぜ」
 おれはF15のブースに入り込んで、MAYAを誘う。
「やるって」
「きまってるじゃないか。こいつを使って対戦するんだよ。スーパー
ドックファイトなんざ比べ物にならないリアルな対戦ができるぜ」
 MAYAは問いかけるように甲賀を見る。甲賀は頷いた。
「鷹見にはアドバイザーとしてこの試験マシンを自由に使ってもらっ
ている。君の意見も聞くことができればいいな」
 MAYAはF4EJのブースへ向かう。
「F15は嫌いじゃなかったのか」
 MAYAの言葉におれは肩を竦める。
「どうせおまえは、F4にしか乗らないんだろ」
「まあ、何に乗ったところで恭平がこてんぱに負けるのは同じだけど
ね」
「おまえさあ」
 おれはブース内のコックピットに座りながら、ため息をつく。
「ホイス・グレイシーだっておまえよりは謙虚だったぜ」
「誰それ?」
「誰でもいい。とにかく始めるぞ」
「ディスプレイが無いんだが」
「そのゴーグル型ディスプレイのついたヘッドギアを付けるんだ。
ヘッドギアの動きに応じてカメラが動くシステムになっている」
 甲賀がMAYAの脇から説明を始める。だいたいはスーパードッグ
ファイトと同じであるが、操作の精度や緻密さはスーパードッグファ
イトとは比べ物にならない。何しろむこうはゲームでこっちは本物を
動かすためのシステムだからだ。
 おれは、システムの起動をかけていく。ディスプレイに映像が映し
出される。実際の自衛隊の基地をモデルにした映像だ。映像もまた、
ゲームとちがってリアルなものだ。システムが作動するマシンの能力
が桁外れに違う。臨場感はこちらが遙かに上だ。
「いくぞ」
 隣にいるMAYAに声をかけおれは離陸する。MAYAも続いて飛
び立った。高度を充分にとる。こいつを使っての対戦で負ける気はし
なかった。
「始めるぞ」
 おれはMAYAに声をかけると、F15を旋回させる。その時いき
なりワーニング表示が現れた。おれの後ろに機体がある。MAYAの
F4EJとは別の機体、FX−2だった。
「馬鹿な」
 FX−2のブースには誰もいなかった。おれが反応する間もなく、
おれのF15が撃墜された。ディスプレイの片隅にメッセージ表示が
現れる。おれはそれを読みとった。
『やあ、シデン。私はゼロだ。久しぶりだね。ちょっと遊ばせてもら
うよ』
 おれはヘッドギアを外すと呟く。
「馬鹿な!ゼロだって?」
 おれはブースから飛び出すと、コンソールを操作している甲賀のそ
ばにいく。
「いったいどういうことだ。おまえがしかけたイタズラか?」
「システムのセキュリティが破られた。ありえないことだが。いま侵
入者の端末を特定しようとしているんだが」
 おれは、壁につけられたスクリーンに投影されている映像を見る。
MAYAの見ているはずの映像と、FX−2のパイロットが見ている
はずの映像が並んで投影されていた。

(以下、5月10日配信の次号へ)

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        発行日:平成13年4月25日
      総発行部数:1,100部 
      編集・発行:MiyazakiBookspace mbooks@dream.com
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