JR九州10年車両のあゆみ

 JR九州が発足して10年が経過した。この間地域密着、お客様企業をスローガンに鉄道事業をはじめ、さまざまな事業に取り組んできた。 この中で鉄道車両のこの10年を振り返ってみたい。

 発足当初のJR九州の保有車両は、民営化直前に一部ローカル車両の新製はあったものの、その3分の1は経年20年以上、特急電車のリクライニングシートもわずかといった状態でスタートした。

 一方、周辺環境は九州の南北、東西を結ぶ高速道路整備が進んでおり(平成8年に全通)、JR九州の鉄道事業の大きな柱のひとつである主要都市間の輸送に大きな影響を与えることは必至の状況であった。

このような中で過去10回以上のダイヤ改正を行い、これに併せて新型車両の投入を行うことにより都市間及び主要都市圏の列車体系の整備を行ってきた。

 この結果、都市間、主要都市圏の列車の利便性も大幅に向上し、1日あたりの利用のお客様数も発足当初の68万人から86万人へと大きく増加させることができた。

 この一翼を担った車両について以下に紹介する。

1.783系特急電車(ハイパーサルーン)

 JR発足後初の特急電車として、昭和63年3月のダイヤ改正時より投入された。当初は「有明」に、その後「かもめ」、「にちりん」と運用範囲を広げていった。

 783系はそれまでの特急というには低いアコモなどのサービスレベルを引き上げるとともに、新車投入のインパクトやスピードアップ(最高速度130km/h、曲線通過速度本則+20km/h化)を目指して発足当初から開発に着手したものである。中央に扉を設けた特徴あるスタイルであるが、これにより単編成列車でも指定席/自由席、禁煙席/喫煙席等の組み合わせが可能である。開発当時は最新技術を集約、接客面でも随所に新発想を導入し、斬新な車両であったが、その後グレードの高い車両の投入が続いたため平成5年から7年にかけて他車両なみの水準にリニューアルを行った。

 その後他形式の投入に伴い現在では博多〜長崎間の「かもめ」と博多〜熊本間の「有明」に運用されている。

 また当時主力であった485系についても順次リクライニングシート化のリニューアルを実施しレベルアップをはかっている。

2.787系特急電車(つばめ型車両)

 博多〜西鹿児島間に新しい時間空間を提供する車両を開発し、平成4年夏に投入された。

これに伴い博多〜西鹿児島間の特急列車の性能が統一されたことに伴い、一部単線区間が残る線区で全体の平均到達時分の短縮を達成することができた。最高速度130km/hを前提に徹底的なアメニティの充実を追求することとした。お客様が心地よく過ごす空間の創出として、余裕あるレイアウト、徹底的なインテリアデザインの追求で、ともすれば鉄道車両につきまとう固定的なイメージとは異なる車両を創りあげた。

 この車両のもっとも大きな特徴として、サービスのファンダメンタルな部分への配慮がある。これまでにない腰掛けの幅、シートピッチの拡大とともに床構造を肉厚化する事によって、客室内の騒音を大幅に低下させ、落ち着いてインテリアデザインと相まってお客様に静かな空間、くつろげる空間を提供することができたことであろう。

 またグリーン車には個室やグループ席、普通車にもセミコンパート席を設け、多目的に使えるマルチスペース、「つばめレディ」のサービスによるビュッフェ設置等様々な目的、ニーズに対応できる設備をそなえた。トイレについても従来の概念を変更し、男性用と女性用に分け、構造も洗面所と一体化した。また従来の循環式汚物処理装置にかわり臭気対策に効果がある真空吸引式トイレを初めて採用し、その後の全国的展開の端緒となった。

 列車名についても鉄道の伝統ある「つばめ」の名称を使用し、現在では博多〜西鹿児島間の特急列車はすべてこの「つばめ」型車両を使用している。

3.883系特急電車(ソニック883)

 日豊線については鉄道整備基金や地元自治体の支援による高速化のプロジェクトが進められ、これにあわせてスピードアップをめざした新しい車両を開発することとした。

 883系車両は交流電車としては初めての振り子式車両でる。交流電車は床下等に交流特有の機器を搭載する必要があり、艤装上困難をきわめたがインバータ制御方式の採用、各種機器のコンパクト化により制御付き振子システムを導入することができた。

 また「つばめ」の次世代の車両としてアコモ面、サービス面のさらなる充実をはかり、あわせてスピードアップのための軽量化、低重心化を両立させるべく開発を行った。この結果性能面では曲線通過速度を従来の本則+20km/hから30km/hを越える速度域まで安定した走行性能を確保することができた。

 都市間を結ぶコミュータトレインとして振子車両の制約である車体幅の狭さを克服する腰掛けの居住性向上やガラスを多用し「つばめ」の落ち着いた雰囲気から、楽しく旅を楽しんでいただく工夫をした。

平成7年4月に博多〜大分間に4往復投入され、この3月のダイヤ改正から15往復と拡大し、列車名も従来の「にちりん」から「ソニック」と改称した。

4.811系近郊形電車

 平成元年春、北部九州の快速用車両として第1陣が投入された。3扉で転換クロスシートの採用でデータイムのアメニティの向上と通勤通学輸送を両立させた。性能面でもモータの出力アップと軽量化により快速列車の到達時分の短縮が可能となった。現在までに112両が投入されている。

5.813系近郊形電車

 811系の後継車として平成6年春より投入された。車体は811系を踏襲し主回路システムにVVVFインバータ制御方式を初めて採用した。811系は4両編成で製作されたが813系は今後の輸送の効率化、弾力化をめざし2〜3両編成とした。また運用途中での分割併合作業の効率化のため自動的に連結、解放可能な「自動ホロ」を開発し、分割、併合時分の短縮が可能となった。

6.気動車

 非電化線区の気動車の取り替え用として2形式を投入した。

 キハ200形気動車は「気動車のマイナーなイメージの払拭」をコンセプトにJR総研と共同開発した世界初の爪クラッチ式変速機と高出力エンジンを搭載し篠栗線の快速列車の大幅なスピードアップを実現した。その後指宿枕崎線、大村線、豊肥線に投入され各線区のイメージアップに寄与している。

 キハ125形気動車はワンマン線区用として平成5年春に投入された。18m車体のワンマン仕様の気動車で唐津線、久大線で運用されている。

 この10年間で半導体技術の急速な発展で制御方式も抵抗制御方式からサイリスタ位相制御、さらにVVVFインバータ制御方式と進歩をとげた。このなかで多くの異なる形式の車両を製作したが、一方では装備品、主要部品については共通化、標準化をはかり運行管理上、メンテナンス上の配慮も最大限行っている。


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