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         ま じ め な 小 説 マ ガ ジ ン

       月 刊 ノ ベ ル ・ 連 載 号 3

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http://plaza5.mbn.or.jp/~joshjosh/


  インターネット上にきら星のごとく散らばる創作サイトの中か
 ら、私(編集人)ジョッシュこと宮崎靖好が独断と偏見(?)に
 基づき選抜した小説を、作者の了解を得てから順次掲載してゆく
 メールマガジンが「月刊ノベル」です。

  コミカル、ミステリ、叙情、ラブロマンス、ファンタジーSF、
 などなどジャンルは多彩ですが、アダルトはありません。

  今回はホームページ「月刊ノベル」10000アクセス達成を
 記念しての連載小説(4回完結)の第3回です。

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      月刊ノベルは当幅フォントでお読みください。
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  連載小説:1対1 第3回    作者:憑木影(つきかげ)

  ジャンル:SFゲーム      長さ:文庫本8ページ  

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  記念すべき月刊ノベル初の長編小説は、2000年度AWC大賞
 (アマチュアライターズクラブ大賞)の長編部門賞受賞作を、連載
  の形でお届けいたします。4回完結の予定です。
  どうぞ、お楽しみください。

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   一対一  (連載第3回)     つきかげ

 連載第1回は次のページで読めます。
 
http://plaza5.mbn.or.jp/~joshjosh/a104r1t.htm

(前回からの続き)



「やつは、ゼロといった」
「ゼロ?」
 甲賀が聞き返す。
「なんだそいつは」
「スーパードッグファイトで、おれたちのようにノーランカーだがラ
ンカーに対して負け無しのやつがもう一人だけいる。そいつがゼロを
名乗っていた」
「強いのか?」
「おれとやって一勝一敗。しかし、やつが負けた対戦は、どっちかと
いうとこっちの腕を確認するのが目的だったようだから、あまり参考
にはならないだろうな」
「それにしてもいい腕だな」
「ゼロのやつか?」
「いや、ファントムMAYAだよ。始めて操作しているとはとても思
えん。天才としかいいようがないな」
 二人の映像は目まぐるしく変わってゆく。凄まじい高速で旋回しな
がら有利なポジションを確保しようとしているようだ。確かにゼロの
ほうが押されているように見える。
 ゼロはおれたちと違い、伝説の存在だった。おれはランキングには
入ってないが、自分のサイトで素性を明らかにしている。MAYAに
ついてもネット上に書き込みを行っていた。しかし、ゼロは対戦した
ものの噂だけしか、その存在を示すものは無い。おれも自分が対戦し
てなければ、その存在を信じてはいなかったろう。
 ゼロのFX−2はとうとう追いつめられ撃墜された。甲賀はコンソ
ールを操作しながらののしる。
「ちくしょう、アクセスログから起動ログ、通信記録まで全部消去し
ていきやがった。なんてやつだ」
「なにがあっんだよ」
 MAYAが不思議そうな顔をしておれたちのそばにくる。おれたち
は余程うちのめされたような顔をしていたんだろう。
「とりあえず、ナミに連絡をとろう。こいつはやつの仕事だ」
 おれの言葉に甲賀が力無く頷く。
 おれはふと思ったことをMAYAに聞く。
「おまえゼロとスーパードッグファイトやったことあるのか?」
「ゼロ?噂はネットで見かけたけど、実際やったことは無い。まさか
さっきのFX−2がゼロだっていうんじゃないでしょうね?」
「その通りさ」
 おれは携帯電話を取り出しながら、MAYAに応える。
「あのFX−2はゼロだよ。少なくともそう名乗った」
 どうやらゼロは一回目は負けるらしい。二度目に勝つ自信があると
いうことだろう。

「すっげえー、こんなの造ってるんだ。なんだがきっもーい。男の
人って判んないわー。つーか、すっげーぶっきみー」
 おれとナミは、甲賀の家にいた。甲賀の部屋は、戦闘機やら複葉機、

