ややもすれば、文化よりも経済のほうが優先されがちな時代状況、都市風土のなかで、「文化振興アクションプログラム(案)」が取りまとめられたことに、大いに期待をしています。
読ませていただき、従来の狭い意味の文化だけでなく、街づくり、都市景観、さらには観光など、幅広い視点からアプロ−チされていることには、とても共感できます。
また、大阪の特性である「民主導」の視点も、理解できます。
しかし、将来の大都市大阪の文化行政を展望したとき、全体的にやや無難にまとめすぎておられるのではと感じました。
回復の兆しの見えない深刻な財政状況の中で、大きなことをぶち上げるよりも、地道な取り組みを積み上げていこうというところでしょうか。
とはいえ、ともすれば閉塞状態になりかねない大阪府政。やはり少しでも元気のでるプランであってほしいと思います。
いくつか、思いつきの提案も含めて、一府民としてパブリックコメントに参加させていただきます。
地域でささやかな合唱活動をしている府民
南河内 太郎
厳しい財政状況のなかで、「ハコモノ行政は終わった」ということで、文化関連の施設系も含め、これまで構想・計画されてきたプロジェクトが次々と見直され、現在ではすべて廃止されてしまいました。
では、“大阪の顔”ともなる中核的な文化施設は、現状でよいのでしょうか?
○ 大阪・関西、さらにはナショナルスケ−ルの「オペラハウス」の建設を!
音楽系のホ−ルは、民間の施設、さらには府内の市町村の文化ホ−ルも含めてかなり充実をしているとはいえ、オペラ専用のホ−ルはありません。
最近では、海外からのオペラ公演も、関西では、滋賀県のびわこホ−ルで止まり、大阪にまでやって来ない傾向がでてきています。
私立の大阪音楽大学のオペラハウスは、一般の利用が認められていません。
財政状況を考えれば、府立施設では難しいのはわかります。
そこで、府自らが莫大な資金を投入するのではなく、大阪市とも共同し、民間の力(財力)を最大限に生かすことによって、なんとか実現できないのでしょうか。
例えば大阪フェスティバルホ−ルの建て替えを、大阪市とともに働きかけ、中之島地区を経済再生ための「文化ゾ−ン特区」として、建築物の容積率の緩和などの手法を活用し、民間主導で、世界に誇れる音楽文化の殿堂ともいえる「大阪・関西版のオペラハウス」を、整備することは考えられないでしょうか。
実現の暁には、新しいオペラハウスの専属オ−ケストラとして、センチュリ−交響楽団を位置づけるなども考えれます。
また、文化振興財団などの事務所(音楽サロンなど)も移転し、オペラハウスの中に置き、総合的な音楽文化情報の発信拠点としての機能を持たせてはどうでしようか。
(今のさいかくホ−ルなどは、大阪市の区民ホ−ルなどの施設などと比べても、これが、大都市大阪府の文化ホ−ルというには、あまりにもお粗末としか言いようがありません。)
経済の再生だけでなく、文化振興にも、府、市、経済界の協力による成果を、カタチとして示すべきではないでしょうか。
○ 演劇系の文化施設でも、近鉄劇場や扇町スクウェアなども廃止されることになっています。新設の計画としては、来年オ−プン予定の阪神電鉄の第二期計画で、劇団四季の専用ホ−ルができるとのことですが、それだけでいいのでしょうか。
○幻の「産業技術史博物館構想」の実現を!
