「プロヴィダンス」1994年
以前、テイスティングの講習会で、白ワインの試飲があり、淡い色調、ハーブのニュアンスがあり、酸味はしっかり……これはロワール、サンセールあたりのソーヴイニヨン・ブランに違いない! と自信たっぷりに答えたものの、見事にハズレ。正解はニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランでした。
ニュージーランドがマールボロのソーヴィニヨン・ブランで成功したのは1980年代のこと。「地図で見る世界のワイン」(産調出版)には「南島の涼しくて明るく、陽光に恵まれた風の強い北端は、ソーヴイニヨンの微妙な香りを濃縮するために存在するかのようである」と書かれています。これ以降、南端オタゴのピノ・ノワール、北端マタカナのメルローなど、その品種の持つ独特のデリケートな香りを引きだす銘柄が次々と誕生。1960年頃には400ha程度しかなかったワイン畑は、2000年には12,000haにも達し、ある意味これからが楽しみな産地ではあります。
さて、以前に「アンティポディアン」のページで言及した「プロヴィダンス」。年間僅か800ケース、有機農法と天然酵母より作られるニュージーランドの「ル・パン」と呼ばれるワイン。その時は飲めなかったのですが、今回ワインスカラ主催でプロヴィダンスの試飲会が銀座の「クラブ・ニュックス」で行われることになったので、さっそく申込。
オーナー夫妻を招いての試飲会。最初は「プロヴィダンスの一年」をスライド上映。粘土質土壌だが火山由来なので排水性は高くメルロに最適。南半球なので畑は北向きの斜面
にあり、その傾斜は20度と極めて高い。メルロの若葉はピンク色をしていること、マルベックは色鮮やかに紅葉することなど、初めて知ることも多かったです。
〈ワインリスト〉
Boizel Brut Reserve
Gold Water New Dog Sauvignon Blanc 2004
Providence 1994
Providence Private Reserve 2000
Providence 2002
〈メニュー〉
帆立て貝のポアレ サラダ仕立て
阿久根港直送 スズキのポワレ
ラム背肉のロースト
塩バター・自家製キャラメルソースのクレープ
出だしのシャンパーニュはボワゼル。フランスで四番目に古い家族経営のシャンパーニュ・メーカー。何でも夫妻のお気に入りなのだそうで、これと「ポール・ロジェ」がベスト、ヴーヴ・クリコよりは絶対美味しいとか。酸味のバランスが取れた、スタンダード・スタイルのシャンパーニュでした。アスパラガスやホウレンソウと合わせたホタテとの相性もばっちり。
2杯目の「ゴールド・ウォーター」はニュージーランドのソーヴィニヨン・ブラン。色は淡く、透明感があり、香りは非常に甘い。マスカット香が強く、それでいて味はスッキリとしたドライなスタイル。「クラウディ・ベイ」のソーヴィニヨンとはかなり印象が違います。これに合わせるのはスズキのポワレ。阿久根港は鹿児島にある港。ここ「クラブ・ニュックス」では色々と産地直送の素材を使うところが魅力の一つ。来週からはジビエも始めるらしい。
オーナーのジェイムズ・ヴェルデッチ氏に言わせると、自分が好きなのは樽発酵のシャルドネ。甲州のワイナリーも訪れた氏は、シャブリも甲州も樽発酵が良いとのこと。ソーヴィニヨンは98年から2000年についてはホークス・ベイの物が良いとのこと。ボルドーのグラーヴのスタイルに近いのだそうだ。
新世界の白ワインはどうしても果実味が先に来てしまうが、本来はもっとフィネスを大事にしたいというのが氏の意見。ニュージーランドのワインの80%は英国に売られるが、英国はオーストラリアワインが人気で、ニュージーランドの「クラウディ・ベイ」もオーストラリアのケープ・マンテルがオーナーとなっているため、どうしてもオーストラリアのスタイルに近くなる。10年前なら最高のニュージーランドワインだったのに……とのこと。
