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           ま じ め な 小 説 マ ガ ジ ン
 
           月 刊 ノ ベ ル 4 月 号

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             もうじき、連休。

 4月号がずいぶんと遅れました。ずうっとある文芸誌の発行(発売)を待っ
ていた、というと言い訳ですが、でも、なかなかユニークな文芸誌ができまし
た。インディーズ系出版社のペンギンBooksさんからついこの間発行され
たばかりの季刊誌「eペンギン」がそれです。

 今月はペンギンBooksさんと作者からご了解をいただき、その中から
掌編小説を1編だけ選んでお届けします。これを読んで興味を持った方は、
ぜひペンギンBooksさんをのぞいてみてください。

http://www2c.biglobe.ne.jp/~joshjosh/novel/
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       月刊ノベルは等幅フォントでお読みください。
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             今月のお薦め小説

       「ゆれ」        ジャンル:現代

       作者:西間りん     長さ:文庫本3頁
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               推薦の言葉

 手軽な自費出版を取り扱うペンギンBooksさんから「eペンギン」という
素敵な装丁の季刊誌が届きました。掲載されているのはエッセイや詩歌、そして
掌編小説などなど。驚いたことに、掲載作家は広く公募したいわゆるインディー
ズ系。しかも、参加無料の季刊誌ということでまたびっくり。通常こういう雑誌
を出すときは(掲載対象が無名の作家ばかりのときはとくに)、販売数の見込みが
ないのは明らか。ですから、書く側がかなり高めの掲載料を払って載せてもらう
のがふつうです。
 思い切りましたね>ペンギンBooksさん。
 さっそく読みましたが、これがまずまずの品揃えでした。今後、2号3号と続
いてゆくかどうかは未定らしいですが(おそらく、創刊号の売れ行き次第?)、
ネット作家にとって大変嬉しい企画ですので、ぜひぜひ続けていただきたいと願っ
て止みません。
 さて、今月はそのeペンギンから西間りん「ゆれ」を掲載いたします。民話の
ような不思議な素材と切ないエンディングが読む者の胸をかき乱すすばらしい掌
編です。どうぞお楽しみ下さい。

