電ミス「地名+名物+謎」競作コンペ参加作品


長崎龍踊りの謎

已岬佳泰


   主な登場人物

    水沢杏子 二十五歳 
    本多達彦 杏子の友人

    初老の男
    酒井雪子 宝珠(玉)持ち
    神崎節夫 龍頭持ち
    西川剛史 龍尾持ち
    鵜殿健司 四番持ち   
    買い物帰りの主婦 

    島田警部補 長崎県警捜査課



(解決編)

 のんびりとした日常が、突然反転する衝撃を杏子は味わっていた。
 日頃、ネタを求めてテレビのニュース番組はよく見る。しかし、それらはあくまでも他人事であり杏子は気楽な傍観者だった。ところが目の前にあるのはナイフを使った連続殺傷事件なのだ。偶然とはいえ、杏子はそこの現場に居合わせ、事件を目撃した。ひょっとしたら犯人をも見ている可能性が高い。
 背筋がぞくぞくするような感覚だった。
 異変に気づいて、町民広場の中央に向かって駆け出したあの瞬間に、非日常への回転ドアを押したのだろう。それからはすべてがまるで稲佐山からケーブルカーでおりるがごとく、あっという間に起きた。

 まずは救急車が二台到着し、担架を下げた救急隊員が二ヶ所に走った。ひとつは広場の中央、龍持ち四番が倒れているところだ。もうひとつはJR長崎本線側の狭い道路。そこには首を刺された主婦が横たわっていた。野次馬が救急車の警報で集まりかけたところへ、長崎県警のパトカーがきて、それがなんと四台も! 飛び降りた警察官がすぐに広場を立ち入り禁止にした。
 本多が警察官の方に話に行くのをぼんやりと見ていた。なにやら話し込んでいる。それから杏子の方を向くと、手招きをした。

 差し出された名刺の「刑事課」という文字と「警部補 島田」の部分だけは頭に入った。しかしあとははっきりしない。杏子は自分が入り込んだ非日常に、すっかりのぼせあがってしまっていた。
 杏子に比べて、本多のほうは落ち着いていた。事件のポイントをこの島田警部補と話し合っている。それらを杏子なりに要約すると次のようになる。

 被害者、龍踊りの四番は鵜殿健司三十二歳。救急車が到着したときにはすでに出血多量で死亡。死因は腹部の深さ十五センチにも達した一ヶ所の刺し傷。凶器は薄い幅狭のナイフ状のもので、これだけの深さの傷を追わせるには相応の反動をつけて刺したと思われる。容疑者はいっしょに龍踊りをしていた青年団のメンバー。特に龍尾を担当していた西川剛史は、被害者とそりが悪く、動機の面では有力。
 現場に凶器は見つからず。練習していたメンバーはすべて龍踊り正装の黒服に黄色の腰帯で、身体検査の結果、特に不審な所持物無し。現場周辺にも事件と関係がありそうな遺留物は発見できず。

 もうひとりの被害者、JR線わきの小道で刺された女は身元確認中。首に残っていたナイフは振り出し形で刃渡り十五センチ。簡易血液検査では鵜殿健司と同一形の血痕が認められたので、おそらく、凶器は鵜殿健司殺害と同一のものと思われる。容疑者、動機ともに不明。ただし、鵜殿健司を刺した犯人が逃走中に、主婦に見とがめられたために、刺したという可能性はある。

