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            ま じ め な 小 説 マ ガ ジ ン
 
         月 刊 ノ ベ ル 新 年 1 月 号

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             雪が降っています。

 遅蒔きながら、あけましておめでとうございます。
 ネット小説の佳作を毎月1編ずつお送りする月刊ノベル、今年もよろしくお願
いいたします。
 冬らしくない暖かい天候が続いていたと思ったら、週末からぐっと冷え込んで、
ついには雪が降ってきました。風邪をひかないようにご注意ください。

 恒例の月刊ノベル大賞を選びました。今月号はそのお知らせと大賞作家の掌編
をお届けします。どうぞ、お楽しみください。

http://www2c.biglobe.ne.jp/~joshjosh/novel/
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       月刊ノベルは等幅フォントでお読みください。
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             今月のお薦め小説

     三人の女   翠川奈緒子  文庫本3ページ相当
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        月刊ノベル大賞2003決定しました。

         大賞作品 「僕らの季節」
           作者 翠川奈緒子
           得点 56points

       次点 月の雫(佐野祭)49points

      アクセス賞 月姫(神楽坂玉菊) 669

 昨年2003年の1月1日から12月31日までの間にいただいた「メール
評価」および「オンライン評価」をそれぞれ、○=2points、△=1point、
×=-1pointとして合計した結果、月刊ノベル2003年度の大賞は、過去にない僅
差でしたが、10月号掲載の「僕らの季節」(翠川奈緒子作)が、最高得点と
なりました。実はこれまで編集人ミヤザキの出身母体であるアマチュアライタ
ーズクラブ’(AWC)参加作家がずっと大賞を取ってきていましたが、今回
初めてAWC以外からの受賞となりました。

「僕らの季節」は、暗くなりがちなテーマである学校内暴力を、元気な母親と
息子が力まずに対処していくという、明るい小説です。未読の方はぜひご一読
ください。

 次点となった「月の雫(佐野祭)」は、もうコメントは不要でしょう。あい
かわらず快調な「大型小説シリーズ」ですが、投票要請をしなかった「アンソ
ロジー参加作品」ながら、36票も集めました。佐野さんは昨年の「排水管に
あこがれて」も次点でしたが、すでに新潮社から本を出されている方ですから、
ほんとうはこんなところで賞の対象にしては失礼なのかもしれません。ごめん
なさい。

 月刊ノベルでは昨年7月から新しいCGI(ソフト)で、どの小説ページが
いちばん読まれているかをリアルタイムで計数していますが、飛び抜けてアク
セスを集めたのが「月姫(神楽坂玉菊作)」でした。おそらく検索エンジンに
ひっかかりやすい話題性のある題名だったのかな。しかし、多くのアマチュア
作家が悩む「インターネットでいかに小説を読んでもらうか」。中味のおもし
ろさは当然として、タイトルの大切さもを忘れてはならないことだというのが
わかります。

 ところで、これら3作品以外も、昨年は合計18作品をお届けしました。い
ずれも編集人ミヤザキが選んだ(依頼した)佳作ぞろいです。バックナンバー
としてホームページに公開されておりますので、どうぞお楽しみください。

       2004年1月10日 編集人:ミヤザキ拝

 追記: 読者のみなさんからいただいた○×評価の総投票は359票(一昨
年の約3倍)でした。どうもありがとうございました。

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 というわけで、今月は「僕らの季節」で大賞作家となった翠川奈緒子氏の掌
編小説「三人の女」を掲載いたします。なお、愛知出版から今月出版されたア
ンソロジー「恋愛短編小説3」(1500円、ISBN-4 434 03798 6 星雲社)
には翠川さんの短編「七夕前夜」が収められています。どうぞ、どちらもお楽
しみください。

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■三人の女  翠川奈緒子

「今夜は誰と逢うの?」
 鏡の前でいつものように化粧を始めた私に、後ろから夏実が声をかけてきた。
足が自慢の夏実らしく、いつも好んで身につけている短いタイトなスカートか
らすんなりした足を形良く組んで見せている。

 無視して、私は眉毛を描くのに集中する。眉毛というのは顔の重要なポイン
トなのだ。ここで気を散らすと、今までの化粧が台無しになる。
「デートなんだから、もっとセクシーな下着の方がいいんじゃない? ほら、
ライラック色の上下があったでしょ。ショーツの脇がほどける紐のやつよ。私
だったらあれにするわ」
 余計なお世話だ。私がどんな下着を着ようと他人の知ったことじゃない。だ
が、本当は私は迷っていた。今身につけているオレンジ色のレースの下着にし
ようか、それとも先週思い切って買ったそのライラック色の下着にするか。そ
れは相手次第だ。
 私の不機嫌さなどお構いなしで、夏実は喋り続ける。
「香水もつけなきゃね。どうせいつもの彼の好きなイブ・サンローランで
しょ? 彼ったらHだと思わない? この間の台詞、覚えてるわ。駅で同じ香
水をつけている女性とすれ違ったら秋乃を思い出して感じてきちゃったんだっ
てね」
 そう言ってふふっと笑った夏実の唇が肉感的に光る。

