大阪府文化条例(仮称)骨子(案)に関する意見・提案
府において新しく文化条例を制定されること、府民の一人としてとても喜んでおります。
厳しい行財政改革が進められる状況にあって、
文化行政はややもすれば切り捨てられがちではありますが、
本条例の制定により、文化行政をきちっと進めていくための法的根拠が与えられるわけです。
文化振興を目的とする条例については、すでにいくつかの自治体で制定されていますが、
先行事例を十分に研究すると同時に、
今後、先導的な条例として他の自治体のモデルともなるよう期待しています。
また、何よりも大阪府がこの間積み重ねてきた文化行政に誇りと自負を持ちつつ、
この骨子案の前文に示されているように、府と府民が力を合わせ、
これからの大阪府の文化行政、さらにはより高次の意味での「文化政策」を展開する決意を示す
責任と信念を持って取り組んでいただくようお願いします。
*大阪府文化条例(仮称)骨子(案)に関する意見募集の結果について
2004/12/26 南河内 太郎
■文化に関わる府民や事業者の権利・義務について [基本理念]
単に宣言的な条例に留まるのではなく、憲法21条の生存権に依拠することを視野に置きながら
「文化を享受し創造する権利」(文化権)を明文化されたことは、
文化芸術振興基本法(H13)の趣旨にも添うものであり、
本条例の先進性を示すものとして評価したいと思います。
加えて、下記のような文化に関わる府民や事業者の権利・義務を明記してはどうでしょうか。
○ 文化立国を国是とする日本国憲法の精神に依拠すること
憲法自体のあり方について、いろいろ議論される昨今ですが・・・。
ちなみに、東京都文化振興条例では「民主的で文化的な国家を建設して世界の平和と人類の福祉に
貢献しようとする日本国憲法の精神にのっとり・・」の記載があります。(東京都文化振興条例)
○文化の内容について「行政不関与の原則」
他府県の条例では、下記のような規定が見受けられます。
・「表現の自由の保障」(苫小牧市民文化芸術振興条例)
・ 「条例の運用に当たって、文化の内容に介入し、または干渉することの
ないよう十分に留意しなければならない」(東京都文化振興条例)
・「市民の自主的な文化活動が損なわれることのないよう・・・」
(横須賀市文化振興条例)
○府民・事業者の責務として著作権(知的財産権)を尊重する視点
著作権は、文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、
文化の発展に寄与することを目的としているもので、そのル−ルを守ることは、
新しい芸術文化創造を進めるうえで大切なことです。
昨今の高度な情報通信技術の著しい発達によりコピ−文化が普及する中、
ややもすると軽視されがちな著作権をはじめとする知的財産権のル−ルを遵守することの大切さを
周知する意味から、その点を明記してはいかがでしょうか。
■行政の役割について [基本理念]
○府民が文化活動に積極的に参加できるようにするには、今回の骨子で縷々示されている条件整備に
努めることが必要ですが、
同時に、府民の生活・暮らしぶりそのものがゆとり・うるおい・やすらぎのあるものになるための条件整備が、
行政の役割として求められるのではないでしょうか。
[例] 雇用の安定、労働時間の短縮、快適な生活環境、福祉面での充実など
行政の守備範囲から考えると、この分野は直接的には文化行政とはいえないものの、
こうした文化行政以外の行政分野がしっかり取り組まれていなければ、笛吹けど踊らずで、
府民の文化活動への参加を望むことはできません。
その意味から、府民が「文化権」を行使しうるための前提条件、自治体の文化行政の前提条件ともいえる、
こうした府民の生活・暮らしぶりに関わる取り組みについて、自治体の役割として明記してはどうでしょうか。
■文化行政の範囲と文化関連施策・条例の再構築・体系化について
○ 文化条例の制定を機に、文化関連の既存施策・条例の関連付け・位置づけを明確にし、
<政策条例>をベ−スに文化施策を体系化する。
・府景観条例、府文化財保護条例等の再点検・改正
→「文化条例」との関連を新たに追記
*府景観条例 「大阪府環境基本条例の理念にのっとり・・・」
(景観法等の施行(H16.12)に伴い、同条例の見直しが必要になるのでは・・?)
