===============>>>>> JPEG GRAPHIC DATA DOCUMENT <<<<<================ 【タイトル 】: 密室エントロピー 【初 出 】: 2006年12月30日 【ファイル名】: ginb345.jpg & ginb345.htm 【使用ハード】: DOS/V(Celeron2.4GHz+1.5GB-RAM) + LiDE30 + UD608R ===================================================================== ※村電磁郎先生の街角科学教室。前回からちょっと「街角」っぽくなく なっているようですが。まあ先生の秘密基地も街のどこかにあるのでしょ う。きっと。 〜〜〜おはなし(抄録)〜〜〜
さあて、きょうの最初の教材は行き渡ったかな? これ何だと思う? ただの輪ゴムじゃないかって? そうだ。そのとおりだ。でも残念ながら本物じゃあない。戦争前には本物の生ゴムから作った黄金色の輪ゴムがけっこう出回ってたけど、近頃じゃこんなパチもんばっかりだ。って、君たちの年代だとこっちの黒いのしか見たことの無い人も多いかもしれない。まあ知ってる子は知ってると思うけど、これは古い自転車のチューブを輪切りにしたものだ。山吹色のお菓子………じゃない、山吹色の輪ゴムと違って伸びがいまいちだけど、まあそれなりには使えるわけだ。 では始めるぞ。※村電磁郎先生の恒例の科学教室だ。え? なんだって? いつもの「実験のおねえさん」はどうしたかって? あせるな。君たちには三分早い。まずはこっちで予習してからだ。 君たちが五円も出して買ってくれたこの輪ゴム。ちょっと引っ張ってみようか。ちゃんと伸びたかな? うむ。そうしたら、次は弛める。すると縮むね? 縮んだね? そんなのあたりまえじゃないかって? そう。あたりまえだ。でも考えてみると不思議だよね。たいていの物質は原子や分子が繋がってできている、ってことは学校でもう習ったと思うけど、そんなふうに「つぶつぶ」が繋がってできたものがどうして伸びたり縮んだりできるんだろう。きょうはそこのところを実験で少〜しだけ覗いてみよう。 まず、輪ゴムがこうやって伸び縮みする時に長さだけじゃなく温度もけっこう変わってることを知ってた子はいるかな? ふーん。ひとりふたり………まあそんなところかな。 じゃあそこから確認しよう。人の体で一番温度の変化に敏感なところはどこだろう? まあいろいろあるけど、実は唇がそのひとつなんだな。引き延ばした輪ゴムを唇にあてながら急に弛めてごらん。ほーら、わかったかな? じゃあ次は唇に当てたままその輪ゴムをぐいっと伸ばしてみよう。おお、みんな驚いた顔をしているようだねえ。そうだ。その驚きの気持ちを忘れないように。ではどうなったか聞いてみようか。 え? 弛めたときに唇が痛かったって? ああ、輪ゴムにヒビが入ってたのか。で、温度はどうだった? 痛くて温度なんかわかりません、だと?。うーむ、君は……君は却下だ! 「痛い」という特性に誰よりも最初に気づいたのは褒めてあげよう。でもそれで当初の目的を忘れてしまうのはいけない。エクストラの成果は基本を押さえた上でないと価値が減ることが多いからね。 じゃあ他の子! よし、君はどうだった? 弛めた時に冷たくなって引っ張ったら暖まったって? そうか。そう感じた人はどのくらいいるかな? うむ。ほとんどの子がそう感じたようだね。弛めるとき温度が下がり、引っ張ると上がる。そう。きょうのところはそれが正解だ。 引っ張ったり弛めたりするとなぜ輪ゴムの温度が変わるのか。さっそくその仕組みを大きな模型で見てみよう。やっといつもの実験のおねえさんの登場だ。きょうのおねえさんは君たちの目の前のこのコンクリートの小屋の中にいる。大きいだろう? だからおねえさんの姿はこの鉄格子の窓から覗き込まないと見えない。 さて、きょうも力持ちの子の手を貸してほしい。おねえさんが5人だから対抗するにはやはり5人はほしいな。よし、そのこきみと、きみ。あとさっき唇を挟まれたきみとそのあたりの子たち。小屋から出てるこのロープを力を合わせて引っ張るんだ。 