「夏実ったら、どうしていつもそんな事ばかり言うの? デートっていうとそ
ればっかりなんだから」
 非難めいた声でそこに割り込んできたのは春香だ。穏やかな落ち着いた目が
咎めるように夏実を見る。
「デートだからってそればっかりじゃないでしょ? 夏実はそれしかないみた
い」
「だって結局そうじゃない。恋愛なんて幾ら綺麗な言葉で飾ったって、要する
に行き着くところはセックスでしょ。だったらその為に自分を良く見せようと
思うのは当たり前のことよ」
「そんな事ないと思うわ。そりゃあそれも大事だけど、会話とか、いろいろな
場所に一緒に行くとか」
「セックスはね、究極のコミュニケーションよ。違う? これほど相手と共有
できる事が他にある?」
「それはそうだけど…… 夏実のデートってそれしかないんだもの」
「仕方がないじゃない。時間がないんだもの。私だって彼と一緒にあちこちに
行きたいわよ。でも一回のデートに三、四時間しか取れないのよ。しかも月に
一回会えればいい方だし。そうしたら行くところなんて一つしかないじゃない」
「それはつまり、夏実には不本意だってこと? 本当は違う事もしたいけど、
彼の都合で我慢してるの? つまり彼の言いなりになってるわけ?」
 春香の追及に、夏実はみるみる不機嫌になった。
「偉そうなこと言わないでよ。それだけ春香や春香の彼は立派だって言いた
いわけ?」
「だって私の彼は、時間や一緒に何かに感動したりする事を大切にしているも
の」
 春香は誇らしげに言った。口元がほころんでいる。
「最初に愛があって、最後に行き着くところも愛だって彼は言ってるわ」
「ああ、そう。すぐ愛を口にするのは安易だって私の彼は言ってるけどね。口
でなら何とでも言えるもの」
「口だけじゃないわ。私の彼は目に見える努力をしてくれる。逢う為に忙しい
時間をやりくりしてくれるしね。私と逢う為には睡眠時間だって削ってくれる
もの」
「春香の彼は自由業だから、時間を取りやすいというのもあるわよ。私はね、
言葉にしなくても逢わなくても、お互い相手が必要なんだからそれでいいと思
ってるのよ」
「でも夏実を見ていると、無理しているみたいに見えることあるわよ。彼の都
合に合わせて自分を抑えているみたいに。ねえ、秋乃、そう思うことない?」

 確かに私から見ても、夏実は強がっているように見えるときがある。
 夏実が恋人を愛しているのはわかっていた。夏実は本当は一途な女なのに、
夏実の恋人はそういう愛され方を望んでいないのだ。でも彼を諦められない夏
実は、彼と続ける為に彼が望む女を演じ続けなければならない。でも気持ちは
そんなに簡単に割り切れるものじゃない。
 そんな夏実が時々痛々しく思える。

「私は自分で選んだ事を他人のせいになんかしないわ。そういう春香はどうな
の? 愛されているとか言うわりには、いつも彼に嫉妬しているじゃない? 
そっちの方がよっぽど自分に自信がない証拠だと思うけど」
 夏実が肩をすくめて逆襲してきた。春香は口ごもった。
「だって…… 彼はあんなに真剣に人を愛することができる人だから、私以外
の人にも優しくしているんじゃないかと思うと不安になるのよ」
「しつこく問い詰めてばかりいると、そのうち呆れられて捨てられるわよ。大
体恋人の何から何まで全部把握しようなんて無理なのよ。束縛したら窮屈に感
じるだけだわ」
 春香が悲しそうにうつむく。

  春香も恋人を愛している。しかし春香の愛し方は夏実とは違う。
 春香は自分の全てを相手に投げかけて、相手にもそうして欲しいタイプなの
だ。相手の目が自分からちょっとでも逸れると不安でたまらなくなる。だから
幸せでいられる筈なのに、落ち着いていられないのだ。ちょっとした事ですぐ
不安定になる。

 私はいつも二人の論争が始まると黙って聞いている。それは、実際どちらを
選んだ方が幸せなのか、私にはわからないからだ。
 その時、二人は同時に私の顔を見た。
「秋乃、本当はどうしたいの? 秋乃も黙っていないで何か言ってよ。どっち
が正しいと思う?」
「そうよ、ずるいわよ、いつもどっちつかずで。どちらか選んでよ」
 二人の女は不意に私の存在を思い出したように、二人そろって、私の真意を
確かめようと近寄ってくる。

 もうたくさん、二人とも黙っていて、ともう少しで叫びだしそうになった時、
携帯の着信音が鳴った。
「はい、ええ、私、秋乃…… わかったわ、いつもの改札口に七時半に」
 電話を切って、私はゆっくり振り向いた。
 春香が悲しそうな憐れむような顔をして、私を見る。唇が『可哀想に』と動
いたような気がした。その輪郭が徐々に薄くなり、歪んでくしゃりと崩れてゆ
く。代わりに夏実が勝ち誇ったような笑顔で私に近づいてきて、溶け込むよう
にすんなりと私の体の中に入り込んでいく。
 指先まで夏実になった私は、洋服も下着も脱ぎ捨てて全裸になり、挑発的な
ライラック色の下着を身につける。ついでにイブ・サンローランの香水を両足
の奥深くに吹きつける。恋人に抱かれるために。
 今夜は、私は夏実なのだ。

 毎週金曜日――
 私は、私の中に潜んでいる三人の女のうちの一人になる。(完)

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 翠川奈緒子氏のホームページ

 → NAOKO'S WORLD http://www5e.biglobe.ne.jp/~naocolum/

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        発行日:平成16年1月18日
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      編集・発行:mbooks(文責:ミヤザキ)
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