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         ま じ め な 小 説 マ ガ ジ ン

       月 刊 ノ ベ ル ・ 11 月 号

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  インターネット上にきら星のごとく散らばる創作サイトの中か
 ら、私(編集人)ミヤザキ、が独断と偏見(?)に基づき選抜し
 た小説を、作者の了解を得てから順次掲載してゆくメールマガジ
 ンが「月刊ノベル」です。

  コミカル、ミステリ、叙情、ラブロマンス、ファンタジーSF、
 などなどジャンルは多彩ですが、アダルトはありません。

  なお、本編終了後に簡単なアンケートがあります。今後の編集
 に役立てたいと思いますので、なにとぞご協力ください。

    http://www2c.biglobe.ne.jp/~joshjosh/novel/

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      月刊ノベルは等幅フォントでお読みください。
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  今月の小説:遠雷        作者:青野 岬
  ジャンル :現代        長さ:文庫本5頁  

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 今月は毎月いろいろな小説バトル(小説コンペ)を行っているQ書
房(QBOOKS)で見つけた女性作家、青野岬さんの作品をお届け
します。

 QBOOKSはユニークな試みを始めました。それは、コンペの有
料化および優秀作への賞金の提供です。これまで続けてきた無料コン
ペをやめて、あえて有料化に踏み切った理由はいろいろあるのでしょ
うが、一番の狙いはおそらく(想像です)Q書房そのものをちゃんと
した出版社にしようということではないかと思います。

 筆者が主体となって本を作るという自費出版が静かなブームになっ
ています。それは、かつては100万円前後かかった本の制作費用が
デジタル印刷機や小回りの利く街角プリントショップの出現で、手軽
に安価に本が作れる環境が整ってきたというのが大きいと思います。
後は、そうした自費出版本の流通機会をいかにして広げてゆくかで
しょう。QBOOKSがそういう機会提供のひとつの動きを始めたこ
とは大変うれしいことだと思ってます。

 さて、青野岬さんですが、QBOOKS有料化で離れてゆくアマチ
ュア作家が多い中で、ほとんどのバトル(1000字、3000字他)
に作品を精力的に発表されています。題材は日常の切り取りから、や
や、コミカルなものまで様々ですが、ご自身の女性としての目がその
まま表出しているような作品に、はっとさせられることがあります。

 今回の「遠雷」はそういう傾向の作品で、第22回3000字バト
ル参加作品です。もっと長くして書き込めば、さらに奥深いものにな
りそうな期待も込めて、掲載させていただきました。

 どうぞお楽しみください。

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■遠雷    青野 岬

 僕には父ちゃんがいない。僕が生まれるちょっと前にリコンしたと
母ちゃんが教えてくれた。だから僕は、父ちゃんを写真でしか見た事
が無い。父ちゃんはお酒が好きで、酔っ払うとよく母ちゃんを殴った
りしてたそうだ。母ちゃんは僕を守る為にリコンしたんだ、と言うけ
ど母ちゃんもよく酔っ払って暴れたりするので、本当のところ実はよ
くわからない。

「健一、今日は山根のお稲荷さんとこの祭りの日だろ?お母ちゃんと
一緒に行こうか」
 隣で寝ているとばかり思ってた母ちゃんに突然話し掛けられて、僕
はビックリして漫画本から顔を上げた。今日は母ちゃんの昼間の仕事
の定休日だ。母ちゃんは昼間は駅前の大きなスーパーの掃除婦、夜は
近所のスナックってとこで働いている。スーパーが定休日の毎週木曜
日は、いつもなら「疲れた」と言って寝てばかりいるのに、今日は一
体、どういう風の吹き回しだろう。
「夏休みも、もうすぐ終わりだろ?今年もどっこにも連れてってやれ
なかったからさ。せめてもの罪ほろぼしって訳」
 母ちゃんはそう言うと、軽く伸びをして布団から起き上がった。そ
れを見て、僕もあわてて起き上がる。枕元の目覚まし時計を見ると午
前八時を少し過ぎたところだった。いつもの定休日なら、昼近くまで
まず起きない。僕は仕事で疲れている母ちゃんを起こさないように、
朝御飯を作ってひとりで食べるのも、すっかり慣れっこになっていた。
「今、朝めし作るから待ってな」
 花柄のストンとしたワンピース(母ちゃんはアッパッパーと呼んで
いる)に着替えた母ちゃんは、鼻歌を唄いながら台所に行ってトース
トを焼いたり目玉焼きを作ったりしている。なんだか機嫌がいいみた
いだ。僕もTシャツと短パンに着替えて、お皿を出したりするのを手
伝った。流し台の上にある小窓から差し込む朝の日射しが、今日も暑
い一日になる事を僕に教えてくれていた。

