「シヤトー・マレスコ・サン・テクジュペリ」1998年
サン・テクジュペリと言ったら、そりゃあなた、「星の王子様」であります。1900年生まれのフランスの作家であり飛行家。1940年にアメリカへ亡命、1943年に「星の王子様」をニューヨークで出版、1944年コルシカ島沖合で行方不明になった伝説の人、サン・テクジュペリ。
自分よりほんのちょっと大きい星に住んでいる王子様は、星々を訪ね歩きながらやがて地球に辿り着き、サハラ砂漠に不時着したパイロットの語り部と出会う。このシンプルで、ユーモアに溢れながらどこかもの悲しい物語は、その真ん丸な瞳の王子様のイラストと共に世界中で親しまれています。「大切なことはね、目に見えないんだよ」という有名な一節に魅せられてしまった人も多いんじゃないかと思います。非常に分かりやすい言葉で語られながら、なおかつ他に類を見ない独創性をもった「優しい感性」といった点では、私なんかは宮沢賢治の作品群と近いような気もするのですが、異論のある人もいるかも。
最後にまるで一本の木が倒れるかのように砂漠の中に静かに倒れる王子様、そして空へ飛び立ったまま帰らぬ
人となった作者サン・テクジュペリ。「星の王子様」がここまで読者の支持を得たのは、これが単なる文明社会を批判した寓話ではなく、人が何かを心の底から大切に想うからこそ生まれる「喪失感」を、ぎりぎりに純化させた形で一つの形に結晶化させて生まれた物語だからではないかと思うのです。
そんな「星の王子様」の中から、お酒にまつわるエピソードを一つ。
王子様が三番目に訪ねた星には呑み助が住んでいました。
「君、そこで何してるの?」
「酒飲んでるよ」
「なぜ、酒なんか飲むの?」
「忘れたいからさ」
「忘れるって、なにをさ?」
「恥ずかしいのを忘れるんだよ」
「恥ずかしいって、何が?」
「酒飲むのが恥ずかしいんだよ」
本当にさうだ!(ここだけ宮沢賢治「銀河鉄道の夜」風)
今はともかく、二十年くらい後には、こんなふうに部屋で一人で飲みながらだまりこくっているんじゃないかしらと思ったりすると、ちょっと怖いかも。
さて、今回の「シャトー・マレスコ・サン・テクジュペリ」は、「星の王子様」とは直接にはあんまり関係がないみたい。マルゴー村の格付け第三級で、マルゴーに次ぐと言われる同じく三級のシャトー・パルメには及ばないものの、「通
人の間では評価が高い」とされているワインです。何より試験勉強の時メドック格付けを暗記しようとする時結構気になる存在で、「あ、<星の王子様>じゃん」と覚えたもののなかなか飲む機会がなかった銘柄でした。メドックで他に気になるのは「シャトー・モンローズ」(マリリン・モンローを思い出させるから)「シャトー・パタイイ」「シヤトー・オー・バタイイ」(哲学者の「バタイユ」に似てるから)「シャトー・タルボ」(中国の恐竜タルボサウルスを思い出させるから)あたりでしょうか……。(なんか、無理矢理だなあ……)
98年ということで、底の広いより空気に触れやすいデカンターに移してから飲みました。果
実感のある香り、濃縮感のある味わい、カベルネならではの厚みのある風味……非常に素直な印象のボルドーワインです。芯がしっかりしているのにつっけんどんではない……誰でも受け入れてくれる懐の深さがあるような気がします。う〜ん、名前の印象の影響も少しあることは否めないけど。