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         ま じ め な 小 説 マ ガ ジ ン

       月 刊 ノ ベ ル ・ 10 月 号

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        http://plaza5.mbn.or.jp/~joshjosh/


  インターネット上にきら星のごとく散らばる創作サイトの中か
 ら、私(編集人)ミヤザキ、が独断と偏見(?)に基づき選抜し
 た小説を、作者の了解を得てから順次掲載してゆくメールマガジ
 ンが「月刊ノベル」です。

  コミカル、ミステリ、叙情、ラブロマンス、ファンタジーSF、
 などなどジャンルは多彩ですが、アダルトはありません。

  なお、本編終了後に簡単なアンケートがあります。今後の編集
 に役立てたいと思いますので、なにとぞご協力ください。

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      月刊ノベルは等幅フォントでお読みください。
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  今月の小説: 音         作者:叙 朱

  ジャンル:現代(叙情)      長さ:文庫本3ページ  

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 今月は商業出版社によるインターネット出版についてのご紹介を
予定しておりましたが、残念ながら、転載の了解が取れませんでし
た。それで、プランBを発動し、お送りしますのは「音」です。

 インターネットでの商業出版は、村上龍氏などごく僅かな例を除
けばほとんど期待はずれと言っていいと思います。色々な理由があ
るのでしょうが、やはり「紙本」に代わる手軽な読書媒体がない、
というひとことに尽きるでしょう。パームトップなどで文庫本並の
読み心地を提供します、といったような試みも、読みやすさ、手軽
さ、そして何よりも、価格の面でまだまだ紙本には追いつきません。

 一方では、オンデマンド方式を使っての希少本、絶版本の再生を
試みている出版社もあります。1冊3000円前後とぐっと高めな
のが難点ですが「欲しい本」が紙本として手に入るというメリット
は大きくて、かなりの普及度と聞きます。今後のインターネット出
版のひとつの方向となることは間違いないでしょう(漫画本の復刻
もテストされていると聞きます)。

 というわけで、このテーマについてはまた来月、さらに報告いた
します。それでは今月の小説「音(叙朱)」をどうぞお楽しみくだ
さい。

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■音  叙朱

「兄ちゃん、兄ちゃん」
 真夜中のことである。啓二は、寝ている兄の恭一を揺すった。
「うるさいな、何だよ」
「変な音が聞こえるんだ」
 啓二は真剣だった。
「あれは、変な音でも何でもないんだ。早く寝ろ」
 それだけ言うと恭一は蒲団をがばっとかぶり、ついでに寝返りを
打った。
 兄にそうまで相手にされなくては、啓二はどうしようもなかった。
ぷっと頬をふくらませて自分も蒲団を頭からかぶってみた。しかし、
依然としてその奇妙な音は階下から漏れてきた。啓二は、釈然とし
ないまま眠気の覚めた頭を持て余し、蒲団の中で悶々とした。

 翌日、啓二が学校から帰ると、恭一に客らしかった。この日両親
は、葡萄園を営む本家に泊まり込みで手伝いに出かけていた。だか
ら今夜は兄の恭一と二人で留守番のはずだった。啓二は兄の客が女
であることに驚いた。
 茶の間で客の女と喋っていた恭一は、啓二を見て、あわてて客を
紹介した。
「会社で同じ課にいる沢口アキ子さんだ。今日は晩飯を作ってくれ
るそうなんだ」
 アキ子という女客は、こんばんは、と啓二に会釈した。白い清潔
そうな歯が見えた。
(この人、兄ちゃんのガールフレンドかな)
 啓二はそんなことを思いながら、ピョコンとお辞儀を返すとその
足で、二階に駆け上がった。
(そういえば、兄ちゃんはもう二十歳になっている。カノジョの一
人ぐらいいてもおかしくないか)
 啓二は嬉しいようなむず痒さに、二階の部屋でひとりくすくすと
笑った。

 晩御飯はスパゲッティーとクリームスープというしゃれた組み合
わせだった。恭一が階下から大きな声で呼んだ。アキ子がエプロン
をつけて、スパゲッティーを取り分けてくれた。
「育ち盛りだから、たくさん食べるんでしょ」
 笑うとえくぼができた。啓二は、どぎまぎして、黙っていた。
「こいつ照れてやがる」
 恭一が啓二を見ながら、やくざな口調で言った。もう七時を回っ
て外は暗かった。アキ子は啓二の分を取り分けると、恭一と楽しそ
うに話し始めた。啓二は一人、ぽつねんとした気持ちで、フォーク
から滑り落ちる固めのスパゲッティーと格闘した。「小学校六年生
じゃ、そろそろ、勉強が大変でしょ」
 突然、アキ子に尋ねられて、啓二はへどもどした返事をしてし
まった。声が掠れた。アキ子はさらに尋ねた。
「女の子のお友達なんか、たくさんいるんでしょうね」
「いるもんか。こいつはくそ真面目に、勉強ばっかりだからなあ」
恭一が、口をもごもごしているだけの啓二に代わって、アキ子に
答えた。
「そんなことないわよね」
 アキ子は啓二に笑いかけながら言った。楽しく弾んだ声だった。
(この人、今夜は泊まるつもりだろうか)
 女客が一向に帰る気配をみせないので、啓二はふとそう思った。
外はもうすっかり夜だった。啓二は、ごちそうさまと呟くようにし
て言うと、逃げるように二階に戻った。
 恭一はその夜とうとう、二階には上がってこなかった。

 次の夜。もう、真夜中のこと。
「兄ちゃん。兄ちゃん」
 啓二は、寝ている恭一の肩を揺すった。
「うるさいなあ、何だよ」
 恭一の返事はぶっきらぼうだった。
「今夜も変な音が聞こえるね」
 しかし、その啓二の声には、少しばかり怒りの色が混じっていた。
「あれは、変な音でも何でもないんだ。早く寝ろ…….」
 軽くあしらおうとした兄に、弟は鋭い言葉を投げつけた。
「知ってるよ。昨日の夜、兄ちゃんとあの女の人もあんな音を出し
てたもんな」
 恭一の息を呑む気配がした。しかし、恭一の返事はなかった。二
人の沈黙の中に、階下の奇妙な音だけが、とぎれとぎれに割って入
った。それは家畜の鳴き声のようにも聞こえた……。
 しばらくして、恭一は、思い切ったように言った。
「俺たち、結婚するんだ。」
 それは幼い弟に対する言葉としては、意外なほど真剣な口調だっ
た。

(終わり)

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