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         ま じ め な 小 説 マ ガ ジ ン

       月 刊 ノ ベ ル ・ 3 月 号 の 2

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  インターネット上にきら星のごとく散らばる創作サイトの中か
 ら、私(編集人)ミヤザキ、が独断と偏見(?)に基づき選抜し
 た小説を、作者の了解を得てから順次掲載してゆくメールマガジ
 ンが「月刊ノベル」です。

  コミカル、ミステリ、叙情、ラブロマンス、ファンタジーSF、
 などなどジャンルは多彩ですが、アダルトはありません。

  なお、本編終了後に簡単なアンケートがあります。今後の編集
 に役立てたいと思いますので、なにとぞご協力ください。


    
http://www2c.biglobe.ne.jp/~joshjosh/novel/ 

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      月刊ノベルは等幅フォントでお読みください。
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  今月の小説:誤解(連載第2回)   作者:つきかげ

  ジャンル:ファンタジー       長さ:文庫本9ページ  

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 今回はAWC大賞受賞作「誤解(つきかげ氏作)」の連載第2回をお
送りいたします。3回完結の予定です。どうぞお楽しみください。

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■誤解 連載第2回 つきかげ

 僕らはスーザンの馬車に乗って、四国へ向かった。高速道路の上は、
乗り捨てられた車が時折あるだけで、人間も半獣人も姿を見せない。予
想通り、高速道路は安全なルートらしい。
 スーザンがスプレイニルと呼ぶその鋼鉄の体を持つ馬は、決して疲れ
ることを知らず、餌も水も必要としないようだ。僕らは順調に西へと向
かって進む。
 僕は馬車の上でスーザンに、僕らの世界が崩壊していった経緯を説明
した。なぜ獣化病という、奇妙な病が蔓延することになったのか。
「始まりは東京の新宿だった。そこにある生化学研究所が爆発事故を起
こした。その時からなんだよ、奇妙な病気が流行り始めたのは」
 事態は大衆に知られることはなく、静かに進行していった。初期に発
病したものは手際よく国立病院に隔離されている。そしていつのまにか
電気、水道、ガスといったライフラインは自衛隊の管理化におかれてお
り、機動隊はいつのまにか都市を封鎖していった。
 気がつけば政財界の要人は皆、海外へ脱出した後で、マスコミは全く
真相を報道しなかった。完全に東京の封鎖が完了したころから、一気に
崩壊の加速が始まる。
「僕らは何も知らされていなかった。でもある日を境に最低限の情報が
公開されるようになった。生化学研究所から漏れた、実験によって造り
だされたレトロウィルスが東京全体を汚染したと。そのレトロウィルス
つまり遺伝子情報を書き換えてしまうウィルスは、獣化ウィルスと名づ
けられたんだ。なぜなら、そのウィルスは人間の身体を動物に変化させ
てしまうから」
 スーザンは美しい顔を、少し曇らせる。
「たちの悪い魔道のようなウィルスだな、そいつは」
 僕は苦笑する。
「全くその通りだね。情報が公開された時には機動隊が都市を完全に封
鎖していた。獣化病の病人は、既に病院に収容できないほどの数になっ
ていたので、隔離されることはなかった。もっとも、空気感染によって
広まってゆく獣化ウィルスは、その時には東京中を汚染しつくしていた
から、あまり隔離には意味がなかったんだけどね」
 今、僕らは獣化ウィルスに汚染されている大気を吸っている。
「では私たちもいずれ発病するということなのか?」
