混声合唱組曲「おおさか風土記」

                    作詞 島田陽子  作曲 岩河三郎

 

作曲家岩河三郎氏の合唱作品には、民謡などを素材に地域をテ−マにした合唱曲が

いくつかあり、これもその一つ。とんだばやし混声合唱団にとっては、

「富山に伝わる三つの民謡」に続いて、二つ目の岩河作品である。

オ−ケストラのようなスケ−ルの大きいピアノ伴奏をベ−スにした

<岩河節>ともいえる独特の音楽語法が、この曲でもとられている。

大阪の街のど真ん中から、

突然、あの“紋弥爺さん”が現れてくるのではと紛うような、

「富山」との共通性を感じるのも、わたし一人ではなかろう。

大阪弁本来のイントネ−ションとは、ややそぐわないところも散見されるが、

各曲に、大阪の詩人・島田陽子さんの「大阪ことばあそびうた」が挿入されており、

大阪、大阪弁の情緒をうまく伝えている。

 

この歌を通して、わが街・大阪の昨日、今日、そして明日に、

しばし思いを馳せてみたいと思う。

この南河内の地から・・・。      (1996年作/混声)

 

T.ほんまにほんま

  大阪で生まれて育った人/大阪に越してきて暮らしている人

私の場合は、後者である。

兵庫県の但馬・村岡で生まれて、幼い頃に父親の仕事の関係から、

家族そろって大阪に移り住むことになった。

学生時代、京都で暮らしながら、

中学・高校は西宮へ、大学は京都に通っていたが、

就職で再び、単身で大阪に越してきた。

その後、暮らしの場は、北摂・吹田、北河内・寝屋川、

そして南河内・富田林へと今日に至っている。

そんなことから、私の体には、

但馬地域の方言も含めて、

関西のいくつかの言葉が沁みついている。

 

へんなまち  はるのまち

大阪ことばは ええことば ほんまにほんま

 

U.かわり橋

  「水の都」「八百八橋」といわれた大阪が、高度経済成長とともに、大きく変貌する。

川が埋め立てられ、その上を高速道路が走り、その沿道には高層ビルが林立する。

 

  「涼しさに 四ツ橋四つ わたりけり」

江戸時代の商人・小西来三が詠んだといわれる句である。

その小さな句碑が、大阪都心の交差点のグリ−ンベルトの一角に立っている。

大阪の街の変貌振りが、ありありとうかがえる。

 

  今、南河内に住まいする私たちにとっては、

この地域一帯を流れ大和川に合流する石川が、母なる川となるのでしょうか。

  いつの日か、大阪の街に、

人々の心を潤す川面が、再生することを願いつつ、歌いたいと思う。

 

 *淀川の歴史

 

V.食いだおれ

  京都の着倒れ、堺の建て倒れ、神戸の履き倒れ

  なんといっても、大阪は食い倒れの街、「食文化」発信の地。

たこやき、お好み焼き、きつねうどん、インスタントラ−メン・・・

大阪の味こそ、庶民の味だといえよう。

 

「メリケン粉といて、タコきざんで、 桜エビやら天カスやらいれて

 自分で焼くのん楽しみでした。」

小学生の頃、大阪の都心(福島区)で暮らしていた私にも、

そんな懐かしい思い出がある。

その頃、どういうわけか、

お好み焼きのことを、「ヨウショク(洋食?)」といっていた。

学校から帰ると、「ヨウショク、食べに行こう!」と、友だちを誘って、

近くのお好み焼き屋さんに食べに行っていたのを思い出す。

 

W.ねさせうた

  ♪ ねんねころいち 天満の市で

    だいこそろえて 船に積む

 

 今は知ってる人も少のうなった大阪の子守唄

 でも私には、とても懐かしい旋律だ。

というのも、大学に入って初めて合唱をやりだした頃、

「日本民謡による12のインベンション」(間宮芳生作曲)の一曲として、

歌ったことがある。

 その頃は、恥ずかしながら、「だいこ=大根」と知らずに、

「でんでん太鼓(たいこ)」がなまったぐらいにしか理解せずに、

歌っていたようだ。

(歌詞を見れば、すぐにわかるのだが・・・)

 

 今、天満市場跡(中央区)には、

幼な子をおんぶして子守りをする娘さんの像とともに、

子守唄の碑が立っている。

 「ねんねんよ ねんねんよ」の静かなメロディ−にのせて、

ねんのまち・大阪の心とでもいえる<やさしさ>を、

伝えることができればと思っている。

 

X.なにわの祭り

  ♪ 商売繁盛で笹もってこい 〜

大阪のお正月は、商売繁盛を願うえべっさん(十日戎)から。

 それが終わると、梅雨を吹き飛ばすように、場面は一転して、

祭り囃子で賑わう大阪の夏へ。 

  ・愛染祭(6/30〜7/2) 

   他のお祭に比べるとやや馴染みが薄いが、大阪夏祭りのトップを切って、

艶やかな浴衣姿の娘さんたちが、宝恵駕籠に乗ってパレ−ドをする。

天神祭(7/24〜25)

陸渡御から始まり船のパレ−ド船渡御へ。夜空を飾る打ち上げ花火。

まさしく水の都の火と水との祭典。

住吉祭(7/30〜8/1)

この組曲では、太鼓橋(反橋)が登場する住吉さん。

「おはらい」とも呼ばれるこのお祭では、

茅の輪くぐりの儀式が行われ、大阪・夏の三大祭のラストを締めくくる。

 

 毎年、天神祭・船渡御には、

夏の川面に映るかがり火やちょうちんの明かり、かねや太鼓の音に誘われるように、

 多くの見物人(約90万人)がくりだす。

 打ち上げられた約1500発の奉納花火が夜空を彩る。

 今年からは、地元の商店街の肝いりで、ギャルみこしに加えて、

花娘」も登場するそうだ。新名物になるかも・・・。

 

 たいしたもんや ほんまにほんまに ええもんや エ−イ! 

 

    日本三大祭:祇園祭(京都)/ねぶた祭(青森)/天神祭(大阪)。

 

<参考>

*詩人島田陽子さんの作品との出会いについて紹介されているHPです。

 「大阪の文学(近現代篇)」における大阪の食
大阪府立大手前高等学校 渡辺 廣之先生

ここでも、お好み焼きのことを「洋食」といっていたことが、紹介されています。

 

    「島田陽子詩集」 日本現代詩文庫62 土曜美術社出版販売

 

    「浪花百景」 「摂津名所図会」