さて、いよいよ「プロヴィダンス」であります。ビンテージは1994年、2000年、2002年が用意され、リストでは若い順に並んでいたのですが、オーナーの意向を受けて94年を先に試飲、次に2000年と2002年を一緒に試飲することに。オーナー曰く、「94年は平均以上のビンテージ。まずは美味しいものから飲んでもらいたい」。
大文字のPから始まる「Providence(プロヴィダンス)」は、英語で文字通
り「神の摂理」「神の正しい行い」を意味します。何とも壮大なネーミングですが、
「ワインは神が作るもの」という氏の考えがそのまま反映されているようです。1993年が最初のビンテージですから、1994年はセカンド・ビンテージ。94年と同レベルにある物が96年、97年、99年、01年。今飲んで一番美味しいのがこの年のもので、96〜97年物はこれよりもっと寝かせた方が良いし、2000年はさらにもっと寝かせた方が良い……というわけで、そうなると「プロヴィダンス」で飲めるのは94年位
のもので、他の物はしばらく我慢しないといけないことになるのですが……。ちなみに一本2〜3万するこの銘柄、ネットでたまに覗いても殆ど売り切れ状態であります。94年はもうワイナリーにも殆どないそうで……うーん。
94年はグラスを眺めると底が若干見えるほどに透明感がある色調で、非常にエレガントな雰囲気。特筆すべきはそのどこかトロピカルな、独特の甘い香り。何とも形容しがたいのですが、フランスのボディのしっかりしたメルロや、カリフォルニアの濃厚でなめらかなメルロとは違う、かろやかなフルーツ香とバラ香が重なったような香りで、これはやみつきになりそう。ちなみに品種構成はメルロ60%、カベルネ・フラン20%、マルベック20%。マルベックなんて意外であります。
何となく「プロヴィダンス」というとメルロがメインかと思っていましたが、氏の目指しているのはどうやら「シュヴァル・ブラン」らしい。次に出された2000年物は、ぐっと色が濃くなり、香りも重く、どっしりとコクがあります。これもメルロ主体かと思いきや、品種構成はカベルネ・フラン66%、メルロ32%、マルベック2%。まさにこれは「シュヴァル・ブラン」の構成比。カベルネ・フランは植物系の青っぽさが特徴ですが、確かに「シュヴァル・ブラン」クラスになるとより複雑味を帯びて、サンテミリオンの数多くの銘柄と比べてもかなりどっしりとしたスタイルに仕上がります。ちなみにこの2000年は「プライベート・リザーヴ」として作られましたが、以後は作っていないそうです。
同時に供された2002年物は、さすがに香りが閉じていてとても「固い」という印象。しばらく置いておいたら少しずつまろやかになっていきましたが、これはいくら何でも早すぎたかな。品種構成はメルロ44%、カベルネ・フラン41%、マルベック15%。ほぼ畑の比率と一緒なのだそうですが、メルロとフランが半分ずつというのがベスト・バランスだと氏は考えているようです。今後はほぼこの構成比で作っていくとのこと。かなりタンニンがきついのですが、メインで出されたニュージーランド産のラム肉には、これくらいの強さが逆に良かったかも。私にとって今回のベストは94年でしたが、このデリケートな香りは逆に食事とは合わせにくいようです。大満足の試飲会の後、じきじきに空ボトルにサインをしてもらいました。しかも欲張って2本も!(上の写
真ですが、どちらもラベル左端にTO HITOSHIの文字が……)
「ブラインド・テストで、2002年のプロヴィダンスは2002年のル・パンに勝ったのだよ」と、氏はうれしそうに語っていました。氏の目指しているのはあくまでフランスのフィネスを備えたワインのようです。
何とシラーも作っているらしい。「ニュージーランドに来たら、98年のシラーを空けてあげるよ」
ううっ、ぜひ行きたいわっ!