 スーザンのもっともな問いに対して、僕は肩を竦めて答えるしかな
かった。
「さあね。ウィルスは僕らの体内に入り込んでも必ず獣化病を発病させ
る訳ではないらしい。どうも僕自身理解しきれていないのだけれど、獣
化病というのは厳密には病気とは呼べないらしい」
 スーザンは問い掛けるように、片方の眉をつりあげて見せる。
「ようするに、獣化病は僕らの体内に潜在している記憶を、広げてみせ
るものらしいんだ」
 獣化病は厳密には病ではないらしい。むろん、それは人間の身体を死
に至らしめる危険な存在なのだけれど、それはたんに僕らの細胞に潜在
している形質を目覚めさせているにすぎないとうことのようだ。
 僕らは受精卵から細胞分裂を繰り返し、人間へと至る。その過程でよ
くいわれるように個体発生は系統発生を繰り返すわけだから、様々な動
物の形態を経て僕らは人間へとなるわけだ。僕らは個体発生の過程で魚
類となり、両生類、爬虫類を経て、哺乳類へとなってゆく。
 その別の生き物への進化の可能性は、僕らの細胞内に「記憶」という
潜在する形質として刻まれているらしい。獣化病はその潜在する形質を
発現させるにすぎないのであり、僕らは、僕らの体内に内在している
「別の生き物」へ変化しようとする力に耐えられなくなって、最終的に
死に至るそうだ。
 スーザンはその話を聞いてため息をついた。
「それはまさに魔道だな」
「うん、なんなく言ってること判るよ」
 そして僕らの潜在している形質が発動するかどうかは、結局のところ
僕らの深層心理によって決まるらしい。僕ら自身が僕らの体を変化させ
ていくトリッガーを引くのだ。
 スーザンは訝しげに尋ねる。
「それは獣化病にかかるものは、自分自身が獣になりたいと望んでいる
ということなのか?」
「いや、そうじゃないんだ。むしろ、人間であり続けようと思う心が崩
れたときに発病するらしい。普通、僕らは心と体が一致している。獣化
ウィルスはその関係を破壊してしまう。そういうことらしいんだ。眠っ
ているときは、意識の身体に対する支配が一番薄れる時らしい。そうす
ると、僕らの潜在する形質が発動する」
 受精卵には最終的に人間の身体へ至るような、潜在的形質が折り畳ま
れて潜在している。それと同じ理屈で僕らの身体には、他の動物に変化
しうる潜在的形質が「折り畳まれている」。それが発動しないのは、僕
らの意識がそれをセーブしているからだ。
 例えば、進化について考えてみればいい。進化はゆるやかなものでは
あるけれど、あれもまた「折り畳まれている」潜在的形質が発動するも
のだ。獣化病はある意味で狂った進化だといえる。
 やがて日が沈みはじめ、夕暮れが訪れた。僕らは、サービスエリアに
入り込み、野営の支度をする。僕らは完全に日が沈む前に、野営の準備
を終え食事を済ませた。
 かの子がポツリという。
「お父さん、今日出張から帰ってくる日だったっけ」
 僕は首を振る。かの子はお父さんが死んだことを知らない。
「いや、今日じゃないよ」
「お父さん、私たちがいなくなったのを知ったら、驚くだろうね」
「大丈夫だよ、お母さんが説明してくれるさ」
 僕の心の中にたまらない切なさが込み上げ、かの子の身体をぎゅっと
抱きしめる。
その時、かの子はむしろ僕を慰めるかのような静かな瞳で見つめていた。
僕はかの子を頭を優しく撫でる。
「さあ、心配することは何もないから眠っておいで」
 かの子は頷くと寝袋の中へと入り込んだ。
 僕は、ラジオをつけてみる。
 ラジオやテレビはもう随分前から情報を流すのをやめていた。崩壊が
完遂することによって、情報を流す意味がなくなったのだろう。
 それでも放送する機能だけは、生きていた。ライフラインが、街が崩
壊した後も生きていたのと同様に、一説によれば自衛隊に配備されてい
た遠隔操作のロボット兵士によってライフラインや放送局、電話局は生
かされ続けているということらしい。
 僕はそれを信じていなかったが、では放送を流しているのは誰かと聞
かれても僕には答えられなかった。それは大体、なんのために流されて
いるのか、判らない内容なのだ。