「まるで犯人は透明人間みたいね。わたしたちが見ている前で、四番を刺し、そこからJR線の方へ逃げ、出くわした主婦を刺したというわけ?」
 島田警部補との話を終えて本多とふたり広場を歩きながら水沢杏子はそう言った。本多はうっすらと笑う。肯定とも否定とも取れない曖昧な笑い方は学生時代のままだ。
「水沢は相変わらず短絡的だなあ。透明人間なら見えないんだから主婦に見とがめられることはないだろう。すると、わざわざ刺す必要はない。つまり犯人は透明人間ではない」
 あ、そうか。そもそも透明人間なんているわけもないのに、本多は真面目に否定してくれる。
「でもさ。もし犯人が龍踊りの途中で四番を刺して、そのあとで主婦を刺したのなら、わたしたちは犯人を見てるはずよね。だって、広場中央から主婦が倒れていたJR線までは十メートルは離れているし、そこを移動するならわたしたちの目にとまらないはずはないもの」
「そうだね。でもぼくらは誰も見ていない。そこがこの事件の奇妙な点で、長崎県警も悩んでいるところらしい。ただ、被害者ふたりを刺したナイフが同じモノだとすると、ナイフはふたつの現場を移動している。問題は誰がどうやって運んだのか」
「でしょう。そうなると、透明人間説もまんざらじゃないような気がするわ」
 杏子はふざけているつもりはない。ただ、それ以外にうまい説明がつかないのだ。本多も杏子にうなずいた。
「そう、犯人が最初からあのふたりを殺そうと計画したのなら、案外そういうこともあるかもね」
 本多がちらっと笑った。杏子の言葉をジョークだと思ったらしい。
「四番はともかく、あっちの主婦はたまたまあそこを通りかかっただけみたいだから、計画性となるとどうかしら」
「四番だって不自然だよ。龍踊りの中で刺されたわけだけど、その周囲には少なくとも龍持ちがあと九人はいたんだ。いや、犯人がその中にいるとすれば残りあと八人かな。それらの目があるところで四番は刺されたわけで、もし犯人がそれを承知で犯行に及んだとすると、犯人はとても大胆か、無神経、あるいは犯行がばれるのを意に介さなかったか。とても計画的なものとは言えないね」
「でも、実際に犯人は分からないし、ナイフの移動という謎もあるわ。そういう意味では犯人はどこかでほくそ笑んでいるのかも知れないでしょう」
「うーん」
 低い声でうなると本多は広場を見回した。島田警部補から解放された青年団のメンバーが幌付きのトラックに白龍を片づけているところだった。そのトラックの荷台に警察官がひとり乗り込んでいる。おそらく白龍は捜査資料としてそのまま警察に運ばれるのだろう。龍踊りに参加していた青年団のメンバーも事情聴取を受けるために警察へと向かうらしい。その様子を眺めながら、本多は唸り声を出し続けている。
「ぼくらは何も見ていない。でもきっとなにかを見ている。見ているはずなんだ」
 本多のつぶやきが杏子にも聞こえた。

「ひょっとしたら、本多くん、犯人の予想がついているのじゃない?」
 ふとそんな気がして杏子は尋ねてみた。予想通り、本多は小さく頷いた。
「四番を刺した人間はたぶん特定できたと思うんだ。あの状況で犯人の可能性がある人間はひとりしかいないからね。動機とかは不明だけど。ただ、主婦の方がわからない。特にナイフの移動手段なんだが‥‥」
 そう言うとまた空を仰ぎ、そして広場を見る。しばらくそうしている内に白龍の積み込みが終わり、青年団は衣装を着替えはじめた。男女混合とは言っても、女は玉持ちの酒井雪子(名前は島田警部補が教えてくれた)だけだったらしい。彼女は四番が息を引き取ったことがわかると錯乱状態になった。今はまだパトカーの中で安静をとっている。そういうわけで、他のメンバーはトラックの脇でめいめいに普段着に着替えている。その様子をぼんやり眺めていた本多が「あっ」と声を上げた。ちょうど衣装を脱いだ龍衆のひとりが頭にバンダナを巻こうとしているところだった。

 本多はそのまま島田警部補へと駆け寄った。なにやら真剣に話しかけている。それから本多は、青年団をねぎらっていた初老の男を手招きして、いっしょに島田警部補に説明していた。島田警部補は最初は浮かぬ顔で聞いていたが、初老の男がうなずくと「わかりました」と口を動かしたようだった。本多が一礼して戻ってきた。
「さ、済んだ。帰ろう」

