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 今月の作品・推薦の口上
 
 今年の初夏、ユニークな掌編小説コンクールがありました。ネット文芸誌「文華」を
発行している赤川仁洋氏が主宰して「マンネリ打破」を合い言葉に創設された「トラ
イアングル掌編文学賞」です。ちょっと長くなりますが、以下に赤川氏のコメントを
引用します。

(引用開始)

「文華」を創刊して2年、ネット上で多くの作品に接してきました。また、わたしは
同人誌遍歴も重ねてきましたから、同人の作品を数多く読んでいます。そのほとんど
に共通する欠点があります。いや、既存のプロ作家にも、これは当てはまるでしょ
う。
オリジナリティの欠如です。どこかで読んだことのあるような、どこかで聞いたこと
のあるような話が実に多いのです。

 これは、わたしたちが多くの情報のなかで暮らしている弊害なのかもしれません。
活字を読まない人でも、テレビから膨大な情報が流れ込んできます。自然とその情報
に飼い慣らされて、独創性を失っているのかもしれません。

「文華」は、文章修行をメインに掲げる文芸誌です。作者のオリジナリティを刺激す
る企画を立てられないだろうかと考えてきました。それで、たどりついたのが「トラ
イアングル掌編文学賞」です。ここでは、「概念」「数字(記号)」「物質」の3つ
のキイワードを提示します。作者にはまずこの三角形の部屋に入っていただきます。
この限られた空間のなかでは、その作者が今まで得意としてきた“定番”を安易に使
うわけにはいきません。おもしろい物語を創生するには、地面 を深く掘り下げるしか
ないのです。

(引用終了)

 この創設目的もさりながら、優秀作品の選抜にいっさい「読者投票」を用いないと
いうのにも好感を持ちました。つまり、それは赤川氏の「責任選抜=俺がイイものを
見分けるぞ」という精神。文芸サイトは数ありますが、こういう「いいモノを育てる
ぞ」という意識のサイトはまだまだ少ない。その中で。私はこのアピールに「激しく
同意」したひとりです。

 さて、肝心の作品紹介の前にかなり字数を費やしてしまいましたが、今回掲載の快
諾をいただいた蒼井上鷹氏の「密封された想い」は、こういう掌編コンクールでは珍
しいミステリ仕立てです。伏線から解決まで淀みなく、予選段階で一読して「うーん」
と唸ってしまいました。隙のない構成とじんわりと胸に染みるような展開をぜひお楽
しみください。ちなみにトライアングル掌編文学賞では「準グランプリ」に輝いた作
品です。

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