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         ま じ め な 小 説 マ ガ ジ ン

        月 刊 ノ ベ ル (連載号No.4)

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http://plaza5.mbn.or.jp/~joshjosh/


  インターネット上にきら星のごとく散らばる創作サイトの中か
 ら、私(編集人)みやざきが独断と偏見(?)に基づき選抜した
 小説を、作者の了解を得てから順次掲載してゆくメールマガジン
 が「月刊ノベル」です。

  コミカル、ミステリ、叙情、ラブロマンス、ファンタジーSF、
 などなどジャンルは多彩ですが、アダルトはありません。

  今回はホームページ「月刊ノベル」10000アクセス達成を
 記念しての連載小説(4回完結)の第4回(最終回)です。

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      月刊ノベルは当幅フォントでお読みください。
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  連載小説:1対1 第4回    作者:憑木影(つきかげ)

  ジャンル:SFゲーム      長さ:文庫本7ページ  

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  記念すべき月刊ノベル初の長編小説は、2000年度AWC大賞
 (アマチュアライターズクラブ大賞)の長編部門賞受賞作を、連載
  の形でお届けいたします。4回完結の予定です。
  どうぞ、お楽しみください。

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   一対一  (連載第3回)     つきかげ

 連載第1回は次のページで読めます。
 
http://plaza5.mbn.or.jp/~joshjosh/a104r1t.htm

(前回からの続き)

 おれたちは、公安関係者らしき男にその部屋へ案内された。そこは
元々デバッグ室だったのを会議室として使っているらしい。プロジェ
クターにはテレビカメラを通じて会議に参加しているらしい人影が見
える。中には総理大臣らしい人も見えた。
 会議卓に座っているのは背広姿のおっさんたちに、制服姿の自衛隊
関係者、それに作業着姿の技術者たちである。ナミは一人立っていた。
ビジネススーツ姿のナミは日頃会う時のような派手さは無いが、強烈
なオーラを放っているためシャネルのスーツ姿よりも遙かに存在感が
ある。
 ナミはおれたちをみると、手をあげて言った。
「彼女が今着きました。御子柴摩耶、通称ファントムMAYAです」
 会議室がどよめく。MAYAは例によって、孤独を纏った毅然さを
全身から放っている。おそらくお偉い官僚の方々にはあまりうけがよ
くないだろう視線で、彼らを見ていた。
「ゼロは本当に乗ってくるのかね?」
 ナミは強い光を放つ眼孔で、発言したおっさんを睨む。
「もちろんです。何度も説明したようにゼロはマインドコンンロール
を受けていない、自由意志で参加している傭兵のような立場です。し
かし、彼は傭兵のようなモチベーションを持っていない。彼にとって
は全てがただのゲームに過ぎません。だからより危険だといえますが。
その彼がMAYAには一度対戦で破れています。MAYAとの戦いは、
彼としては望むところのはずです」
 おっさんは黙ってしまった。おれはやれやれと思う。ナミのシミュ
レーションではゼロの乗ってくる確率は五分五分としていたはず。あ
あ言いきったら、しくじった時難しくなるだろうにと思う。
 別の恰幅がいいおっさんがくちを開く。
「やろうじゃないか。議論している時間は無い。失敗しても失うもの
は無い」
 すると別のおっさんが異を唱える。
「ここの最終決定権はあなたにある訳じゃない。総理の判断も必要だ
ろう」
「だから今という状況を理解しているのかと言ってる」
 目の回りに隈を作った甲賀がおれたちに近寄ってきて囁いた。
「このおっさんらの議論につきあうことは無い。外で待ってろ。結論
が出たら知らせる」
 おれはうんざりした顔の甲賀に囁く。
「大丈夫か?」
「おっさんたちの議論を聞いてるのは拷問に近い。でも少しなれたよ」
「お気の毒様」