「それで犯人は誰だったの」
 杏子は本多と長崎駅に向かって歩きだすとすぐに尋ねた。さっき島田警部補がうなずいたのは、本多の推理に同意したからだろうと思われたからだ。
「わかってみれば犯人は簡単さ。あれだけの深さの傷を負わせるには、両手を使う必要があるだろうというのがまず第一の出発点。まわりにあれだけの視線があるから、龍踊りの人間を刺すにはやはり同じ龍踊りの中に入っていなければいけないというのが第二点め。このふたつの条件を満たすのはひとりしかいない」
「え? だって龍踊りの持ち手の人たちは両手を使って支え棒を持っているのよ。それがどうやったらナイフを両手で持てるの? 支え棒から手を離したら、龍が不自然な動きをしてすぐに分かるわ」
「そうだね。ところが、龍踊りの中には不自然な動きをしても目立たないパートもあるんだ。思い出してみてほしいのだけど、事件が起きたのはいわゆる珠探しのところだろ。珠探しってどういう踊りだったか、水沢が説明してくれたじゃないか」
「あそこは龍踊りのクライマックスであるくぐり抜けのひとつ前で、とぐろを巻いた龍が自分の影になった宝珠を探し求める場面よ。龍踊りでは唯一、龍がじっとしているときだわ」
「人間の気の象徴である龍が、永遠の命を持つ宝珠を飲み込もうとひたすら追いかける。追いかけられた宝珠はトリックを使う。龍の体に隠れて龍を翻弄するわけだね。すると、龍からは宝珠が見えない。そして宝珠は単独の支え棒に付いている」
「あ」
 そうか。そういうことか。たしかにあの場面なら宝珠がちょっとくらい変な動きをしても外から見ている分にはとくに違和感はないだろう。でも。
「宝珠を持った彼女は龍のとぐろの外にいたわ。あそこからは両手でナイフをつかんでも届かないし、第一、彼女がそんな素振りをしたら、それこそ外から分かるでしょう」
「うん。そのとおりだ。そこが壁だった。それにそのあとの主婦の殺傷もある。もしあれも彼女の仕業だと考えようとするとムリがある。彼女はあの後JR線のほうへは一歩も近づいていない。むしろ、くぐり抜けが始まったときは反対側の駐車場の方へと宝珠を移動させているからね」
「それなら、ムリじゃない」
「ところがそうでもないんだ。これを見てくれ」
 そう言うと本多はポケットからなにやら取り出した。指でつまんで見せてくれる。
「輪ゴム?」
 本多はそうだと頷くと、今度は上着のポケットからボールペンを取り出した。
「このボールペンは無くしたくないんだ。だからちゃんと見ていてくれよ」
 そう言うと、輪ゴムを左手の親指と人差し指にかけて、その中央にボールペンの底をあてがった。その輪ゴムとボールペンを右手の親指と人差し指でつまみ自分の方へと引き寄せる。ボールペンの先は左手親指と人差し指の間の渡りのところに触れているから方向はそこで定めているようだ。小さい頃に近所の悪ガキどもが遊んでいたゴム鉄砲になんとなく似ている。
「行くよ」
 左手を伸ばしきって本多はそう言うと、右手をぱっと離した。ボールペンはふたりの前方へロケットのように飛び、五メートルくらい先の舗道に転がった。
「つまり、犯人はそうやってナイフをとばして主婦を狙ったと言いたいの。それはないんじゃない。JR線沿いの小道って、あの広場中央からは十メートルくらい離れていたのよ。そんなもので狙うなんて、非現実的だわ」
「ほんとに水沢は短絡的だなあ。そんなことは言ってないよ。最後まで話は聞くモンだろ」
 本多はいそいそとボールペンを拾い上げると胸ポケットにしまい込んだ。
「それじゃ、説明してよ。どういうことなの? そんな話を警察が信用したはずはないし」
「だから、さっきの四番をどうやって刺したのかという話だよ。犯人は宝珠の持ち手棒の手元にナイフを固定したんだ。そして、宝珠側を手に持って四番を刺した。持ち手棒は長さ二メートルくらい。とぐろを巻いた龍の四番を刺すのには充分な長さだ。しかも、両手で持って刺せるからあのくらいの深さの傷にはなったろう」