プロペラ機のプラモデルで埋め尽くされている。本棚はコンピュータ
の専門書に並んで戦闘機のマニュアルや写真集が置かれていた。
 ナミは甲賀を目の前にしてプラモデルを馬鹿にしてけらけら笑う。
甲賀は大人だから苦笑しているだけだが、おれはさすがに腹がたって
きた。
「なんだよ、ナミそのいいかたは。だいたいおまえデリカシーがなさ
すぎるぜ。そんなことだから二十七になるまで処女だったんだよ」
 ナミの身体が一回転し、左足のかかとがおれの顎めがけて飛んでく
る。おれは上半身をかがめてかろうじて避けた。
「プロレスの神様カールゴッチが唯一認めた打撃技がローリングソ
バットだって知ってる?」
「知らねぇよ。だいたい後ろ回し蹴りはソバットじゃない。しかも、
そんなことやったらおまえ、パンツみえてんじゃん」
「見せてやってんだよ、この飛行機フェチの変態野郎ども」
「いいかげんにしてくれ。本題に入りたいんだが」
 さすがにうんざりしたような声で甲賀が言ったとき、おれたちは素
直に頷いた。
 おれたちは甲賀の部屋のパソコンの前に腰を降ろす。ナミが持って
きたFDを差し込んで、調査結果を説明しだす。
「戦闘機遠隔操作システム通称『GARDA』、そのシステムの開発
に携わったものは約1000人。そのうち既にシステム開発からはず
れたものは400人。そのうち素行不良等の理由によって強制的には
ずされた者は12人」
「12人もいたのか」
 甲賀がリストを見ながらうなり声をあげる。
「下請けのさらに下請けのアルバイトの人間まで含んでいるから、あ
なたが知らないのも無理は無いわ。この12人から調査を始めたけど、
あたりが一人いたの」
「あたりだって?」
 おれの言葉にナミはにんまりとして応える。
「プルシャ・スークタっていう宗教団体知ってるよね」
 おれは唸った。
「一応インド古代宗教の団体だが、例のロシアンマフィアとの関係を
とりざたされているところか」
「そう。そこから出資されているソフトウェアハウスの人間が一人い
た。しかも、かなり優秀なエンジニアがそこから参加してる」
「やばそうだな」
 ナミは頷く。
「ロシアンマフィア経由で旧ソビエトの諜報関連テロリストがけっこ
う日本に入り込んでいるわ。その受入先のひとつとして、プルシャ・
スークタは機能している」
「じゃあゼロも」
「ソビエト空軍の元パイロットがプルシャ・スークタの持つ密入国ル
ートで潜入しているわ。今その消息を探ってるとこだけど、ゼロはま
ずまちがいなくそいつよ」
 ソビエト空軍のパイロットだったとは。おれは唸った。
「プルシャ・スークタは武器や麻薬の密輸入といたったなりふり構わ
ない方法で利益を叩き出している。そのせいで暴力団とのいさかいも
あったけど、元ソビエトのテロリストたちが圧倒的な戦闘力にものを
いわせて黙らせている。今、公安がマークしているけど、多分もうす
ぐ最終的な動きがあるわ」
「最終的だって?」
「プルシャ・スークタの強制捜索ね。そのためにプルシャ・スークタ
側も最後の勝負にうってでようとしている。ミーシャウィルスって
知ってる?」
「確か、旧ソビエトで開発された細菌兵器のレトロウィルスでインフ
ルエンザなみの感染力とエボラウィルスなみの殺傷力を持つとか」
「そう。風邪のように空気感染しながら人間の肉体をぼろぼろに腐敗
させ破壊するという凄まじいウィルス。ソビエト崩壊のどさくさで失
われたはずだけど、それが日本にもちこまれたという噂がある」
「まさかGARDAシステムを使って戦闘機を盗み出してそいつにミ
ーシャウィルスを積んで都市に対してテロルを行うという気か?そ
りゃあ無理だろう」
「なぜ?」
「戦闘機をまず盗まないといけない。自衛隊の基地を襲う?米軍基地
を襲う?そんな無茶な」
「基地を襲う必要は全くないわ」
「なんでだよ」
「ナミさんの言うとおりだ」
 甲賀が口を挟む。
「GARDAシステムはもうすぐ自衛隊の全機に標準装備される。シ
ステムさえ乗っ取れば、戦闘機を手に入れるのは簡単だ」
「馬鹿な、セキュリティを一度破られているんだぜ。それでも標準装
備かよ」
「セキュリティシステムは全面入れ替えを行って強化している。GA
RDAシステムには既に900億以上の予算が投入されている。今更
止められない」
「セキュリティの全面入れ替えでゼロの侵入を防げると思う?」
 ナミの言葉に甲賀は首を振る。
「判らない。理論的には不可能だが、それはこの前も同じだ。多分今
いるスタッフの中にプルシャ・スークタの人間がいるのだろう。そい
つを見つけるのは不可能だ」
「なぜ」
「時間が足りない。GARDAシステムは来週から実戦配備だ」
「でも私はスタッフに内通者がいるとは思わないわ」
「なぜだ」
「今の時点で内通者を残すというのはリスクが高いもの」
「おれも同感だな」
 おれはナミと甲賀の会話に口を挟む。
「ゼロはおれとMAYAとの対戦に乱入した。部外者を使っての試験
が公式記録に残らないと踏んでの行為だろうが、そうすることによっ
てセキュリティが強化されるのはやつらの計算のうちだろう。つまり
やつらはセキュリティが強化されるのを認めた上でGARDAシステ
ムにアクセスしなければならない理由があったということと、たとえ
セキュリティが強化されても計画に支障をきたさない確信があったと
いうことだろう。つまり、おれの推測ではシステムの根幹部、オペレ
ーティングシステムに関わるところで何らかの外部アクセス手段を確
保している。この間のゼロの乱入はそのテストだったということだ」
「OSっていってもUNIXでしょ」
 ナミの言葉に甲賀は首を振る。
「特注品だよ、GARDAのOSは」
「ゼロの侵入を防ぐには、システムの全面入れ替えが確実な手段だよ」
 おれの言葉に甲賀が目を剥いた。
「そんなことをするのに何億かかると思う?状況証拠だけでは誰も動
かせない。OSの改竄箇所の特定なんざ到底無理だ、おまえの話のう
らをとるのは凄く難しいぞ鷹見」
 おれは頷く。ナミが立ち上がった。
「なんだよ、急に」
「とりあえず、ゼロの侵入は防げないという事が判ったら充分よ。こ
れから家に戻っていくつかケースを想定してシミュレーションするわ。
対策を含めてね」
「今、夜中の1時だぜ。おまえさあ、たまには睡眠とってんの?」
 ナミはウィンクをおれに投げる。
「女はねぇ、男の十倍くらいはタフなのよ」

