青森ヒバは成木になるまでの間、とても不思議な時の過ごし方をする。前の年の秋に母樹から落ちた種は翌年春に芽を出す。スギやヒノキであれば、まっすぐ上を向いて成長が始まるわけだが、稚樹は芽吹いた後も薄暗い森の中でろくに成長せず、地表近くを這うようにして長い長い幼年期を過ごす。その期間は数十年から100年近くにも達し、周りの木が枯れたり伐採されたりして光が入るまで、じっと待ち続ける。青森ヒバの森では、そうした稚樹がまるで藪のように繁茂している姿がよく見かけられる。
普通の木であればそのような環境には耐えられずに枯れてしまう。しかし、青森ヒバはかえってその時間が長いほど、品質の良い魅力ある木に育つという。そしてひとたび光を得ると、この時期を待っていたかのようにすっくと立ち、上を目指してぐんぐんと伸び始める。人間でも下積みの期間が長く厳しいほど、精神的に成長し、大きな成功を収めるという。(赤堀楠雄) ⇒「木のこころ」の青森ひば特集の掲載より抜粋