「それじゃ、この輪ゴムは犯人がナイフを持ち手棒に固定するのに使ったと」
「いや。こんな文具用の輪ゴムじゃ不十分だろうね。あれだけの刺し傷をつくるんだから、ナイフがずれないようにもっと強力なゴムを使ったと思うよ。それに犯人はタイミングをはかる必要もあった。ちょうどとぐろを巻いた龍頭がきょろきょろしているところだ。持ち手の龍衆は次にやってくるクライマックスのくぐり抜けのタイミングに備えて、おそらく龍頭を注視していた。誰も、宝珠の持ち手棒の所在なんて注意を払わない瞬間を待っていた」
「なるほど」
「ただ、犯人にとって大事なのはその次なんだ。刺したナイフを犯人は持ち手棒からすぐに外したと思う。しかし、そのまま持っているわけにはゆかない。じきに相手が苦しみだして、犯行が発覚してしまうからね。ほんとはナイフは被害者の体に刺さったままであってくれたほうがよかった。でもそんな細工はできなかったんだろうね。
それで犯人は凶器のナイフの処分に迫られる。さすがにそのまま地面に転がしておくというのは選択しなかった。そこでまたゴムを使うわけだ。今度は簡単さ。とにかく自分と関係ない方へ飛ばしてしまえばいい。駐車場側に移動してた犯人は、被害者が苦しみだして広場にいる人たちの関心が被害者に向かったその時、ナイフをゴムで飛ばした。もちろん、方向は自分がいた駐車場の反対側であるJR線の方向だった」
「えー。それじゃ、通りがかりの主婦が首を刺されたのは、事故だったというの? あっちは殺されたわけではないと」
「そう。玉持ちの女、酒井雪子は事件後ずいぶんと錯乱していた。それは四番が死んでしまったからと思われていたけど、本当は関係のない主婦を傷つけてしまったショックからだと考えると納得がゆく」
「でもさ。さっきの島田警部補の話だと、青年団の人たちは全員、身体検査したけどそれらしい変なものはぜんぜん出てこなかったって。そんなゴムがあったら警察は気づかない?」
 杏子がそう尋ねると本多はにやりとした。
「いちばん最初にぼくらが小袖町の龍衆が男女混合だって気づいたのはなぜだったか、思い出してみなよ」
「そりゃあ、最初に見たとき、玉持ちがポニーテールだったから。あ、まさか、そのポニーテール‥‥」
「ついでにもうひとつ思い出して欲しいんだけど。四番が倒れ込んだとき、彼女は髪を振り乱して泣いていた。ポニーテールの髪が宝珠を上下して踊るだけでほどけてばらばらになるとは思えないだろ」
「ポニーテールに結んでいたゴムひもを犯行の道具に使ったというわけね」
「さっき、パトカーに座っている彼女を見たら、ちゃんとポニーテールに戻っていたよ」
「でも、どうしてそこまで‥‥」
 四番に取りすがっていた酒井雪子を思い出しながら、思わずそうつぶやいていた。とても演技には思えなかったのだ。
「さきほどの初老の男の人、彼は小袖町の町長さんだったんだけど、彼が人間関係を教えてくれた。あの四番、鵜殿健司は実は酒井雪子と一度は結婚を約束したらしい。ところが、彼女に説明もなく急にこの町を出ていったきり戻らない。それで今年ふらっと舞い戻ってきたらもう結婚していて子供までできていたらしい。酒井雪子のほうはというと約束を信じてずっと待っていたんだな。本来の龍衆四番の男を今日来られないように仕組んだのも彼女らしい。電話をしてみると、酒井雪子に頼まれたという女から強引に映画に誘われたらしい。鵜殿健司を龍踊りの練習に誘ったのも彼女で、本来の四番が来なければ、龍踊り好きの鵜殿健司がきっとピンチヒッターを引き受けるだろうと彼女は読んでいた。そういうわけで計画的な犯行、かなり怖い話だな」
「女の執念は恐ろしいってよく分かったわけね」
「うん」
 本多がそう頷いたとき、もう長崎駅まであと僅かだった。ところがそこで本多の足が停まってしまった。