 おれたちが部屋の外で待つこと五分。ナミの咆吼が外まで聞こえた。
会議は終わりを告げたようだ。ナミが一人で出てきた。多少疲れた顔
をしている。
「ったく何決めるにも、うだうだうだうだ。ゲーハのインポ野郎ども」
「やるんだろ」
 おれの問いにナミが頷く。
「当たりまえだのクラッカーよ。MAYAさん、こっちへ」
 甲賀と数人の技術者も会議室からでてきて、一緒に移動する。例の
テストルームに入ると、F4EJのブースに座ったMAYAに甲賀が
ブリーフィングを始めた。
「恭平、ぼっとしてないで。あなたにも仕事があるのよ」
「なんだよ」
 ナミの呼びかけに応じてコンソールの前に座る。
「このコンソールを通じて、ゼロの操作している端末にメッセージが
送れるの」
「何をさせる気だ」
「決まってるじゃない」
 ナミはにんまりとサディスティックに笑う。
「ゼロとの交渉役はあなたに任すわ」
「冗談」
「いいこと、この間ゼロはあなたにだけメッセージをよこした。同じ
元パイロットとして彼はなんらかのシンパシィをあなたに持ってるの
よ」
「頭のいかれたテロリストにシンパシィ持たれてもなあ」
「つべこべ言わないでやるの」
 おれは端末に向かってメッセージを打ち出す。
『ようゼロ。元気にやってるかい』
 ナミは苦笑する。
「あなたねぇ、もう少し考えたら?」
「時間が無いんだろ、おれに任せるんじゃなかったのかい?」
 ゼロからメッセージが返った。
『待ちかねたよ、シデン。で、君が相手をしてくれるのか?』
『いや、おまえの一番望む相手さ。ファントムMAYAだ』
 ゼロは暫く沈黙する。メッセージが再び届く。
『最高だよ。条件はただひとつ。一対一だ。一対一でMAYAとやら
せろ。MAYA以外の機体が見つかりしだい、ウィルスを発射する。
いいな?』
『OK』
 交渉の終了を見て、ナミは深々とため息をついた。
「恭平、あんた人生なめすぎよ」
「いいじゃねぇか、それで生きてこれたんだし」
 その時部屋へ入り込んできたおっさんたちに、ナミが言った。
「ゼロはこちらの申し出に、一対一だけを条件に応じました。MAY
Aの機体はブリーフィングが完了すると同時に出発します」
 おっさんたちのどよめき。後はばらばらの私語。
 甲賀がおれたちのそばに来た。
「でるよ、MAYAが」
 おれたちは、ヘッドギアをつけようとしているMAYAのそばにい
く。ナミ囁きかけた。
「MAYAさん、5分。5分だけゼロの意識を戦闘に集中させて。そ
の間に機動隊が展開して突入をかけるから」
「OK、5分だね」
 おれはMAYAの肩を叩く。
「勝てよ、MAYA」
「当たり前だ。ゼロなんか相手に負けるはずがないじゃない」
 おれは、MAYAの言葉に安心し、その場を離れる。プロジェクタ
ーにMAYAのF4EJが空母から離陸する様が映し出された。ゼロ
との接触まで10分ほどのはずだ。
「どう思う、恭平?」
 ナミの顔は、こちらが思わずぞっとするほど不安に満ちたものだっ
た。むろんおっさんたちから見えない角度に顔を向けているが。
「判らんね。本当に飛行している戦闘機に接続した戦闘は初めてだか
らな。シミュレータとの差は色々でるだろうさ」
「だから私の聞きたいのは」
「いや、判るよ。5分ならなんとかもたせてくれるよ。天才だからな
MAYAは」
 ナミは頷く。しかし、顔から不安は消え去らない。
 しばらく沈黙が続く。おっさんたちも黙ったままだ。コンソールを
見つめていた甲賀が呟く。
「ゼロと接触した。始まるぞ」
 MAYAの見ている映像は、プロジェクターでスクリーンに投影さ
れている。その映像が大きく歪み目まぐるしく回転した。見入ってい
ると吐き気を催しそうなほど激しい動きだ。
「やばいな、頭を押さえられた」
