ある初冬の日の夕暮れ時、某公民館の1室でこの特集の録音が行われた。当然その日は定例会、座談会参加者はTRPGをこよなく愛する濃い、もとい熱意溢れる面々である。まずはこの特集の企画者であるメルシュト冬号編集長の鎌形が席に陣取る。それに釣られるように、セッション後のだべりに興じていた高橋、飯塚篤、高安(美)、上総、平野が同じテーブルにつく。その周囲を小鹿、萩原、河内、高岡が興味深げに取り巻く。一同が準備できたのを確かめた鎌形がすかさずレコーダーのスイッチをONにする。
鎌形:この座談会の議題は、どうやってTRPGに人を引き込むか、題して「TRPGに引き 込め大作戦」です。それではぁ、レディ、ゴォォォ! 飯塚:やだなあ、なんか。 高安:(おもむろに)やっぱりリプレイ読んでもらうのがいちばん早くない? 高橋:うーん、具体例を見てもらう、ということだな。 鎌形:それでは、その「具体例」をどうぞ。 飯塚:えっと、まず、何となくそれっぽい人にそれっぽい話をして……。 高安:それって全然判らないよ(笑)。説明になってなーい! 飯塚:じゃ、ファンタジー小説を読んでる人とか、そんな人に「ドラ○エとかのゲーム やってる?」って話から、徐々に徐々に引き込んでいく……て、まるで宗教の 勧誘のようだぁ!(笑) 高橋:俺もずっとそうだったな(一同頷く)。 高安:うん、それはある。 高橋:うちらが始めた頃は、まだTPRGという言葉が全然定着していなかった頃だった から、まずその説明から始めたんだな。 飯塚:ええ、うちらまだ素人でしたよ。 高橋:だから、とりあえずルールブックとかシステム買ってきて、いきなりマスター やる羽目になって、その時はTRPGってもの自体が判ってなくて、システムは単 なるボードゲームだと思ってたから、どんな風にゲーム進行したらいいか判らな かった訳よ。 高安:それもいいかも(笑)。 飯塚:俺らの頃はリプレイとかありましたよ。 高橋:あればいいけど、うちらの頃は殆どその関係の雑誌がなかったから。唯一の情報 源は『コンプティーク』の「ロードス島戦記」だった訳よ。しかも第1部(笑)。 高安:へぇ、古いなあ。それってD&D版? 上総:あー、最初って、そういうものだろうなあ。 鎌形:その点では、今は楽ですね。 上総:楽といえば楽だけど、今はコンピュータのRPGが定着しちゃってるから、逆に先入 観がついてしまうね。 高橋:今はベースがあるよ。ゲームはやったことなくても、小説とか漫画でそれに近い ものを読んだことはあるとかね。 高安:ファミコンとかのコンシューマRPGは、みんな手を出してるしね。 上総:もしくはコンピュータRPGからTRPGのシステムになった「イース」とか「ウィザー ドリィ」とか、そういうのがあるから、それなら元のゲームをやったことが あるんなら、結構簡単に入ってこれるんじゃないかな。 高橋:もっと前は、コンピュータRPGと云ったら「ザナドゥ」だった(笑)。 飯塚:それ話が違う。議題からずれてる!(一同爆笑)
鎌形:いつのまにかRPGの曙の話になってますよぉ(笑)。話を戻しましょう。 高橋:いやあ、うちらはね、あのころは地道に「布教活動」してたね(平野に同意を 求める)。 飯塚:雑誌とかに広告だしたんですか? 高橋:そのころはそういう本がなかった。雑誌とかがなかったから、結局中学の頃とか は、うちらは友達だけで遊んでたな。 飯塚:なるほど。それが一番ですね。 高橋:高校に上がってからはどうだったかな。俺は、宮田のおかげでアニメ研究会とか に「布教」する事ができたから、そっち方面でずいぶん集まったけど。 飯塚:俺もそれで布教した。 高橋:言葉は悪いんだけど、いわゆるマニアックな部活に顔を出して、それで言葉巧み に騙して集めたんだよ(笑)。 高安:「だます」って、その言い方はちょっと……(笑)。 上総:俺なんかの場合は、中学の時からゲームとかやってる友達に、「TRPGってものが あるけど人数足りないからやんない?」って声かけて、俺はその時成りゆきで 女性役やる羽目になっちゃって……。 高橋:いきなり女の人の役?(笑) 上総:そう。始めてでいきなり女の人でゲームが始まった(笑)。しかも「ロードス」 でナイト!何なんでしょう(苦笑)。しかもマジックアイテムかなんか持って 主人公ばりの活躍しちゃって(一同爆笑、及び拍手)。