 その日は酷い雨だった。ずぶぬれになったMAYAが走ってくる。
おれはランドローバーディスカバリーの助手席のドアを開けた。MA
YAが入ってくる。
「これがおまえの車なの、しぶいじゃない」
 おれはMAYAにタオルを渡すと無言のまま、車を発進させる。
「それにしても学校まできて呼び出すなんて、驚いたよ。一体何が
あったのか説明してくれるんでしょう?」
「人類を救うため戦ってほしい、といったらどうする?」
 MAYAは苦笑した。
「本気なわけ?」
「80%くらいは」
 MAYAはため息をつく。
「この間のゼロの件が関係しているの?」
「まあそうだ」
 雨の中、おれは車を高速に乗せると、全速でとばす。
「ゼロは宗教団体プルシャ・スークタに関係している。プルシャ・ス
ークタはこの間おまえとゼロが対戦したあのシステム、通称GARD
Aシステムを使ってF15を一機手中に納めた。経緯をいえば太平洋
上で行方不明になったF15が、一機あったことを知ってるだろう」
 MAYAは、冷笑を浮かべているようだ。
「ニュースで見たよ」
「それだ。まだメディアには、正確な情報は流されていない。プル
シャ・スークタはタンカーを改造した疑似航空母艦を持っている。船
籍はロシア。現在は太平洋の領域外を航行中。F15はそこにあった。
今朝までね」
「今朝まで?」
「1時間ほど前プルシャ・スークタと思われる組織から日本政府へ声
明があった。ミーシャウィルスを積んだF15が太平洋上日本に向
かっていると」
「ミーシャウィルス?」
「インフルエンザ並の感染力を持つエボラウィルスだと思ってくれれ
ばいい。1000万ドルをプルシャ・スークタは要求している。米ド
ルだよもちろん」
 MAYAは苦笑した。
「そのF15を自衛隊が撃ち落とせばいいのでしょう。簡単じゃな
い。私の行く理由が判らないな」
「自衛隊機が接近してくれば、手近な島へウィルスを積んだミサイル
を打ち込むといっている。その島民は全身が腐敗して死ぬことになる」
「じゃ私が行ってもおなじだな。1000万ドル支払うことだね」
「おそらくゼロがそのF15をコントロールしているはずだ。ナミが
ゼロを押さえるために公安と機動隊を動かしているが、時間が足りな
い。というかリスクが高い。やつがソビエト空軍を除籍された理由は、
精神分裂病と診断されたためだ。ソビエトの精神科医の診断が持つ信
憑性に疑いはあるが、やつはまともじゃない。プルシャ・スークタに
コントロールされているとは信じられない」
 MAYAは肩を竦める。
「いっとくけど私は一介の女子高生だよ」
「もちろん」
 雨の中、おれのディスカバリィは凄まじい速度で走っている。パト
カーの先導を頼むべきだったかなと少し後悔していた。
「いやならいい。今なら戻れる。引き受ける理由は何もないはずだ。
時間が少ない。決断するなら早くしてくれ」
「行くよ」
 MAYAは穏やかな笑みを見せた。
「私は生まれてからこのかた、誰からも必要とされていないと思って
いたよ」
「馬鹿いえ」
 おれはMAYAに笑いかける。
「これはリベンジのチャンスだよ。おまえが、世界に対する」
 MAYAは不思議そうにおれを見る。
「行くなら勝て。そして世界を自分の足下に跪かせろ」
「当然だね」
 MAYAは初めて楽しそうな笑みを浮かべた。


(次回「最終回」は、5月25日配信です)

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        発行日:平成13年5月10日
      総発行部数:1,100部 
      編集・発行:MiyazakiBookspace 
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