 ラジオから流れてくるのは、聖書の朗読だった。テレビをつけても同
じものを聞くことができる。ラジオはこう語った。
「そこで私は、私に語りかける声を見ようとして振り向いた。振り向く
と、七つの金の燭台が見えた。
 それらの燭台の真中には、足までたれた衣を着て、胸に金の帯を締め
た、人の子のような方が見えた。
 その頭と髪の毛は、白い羊毛のように、また雪のように白く、その目
は、燃える炎のようであった。
 その足は、炉で精練されて光り輝く真鍮のようであり、その声は大水
の音のようであった。
 また、右手に七つの星を持ち、口からは鋭い両刃の剣が出ており、顔
は強く照り輝く太陽のようであった。
 それで私は、この方を見たとき、その足もとに倒れて死者のように
なった。しかし彼は右手を私の上に置いてこう言われた。『恐れるな。
わたしは、最初であり、最後であり、 生きている者である。わたしは
死んだが、見よ、いつまでも生きている。また、死とハデスとのかぎを
持っている。
 そこで、あなたの見た事、今ある事、この後に起こる事を書きしるせ。
 わたしの右の手の中に見えた七つの星と、七つの金の燭台について、
その秘められた意味を言えば、七つの星は七つの教会の御使いたち、七
つの燭台は七つの教会である。
 エペソにある教会の御使いに書き送れ』」
 スーザンは驚いたように僕を見て、尋ねる。
「それはなんだ?」
 僕はスーザンにラジオの説明をした。電磁波とそれを音波に変化させ
る仕組みについて。スーザンはその説明を聞いて、首を振る。
「その朗読されている詩のことだよ」
「ああ、聖書だよ」
 僕はスーザンの声に怯えのようなものを感じたので、スイッチを切る。
「二千年くらい前に、死んだ神の子が語ったことを記録したものだとい
われてる」
「神の子なのに死ぬのか?」
「ああ、彼はなんでも人間が死んでも甦るものだということを示すため
に、死んだらしいよ」
「では、彼はどこかに生きているのか?」
 僕は肩を竦める。
「どうも、そのあたりはよく判らないんだ」
「なぜ、詩の朗読を止めた?聞いていたかったのだろう」
 僕は苦笑する。
「いや、もういいんだ。何度も何度も聞いたから、覚えてしまってる。
そらでいうこともできるよ」
 僕は聞き覚えた聖書の一節を暗誦する。
「私が幻の中で見た馬とそれに乗る人たちの様子はこうであった。騎兵
は、火のような赤、くすぶった青、燃える硫黄の色の胸当てを着けてお
り、馬の頭は、ししの頭のようで、口からは火と煙と硫黄とが出ていた。
 これらの三つの災害、すなわち、彼らの口から出ている火と煙と硫黄
とのために、人類の三分の一は殺された。
 馬の力はその口とその尾とにあって、その尾は蛇のようであり、それ
に頭があって、その頭で害を加えるのである。
 これらの災害によって殺されずに残った人々は、その手のわざを悔い
改めないで、悪霊どもや、金、銀、銅、石、木で造られた、見ることも
聞くことも歩くこともできない偶像を拝み続け、その殺人や、魔術や、
不品行や、盗みを悔い改めなかった」
 スーザンはため息をつく。
「奇妙な詩だな」
 僕は頷いた。
「そうだね、僕もそう思うよ」
 月の明るい夜だった。スーザンの瞳は真夜中の太陽のように金色に輝
き、僕を真っ直ぐ見つめている。
「おまえは知っているのだろう」
 スーザンの唐突な言葉に、僕はスーザンを見つめ返す。
「何を?」
「おまえの妹が既に発病していることを」
 僕は頷いた。
「知ってるよ。かの子は天使になったんだ」

