「リヴザルト」29年



 1929年! 最初銀座エノテカで、このビンテージを見て思わず「ホントか?」と思ったことはある意味当然のこと。何しろラベルは新品だし、価格は15,000円だし……。
 1929年といえば、教科書的には「世界大恐慌」の年、私的にはダリがブニュエルと「アンダルシアの犬」を完成させ、ガラと出会い、「ポール・エリュアールの肖像」「偉大なる自涜者」「欲望の謎〜母よ、母よ、母よ」「見えない男」「照らし出された快楽」「陰惨な遊技」「欲望の適応」「夢幻的光景」といった傑作群を仕上げた記念すべき年。この年の一連の作品群に、後のダリの作品のエッセンスが殆ど発現されています。何しろ73年前……そのダリも1989年には亡くなっているし……。
 このビンテージがもし五大シャトークラスなら、一本いくらかかることやら想像もつきません。そうでなくてもワインの中身はともかくコルク自体が40年以上はもたないでしょうし。と、いうわけで実はこの「リヴザルト」、南フランスはルーション地方のVDN(ヴァン・ドゥ・ナチュレル)、発酵途中でアルコールを添加した天然甘口ワインなのです。ポートなどの酒精強化ワインと同じ作り方ですが、アルコール含有量 は16%volとポートよりはやや低めかも。物の本によると、VDNは殆どがラングドック・ルーションで作られ、ブドウ品種はグルナッシュ、マカベオ、マルヴォアジー、ミュスカなど。樽の中で2〜3年、長いものは十数年熟成させるといいますから、この1929年物も、殆どを樽の中で過ごしてきたものだと思われます。

 以前通っていた空想小説ワークショップの森下先生が6月生まれで、かつ6/18に新刊「魔術師大全」が発売されたことを記念して、今回は同じ時期に誕生日を迎える人達を集めて自宅で久しぶりにワインの会を開きました。何しろあんまり準備する時間が取れなかったので、前の晩から仕込んで置くというわけにもいかず、当日調達できるものでいくつか料理を作ってみました。私のいつものネタ本は、「石鍋裕のフランス家庭料理」。クイーン・アリスの石鍋シェフがフレンチを家庭用にアレンジしたもので、写 真だけ見てるとなんかとりあえず作れそうな気がしてしまうところがミソ
 まずは前菜として「chaud-froid du filet de porc(豚ヒレの冷製)」。下の写 真で、「生ハムとマンゴーの前菜(マンゴーのスライスに生ハムを巻いてイタリアンパセリを散らしたもの)」の隣にちょこっと見えているのがそれ。生クリームにゼラチンを溶かして作ったソースを、氷で冷やしながら焼いた豚ヒレ肉にかけて固めた夏向けの料理。上にオリーブのスライスを載せてまるでケーキのように盛りつけるのですが、いざ作ってみると本に載っている写 真のようにきれいにかぶさってくれない。とろとろの状態だと流れ落ちてしまうし、固まりすぎると崩れてしまうのでした。味はともかく、彩 りの良さで「生ハムとマンゴー」の方が写真の中央に陣取っています。
 一本目はシャンパーニュの代わりに Ferrari Perle1996 。イタリアの発泡性ワイン、「スプマンテ」ですが、シャンパーニュと同様瓶内二次発酵を行ったもので、しかもビンテージ物。「フェラーリ」は車のフェラーリとは関係ないようですが、向こうでは公式晩餐会用のれっきとした銘醸品。ビンテージシャンパーニュの持つナッツのような香ばしさとボディがあります。それでいながらどこか軽快さを感じるのはやはりイタリア産だからでしょうか。
   
  さらに定番の「トマトとモッツァレラ」も。トマトとモッツァレラチーズをスライスして、間に生バジルを挟んで並べて文字通 り「緑・白・赤」のイタリア国旗カラー。キウイとチェリーとプチトマトを飾ってみました。
 
 次に用意したのは「Saute' fur d'agneau au basilic(ラムのソテー・バジル風味)」。ブイヨンスープでニンジンやタマネギを煮た後、コーンスターチとすりつぶした生バジル・ニンニクを加えて、ラムのスライスを焼いた後に混ぜ合わせたもの。赤ワインといえばやはりラムかカモが欲しいところ。かなりクセがあるので苦手という人もいるかも知れないのですが、バジルなどハーブを合わせることによって格段に味が良くなります。
 赤ワインが好きという森下先生のために、イタリアの赤を用意。 Lice 1993「ルーチェ」 と Chanti Classico Riserva 1979 Castello Verrazzano の2本。前者はかの有名なイタリア・トスカーナの名門フレスコバルディとアメリカのロバート・モンダヴィのコラボレートワイン。イタリアの「オーパス・ワン」的存在。今回参加のIさんが同じ「ルーチェ」のグラッパを持ってきたのに合わせて開けたのですが、肝心のグラッパの方までは手が出ず仕舞い。非常にバランスの取れたボルドースタイルの風味豊かなワイン。一方のキャンティ・クラシコ・リゼルバは、1979年物というのに魅かれて購入したもの。キャンティの年代物って意外と見かけません。こちらは同じトスカーナ産でもより果 実味があって干しぶどうのような甘酸っぱい香りが特徴。79年産にしては色もしっかりしていて底力を感じさせます。
  ボルドーの白ワインと即興で作ったボンゴレ(ビストロ・スマップ完全レシピに載っていた野菜一杯のボンゴレスパゲティ)で一息ついたあと、朝のうちに仕込んで置いたエビカレーを出しました。基本的にあまりスパイシーな料理にワインは合わないのですが、以前出張先でたまたま食べたヨーグルト風味のシーフードカレーが結構甘くておいしかったので、いずれ自分で作ってみたいと思っていたのでした。これなら舌がしびれることもないだろうし。そこで「新宿中村屋のシェフが教えるカリー・スパイス料理」なる本を購入して粉から作るカレーに挑戦したのでありました。本のレシピは有頭の車エビを使って格好良く盛りつけるのですが、あいにく近所にはそんなもの売っていなかったので冷凍のムキエビで勘弁してもらいました。タマネギと長ねぎを粗くみじん切りにして、バターでゆっくり20分近くかけて炒めた後、カルダモン、クミン、フェンネル、ターメリック、コリアンダー、レッドチリなどのパウダーを小さじ一杯ずつ混ぜ合わせて加えます。皮をむいたトマト二個に、ヨーグルトと生クリームを200gずつ加えて煮詰め、別 にネギ・白ワインと一緒に軽く炒めておいたエビを加えて出来上がり。もっともこれが意外と味の調整が難しくて焦りました。最初「さすがにカリーにしては味が足りないかな」とチリパウダーを少し追加したら、今度は一口で汗がだらだら……ヨーグルトをさらに加えてとりあえずはまろやか風味に。僅かに塩を加えて炊いたサフランライスでいただきました。

 

 しめくくりはデザートにデザートワイン。「リヴザルト1929年」の登場。ポートに近い印象で、ブランデーのような華やかな甘い香り。非常にフルーティでそれでいてふくらみのある味わい。色の方はさすがに褐色で輝きは失われていたものの、味わいは実に若々しくて70年以上経ったものとは思えないほど。
 メインは作るからデザートはお願いね、と頼んでいたら、みんながケーキやシュークリームを持ってきたのでデザート飽和状態に。チョコレートケーキにチーズケーキ、フルーツケーキにシュークリーム10個……。リヴザルトやバニュルスはチョコが合うということから、チョコレートケーキにロウソクを立てて誕生日を祝ったのでした。今だに甘いもの好きの私にとってはとても素敵な光景でありました。



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