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         ま じ め な 小 説 マ ガ ジ ン

       月 刊 ノ ベ ル ・ 11 月 号

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http://www2c.biglobe.ne.jp/~joshjosh/novel/ 


  インターネット上にきら星のごとく散らばる創作サイトの中か
 ら、私(編集人)ミヤザキ、が独断と偏見(?)に基づき選抜し
 た小説を、作者の了解を得てから順次掲載してゆくメールマガジ
 ンが「月刊ノベル」です。

  コミカル、ミステリ、叙情、ラブロマンス、ファンタジーSF、
 などなどジャンルは多彩ですが、アダルトはありません。

  なお、本編終了後に簡単なアンケートがあります。今後の編集
 に役立てたいと思いますので、なにとぞご協力ください。

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      月刊ノベルは等幅フォントでお読みください。
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  今月の小説:ますから      作者:神楽坂 玉菊

  ジャンル:叙情         長さ:文庫本4ページ  

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 一般的には小説のコンクールというと選考委員による非公開の審査で
すが、インターネット上での小説コンテストの手法としてよく見受けら
れるのが、読者投票というやり方。これは応募してきた小説をネット上
で公開し、読者に気に入った小説について1票を投じてもらい、最終的
に得票数が多かった小説を優秀作とするというもの。このやり方の長所
は、優劣の判定が主催者側ではなく、参加する読者に委ねられるという
ところでしょうか。ですから、例え結果に不満があっても主催者側が文
句を言われないし、高名な選考委員も用意しなくて済む。読者もコンク
ールに参加しているという実感があり、読者開拓の点からも有効で、さ
らには、多くの読者から支持された小説=優れている、という判定は非
常にわかりやすい。

 そう言うわけで、インターネットでは読者投票形式での小説コンクー
ルが花盛りな訳ですが、絵本や児童書のポプラ社がネット上に開設した
「作品市場」は、これを一歩進めたもののようです。ここでは、作品市
場に展示された作品を読んだ読者に10点から100点までの「評価点」
での投票を求めています。総合得点の高い作品が受賞するのは、他の
ネットコンクールと同じなのですが、ユニークなのはそうした得点を1
週間単位で集計して、まさにリアルタイムの「読まれている作品」ラン
キングを設けてあること。毎回訪問するごとに順位も変わるので、リピ
ートの読者もつきやすい、なかなか良いアイデアだと思いました。

 さて、今回ご紹介する神楽坂 玉菊さんの小説「ますから」は、この
作品市場で見つけたお気に入りの掌編です。投票による得点はさほど高
くないのですが、それはポプラ社という出版社のカラーと作品がちょっ
と合っていないからだろうと思ったりしています。作家プロフィールに
よると神奈川在住の20歳代女性という神楽坂氏ですが、彼女のホーム
ページに行ってみてその強烈さにびっくり。サイト名が「あくまのふん
どし 〜垂れ流し無限大〜」いや、これ以上はもう何も注釈を付けます
まい。