みんなもう知ってると思うけど、固体や気体の温度というものは、そこにある分子や原子の振動の激しさを示している。そして君たちが引っ張ってるそのロープと小屋の中でそれに接続されているおねえさんたち、それがさっきの輪ゴムとその部品になっている原子や分子だ。ここで分子や原子のおねえさんたちにたくさん運動してもらう。それが「温度をあげる」ことになるわけだね。 じゃあ手の空いているきみ。この箱の中身を小屋の中に流し込んでくれないかな。こら! まだ蓋を開けるんじゃない。せっかく集めたゴキブリが無駄になるじゃないか。あ〜あ、漏れちゃった。もうそれ以上は漏らさずにちゃんと小屋に入れる………そう。 さあ、エネルギーを与えられたおねえさんたちが走り回り始める。するとどうなる? ロープを引いてる子たち、どうかな? 小屋の中にロープが引っ張りこまれる感じがしてきただろう? もうピン、と来た子はいるだろうけど、箱いっぱいのゴキブリでエネルギーを与えられたおねえさんたちがランダムに走り回ると、全体として「輪ゴム」は縮もうとするわけだ。さっきの本物の輪ゴムの時は長さを変えると熱エネルギーを吸ったり吐いたりする様子を観察したけど、それを大きなモデルで再現するのはちょっと難しい。そこで逆に、エネルギーを与えることが長さにどう影響するかを見てるわけだ。 さあて、もっと温度を上げてみようか。じゃあ次の子、そっちの中くらいの箱の中身を小屋に流し込むんだ。さっきはゴキブリ。こんどは2〜3日餌をやらずにそろそろ共食いを始めた元気盛りのハツカネズミたちだ。さあ、もう入ったかな? ようし。おねえさんたちのドタバタする音も聞こえてきたね。こっちのロープ引きの子たちは………おおっと、力持ち5人で引いてるのにみんな脂汗が出てきたぞ。がんばれよ。 よし、さらにエネルギー充填。次はその大きな箱だ。中身をけっして漏らさないように………けっこう危険だからね。さあて見てみようかぁ。ドブネズミエネルギー充填! するとどうなるか? おお、とうとうロープがズリズリと小屋の方に引きこまれ始めたぞ。おそるべし、おねえさん分子運動! 次の熱源はアオダイショウだ。それだけだとエネルギー順位が合わなくて温度が上がらないおねえさんも居そうだからほんの数匹だけど別の波長………本物のマムシも混ぜてある。ロープを引っ張る係もしっかり構えるんだぞ。さあ流し込め! よ〜しよ〜し。おねえさんたちが放出する熱赤外線………じゃない、悲鳴やドタバタの音もけっこう大きくなってきたね。 いよいよ最後の箱だ。じゃじゃーん、戦争中にヨーロッパで大活躍した軍用犬だぁ。だあいじょうぶ、君たちは安全だよ。この犬たちはロープに繋がれたり縛られたりした人「だけ」に襲いかかるように訓練されてるからね………って、戦争中にそんな犬を何に使ったのかはよくわからないけどさ。 さあてじゃあ犬たちを小屋に………おおっと、なんだ今の「ブチッ」は? 尻餅なんかついてどうした。なに? ロープが急に緩んだって? しまったぁ! 温度が上がり過ぎて輪ゴムが溶けてしまった! このままでは気体になったおねえさんたちの圧力があがって小屋から漏れだしてしまう。そんなことになったら付近の住民にも被害が及ぶぞ。君! そこの君! そのバルブを急いで左に回すんだ。早く! もっと慌てろ!。急げ! ………ふう。こんなこともあろうかと開発しておいた緊急冷却装置が役に立ったか。あんな小さなバルブひとつだけど何段階かのリレー機構が働いて小屋の中をほぼ一瞬で冷却水で満たすんだ。すごいだろう。 じゃあきょうはここまで。みんなも自分でなにか実験をするときには、どんな事故が起こりえるのか、あらかじめ考えて考えて考え抜いて準備しておくように。予定外だったけど、きょうの街角科学教室のメダマはそこになっちゃったな。五円じゃ安すぎるくらいだけど、まあいいか。特別大サービスだ。 次回の科学教室をいつどこでやるか。これはまた追って連絡する。くれぐれもお父さんお母さんや学校の先生たちにこの教室のことが漏れないように気をつけてね。こないだの戦争でけっこう痛いめにあってるはずなのに、子供たちが正しく科学的に物が考えられるようになることを望まない大人が世の中にはまだまだたくさんいる。それを忘れちゃいけない。それじゃあ解散だ。 |