 なお、有料の文芸誌(eペンギンは800円で全国発売中)からの転載を快く
承諾いただいた作者の西間りんさんと出版社のペンギンBooksさんに感謝い
たします。

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■ゆれ  西間りん

 私の実家には、ざしきわらしがいる。
 宮城県の町外れにある古い家で、代々続いている旧家だ。
 十二代前だか十三代前だかの当主の娘が、そのざしきわらしを視るようになっ
たと言われている。
 そして、なぜだか、男の子には視えず、女の子だけに視えるそうだ。それも、
女ならどの子にでも視えるわけではなく、時々視える子が生まれるということ
だった。
 だから、私の家では女の子が生まれると、そのざしきわらしがいるという部屋
で育てられる。言葉を発するようになっても、視えている兆しがなければ、別の
部屋に移される。
 そういうことをずっとやってきた家だった。
 私の場合も、習慣に習って、そのざしきわらしのいる部屋で育てられた。そし
て、私の場合は生まれたときから、ざしきわらしが視えていた。
 母親でもなく、父親でもなく、兄でもなく、祖母でもなく、祖父でもない、こ
の存在は誰だろう。
 いつもただ、じっと私をみつめているこの存在はなんなんだろう。
 そう思っていたのを、覚えている。
 言葉が出るよりも早く、その存在がいるということを、私はしぐさで表したの
だった。
 その時の我が家の歓喜といったら、なんと言ったらよいのだろう。私の前に視
ることの出来た人物は、私の曾祖母だった。だから視える人物が久ぶりだったし
し、ざしきわらしを視ることの出来る女の子は、この家に福をもたらすと言い伝
えられてきたのだったから。
 実際に、その曾祖母も、その時代では本当に考えられないほどの良い縁談が持
ち上がったそうだ。そのおかげで、曾祖母の父親はその頃傾きかけていた商売が
うまくいったと聞かされている。
 だから、この子も良い所にお嫁にいって、この家になんらかの福をもたらすで
あろうと、小さな頃から言われていた。周りのそんな期待を受けつつも、実は私
の初恋の相手は、ざしきわらしだった。
 ざしきわらしは、年のころでいうと十四、五歳ぐらいに視えた。
 きっと世間一般で知られているざしきわらしは、もっと幼い感じなのだろうけ
ど、実家にいるざしきわらしはそれぐらいに視えた。
 それに、こういう言い方は変だろうけど、そのころ流行っていたバンドのボー
カルに少し似た顔つきをしていて、幼い私は身近にいるざしきわらしを恋の対象
にしてしまったのだった。
 毎日、家に帰るといるざしきわらしに、私はその日あった全ての事を話す。淡
々と表情を変えることなく、ただ私をみつめているざしきわらしに、私は言葉切
れることなく全てを打ち明ける。
 丁度、そんな頃からだったと思う。時折、寝ている私の体を、てろん、てろ
んっと触ってくるようになった。
 でも、それは全然嫌な感じではなく、なんというか、魂をマッサージされてい
るような心地よさがあった。
 そのときのざしきわらしも、やはり無表情なのだが、私は勝手にその瞳のなか
に愛情を視ていた。
 私が、十七歳の時に他の人よりもかなり遅れて初潮を迎えた。
 それきり、あんなにはっきりと視えていたざしきわらしが視界から消えた。し
ばらくは、探したり、ずっと話しかけたりしたけれど、そうなってしまうと、自
分の中にあった恋心も現実の人間へと移っていった。
 でも、どの人と付き合っても、ざしきわらしの事を話すと、こんな感じのこと
を言った。「へえ、それって、お前の家だから大切にされるだろうけど、もう今
の時代じゃ気持ち悪がられて終わりだぜ」
 その言葉を聞いて、私はそれまで好きだなと思っていた気持ちがすごい勢いで
萎んでいくのを、いつも感じた。
 「へえ。いいなあ。一緒にいつもいてくれたんだね」そういってくれた人は、
家中が大賛成の、東北でも指折りのお金持ちの次男坊だった。どこで私を見て気
に入ったのかわからないけれど、その次男坊のほうから是非にと持ち込まれたお
見合いの席だった。
 私はそのまま、結婚を決めた。
 今日は、この家を出る日だ。花嫁衣裳を着て、私はあの部屋でざしきわらしに
話しかけた。今までありがとう、と。もうこの家を出るけれど忘れない。ずっと、
好きだった。泣くのをこらえて言葉を出した。
 そして、玄関からいろんな人に見送られて出ようとしたその時、家がかなり揺
れた。
 物理的に揺れてるというよりは、ある空間が共鳴してその場にいる人間に揺れ
ているという感覚を味わわせているような揺れ。
「ああ、お祝いしてくれている」「よかったね。ざしきわらしさまだね」皆が
口々に言った。
 この家の言い伝えのひとつだ。ざしきわらしを視る女の子が花嫁になって、家
を出るときは、ざしきわらしがお祝いとして空間を揺らすと言われてきた。
 でも、私は涙を流した。悲しくって、どうしようもなく泣いた。
 お祝いなんかじゃなくて、寂しくて悲しくて孤独なざしきわらしの声なんじゃ
ないかと思えた。
 それは、代々そうなのではないかと。時折にしか自分を視てくれる人間がいな
くって、でも、その子も結婚して離れていく。そのたびに、これからまた百年や
二百年、一人きりであの部屋で過ごすのだ。
 私は、家に、あの部屋に戻りたくって、たまらなくなった。

(終わり)
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 西間りんさんの「ゆれ」はeペンギン(ペンギンBooks刊)掲載作です。

 → eペンギン紹介ページ(ペンギンBooks)
   http://www.penguin-books.net/StoryPage.php?code=76&ucode=1

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