「ますから」、どうぞお楽しみください。

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■ますから  神楽坂 玉菊

 なにこれ、ひどい顔。
 これじゃ、また化粧し直しじゃない。こんなになるまで泣くことない
じゃないの。
 今日の為に、思い切って買ったグッチの服着てるのに、これじゃあ台
無し。この顔にこの服、笑いものになりたいだけみたいじゃない。
 第一、こうなることがわかってはずでしょ。わかってて、ここまで来
たんじゃないの。ドラマみたいな展開なんて現実にはありえないって。
 堅気の商売じゃないもんね、どちらかというとあまり好まれる仕事
じゃないもんね。こうなっても仕方ないって覚悟を決めて飛び込んだ世
界なんだし。
 どんなに純粋に思ったって、むこうはわかってくれない。
 どんなにわかってほしいと思ったって、笑われるか、冷たくされるだ
け。
 こんな、一目であっちの……夜の世界の人間だってわかるようなあた
しを、一緒に連れて歩きたくなんかないよね。商店街にお買い物とか、
公園の散歩なんて嫌だもんね。周りの目を気にするよね。
 覚悟はしていたものの……心のどこかで、受け止めてくれるって思っ
てた。
 こんなあたしだけど、わかってくれるって信じてた。
 でもそんなものはつまらない幻想だったってことが、今日よくわかっ
た。 
 ……何も、そんなあからさまにいやがることはないじゃない。綺麗っ
て言ってくれる人、これでもたくさんいるのよ! 夜の世界の人間でも
構わないからつき合いたいって言う人だっているんだよ。まぁ、あたし
は身持ちがいいから、軽はずみなまねはしないけど。とにかく、ブス
じゃないでしょ! そこいらの女と比べたって、あたしは綺麗だと思う
の。昔のあたしはただの石ころだったけど、こんなに磨かれた。自分が
こんなに綺麗になれるなんて思ってもみなかった。それを、一目見るな
り、あんなあしらい方……。
 自分の気持ちを告白する前に、冷たく突き放されてしまった……。
 あたしは綺麗な格好をしてみたかっただけ。綺麗な女になりたかった。
きらびやかな、大きく背中の開いたドレスとかを着て、華やかな化粧を
してみたかっただけ。その為に、水商売の道を選んだ。あの世界だけが、
確実にあたしを受け入れてくれる。それが素直な欲求だったから、いず
れこういうこともあるってわかってても、あの世界はあたしには魅力的
なものだった。
 きっと汚いものでも見たって思ってるんだろうな。あのこは変わって
しまったって。中身は昔のままなのに、むしろ素直に自分を出せる分、
魅力的になったんじゃないかな、なんて思うんだけど。内気で、暗くて、
思うことも、本当にしたいこともちゃんと話せない、あの頃のあたしの
ほうがむこうにとっては「あたし」なのかもしれない……。
 あっちの商売が嫌っていうことより、綺麗になったあたしのことが嫌
なのもわかってる。この「綺麗」はすぐにあっちの商売を感じさせる
「綺麗」だから。でも他に考えられなかった。したいこともできないこ
の故郷を逃げ出したあたしには、それ以外考えられなかった。
 ……口惜しい、それから悲しい。受け止めてくれなかった。ようや
く自分を出せるようになったのに、受け入れてもらえなかった……。
「お前のことは忘れることにする。帰ってくれ」
 そんな言葉しか、あたしにはくれないのね……。
 なのに、おかしいわね、まだあきらめられないの。

「えっ、お前もう戻ってきたの?」
「うん」
「……お前、なんだ、その顔。マスカラ落ちまくってるぞ。化け物みた
いだな」
「化け物?」
「黒い涙流すなんて、普通の人間じゃないからな」
「……」
 あたしは少しだけ笑った。それから、恋人の胸に頭を預けた。
 彼はあたしの髪をいたわるように撫でながら、
「だめだったか」
「……まぁね……」
「そりゃ、なかなか理解できるもんじゃないさ」
「……わかってるけどさ。でも……」
「いつかわかってくれる日がくるといいな。まぁ、焦んないで、真面目
にやってりゃ……」
 あたしは顔を上げ、男の目を覗き込む。
「真面目にこんな商売やっていいわけ?」
 彼はうなづく。
「お前が綺麗な女になりたいって心から思っているなら、それがどんな
道だって俺なら認めるよ。お前が考えて選んだことなら、どんなことで
も。結果、間違いだったとしてもな」
 あぁ……その言葉が欲しかったの。
 お父さん、お母さん。わかってほしかったの。いつか……わかってく
れる? こんなあたしを受け入れてくれる?
「あ、これ以上泣くな。すごい顔になってる」
「いいのよ」
 泣いたっていいでしょ。素直でいたいのよ。ありのままのあたしを見
て欲しいのよ。いつか……きっとわかってくれる、もう一度信じたいの。
「ねぇ、初めて見たでしょ、あたしが泣くの」
「そういえばそうだな」
「オカマの涙は黒いのよ」
 丁度その時、東京行きの電車が到着した。

(終わり)

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    神楽坂 玉菊氏の作品は次のサイトで読めます。

        「 あくまのふんどし 」
 
 
http://www.geocities.co.jp/Bookend-Soseki/8439/index.html

     ポプラ社作品市場の神楽坂氏のページ↓

http://www.sakuhin-ichiba.com/yomu/selload.cgi?sakuhinid=233200001001

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