*府文化財保護条例 「文化財保護法第九十八条第二項の規定に基づき、
法の規定による指定を受けた文化財以外の文化財で府の区域内に存するもののうち・・・」
・新大阪府生涯学習推進プランにもとづく現行施策の新たな位置づけ [後述]
・「文化振興基金」(条例設置)の位置づけ
→府基金条例との関連付け [財政上の措置で後述]
○行政施策全般に<文化の視点>の導入
かつて「行政の文化化」「文化費用1%システム」として提起されましたが、文化条例の制定を機に、
上記の政策条例をベ−スにした作業と併せて、行政分野の施策全般にわたって文化の視点を導入していくことの
必要性をあらためて明確化してはいかがでしょうか。
[例] 公共施設:地域の景観との調和、文化性を備えるよう設計、意匠等に配慮(東京都文化振興条例)
○「文化による観光及び地域間交流」の用語の使い方→「国際文化交流」?
この項(5−O)は、「文化芸術の国際的な交流と貢献の推進」あるいは
「地域からの世界への文化発信」などの意味合いとして受け止められ、世界平和への貢献にもつながる重要な視点です。
「観光及び地域間交流」という用語だけでは、そうした積極的な意味合いがやや伝わりにくいと思います。
国際都市・大阪にふさわしい<個性とグロ−バルスタンダ−ドとを併せ持つ文化の創造>という視点から、
より積極的な内容・スタンスを表せる書きぶりにしてはいかがでしょうか。
○生涯学習に関わる取り組みの位置づけ
生涯学習の機会と場の提供することは、文化を支える重要な活動です。
すでに大阪府では、新大阪府生涯学習推進プラン(H15)に基づき取り組みをすすめており、
とりわけ昨今、地域社会における図書館の役割などが重視されています。
文化振興の主要な分野の取り組みとして明記してはどうでしょうか。
→文化条例の趣旨を踏まえた、同プランの改定 (即ではなく時期を見て?)
○文化施設の体系的な整備 既存の公共施設の活用
行財政改革で新たな文化関連の箱物プロジェクトが頓挫する状況ですが、
より質の高い文化芸術の創造を促そうとするなら、今後とも、民間との連携・活用、
既存施設のリニュ−アル、グレ−ドアップも含め、施設面での取り組みが必要ではないでしょうか。
(現状に縛られることなく、あるべき姿を描くスタンスでの条例にしてほしい)
■財政上の措置について−「文化振興基金」の位置づけ
すでに条例設置されている「文化振興基金」について、今日のような低金利の経済状況では、
文化活動支援のための財源として十分な機能が発揮できないことは理解できますが、
文化への貢献という府民や事業者の高い志にもとづく浄財の受け皿として、不可欠です。
例えば「文化振興基金なども活用しながら・・・」などの表現で、
本条例と関連付けてはいかがでしょうか。
■文化施策の評価・点検の仕組みづくりについて
単に文化振興計画を作るだけではなく、計画に基づき施策を実施した後の評価・点検の仕組みを
つくることが重要です。その際、事務事業評価や施策評価など行政による自己評価・点検だけでなく
外部の有識者さらには、府民参加型の仕組み組み込むことが求められます。
今回の骨子では、大阪府文化会議や文化サポ−タ−などが、条例の制定を機に新たに設置されるようですが、
さらに文化施策の総合的な評価の仕組みを提案したいと思います。
○「大阪府文化芸術白書」(仮称)の公表と府議会への報告義務
府の施策の進捗状況はもとより、府民や事業者の文化活動や文化芸術関連の産業の動向など、
「大阪府文化芸術白書」(仮称)とでもいえるものにとりまとめ、公表することを条例に書き込んではいかがでしょうか。
併せて府議会に報告することを義務付けます。
*大阪府環境基本条例
第十条 知事は、毎年、府議会に、環境の状況並びに知事が豊かな環境の保全及び創造に関して講じた
施策に関する報告を提出しなければならない。
2
知事は、毎年、前項の報告に係る環境の状況を考慮して、豊かな環境の保全及び創造に関して
講じようとする施策を明らかにした文書を作成し、これを府議会に提出しなければならない。
(文化条例では、毎年でなく一定期間(3~5年程度)ごとでよいと思います)
以上、縷々書かせていただく中で、こうした大阪府の取り組み(関西の自治体では初)を、
政令市の大阪市はもとより、京都や奈良などとも連携し、
関西の自治体レベルの広域的な取り組みに発展させていければ・・・
などと思いをめぐらせています。
よりよい条例ができることを切に期待しています。
[参考文献]
○「文化政策の法的基盤−文化振興基本法と文化振興条例−」根木 昭/水曜社 2003