 私たちはスーザンのワンボックスカーに乗って、西へ向かった。車の
中で、運転しているスーザンは兄さんと何か話をし続けていたが、私に
はその内容を全く理解できない。それはどうやら、ここではない、どこ
か別の世界の話のようだ。
 夕暮れになって、私たちの乗る車はサービスエリアに入った。私たち
はサービスエリアで食事をし、車の中に戻る。今日は車の中で眠るよう
だ。
 私は兄さんに問い掛けてみた。
「お父さん、今日出張から帰ってくる日だったっけ」
 兄さんは首を振る。
「いや、今日じゃないよ」
「お父さん、私たちがいなくなったのを知ったら、驚くだろうね」
「大丈夫だよ、お母さんが説明してくれるさ」
 兄さんは物凄く切なそうな目をして、私の身体をぎゅっと抱きしめる。
私は心の中に暖かいものが溢れてくるのを感じた。私は心の中で兄さん
に囁きかける。
(恐れることはないわ。たとえ世界が凶暴で破滅的な狂気に満ちていて
も、私は兄さんと一緒にいる。兄さんのことは理解できないけど、ずっ
と一緒よ)
 兄さんは私の頭を優しく撫でる。
「さあ、心配することは何もないから眠っておいで」
 私は頷くと寝袋の中へと入り込んだ。
 夢うつつの中で、ラジオのニュースが聞こえてきた。サイコキラーの
スーザン・マクドゥガルが指名手配を受け、逃走中という言葉が聞こえ
る。スーザン・マクドゥガルの特徴は全て、私たちと一緒にいるスーザ
ンのそれと一致した。
 兄さんはラジオのスイッチを切る。
 兄さんは黙示録の暗誦を始めた。兄さんは、スーザンと会話しながら、
時折黙示録の一節を暗誦しているようだ。
「恐れるな。わたしは、最初であり、最後であり、 生きている者である。
わたしは死んだが、見よ、いつまでも生きている」
 兄さんの暗誦はやがて終わりをつげる。
「これらの災害によって殺されずに残った人々は、その手のわざを悔い
改めないで、悪霊どもや、金、銀、銅、石、木で造られた、見ることも
聞くことも歩くこともできない偶像を拝み続け、その殺人や、魔術や、
不品行や、盗みを悔い改めなかった」
 なんとなく、私は黙示録は今の私たちのことを語っているような気が
した。兄さんが黙示録のテープを繰り返して聞いた理由が、判ったよう
な気がする。
 私たちは死んで生き延びたものだ。
 私たちは家族の崩壊から生き延びたものだ。お父さんとお母さんの子
供としての私たちは、とっくの昔に死んでいる。私たちはお父さんとお
母さんを軽蔑し、恐ろしい殺人者を最後の友として生き続けるものだ。
 でもそのことを、悔い改めることなんてしない。絶対しないんだ、私
は。
 私の意識は本格的に眠りの中に落ちていく。
 最後に兄さんがこういうのが聞こえた。
「知ってるよ。かの子は天使になったんだ」

(以下、次回へと続きます)

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     つきかげ氏の作品は次のサイトで読めます。

       「 戎 克 庭 園 junk garden」
 
   
http://www5a.biglobe.ne.jp/~tukikage/index.html 

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   これまで登場していただいた作家(敬称略)と作品リスト

      佐野祭      「排水管にあこがれて」
      広東       「賽の河原」
      神楽坂玉菊    「ますから」
      伊勢湊      「夜行列車」
      みぃしゃ     「ハードル」
      KOZY     「缶蹴り」
      つきかげ     「1対1」
      えびす      「青空」「ボーイ・ミーツ……」
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      河本勝昭      世相百断「告知」
      RIBOS    「安全な食べ物」
      飯田橋      「噂のカツ丼」
      秋野しあ     「水の花」
      青木無常     「停電」
      ドルフィン    「5号室の秘密」
      叙朱       「花火」「音」

      バックナンバーはこちらで読めます。
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        発行日:平成14年3月23日
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      編集・発行:MiyazakiBookspace mbooks@dream.com
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