混声合唱組曲「心の四季」
作詞:吉野弘 作曲:田三郎
この曲は、とんだばやし混声合唱団にとって第一回定期演奏会に次いでの再演であり、
田作品としては、第五回定演での「水のいのち」と合わせて2曲目となる。
今回合唱団の新たなスタ−トに際し、初心に立ち帰ろうという思いから再び取り上げた。
曲については、楽譜に記されている演奏上の注意をはじめ、
随筆集「ひたすらないのち」(カワイ出版)に作曲者自らが語っておられるので、
それらにすべて委ねさせていただく。
作曲家田三郎(1913~2000)が他界されて早や4年近くになる。
現常任指揮者の貞松道人先生は、かつて氏から直接ご指導を受けておられ、
時折、私たちの練習の中で、氏の在りし日の一端を紹介いただける。
日本語のイントネ−ションや意味合いを大切にした
音楽表現にこだわり続けておられたこと。
演奏する度に楽譜に自ら手を加えられ、
出版楽譜の増刷の際、必ずどこかに変更があったこと。
そして何よりも練習が厳しかったこと。
「バカヤロ−!お前たちどんな気持ちで歌ってるんだ。
作曲家は自分の髪の毛の黒を抜いて、
それをペンにつけ一音一音丁寧に音を選んで書いている。
八分休符一つもゆるがせにしていない。
一つ一つの音に命をかけているんだ。
そのつもりで歌ってくれ!」
氏の選ばれる詩には、奥深い作品が多い。
「水のいのち」の高野喜久雄と同様、吉野弘の詩もそうである。
今回この曲を歌う中で、心に最も響く言葉
“見えない時間に磨かれている”
氏にとって年を取ることは、決して衰えを意味しない。
むしろ降る雪のごとく年を積み重ねることによって、
自らが磨かれていくと受け止めておられたように思う。
「心の四季」は氏54歳の時の作品(初演1967)である。
「水のいのち」とともに、氏の作品群への入門曲だという人もいる。
この曲を歌うと、氏の魂の原点とでもいえるものに
触れるような気がするのは私一人ではないだろう。
声楽分野に限っても、
初期の頃の歌曲に始まり、
晩年の“聖書による合唱3部作”に至る旺盛な創作活動と、
氏自ら指揮者として命ある限り続けられた演奏活動。
その多くは貴重な音として残されており、今なお私たちが耳にすることができる。
また熱心なクリスチャンであった氏は、
日本語の歌詞による典礼聖歌を数多く作曲し、
自らの指揮・指導を通じその普及にも力を注がれた。
その合間に時々の思いを自らの言葉として書き綴られた数々の手記・・・。
氏の連綿と続く創作の軌跡をたどり、膨大な作品群を概括することなど、
もとより私たちの手に負えるものではない。
ただ、一つの作品を仲間とともに歌い、その片鱗に触れるだけで、
氏の確かな<魂の証>を感じずにはいられない。
氏への私たちなりのささやかな哀悼の意を込めた今回の再演が、
ここ大阪・南河内の地に、氏の魂を受け継ぐ新しい種を蒔くことにつながればと、
そして私たちの合唱活動の原点を見つめ直す契機にもなればと願っている。
(2004.7 記)