 甲賀が呟く。別のスクリーンには、ゼロの見ているであろう映像も
写されている。そこには確かにF4EJの姿があった。最初のポジ
ションどりを制したのはゼロのF15らしい。
 機動隊への展開の指示を終えたナミが、呟く。
「やっぱりMAYAにも、F15を使わせるべきだったんじゃない
の?」
「ばかいえ」
 おれはナミの肩を叩く。
「信じてやれよ、ここまで来たんだから」
 ナミは頷く。腹が決まったのか、嘘のように不安の色が表情から消
えている。
「しかし、やばいな」
 甲賀が呟く。スクリーンを見る限りでは、有利なポジションをとっ
たゼロはMAYAを弄んでいるようにさえ思える。
「逃げるのが精一杯な感じだ。5分もつか?」
「いや、勝つよMAYAは」
 おれの言葉に含まれた確信に、思わずナミがおれの顔をのぞき込む。
「今、MAYAは感触を確かめているだけだ。思ったほど操作にぎこ
ちなさは無い。勝てるさ」
「本気なの、恭平」
 おれは微笑みかける。
「気がついていることが、一つある」
「なあに?」
「MAYAが勝ったら、言ってやるよ」
 ナミは苦笑する。
「こんな時に後出しじゃんけんのしかえし?」
「つーかね、ほらもう5分だろ」
 ナミは機動隊に連絡し、突入を指示する。
 その瞬間、MAYAの機体の映像が、きりもみ状態に陥ったように
激しくゆれながら回転する。誰もがMAYAが撃墜されたものと信じ
た。次の瞬間、嘘のようにMAYAの機体の映像が安定し、そこにゼ
ロのF15が映し出される。そして、F15が火を吹いた。
 ナミは機動隊との電話を終える。
「ゼロは確保したわよ」
「生きてるのか?」
 ナミは肩を竦める。
「無抵抗でげらげら笑ってたみたい。負けたのがショックだったんで
しょうね」
 ナミはおっさんたちに状況を手短に説明する。安堵のため息の合唱
がおこる。
「で、気がついたことというのは?」
 事後処理の指示で忙しいナミのかわりに、甲賀が聞いてくる。
「簡単な話さ。おれたち、つまりゼロとおれは実際に戦闘機に乗って
いた経験がある。遠隔操作システムの場合、身体にかかるGを無視し
た操作ができる。つまり実際戦闘機に乗って操縦していると、Gに
よって意識を失うような操作も遠隔操作なら可能だ。しかし、おれた
ちのように実際に戦闘機に乗っていたものは頭では無く、身体がGを
覚えている。そういう操作にはコンマ数秒のレベルで、躊躇いが生じ
る。MAYAにはそういう躊躇いが一切無い。その強みがあるという
ことだ」
 ナミの元にF15の機体が確保され、ウィルスの搭載されたミサイ
ルが無事回収できたとの連絡が入る。ようやく場の緊張が薄れた。
 それと同時に、MAYAのF4EJが空母に着艦する映像が映し出
される。MAYAの帰還が完了した。
 その場の全員が注目する中、MAYAがゆっくりブースから出てく
る。全員の視線に気がついたMAYAは、その場に立ちすくむ。
 誰ともなく、拍手が始まった。気がつくと、その場にいた全員が拍
手をしている。皆無言のままで、ただ拍手の音だけがテストルームを
満たした。
 MAYAは今まで見せたことの無い表情で頬を紅らめ、おれの前へ
くる。拍手が鳴り止んだ時、MAYAの頬には涙が光っていた。おれ
はMAYAに微笑みかける。
「よっ、お疲れ」
「私は」
 MAYAは言葉を詰まらせながらやっとのように、一言呟く。
「私は勝ったよ、恭平」
「よかったじゃねぇか。んじゃ、これが片づいたらもう一戦しようぜ、
おれと」
 MAYAは微笑む。
「こりないな、恭平。そんなに私にやられたいの?」
 おれは苦笑する。
「次はおれの勝つばんだ。つーか、勝たせろ、な?」

(一対一……終わり)

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