昨秋、台所に革命を起こした炊飯器や電子レンジ、インスタントラ−メンなど、記念碑的な工業製品や技術を一堂に集めた「産業技術資料情報ナショナルセンタ−」が、オ−プンしたそうです。しかし残念ながら、場所は東京だそうです。
かつて、大阪にも同趣旨の<産業技術史博物館構想>がありましたが、それもいつの間にか頓挫しています。
松下はもとより、家電製品の主要メ−カ−の出発は、大阪・関西。もちろん、紹介されているインスタントラ−メンも、大阪(池田市)からです。
「新しいビジネスは大阪・関西から!」と自負してもいいくらいです。
もともと産業技術史博物館の構想は、大阪万博公園内に建設するということだったと記憶しています。聞くところによると、なんと、収蔵物が2万点も集まっているとのこと。吹田市の万博公園、太陽の塔の裏手に、その収蔵庫(旧三越食堂)があるそうです。
しかし、これは、いわば死蔵され、残念ながら、一般の市民の眼には触れないままになっています。それがいまでは、それの保管すらままならない状況になっているとのことです。
ある学者の方が、「ものづくりミュージアム」というHPで、そういう状況を、嘆き、訴えておらますので、参考までにご紹介させていただきます。
http://www.hpmix.com/home/monomuse/
産業技術史博物館の候補地としては、中小企業の街・東大阪あたりに・・・というのも考えられますが、私としては、
・ あの大阪・万博の理念、エネルギ−をも飲み込んだものとして、当初の計画の
千里の地に実現できればと思いますし、
・ また府庁の創設の地であり、府立工業技術研究所の跡地でもある大阪市西区(阿波座)も、考えられます。
こんな構想が以前から、大阪・関西でありながら、なぜ、東京なのでしょうか。
国立の施設だから東京という安易な発想では、ますます東京一極集中がすすむばかり。
府立がだめなら、国の動きを事前に察知し、大阪・関西に誘致すべきではないでしょうか。頑張れ、大阪・関西!といいたいのです。
○ バ−チャル版「大阪なにわミュ−ジアム」(HP)の開設
幻といえば「なにわ大阪博物館構想」もあったように、記憶しています。
江戸東京博物館ができた頃、ぜひ大阪にもという声があがっていたと思います。
今では、大阪市の博物館ができたからそれでいいじゃないかということかも知れませんが、それでいいのでしょうか。
歴史の積み重なる大阪の都心・上町台地にオ−プンした大阪歴史博物館。大阪の歴史を辿り、大阪を知るうえで、待望されていた都市装置です。内外から大阪に来られた方をご案内するのにも、都心という利便性も高く格好の施設だと思います。
建設に当たっては、難波宮遺跡の文化財保存にも充分配慮し、むしろ開発と保全とを両立させ、展示施設として取り込んでいるところなどは注目されるところです。
また、高層階から眺望できる大阪城を中心とした都心の景観からは、過去と現代との共生を体感することができます。まさしく<大阪・時空の旅>です。
規模、展示コンセプト、機能、いずれをみても、東京の江戸博物館ともそれなりに肩を並べられるものだと思います。
しかしながら、館内の売り物でもある<おおさかミュ−ジアムガイド>をみて、愕然としました。他の博物館や文化施設とパソコンでネットワ−ク(リンク)しているのですが、
大阪市内の施設しか紹介されていないのです。文字どおり「大大阪」というなら、国立の民博をはじめ、府立の近つ飛鳥、弥生博物館など府内のミュ−ジアムとのネットワ−クを構想するなど、裾野を広げていただきたいものです。
大阪府として、新たに歴史博物館を構想する必要はないとは思いますが、大阪市はもとより、企業ミュ−ジアムを運営している府内の企業とも連携し、例えば、インタ−ネットを活用したバ−チャル版「大阪なにわミュ−ジアム」を立ちあげてはいかがでしょうか。
大阪の文化的な知名度を高める観点から
○大阪の文化遺産を、ユネスコ登録の世界遺産に!