「どうしたの」
「大変だ。肝心の用事を済ませていない。長崎龍踊りをちゃんと見ていかないと叱られる」
 そう言うと本多は今にも回れ右をしそうだった。
「ちょっと待ってよ。もうあの広場では龍踊りはやらないわ。それよりもその話をよく聞かせてちょうだい。長崎生まれのわたしだったら、その女性の言いたいことを見つけられるかもしれないし」
「そう?」
 疑わしそうな本多の目を杏子はまっすぐに見つめ返してやった。こっちだってフリーライターでいちおう三年くらいメシを食っているのだ。長崎龍踊りのことなら任せてほしい。
「長崎龍踊りを見てこいと言われたのはどういういきさつなの? まずそこを教えてくれないとね」
 本多はちょっとだけ逡巡した。殺人事件はあれほどさっそうと推理してくれたのに、こっち関係は全然ダメらしい。
「実は年上の女性なんだけど、お付き合いを申し込んだんだ。ちょうど長崎に行く用事があるので、それから帰ってきたら返事が欲しいって言ったら」
 なんだなんだ。ずいぶんとやわい攻め方をしてるんだなあ。
「長崎に行くんだったら龍踊りを見てらっしゃいと」
「うん。それがわたしの答えだからとね」
「それで、長崎の龍踊りはちょっと変わっているっていうのも彼女の話なの」
「うん」
 ふーむ。杏子は考えた。ふつう、長崎の龍踊りというと、十月に行われる「長崎おくんち」で諏訪神社に奉納されるものを指すはずだ。100年以上の歴史をもつおくんち龍踊りは今では四つの踊り町が奉納している。ただし、あまり知られていないが、踊り町は七年に一回しかまわってこない。問題は本多の相手がどの年の龍踊りを見たのかということだった。
「ね、その女性が見た龍踊りってまさか一昨年のものじゃないよね」
「え? 龍踊りって毎年変わるのかい。それは初耳だなあ」
「輪番制になっているのよ。今年は籠町が踊り町で、ここはいちばん最初に龍踊りを奉納した由緒正しい町よ。龍は青龍のみで、正統派というかな」
「ふーん、それで一昨年はどうだったのさ」
「五嶋町が踊り町だったんだけど、ここは初めて龍踊りを奉納したの。それがちょっと問題といえば問題なんだなあ」
 言葉とは裏腹に、杏子はたぶん、これを本多の相手は見たのだろうと思い始めた。年下の男に交際を申し込まれて、かける謎としては、そしてそういう謎掛けをしたという気持ちを思うと、ほぼこれで決まりのような気がする。ただ問題はそれをそのままこの「こっち方面全ぜんぜんダメ」な男に伝えていいモノかということだった。
「なんだよ。気を持たせるなあ。ちゃんとはっきり言えよ。水沢らしくもない」
「そう、うーん」
 今度は杏子が唸る番だった。一昨年の龍踊り。それは杏子も実際に見に行った。恒例の青龍白龍の他に子龍も登場したのだ。つまりファミリー龍踊りだった。たしかにああいう龍踊りは世間にまだ広まってはいない。そういう意味では「長崎龍踊りはちょっと変わっている」というセリフは当たっているし、本多の相手の女性の謎掛けはきっとこうなのだろう。
「ごめん。私、所帯持ちなの」
 杏子は空を見上げ、地面を見、そして眉をひそめて返事を待つ本多を見た。

(終わり) 



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