高橋:そういえば、俺は女の人を引き込むのが夢だったね、中学3年間。 高安:(意外そうに)えぇーっ!? 高橋:だって、そもそもそういうものをやる土壌がなかったから、女の人は。 高安:いまではその差はなくなってきたでしょう?逆になってきたかも。 高橋:どうだろ。少なくともあの頃は、「タクティクス」とか「ウォーロック」とか で、女の子をいかにしてTRPGに引き込むかで特集が組まれてたし。 飯塚:濃いなあ(笑)。 高安:判るけど。あの頃はゲーマーの印象が悪かった。 高橋:そりゃ、シミュレーションゲーマーがそのまま来てたから(笑)。 上総:当時はね。 高安:いまはマシになったけど、少し前まではかなり偏見があったと思うなぁ。 上総:俗に云う「マンチキン」? 飯塚:いや、そーいう「マンチキン」とかじゃなくて……。 高安:TRPGとか、そういう遊びは一箇所に固まるとか、そんな暗いイメージがあって、 こっちが人を引き込むときになると、自分たちの姿を客観的に見て、少しヤだ なあとか、異常だなと。 高橋:言い切るなーっ(笑)。 上総:確かに、異常きわまりない(笑)。 高橋:でも、高安さんは最初は家で集まったのに入ったから、その異常な光景を見て から入った訳でしょう? 高安:見てからじゃなくて、その時プレイヤーとして参加してた。 飯塚:様子も見ずにいきなりかあーっ!(笑) 高安:その前に、うちの姉がGMで別にやってたから知識としてはあったし。それは いいとして、あとになって自分がテーブルトークやってるから後輩に広めたら、 アニ研に放課後行ってみたとき異常なのよ、あれは。 飯塚:んー、一時みんな狂ったようにキャラクター創ってたなぁ。50枚あったキャラ クターシートがなくなっちゃったことがありましたよ。 高橋:お前のせいだろ、あれは。 飯塚:いやぁ。一時小谷と俺でドコドココピーして、しかもそれをどんどん置いてっ たんですよ。みんな狂ったように書いてた。 高安:それが奥のほうで書いてるならいいけど、入り口側で書いてるんだもん。端から 見て仰け反るから、ヤだ! 飯塚:だってアニ研は基本的に絵を描いてるから、まだ大したことないと思うぜ。それ よりも、男がたむろして遊んでるって、それだけでイメージが重苦しくなる。 高橋:そりゃ、悪くなるな。 高安:全部男だった時点で、雰囲気がかなり異様になるかな。 高橋:昔は全部男だったよ。知らない間に女の人が増えたよな。 高安:他のサークルに行ってもわりと少ないよね。 上総:はっきり云って少ない。片手で数えられても多いと云える。 高橋:コンベンションなんかでは、女の子は全然いないよ。 高安:行ったほうがいいって知り合いには奨めてるんだけど、男ばっかりで怖いってね。 飯塚:ひとりで行ける女がいたら凄い。 高橋:そこら辺は小鹿さんに訊いたほうがいいんじゃないのかな?えっと、コンベン ションにひとりで行ける勇気は何処から湧いて来るんでしょうか、っていう ことで。 小鹿:えっ?あたしはひとりで行かないから。 高橋:あっ、そうなの? 小鹿:最初行ったときは、女の人が全然いなくて、すっごく怖かった。 高安:そうですね。前にコンベンションに行ったとき、テーブルがくじ引きで決まった ときなんか、特別扱いみたいなところがあったから、あれは気持ち悪い! 飯塚:それ、千葉のあれか?あー、うんうん。 高安:そう。多少、そう思った。 高橋:具体名は出すなよー(笑)。 高安:伏せ字だぞ、伏せ字ー(笑)。 鎌形:大丈夫、名前は出てません。 飯塚:でも、あれはもうなくなっちゃったらしいけど。まあ、いいや。