「俺よぅ、このあいだオヤジとオフクロが夜中に裸で抱き合ってんの、
見ちゃったよ」
 親友の裕太が、ニヤニヤしながら僕に話し掛けて来た。お祭りは夕
方からなので、前から約束していた『マッカチ』を捕まえに裕太とふ
たりでお不動池に遊びに来ていた。割り箸の先にタコ糸を結び付け、
その先にエサとなる煮干しをつけて水の中にたらす。そうすると、も
うほとんど入れ食い状態であっという間にバケツの中は赤黒いザリガ
ニで一杯になった。
「え!?で、どうだった?どうだった?」
 僕も、あわてて聞き返す。
「もー凄かったよ。オフクロなんか、泣いてるみたいでさ。俺、なん
かそれ見てたらチンチンが固くなっちゃってよぉ」
「そうなんだ……」
 この頃、僕は女の人の裸の事ばかり考えている。でも想像し始める
とチンチンが反応して大きくなってくるので、なるべく人前では考え
ないようにしている。この間も、エロい夢を見て朝起きたらパンツが
濡れていて僕はあわててバレないように風呂場でパンツを洗った。
 だから最近は、母ちゃんと一緒に風呂に入るのもやめた。少しずつ、
子供ではなくなっていく自分の体の変化を母ちゃんに見られるのは、
何よりも恥ずかしかった。
(僕の母ちゃんも泣くのかな……)
 母ちゃんの乱れた姿を想像した途端、腹の底から何か熱い塊が湧き
上がって来るのを感じた。たまらなくなって僕は水面めがけて手当た
り次第に石を投げた。投げられた石は池の表面にいくつもの同心円を
描いて、濁った水の中に消えた。

「ただいま」
 家に戻ると、母ちゃんが浴衣の着付けの真っ最中だった。
「ああ健一、いい所に帰って来たよ。ちょっと帯のここんとこ、持っ
ててくれない?」
 僕は黙って母ちゃんの後ろに回り込み、言われた通りにした。母
ちゃんの真っ白いうなじから、ほのかな石鹸の匂いが漂って来る。僕
の身長はもうすぐ母ちゃんに追い付きそうだ。洗った髪をそのままに
化粧前の素顔の母ちゃんは、まるで可憐な少女のように見えた。
 まだ陽も高いうちから太鼓の音が鳴り響き、お祭りムードは否応な
く盛り上がっていく。僕は軽くシャワーを浴びて、母ちゃんとふたり
家を出た。蝉時雨れが降り注ぐ道を歩きながら、母ちゃんがいつにな
くお喋りな事がほんの少し嬉しくもあり、また気掛かりでもあった。
 祭りの会場となっている山根のお稲荷さんは、既にすごい人出だっ
た。参道の脇には露店がずらりと軒を並べ、金魚すくいや射撃の露店
からは子供達の大きな歓声が上がっている。つい興味本意に歓声のあ
がる店を覗いて回っているうちに、気が付くと母ちゃんとはぐれてし
まっていた。
 あわてて母ちゃんの、紺地に菖蒲の花の描かれた浴衣を探す。母
ちゃんは盆踊りのやぐらの片隅の薄暗い蔭に、半ば放心状態でひとり
佇んでいた。いきなり声を掛けるのもはばかられて母ちゃんの視線の
先をたどってみると、そこにはひと目で堅気の人間では無いとわかる
風貌の若い男が、若いだけがとりえのような厚化粧の女とイチャつい
ているのが見えた。
「母ちゃん……」
 おそるおそる声を掛けると、母ちゃんは目に涙をいっぱい浮かべて
僕を振り返った。そしていきなり僕の腕を掴むと無言のまま、家まで
歩き出した。母ちゃんに何があったのかわからないまま、僕は黙って
母ちゃんの後ろをついて歩いた。
 家に帰るやいなや母ちゃんは浴衣を脱ぎ捨てて、冷蔵庫の中から冷
えたビールを取り出して浴びる程、飲み始めた。母ちゃんの耳たぶが、
みるみる淡いピンク色に染まっていくのを見て僕は胸が少し苦しく
なった。
「……ったく何だよ。祭りに来るって言うから夜の仕事も休んでめか
し込んで行ったのに。女連れでイチャついちゃってさぁ……なんだい、
あんな女」
 やっぱり母ちゃんは、あの男の事で泣いてたみたいだった。
「母ちゃんはやっぱり健一だけだよ。可愛いあたしの息子だもんねぇ」
 そう言うと母ちゃんは、酔っ払って僕に抱き着いて来た。酒臭い息
が僕の鼻先にかかる。
「……やめろよ」
 母ちゃんの胸の膨らみを感じて、思わず両手で母ちゃんを押し退けた。
「……あら、健ちゃん冷たいじゃない〜。母ちゃんのおっぱい飲んで
育ったくせにさ。ホラ、母ちゃんのおっぱい、また飲むか?」
 母ちゃんは、左手でキャミソールの裾を捲り上げながら右手で僕の
頭を引き寄せて自分の胸に押し付けた。目の前に、山で食べた赤紫色
に熟した桑の実のような母ちゃんの乳首があった。僕はまるで吸い寄
せられるように、母ちゃんの桑の実をそっと口に含んだ。
「あっ……」
 思わず漏らした母ちゃんの切ない喘ぎ声を聞いて、僕はハッと我に
帰った。
「健一!どこ行くんだい!?健一ったら!」
 僕は母ちゃんを突き飛ばして立ち上がると、逃げるように家を飛び
出した。心臓が、今にも破裂しそうなくらい高鳴っている。遠雷が、
遠くの空を時折青白く光らせていた。
「バカヤロウ……母ちゃんのバカヤロウ……」
 あの時、母ちゃんのおっぱいを舐めた時、どうしようもなく気持ち
が昂ってチンチンが固くなった。いくら酔っていたとはいえ、そんな
事をさせる母ちゃんを許せなかったし、それに反応してしまった自分
も汚らしく思えた。
「バカヤロウ……バカヤロウ……」
 僕は泣きながら走った。遠くから聞こえる祭り囃子に合わせて稲光
りがだんだん近付いて来る。蒸し暑い空気に雷雨を予感させる冷たい
風が混ざり、走る僕の背中を粟立たせていた。
「バカヤロウ……」
 口の中に、柔らかな桑の実の感触がいつまでも残っていた。

(終わり)

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