「シヤトー・コス・デストゥルネル」1986年


 


 手元にある98年発行の「BRUTUS FAVORITE WINE BOOK-III」には、「もはや五大ではなく八大シャトーの時代です」という記事があります。確かにボルドー・メドックワインの格付けが行われたのは1855年。百年以上も昔と今の評価が同じというのも変な話だろうということで、何人かの「その道の権威」が提唱しているのが、スーパーセカンドを加えての八大シャトー。一級と同等の評価を得ているのが「コス・デストゥルネル」「レオヴィル・ラス・カーズ」「ピション・ロングヴィル・コンテス・ドゥ・ラランド」の三つ。いずれも堂々たる深い味わいを持つワイン。
 難を言えばこの三つ、少々覚えにくい名前かも。「COS D'ESTOURNEL」なんて発音しにくいし、「CHATEAU PICHON LONGUEVILLE COMTESSE DE LALANDE」なんて長ったらしくて暗記しにくいし……。それに比べれば「ラフィット」「マルゴー」「ラトゥール」「オーブリオン」「ムートン」といった一級クラスは覚えやすいし、どこか耳に心地よい名前のような気がします。名前で損をしてないかしら……とはいうものの、ワインの名前には歴史的な背景があるから、簡単に変えられるものじゃないし、一度愛着を覚えてしまうとこの長い名前が逆に格好良く感じられたりして。
 サン・テステフ地区にあるコス・デストゥルネルの畑は、隣のポイヤック地区にある一級「ラフィット」の畑を見下ろす位 置にあり、創始者ルイ・ガスパール・デストゥルネルが、砂利と石灰の混じった土地を1811年にブドウ畑にして以来、高い評価は不動のもの。ラベルに描かれた中国風の城も、デストゥルネルが仕事で出掛けた東洋に触発されて建設したものだとか。成程そう考えれば、このちょっと発音しにくい名前の背負っている重みも理解出来ようというものです。
 実際に飲んでみると、二十年近い熟成を経ていながら、しっかりした果実味があり、何というか「噛みごたえのある」味わいがします。トップクラスのボルドーの持つ凝縮感や、厚みのある重層的な香りは紛れもなく上質なカベルネ主体の濃厚な赤ワインならではのものなのですが、「マルゴー」がより柔らかく優雅で、「ムートン」がよりタンニンや樽による複雑性を持っているのに対し、この「コス・デストゥルネル」はある意味より「固さ」というか、ミネラル感の強さを感じさせるようです。山本博氏の著作には、「ラトゥールは南端でサン・ジュリアンの隣にあり、ラフィットは北端でサン・テステフの隣にあるのに、ワインのタイプはラトゥールの方がサン・テステフに似ているのは面 白い」とあるのですが、実際「コス・デストゥルネル」に印象が近いのは「ラトゥール」かも知れません。特にサン・テステフの中でも砂利の多い土壌から作られる「コス」は、メルロの比率が高い(カベルネ60%+メルロ40%)こともあってコクがありながらも独特のまろやかな味わいを持っているようです。確か7年近く前に81年物を飲んで、オフビンテージにも関わらずその美味しさに感激した覚えがあるのですが、その印象は変わらないですね。非常に安心感を与えてくれるワインです。  



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