小鹿:そういえばあたしの場合、アニメとか全然知らないで入ってるから……。 高橋:ちょっと待て!テーブルトークとアニメって、同類項なワケ? 飯塚:そりゃ、やっぱり。いつも俺とかはネタにバリバリ使ってるから。 上総:はっきり云って、同類項です。 高橋:いや、もともとベースは違うんだけどねぇ。 上総:日本では混ざってますね。 高橋:要するに、手を出す人が同じだった訳だな。 上総:そうですね。私もそうでしたし。 飯塚:コミケとかに関わる人も多いしなー。 鎌形:俺としては、TRPGってのはこたつに座ってみんなでワイワイ騒ぐような、人生 ゲームみたいなイメージが最初ありましたが。 高橋:俺もそうだった。 高安:私はそういうのじゃないけどね。こないだ聞いたら怖い人がいてさ、テーブル トークの説明が曲がって伝わったんだと思うけど、アミダくじやると思ってた のって(一同爆笑)。 飯塚:何じゃそりゃーっ(笑)。 高安:アミダくじで次の行動を決めるとか聞いた瞬間に、何だろうと思った(笑)。 高橋:どっからアミダくじが出てきたんだろう? 高安:さぁ? 上総:それは、シナリオの時に選択に困ってアミダくじを使ったってことじゃないん ですか? 高橋:それはあり得るね。 上総:こたつと云えば、まあ、中学校の時は座卓で、狭い中みんな座ってやってた から、こたつでもやったな。 高橋:俺ら、お寺のお堂でもやってたよな(平野に同意を求める)。
鎌形:そろそろシメに入りたいのですが。うーん。まあ、ともかく、引き込むなら 「波長」の合う人を見つけないといけない、と。 一同:それが一番だね。 高橋:というか、濃い人……こういう話をしてて怖がらない人だね。普段話してて 判るんじゃないかな。 高安:でも怖いよ。あの、ここではないけどさ、やっぱりコンベンションに行くと、顔 見知りがいるらしくて、そこで訳の判らないゲームの話っていうのを、世界を 造ってるから。 飯塚:内輪の世界造られちまうと、誰も入れないわな。 高安:内輪じゃないらしいんだけど、いまで云うなら「マジック:ザ・ギャザリング」? あの辺りの話でどんどん盛りあがっちゃって、知らないとはじかれるっていう のが厭だ。 鎌形:あー、なるほど、確かに。カードゲームが始まってしまうと、入れない人が出て くるから。 高橋:それは難しい問題だよなあ。何処のサークルでも一緒でしょう。だからそれは 「自分たちの世界を造りたいバリアーっ!」ってのを発してて、最初っから 仲間に引き入れようっていう思想がないわけでしょう?で、ハナから土台が違う わけだから、それは話にならないよ。だって仲間に引き入れようと思ったら話は するでしょ。こういうものなんだよって。
鎌形:話は変わりますが、仲間に引き入れやすいタイプの人ってどうなのかが思い 浮かんだんですけど。 高橋:自分のこと? 鎌形:そうですねぇ(笑)。育成シミュレーションとかで能力の数値を処理するのが 好きな人とか。 飯塚:それって、「マンチキン」になりそーな……。 高橋:「マンチキン」?うーん、初期の「ローズ・トゥ・ロード」やってた人は「マン チキン」だったよ。 鎌形:すいません、俺「マンチキン」の意味がよく判ってないんですけど。 飯塚:「マンチキン」というのは、ルールの盲点をついて、重箱の隅をつつくように ゲームをする人。 高橋:そう。んで、自分のキャラクターを際限なく強くしていく連中のこと。 鎌形:あっ、要するに恋愛系TRPGでいきなり北海道行って、ひとりで熊倒しちゃう人の ことですか? 