先日、 関西経済同友会が、関西の観光振興をはかる目的で、
「大阪城を世界遺産に!」という提言を行ったという記事が目にとまりました。
大阪城の天守閣と城郭や、世界最古級の難波宮を一体として、世界遺産の登録を働きかけようとするものです。
今、日本の世界遺産としての登録は、11件。関西でみれば、すでに京都、奈良、滋賀の 仏教建築や文化財が登録されています。すでに和歌山でも、高野山の登録に向け動いています。今のところ、大阪府だけが、登録の動きや見通しがありません。
世界遺産の候補施設として、大阪府内には、関西経済同友会が提言されている大阪城のほかに、仁徳御陵(堺)や応神御陵(羽曳野)などの一大古墳群なども、世界に誇れるものだと思います。
今回の関西経済同友会の提言を契機に、大阪府としても、実現に向けて積極的に対応されてはいかがでしょうか。
文化を担う専門的な人材育成を図る観点から
○大阪府立大学に「文化政策」の専門学部・学科の設置
府の廃止になったプロジェクトに、府立芸術系大学があります。すでに、近隣府県も含め、私立・公立の芸術系の大学があり、府として、別途設ける必要性があるかといえば、確かに、そうかなという思いです。
最近、文化政策やア−トマネ−ジメントなどの観点から、文化行政の専門性を備えた人材の育成を図る動きが顕著になり、近隣の一部の私立大学で、専門の学部などを創設するところが出てきています。
今、大阪府立大学と大阪女子大学との統合が進められていますが、その中で、文化政策や文化事業を担う専門性を備えた人材の育成という観点からの、学部・学科を設けては堂でしょうか。
また、都心部で大学院のサテライトを誘致する取り組みも進めておられますので、
その中でも、文化政策などの視点を取り入れて進めていただきたいと思います。
○若い楽団員育成のための「センチュリ−交響楽団・アカデミ−」(仮称)の設置
過日の新聞報道で見たのですが、欧州などでは、すでにいくつかのオ−ケストラが設けており、このほど、N響が日本で初めて設立すると紹介されていました。
この受講生に選ばれると、N響のリハ−サルや公演などに参加、コンサ−トマスタ−や首席奏者の指導を受けて楽団員としてのトレ−ニングを積むことができるそうです。
その背景には、音楽大学では、ソリストの育成に力を注ぐようになり、優秀なオ−ケストラ楽団員の確保が年々難しくなってきている状況があるとのことでした。
ややもすると優秀な若い音楽家が、首都圏に流出する中で、こうした取り組みにより、関西はもとより全国から、優秀な楽団員家を確保し、センチュリ−交響楽団の音楽水準の向上につなげていくことにもつながっていくのではないでしょうか。
文化産業の視点から
○文化を支える産業群の育成とインフフラストラクチャ−の集積
文化を支えていくには、広範な産業やインフラストラクチャ−、さらにはマンパワ−の集積が必要です。
ある学者の分類をもとに、私なりに整理してみると、大まかに次のようになります。
・ 生産:
作曲家、作詞家、著述家などの芸術家、演奏家、音楽・演劇の上演ホ−ル、
テレビ・ラジオ放送、練習場
・ インフフラストラクチャ−(生産の手段):
楽器製造メ−カ−・販売店、音響機器メ−カ−・販売店、印刷・製本、写譜、
写真・映像用の機器・設備や材料、ラジオ・テレビ・放送用の電子機器
・ 配給(複製等):
音楽レコ−ド・テ−プ、CD・DVD製作会社・販売店
新聞・雑誌・書籍・楽譜等の印刷・出版
・ 消費:
書店、文具店、楽譜・音楽書等の芸術専門書の販売店、プレイガイド(イベント情報、チケット販売)、図書館、ミュ−ジアム、ア−トギャラリ−
こうした文化産業的な視点から、文化振興の展開方策を考えることも重要ではないでしょうか。例えば、
→今後、大阪に必要な文化産業をどう支援するのか?
→文化振興の経済効果はどのくらいか? など。
大阪からのナショナルスタンダ−ドな文化情報の発信から
○在阪放送局や文化ホ−ルと連携し、またスポンサ−として民間企業の協力を得て、大阪発の文化イベントの番組を全国向けに放送する。
例えば、大阪NHKホ−ルやシンフォニ−ホ−ル(朝日放送)などを舞台に、センチュリ−交響楽団の演奏会や創作オペラの演奏会などを放映する。
以上、思いつくままの雑駁な提案を書かせていただきました。
お取り扱いのほど、よろしくお願いします。