「ヴァイングート・ウヴェ・シュピーズ・レゲント・シュペートレーゼ」2003年
鮮度があり濃厚なグレープジュースを思わせるような暗い赤紫、どちらかというとキャンディのような甘味を感じる果
実香、そして酸度が低く、柔らかい味わい……。さて、どこの国の赤ワインでしょうかと言われたら、そこそこ飲んでる人ならどう答えるでしょうか。「これだけの色調があるのなら、北というよりは南……低い酸味もどちらかというと暖かい地方を思わせるから、例えば南仏か、イタリアの手頃な赤ワインか……?」とはいうものの、どちらかというと紫色が強く、これがイタリアならもっと褐色味を帯びそうだし……と悩むはず。
とある丸の内のレストランで紹介されたワインでしたが、こりゃ面白いやと思って、さっそく他のワインも含めて個人輸入。一本をT氏宅へ持っていってブラインドテイスティング。
「……雜味がないから新世界物ではないし、南欧のワインとは色が違うから、北の方……オーストリアのワインならこんな感じのものもあるのでは?」
ううむ、近い。しかしこんな濃い赤紫色をしたワインならもっと南と思うかと……。
これは「レゲント」という新しい交配品種を使ったドイツ、ラインヘッセンのワイン。der
Regentというとドイツ語では「支配者、統治者」を意味しますが、これは87年から栽培が始められ、10年間の研究期間を経て98年から使用が許可された耐菌性のある品種だそうです。白ワインが主体のドイツでも、今では赤ワインが人気で、輸入に頼るだけでなく国産で優良な赤ワインを作ろうとしているそうで、今では赤ワインのシュペートブルグンダー(フランスでいうところのピノ・ノワール)は、作付面
積1位のリースリング(22%)、2位のミュラー・トゥルガウ(21%)にはおよばないものの、近年ケルナーや
シルヴァーナを抑えて3位(8%)にまで追い上げています。実際、本家ブルゴーニュにもひけをとらない味の物もあるそうで、ドイツやアルザスのピノは色が薄い、という先入観を持っていた私は逆に自分の不勉強さを露呈することに。ゆめゆめ物事知ったつもりになっていてはいけませんなあ。
フランスやイタリアのワインが、どちらかというと品種の純粋性を追及し、やれここではあの品種は使ってはいけないとか色々と取り決めているのに対し、ドイツのワインは品種改良が盛んで、色々なタイプのものを掛け合わせて、収量
の多いものや耐久性の強いものを生みだしています。先に記した「ミュラー・トゥルガウ」も、「リースリング」と「グートエーデル(シャスラ)」との掛け合わせ。リースリングより早熟で収量
が多いのが特徴。資格試験では結構出題されるので、そのたびに毎回覚えては忘れるという……(何しろドイツワインはリースリング以外滅多に飲む機会がないので……)
それなりに日照も土壌も揃っているフランスやイタリアに比べ、北に位置するドイツではブドウの栽培も一苦労。殆どのブドウ畑が川の近くの斜面
にあるのは、河の水が気候を穏やかにするためと、河面に反射する太陽熱を得るため。土壌が流れ落ちないように常に手を入れてやらねばならないし、そのため急斜面
で人が動きやすいように樹に支柱を付け枝をハート型に曲げる「棒造り」という特殊な仕立てが用いられます。テロワールがどうのこうのと言う前にまず少しでも生命力が強くて収量
の確保できるものをと、品種改良に熱を入れるのも分かるような気がします。
ドイツは今でこそビールの国ですが、三十年戦争で国土が荒廃する前はビールよりもワインの方が主流だったとか。その後ヨーロッパの気候も下がり、ワインの生産量
は次第に落ちてきたらしい。確かに赤ワインのブームの後ということもあり、甘口・白ワインがメインのドイツワインの人気は日本でも今一つですが、これからは変わっていくかも。何しろ「地球温暖化」が進んでいますので、ワイン生産も次第に北にシフトしていくという話もあるくらいですから。
ちなみに、この日は他にT氏宅でブルゴーニュの白と赤も飲みました。
「シャブリ・グラン・クリュ・レ・クロ1999年」 シャブリというとどうしても軽いイメージがありますが、特級クラスともなるとやはり一味違います(実はそう言ってT氏に買え買えと薦めた)。実際飲んでみると、ミネラル感が独特の旨味を与えていて非常に心地よいのでありました。モンラッシェやムルソーの持つ重量
感とはまた違う、シャルドネらしい軽快さを合わせ持っているところが何とも。
「ボーヌ・プルミエ・クリュ・レ・グレーヴ1983年」 20年以上の熟成を経たブルゴーニュともなると、色調も落ち着いてきて、独特のムスク香も楽しめるようになります。軽快で、それでいて深味のあるワインでした。ある意味安心感があるというか、思わず飲んでほっとするタイプの赤。少々変わり種のワインの後なので余計にそう感じましたが。