一同:それは「マンチキン」じゃなーいっ!(爆笑) 上総:それは単なるパワープレイでしょう。 高橋:いや、それは単なる自己満足(笑)。 飯塚:いわゆる脱線。 鎌形:底抜け脱線ゲーム! 高橋:そーじゃなくて(笑)。 説明しなくてはなるまい。恋愛系TRPGで熊云々というのは、ミッドガルドで現在作成 しているオリジナルTRPGのテストプレイで、キャラクターのひとりが本来の目的(女の 子とのハッピーエンド)から逸脱して自己鍛錬に走り、ついには武者修行として雪山 籠もりを敢行し、その結果熊を素手で倒すまでになったことを指している。 上総:「マンチキン」て云うのは、例えば「ギア・アンティーク」で反射を50まで 上げるとか。 飯塚:あれは反射を50まで上げると、実は最強ですよ。HP高くなるわ戦闘で先手を 取れるわ、命中は高くなるわ。 上総:銃弾にしても、やろうと思えばチェックでかわせるし。 高橋:それがヤだから能力数値の割り振りやらなかったんだろ?[註:この日の セッションは、飯塚篤がGMの「ギア・アンティーク」だった]って、おい!議題 からずれてるぞーっ。 高安:何の話だったっけ? 鎌形:しまった、しまった。「TRPGに引き込め大作戦」です。 高橋:とりあえず、今までのは実例だから、それでは具体的にはどうしたらよいか。 高安:やっぱり、いちばん楽だったのは、小説とかになってるシステムを買ってきて、 その小説を読ませておいてから、それのゲームがあるんだよって切り出すこと。 飯塚:やっぱり、自分が小説のキャラクターになれるのが面白いかな。 高安:興味を惹けるから、1回やってみようかなって雰囲気は出る。もしくはキャラ クターシートだけでも創ってみない?ということで、1回でもTRPGやったことが あると、何となく興味を示してくれるから……。 飯塚:やっぱり自分のキャラクターを創るというのは面白いと思いますね。少なくとも アニ研では、創るだけで物語り創っちゃう人もいるから。 高橋:創ることに喜びを見いだす人たちだと、例えばアニ研の人たちは結構創造的な人 たちだったでしょ、それでいいけど、それに喜びが見いだせない人もいるん だから。プレロールドが大好きとか、キャラクターメイキングはいらない、 ゲームを楽しみたいんだって人たちが。 鎌形:まあ、とにかく、TRPGっていうのは、創られたシナリオに沿う楽しみ方もある し、ゲームの自由度を楽しむっていうのもありますね。 高橋:そう、人によっていろいろな楽しみ方がね。そういうメイキングに楽しみを見い だすとか、サイコロ振るのが楽しいとか、みんなと雑談を楽しむとか、世界観を 楽しむとか。 上総:まあ、極論としては、ルールの盲点を突くのが楽しいってのもある。 高橋:純粋にゲームを楽しむってのもあるよ。 鎌形:何にしても、楽しみ方は十人十色と。 高橋:とにかく、楽しみ方が十人十色というところがTRPGにあるから、引き込みたい 人のタイプを見極めて、合った引き込み方をする、ということだね。 鎌形:今日はここまでですね。次回があったらもっと考えてみましょう。
とりあえず、全体的な結論としましては、「波長の合いそうな人に声をかけ、その人の好みに合わせた話から引き込む」ということになりました。
まあ考えてみると一般的な結論ですが、何にしてもこんな楽しいことは我々だけで独占できないので、どんどん多くの人に広めていけるように、いろいろな人のタイプに合わせたシステムや本が出るといいと思うんですけどね。
頭を空っぽにしてもTRPGは楽しめますが、本来は知的な遊びです。ですから、もっとプレイヤー人口が増えて、高尚な遊びとして世間から認知されれば有り難いのですが。
いろいろな人が寄り集まって楽しめる。それが理想ですね。